先般、原発を持つ大手電力10社が、福島原発事故賠償費用の追加負担金として合計約2兆4千億円分を経産省に申請しました。電力各社は既に相互扶助的に福島原発事故賠償の負担金を拠出(北海道電力の場合年額65億円)していますが、必要な費用が大幅に増えたため、16年に国が唐突に追加負担を決めたのでした。申請が通ればそれぞれの電力が40年の分割払いで負担します。
それは良いのですが、別に電力会社が自腹を切るわけではなく、40年に渡って電力料金に上乗せして払うわけで、原発事故の復興費用や賠償金は最終的にすべて国民に負わせ、電力会社の腹は少しも痛まないという仕組みなっています。
国民に負担のしわ寄せが行くことについては、国は「国民が福島事故前に原発の安い電源の恩恵」を受けながら未払いだった、という珍妙な理屈を付けましたが、それでは新電力が負担しなければならない理由がなくなるし、追加分を先般独立した送配電網会社の電力網の使用料に乗せて回収するというのもおかしな話です。
いずれにしても一旦過酷事故を起こせば桁外れの費用が掛かる原発に、通常の発電所並みの市民権を与えようとすることには元々無理があります。そうしようとすればするほど原発の不合理性(乃至は原子力ムラの醜悪さ)が露呈することになります。
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社説 福島事故賠償 不当な新電力への転嫁
北海道新聞 2020/07/21
北海道電力など原発を持つ大手電力10社が、東京電力福島第1原発事故の賠償費用に充てる追加の負担金額計約2兆4千億円分を経済産業省に申請した。
このうち、道内分は約500億円に上る。40年かけて電気料金に上乗せする。
しかも、北電子会社の送配電会社が送配電網の使用料から回収する仕組みだ。原発とは無関係の新電力にも負担を強いる。
「国民全体で福島を支える」ためと国はいう。福島復興は大切だが、こっそり電気料金から徴収するのでは誠実さを欠く。
賠償責任をうやむやにして、安易に追加負担を求めるのは道理が通らない。だれもが納得できる新たな枠組みを考えるべきだ。
賠償費用は一義的に加害企業である東電が支払うべきだ。だが、国は東電だけでなく大手電力も巻き込んだ枠組みをつくった。
北電も一般負担金名目で既に年65億円支出している。同じ原発事業者の「相互扶助」という。これも電気料金に転嫁されてきた。
追加負担は2016年、国が唐突に方針を決めた。費用が大幅に膨らむ見込みとなったためだ。
差額穴埋めのため、国が持ち出したのは「国民が福島事故前に原発の安い電源の恩恵」を受けながら、未払いだったという理屈だ。
事故前は「安全神話」で利用者を安心させておき、事故が起きてから、過去にさかのぼって負担させるのでは都合が良すぎる。
太陽光、風力など再生可能エネルギーを利用する新電力への徴収も筋違いだ。原発事業者ではないので「相互扶助」の対象にはならない。事故後に開業した場合は「未払い」の論理も通用しない。
電力自由化政策で、北電の送配電部門は今年4月に子会社「北海道電力ネットワーク」として分離した。新電力も送配電網を公平に使えるよう中立性を確保した。
それなのに、親会社に代わり、負担金を徴収するのでは中立性に疑問符が付く。
福島事故を教訓に新電力へと切り替えた利用者も少なくない。国は受益者負担を強調するが、安全なエネルギーを求める利用者は落胆するのではないか。
電気料金の明細に負担金の記載はない。一方で「再エネ発電賦課金」は明記される。「原発は低コスト、再エネは高コスト」と印象づける意図も透けて見える。
いま一度賠償責任の所在を明らかにした上で「利用者の立場」から枠組みを見直す必要がある。