東京都台東区で生まれ、15年に京都大原子炉実験所を退職した小出裕章さんは、現在長野県松本市で太陽光発電や野菜の自家栽培による自給自足の生活を送っています。
東京新聞が、トリチウム汚染水を海洋に放出する手続きが進められていることなどを中心に、小出さんの意見を聞きました。
小出さんによれば、福島第一原発で炉心から出たトリチウムは200トンは、本来であれば六ケ所村核燃料再処理工場から海に捨てるはずだったもので、核燃料サイクル計画ではもともと毎年800トンのトリチウムを六ケ所村で流す予定になっているということです。
再処理工場が如何に環境を汚すかが良く分かります。
インタビューでは、改めて2011年3月に発令された「原子力緊急事態宣言」は今も解除されていないことを指摘しています。
海洋放出に関する福島民報の記事を併せて紹介します。
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小出裕章さんに聞く
「五輪で福島を忘れさせようと…原子力緊急事態は今も」
東京新聞 2020年6月30日
【写真説明】太陽光発電を備えた小さな家に住み、家庭菜園で野菜を育てているという小出裕章さん=長野県松本市で
東京電力福島第一原発でたまり続ける放射性物質トリチウムを含む水の海洋放出に向けた手続きが進められている。経済産業省は30日、消費者団体などから意見聴取する。福島第一の事故前から原発の危険性を唱えていた京都大原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)元助教の小出裕章さん(70)にどう考えるかを聞いた。(宮尾幹成)
◆海洋放出は間違い
―処理水を巡って政府の小委員会は2月に「海洋放出が確実」と提言。政府は各種団体や福島県内の首長らから意見を聞いている。
人間に放射能を無毒化する力はないと認めねばならない。自然にもその力はない。自然に浄化作用がないものを環境に捨てるのは間違っている。
―政府や東電はなぜ、海洋放出にこだわると思うか。
1~3号機の溶けた炉心から出たトリチウムは200トン。事故がなければ、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場から海に捨てるはずだったものだ。核燃料サイクル計画では、もともと毎年800トンのトリチウムを六ケ所村で流す予定だった。福島の200トンで大騒ぎしていたら、日本の原子力の総体が動かなくなる。彼らにとっては海洋放出以外の選択肢は絶対にないのだろう。
◆原子力村の常とう手段
―東京五輪が来年に延期になった。これまで、福島の事故が収束しない中での開催を批判してきた。
2011年3月11日に発令された「原子力緊急事態宣言」は今も解除されていない。強制避難させられた地域の外側にも、本来なら放射線管理区域にしなければいけない汚染地帯が残る。
不都合なことを忘れさせようとする時、昔から取られてきた手段は、お祭り騒ぎに人々を引きずり込むことだ。原子力ムラにとって、それが東京五輪なのだろう。福島を忘れさせるための五輪の利用には徹底的に抵抗していく。
◆延長せず40年でやめるのが賢明
―日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)は原則40年の運転期間の延長が認められ、再稼働に向けた動きが進む。
古い原発で相対的に危険が多いのは争えない事実だ。ポンプや配管などの部品は不具合があれば取り換えられるが、原子炉圧力容器だけは交換できない。その寿命は40年くらいだろうということで始めているのだから、40年でやめるのが賢明な選択だ。
こいで・ひろあき 1949年、東京都台東区生まれ。東北大大学院工学研究科修士課程修了(原子核工学)後、京都大原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)に入所。41年にわたり助教を務め、原子力の危険性を世に問う研究に取り組み、2015年に定年退職。現在は長野県松本市で、太陽光発電や野菜の自家栽培による自給自足の生活を送る。
処理水への理解不足指摘 都内で政府意見聴取会
福島民報 2020/07/01
東京電力福島第一原発で汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水に関し、政府は三十日、処分方針決定に向けた第四回意見聴取会を都内で開いた。経済、流通、消費の全国団体代表者が出席し、処理水についての理解が国民に浸透していないとの指摘が相次いだ。全国消費者団体連絡会は「多くの国民に処理水について知ってもらうまでは、取り扱いの方向を決めるべきではない」と訴えた。
同連絡会の浦郷由季事務局長は、県内の市町村議会で海洋放出への反対や地上タンクでの長期保管を求める意見書などが可決されている状況に触れ「地元の声をしっかり受け止めてほしい」と強調。「国民の理解がない中で処理水を環境放出すれば必ず風評被害が起きる。東電はそれを前提に対策を講じ、きちんと損害賠償を負うべきだ」と述べた。
県産品のPRや販路開拓などを支援してきた全国商工会連合会の苧野(おの)恭成事務局長は「処分すれば風評で中小・小規模事業者がさらに苦境に陥る。現状維持してほしい思いもある」とした。一方で処分不可避なら第三者機関による監視・管理の下で実施すべきと指摘。「可能な限りの国民の支持」を得られるように広報を強化するよう求めた。
環境放出に理解を示す意見もあった。食品小売店などでつくる日本ボランタリーチェーン協会の中津伸一常務理事は「安全なら流せばいいのではないか。もったいぶっているから疑念を持たれる」などと主張。国際原子力機関(IAEA)などの情報、海外での処理事例などを「分かりやすく国民に説明し納得してもらうのが一番だ」と述べた。
座長の松本洋平経済産業副大臣は国民への周知不足について「関心の無い人にも理解してもらうことが大切というのは全くその通りだ」と述べた。松本氏は次回聴取会を開く意向だが詳細な日程は調整中とし、十五日までの書面による意見募集は延長しない考えを示した。
五月の前回開催時は新型コロナウイルス対策でウェブ会議形式だったが、緊急事態宣言の解除を受けて今回は対面形式で開いた。
■寄り添った対応を 福島県や漁業関係者ら
意見聴取会をインターネットなどで傍聴した県や漁業関係者からは、政府に対し、県民や国民の声に寄り添った対応を求める声が上がった。
県原子力安全対策課は、全国的な組織から政府の対応が不十分との訴えがあった点を踏まえ、「処理水を巡る政府の情報発信は十分ではない。県民や国民の理解を得る前提として、風評対策などの具体案を示すべきだ」と指摘した。
県漁連は六月に開かれた総会で、東京電力福島第一原発で増え続ける処理水に関し「海洋放出に断固反対する」との特別決議を承認した。野崎哲会長は「(海洋放出に)反対の姿勢は変わらない」と従来の主張を繰り返した。
■決議や意見書 可決相次ぐ 福島県内市町村議会
処理水を巡っては今年に入り、県内の市町村議会で処分方針に関する決議や意見書の可決が相次いでいる。二十九日までに、三月と六月の定例会で十九市町村議会が可決した。
このうち、浪江町は海洋放出への反対を決議し、三春町と西郷村は大気や海洋への放出の反対を意見書に明記した。いわき市などは風評対策の拡充・強化を強く訴えている。
県内では処理水の処分が福島県のみで行われたり、福島県から始まったりすれば風評がさらに強まりかねないとの懸念が強い。