青森県六ケ所村の再処理工場は原子力規制委の審査を経て新規制基準に正式に合格しました。
しかし、規制委に寄せられた国民の意見は、運営する日本原燃(原燃)の資質を疑問視するもので埋まり、規制委の委員らも同調しています。
再処理工場は既に核燃料サイクルという目的を失っているので、そもそも存在する意義自体がありません。
規制委はそのことも認めた上で、新規制基準に適合していれば「適合」とするしかないという立場です。
東京新聞が審査書案に国民から寄せられた意見とそれに対する規制委の回答を紹介し、そうした事情に触れました。
再処理工場は無用なだけでなく、稼働すれば周辺や海域を極度に汚染する有害な施設で、稼働すればさらに運転経費として数十兆円が無駄に消費されます。
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トラブルにミス続出、需要もない…それでも「適合」再処理工場
東京新聞 2020年7月30日
◆青森・六ケ所村の再処理工場が新規制基準に適合
原発の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)が新規制基準に適合し、稼働への条件を一つクリアした。しかし、原子力規制委員会に寄せられた国民の意見の多くは、運営する日本原燃(原燃)の資質を疑問視し、規制委の委員らも同調した。不安が渦巻く中で、再処理工場は核燃料サイクルという目的さえ失っている。 (福岡範行、渡辺聖子)
◆傍聴席からいらだちの声
「技術的能力について、一般の方が非常に心配になられているのは非常によく理解できます」。29日の規制委定例会合で、山中伸介委員は原燃への憂慮を口にした。伴信彦、田中知さとるの両委員も同じだった。
延べ765件に上った国民からの意見公募は、「適合反対」の声で埋め尽くされ、原燃の能力不足の指摘だけでも100件以上。傍聴席から「何人も不安視してますよ」といらだつ声が飛ぶ。それでも更田豊志委員長が適合と決定するかどうか促すと、委員らは「異存ありません」。原燃の能力については、規制委事務局が今後の検査などで確認するとしただけで、46分間の審議が終わった。
◆試験でトラブル、書類でも不備多数、偽りも
再処理の工程では、極めて強い放射線を出す高レベル放射性廃液が生じる。これを保管するため、ガラスと混ぜてガラス固化体(核のごみ)にする必要があるが、原燃は製造試験で何度もトラブルを起こした。
2014年1月に始まった新規制基準の審査では、書類の不備が相次ぎ、規制委の審査担当者も「ミスが多いというのが実態」とあきれたほどだ。17年夏には、施設の非常用電源建屋への大量の雨水流入が発覚。14年間も点検していなかっただけでなく、「異常なし」と虚偽の日誌を作っていたため、審査は半年ほど中断した。
審査が事実上終わり、意見公募の受付期間が過ぎた今年6月末になって、原燃は放射性廃棄物の不適切な保管状態を改善していなかった、と規制委に報告。ずさんさは相変わらずだ。
◆再処理してもその後は…
「われわれのミッションは、使用済み燃料を少しでも処理し、空きをつくって、受け入れる体制をつくることだ」と原燃の増田尚宏社長は話した。
未完成の再処理工場は、全国の原発から出た使用済み核燃料の保管場所になっており、貯蔵プールはほぼ満杯。原発自身のプールに空きがなくなれば、それ以上は稼働できず、電力会社にとって死活問題だ。
再処理工場は核燃料サイクルの要だが、再処理後に造る混合酸化物(MOX)燃料を使うはずだった高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)が廃炉となり、存在意義を失った。通常の原発でMOX燃料を使う「プルサーマル発電」も増える見込みがなく、再処理の需要はない。
長谷川公一・東北大名誉教授(環境社会学)は「再処理工場は、使い道のないプルトニウムが生み出される矛盾に満ちた施設」と指摘。福島第一原発事故後は世界的に再生可能エネルギーへの転換が進む中で「激変する環境に対応できない日本のエネルギー政策のシンボルだ」と批判した。
核燃料サイクル政策 原発の使用済み核燃料からプルトニウムやウランを化学処理(再処理)で抽出し、混合酸化物(MOX)燃料として再利用する政策。燃料の有効利用が目的で高レベル放射性廃棄物の量も少なくなるとされるが、中核となる再処理工場の完成が遅れ、各地の原発で使用済み燃料がたまり続けている。政府、電力業界は普通の原発でMOX燃料を使うプルサーマル発電を進めるが、東日本大震災以降、実施したのは4基にとどまる。