2021年5月21日金曜日

<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(3)、(4)/終了

 東京新聞の連載記事<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(3)と(4)です。

 今回で終了です。
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<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(3)原因不明 ずさん定員算定、県外も
                         東京新聞 2021年5月19日
 大型ホールに、ずらりと並んだ約七百の座席。坂東市の市民音楽ホール「ベルフォーレ」は、日本原子力発電東海第二原発で深刻な事故が起きた際、六十キロ以上離れた水戸市からの避難者を受け入れる避難所として使われる。
 二〇一八年度時点で受け入れ面積は六千八百平方メートル、定員を三千四百人としていた。だが、坂東市が昨年十一月、再算定したところ、面積と定員でそれぞれ八分の一程度しか受け入れられないことが分かった。
 理由は、ホールの座席部分や石畳が敷かれたアトリウムなど、人が生活する場としては不適切な部分を含めていたからだった。座席では、疲れ切った避難者が横たわることさえもできない。なぜこのような事態になったのか。坂東市の担当者は「当時の資料が残っておらず、原因は分からない」と話す。

■廊下で生活
 東海第二から三十キロ圏内にある十四市町村の約九十四万人は、県内外の百三十一市町村に避難することになっている。県は、それぞれの自治体の避難所で九十四万人が受け入れられるとしていた。
 だが、県が県議会の指摘を受け精査すると、坂東市のように避難スペースがずさんに算定されたケースが県内の避難先で判明。水戸、ひたちなか、那珂市と茨城町、東海村の住民の避難先の避難所で、廊下などが生活するスペースに含まれており、受け入れ可能な人数が計約一万八千人分、過大に見積もられていた
 つまり、命からがら避難してみたら避難所のスペースがなく、一万八千人が路頭に迷う恐れがあった。
 県は、避難先の市町村に「居住スペースで一人当たり二平方メートル」を確保するよう求めたが、解釈の行き違いがあったのか、市町村側が生活できるスペースではなく、トイレや倉庫なども含めた延べ床に近い面積で報告していたとみられる。
 坂東市などは、新たに避難住民を受け入れられる施設を見つけだした。県原子力安全対策課の担当者は「避難所の見直しをして、不足はなくなる見通しだ」と強調。大井川和彦知事は四月九日の定例会見で「県が避難所の図面を基に、各市町村からヒアリングをすることで問題の解消を図っていく」と沈静化に懸命だ。

■基本的要素
 ただ、誤った算定は県内にとどまらない。本紙が、避難先の埼玉、千葉、栃木、群馬、福島の五県に問い合わせたところ、少なくとも埼玉県と群馬県が避難所として使えないスペースを含めて計算していたケースがあったことを認めた。
 群馬県によると、水戸市の避難先になっている八市町のうち六市町で、避難スペースの全部もしくは一部が延べ床面積で計算されていた。水戸市と六市町が現在、見直しを進めているという。
 また、千葉県と栃木県は避難元と避難先の各自治体同士で、不適切なスペースが含まれていないか確認している最中だとした。
 一方で、福島県は「過大な算定はない」と言い切る。「(福島県内の)各市町村には居住スペースで算定するように通知を出している」という理由だが、埼玉県では同様に出していたにもかかわらず、誤った算定方法が採られた。福島県の担当者は「通知通りに算定していると認識しているので、県としては調査はしない」と話す。
 避難所の確保は、避難計画の基本的な要素の一つ。それも整えきれないのは、県や市町村が本気で計画を策定しようとしているのか疑念さえ生じさせる。


<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(4)混乱必至 複合災害発生時どこへ
                       しんぶん赤旗 2021年5月20日
 日本原子力発電東海第二原発で深刻な事故が起きた際、原発の三十キロ圏内にある十四市町村の住民約九十四万人は、県内外の百三十一市町村に避難することになっている。
 だが、原発事故に加え、地震や台風、冬季の積雪などが重なる「複合災害」で、予定していた避難所が使えなかったり、向かうことすらできなかったりする場合も想定される。これに対応するため、県が考え出したのが、さらに広域で避難者の受け入れを要請する「第二の避難先」だ。
 東海第二の運転差し止めを命じた水戸地裁判決でも「(県は)複合災害時における第二の避難先の確保を今後の検討課題としている」と指摘していた。

■ひも付け
 県は判決に先立つ三月十二日、「第二の避難先」の候補地を公表。候補地となったのは「第一の避難先」に含まれる埼玉、千葉、栃木、群馬、福島(帰還困難区域を除く)に宮城を追加した計六県の全域。ただ、第一の避難先のように、避難元と避難先の自治体はあらかじめひも付けされていない。事故発生時の状況により、茨城と各県が調整し、避難先が決められる。
 県原子力安全対策課の担当者は「事前予測ができない複合災害に柔軟に対応するため」と説明する。そうしたメリットがある一方で、状況次第で避難先が変わるため、避難する住民に情報が速やかに行き届かなければ、大混乱が生じることは必至だ。
 その上、自家用車を持っていない人や、高齢者ら支援が必要な人の交通手段をどうするのかという課題は残されたままだ。
 受け入れる側も対応の難しさを感じている。ある県の担当者は「事故が起きてみないと、第一の避難先だけで収まりきるのかどうか分からず、避難所がどの程度必要になるかが見通せない」と頭を抱える。別の県の担当者も「『柔軟な対応をお願いします』ということだが、シミュレーションをするときりがない」と対応に苦慮する。

■密の恐れ
 第二だけではなく、第一でも共通の課題として、そもそも避難所の居住スペースが、県の定める「一人当たり二平方メートル」で妥当なのかが挙げられる。新型コロナウイルスの感染防止対策を考えれば、この間隔では密になる恐れが出てくる。
 国際的な災害支援の基準として知られる「スフィア基準」では、避難所の適切な居住スペースとして「一人当たり三・五平方メートル」を目安にする。この基準を適用すれば、さらに多くの避難所が必要になる。
 また、広範囲の大規模な災害時には、第二の避難先も受け入れられない可能性がある。その際は「さらに範囲を広げて受け入れを要請する」(県原子力安全対策課の担当者)ことになる。そうなれば、避難計画はもはや意味をなさない。
 原発の避難計画に詳しい東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「九十四万人が第一の避難先だけで収まりきるとは思えず、はじめから第二の避難先の使用を考えなければならない」と指摘する。
 その上で、避難スペースの過大な算定などずさんな実態が明らかになったことを踏まえ「今のままでは、避難計画が『絵に描いた餅』にもならないこれまでに経験しなかったような最悪の事態も想定に含めなければ、計画は粗雑だと言われても仕方ない」と批判した。 =終わり