柏崎刈羽原発では、20年9月に所員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正入室したり、18年1月以降、故障した侵入検知設備の復旧を迅速に行わず代替措置が不十分だったりするケースが相次いでいたことが判明していますが、それらに加えて15年にも、協力会社の作業員が、同じ会社で働く父親のIDカードを取り違えて使用、「周辺防護区域」を通過し、6、7号機原子炉建屋などに通じる「防護区域」のゲート前まで入り込んでいたことが9日、東電などへの取材で分かりました。
「防護区域」のゲートで警報が鳴ったため東電は新潟県警に通報しましたが、「防護区域」には入っていないので「核防護上の運用規定」に従って公表しませんでした。
同原発では以前から態勢が甘かった可能性があります。
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15年にもID不適切使用 柏崎刈羽原発 作業員、父のカードと間違う
新潟日報 2021/05/10
東京電力柏崎刈羽原発で2015年、協力会社の作業員が、同じ会社で働く父親のIDカードを取り違えて使用、テロ目的などの侵入を防ぐため身分証明が求められる「周辺防護区域」を通過し、6、7号機原子炉建屋などに通じる「防護区域」のゲート前まで入り込んでいたことが9日、東電などへの取材で分かった。ゲートで警報が鳴り、東電は新潟県警に通報したが「核防護上の運用に従った」として公表していない。
同原発では、20年9月に所員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正入室したほか、故障した侵入検知設備の復旧に時間を要したり、代替措置が不十分だったりするケースが18年1月以降、相次いでいたことが判明しているが、さらに以前から態勢が甘かった可能性がある。
東電などによると、作業員は15年8月21日朝、いったん原発構外に出ようとして自分のIDカードを周辺防護区域の出入り口にある収納箱に戻した。その後、出る必要がなくなったため箱からカードを取り出す際、父親のカードと取り違えた。カードに貼られたシールには姓しか記されていなかったという。
作業員は、周辺防護区域の出入り口で警備員からカードを確認するよう依頼されたが応じず通過。警備員はカードの写真と作業員を見比べて違和感を覚えたが、作業員が正しい姓を述べたことや親子のため写真と人相が似ていたことに加え、朝の混雑時間帯で確認に時間をかけると他の作業員らに迷惑になると考え、通過させたという。
その後、防護区域の建屋のゲートで本人認証をした際に警報が鳴り、カードが父親のものと判明。東電は警備員を厳重注意としたほか、カードのシールにフルネームを記すなどの対策を取った。
東電は取材に「防護区域への入域を防げたケースだが、中央制御室への不正入室と侵入検知機能の一部喪失事案を含め、根本原因分析と改善措置活動で検討を進めていく」とコメントした。原子力規制庁に報告したとしているが、規制庁担当者は「記録が確認できない」としている。
◎ルール軽視 常態化か
東京電力柏崎刈羽原発で新たにIDカードの取り違え、確認不徹底が明らかになった。既に判明している中央制御室への不正入室のように核燃料物質を扱う「防護区域」への立ち入りは防いだが、発電所全体が再稼働にまい進する中、本人確認という基本的なルール軽視が常態化していた可能性も。専門家は「どちらも安全上極めて深刻な問題だ」と指摘する。
▼遠慮
「朝の混雑時間帯であり、必要以上に時間をかけると入域者への迷惑になる」
取り違え問題で、父親のカードを所持した作業員の通過を許した「周辺防護区域」の警備員には、出入り口で人の流れが停滞することへの遠慮があったとみられる。
東電などによると、問題の起きた2015年8月21日朝、作業員は、足りない資機材を取りに原発構外に出ようとしていったん自分のカードを収納箱に戻し、次に取り出す際に誤って父親のカードを取った。
その約2週間前には原子力規制委員会が同原発6、7号機を他の沸騰水型原発に優先して審査する方針を決め、早期再稼働に向けた機運が高まっていた。同原発では当時、事故時に原子炉格納容器の破損を防ぐフィルター付きベント設備や、施設の浸水防止対策などの安全対策工事が進んでいた。
東電と協力会社合わせて約6200人が従業員として登録され、朝には大勢が出入り口に列をつくっていたとみられる。
▼優先
東電が1基当たり年間1千億円程度の収益改善効果を見込む再稼働。核物質防護よりも目先の工程を優先するかのような姿勢は、昨年9月に起きた制御室への不正入室でも表面化している。
更衣室のロッカーに保管していた自分のカードが見つからず、同僚のカードで不正入室した20代男性所員は東電の聞き取りに「核物質防護のルール順守よりも遅刻しないことを優先してしまった」と語り、確認を徹底しなかった警備員は「当直の運転員は入れないといけないと思った」と話したという。
通過させる際には東電社員が警備員に指示し、カードの認証情報を書き換えさせていたことも判明している。
▼慣例
規制委が同原発の事実上の運転禁止命令を出す引き金となった侵入検知設備の故障。規制委や東電によると、昨年3月以降に発生した15カ所のうち10カ所で代替措置が不十分で、検知機能が失われていた。代替措置について、東電の牧野茂徳原子力・立地本部長は今年3月18日の記者会見で「残念ながら過去から続いてきた慣例に基づいている」と説明した。
規制委は、18年1月以降にも同様の機能喪失があったとの検査結果を公表しているが、更田豊志委員長は「とりあえず規制委側が指示した期間の結果。必要があれば、さかのぼれるだけさかのぼりたい」としている。
海外の原子力規制に詳しい原子力コンサルタントの佐藤暁氏は「周辺防護区域にも重要な設備がある。テロリストが周辺防護区域に入るだけでも十分な脅威となる」と指摘する。