2023年2月6日月曜日

岸田政権「原発回帰」は事故教訓の破棄 専門家は「40年超え」を危険視

 昨年12月、原発を「最大限活用する」として(1)次世代革新炉の開発・建設、
(2)原発の運転期間の延長 を決めました。
 運転延長は「40年ルール」の骨格を維持した上で、「一定の停止期間に限り追加の延長を認める」とし、原発事故後の審査で停止していた期間などの分を延長することにしましたが、これはエネルギー政策は『国民の理解を得ながら進めていく』としたエネルギー基本計画に反するもので、NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇・事務局長は、政府の決定は福島第一原発事故の教訓を放棄するものだと厳しく批判します。
 岸田首相が突然「原発回帰」にアクセルを踏んだのは、脱炭素社会の実現に加え、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻がきっかけですが、そうであれば再生可能エネルギーの太陽光発電・風力発電を志向するしかないのに、「官邸と電力業界の出来レース」で原発重視を決めたと、国際大学の橘川武郎・副学長は批判します。
 そして「狙いは最初から運転期間の延長にある。次世代革新炉の建設には5千億円から1兆円規模必要だが運転延長にかかるコストは数億円で済む。政府の言うように休止中をライフに加算しないことにすれば80年以上可能になる古い原子の運転を延長するのは、最悪のシナリオ(要旨)と指摘します。
 そもそも原発が停止中は機器の劣化が進まないという考えもおかしく、現実に柏崎刈羽原発では約15年間の停止中に冷却用海水ラインに腐食で直径約60mmの穴が開きました(海水用の耐食鋼材を用いているにもかかわらずです)。
 金属材料学の権威である東大の井野博満・名誉教授は「原発の寿命は40年を想定して設計されていて、心臓部に当たる圧力容器(原子炉)が核分裂の過程で生じる高エネルギーの中性子線に晒されるため『中性子照射脆化』を起こす。脆化した容器が破損すれば、メルトダウンが起き、放射性物質が外部に出る可能性がある」と述べています
 そして「建設時に脆化を監視する監視試験片(テストピース)を入れ、定期的に取り出し脆化の具合を調べているが、評価の仕方が30年近く前にできたルールで現実に合っていない(数が足りない)」ので、30年(あるいは40年)経過すれば試験片がなくなります。
 次世代革新炉の開発・建設もとても間に合うとは思われず、岸田首相の安易な原発回帰はまちがっているということです。
 AERA dot. が、「岸田政権『原発回帰』は事故教訓の破棄 専門家は『40年超え』長期間運転リスクを懸念」とする記事を出しました。
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岸田政権「原発回帰」は事故教訓の破棄 専門家は「40年超え」長期間運転リスクを懸念
                            AERA dot. 2023/2/6
 福島第一原発の事故から12年。廃炉作業は多くの課題を抱える中、岸田政権は「原発回帰」を打ち出した。長期間運転のリスクは何か。日本のエネルギーはどうあるべきか。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。
      【図】原子力発電所の現状はこちら
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 福島の教訓を忘れたのか、岸田文雄政権は原発政策の「大転換」を正式に決めた。
 昨年12月、国は脱炭素の方策を議論する「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き、原発を「最大限活用する」として新たな基本方針案を示した。
 方針案の大きな柱は(1)次世代革新炉の開発・建設、(2)原発の運転期間の延長──の二つ。福島第一原発事故以降、原発の新増設や建て替えを「想定していない」としてきた政府方針を大きく転換した。特に議論となっているのが、運転期間の延長だ。
 原発の運転期間は、福島第一原発事故前は明確な規定はなかった。
 しかし、原発事故の翌年に原子炉等規制法が改正され、運転期間は原則40年とし、1回に限り最長20年の延長を認めた。「40年ルール」と呼ばれ、原発事故の教訓をもとに決めた政策的な判断だった。今回示された新方針案は、「40年ルール」の骨格を維持した上で、「一定の停止期間に限り追加の延長を認める」と盛り込んだ。原子力規制委員会による安全審査を前提に、原発事故後の審査で停止していた期間などの分を延長する。例えば、10年間停止した場合、運転開始から最大70年運転できるようになる。
 経済産業省の原子力小委員会で委員を務めた、NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇・事務局長は、政府の決定は福島第一原発事故の教訓を放棄するものだと厳しく批判する。
「わずか3カ月で原子力推進に舵を切りましたが、重大な政策転換にもかかわらずその間、国民の意見を聞くことはありませんでした。国が定めるエネルギー基本計画にも、エネルギー政策は『国民の理解を得ながら進めていく』などと書かれていますが、きれいごととしか思えない。進め方が強引です」

■決定は「出来レース」
 当初、原発の政策転換に慎重だった岸田首相が「原発回帰」にアクセルを踏んだのは、脱炭素社会の実現に加え、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻がきっかけだ。
 ロシアが天然ガスの供給を絞ったことで、世界はエネルギー争奪戦に突入した。電力が逼迫し、政府は原発の活用が不可欠と判断。昨年8月下旬、岸田首相は原発の運転期間の延長などの検討を指示していた。だが、松久保さんは政策の「時間軸」が間違っていると語る。
「再稼働できる原発はすでに再稼働していて、電力需給の逼迫の解決策ではありません。新設に関しても、建設開始は早くて30年代。運転期間延長もいま決めなければならない話ではないはずです」
 エネルギー問題に詳しい国際大学の橘川武郎・副学長は、政府の決定を「官邸と電力業界の出来レース」だと批判する。
「狙いは最初から運転期間の延長にあります。次世代革新炉の建設には5千億円から1兆円規模必要ですが、運転延長にかかるコストは数億円で済みます。また政府方針では、最長で70年の運転が可能になると言われていますが、停止期間は原発事故前も適用可能になると思います。そうすると、80年以上可能になる。古い炉を延長するのは、最悪のシナリオです」
 原発の長期間運転には、どんなリスクが潜んでいるのか。
 日本で初めて「原子の火」が灯ったのは1957年8月、茨城県東海村の実験用原子炉だった。
 原子力開発はここから加速した。現在、国内に原発は、停止中も含め33基ある。そのうち17基は稼働開始から30年を超え、4基は40年を超える。2021年6月には、稼働開始から44年(当時)が経過した美浜原発3号機が再稼働し、40年超原発では初めて運転延長した。さらに今夏以降、7基が再稼働するが、うち高浜原発1、2号機など3基が40年を超えている。

■「心臓部」劣化の懸念
 東京大学の井野博満・名誉教授(金属材料学)はこう話す。
「金属は古くなると腐食や疲労などによって劣化し、その分リスクも高まります」
 井野さんによれば、原発の「寿命」は40年を想定して設計されているという。
 特に井野さんが懸念を示すのが、原発の「心臓部」に当たる、核燃料が入った圧力容器の劣化だ
 圧力容器は原発の中心部にあり、厚さ10センチ以上の鋼鉄でできている。それが、核分裂の過程で生じる高エネルギーの「中性子線」という放射線に晒されると、圧力容器自体がもろくなる。これを「中性子照射脆化(ぜいか)」と呼ぶ。脆化によって劣化した容器が破損すれば、メルトダウンが起き、放射性物質が外部に出る可能性がある。
 中性子照射脆化は基本的に防ぐ手立てがない。しかも、圧力容器内には、建設時に脆化を監視する「監視試験片」と呼ぶ圧力容器と同じ金属片を入れ、定期的に取り出し脆化の具合を調べているが、評価の仕方が30年近く前にできたルールで現実に合っていないと語る。
監視試験片は原発の寿命の40年を前提に入れているため、数も不足しつつあります。原発の運転は、設計目安の40年を守るべきです」(井野さん)
 運転開始から40年未満でも事故は起きている。
 昨年10月、運転開始から25年の柏崎刈羽原発7号機のタービン関連施設の配管に直径約6センチの穴が見つかり少量の海水が漏れ出ていたことがわかった。海水による腐食などが影響した可能性が高かったという。

■100%はない
 04年には、美浜原発3号機でタービン建屋の配管が破裂した。高温の蒸気が噴出し、作業員11人が死傷した。配管の厚みが減っていたのが原因だった。井野さんは言う。
「科学や技術に100%はありません。しかも日本は、地震や津波、台風などのリスクがあります。点検のルールや評価式を見直すべきです」
 もう一つの方針、「次世代革新炉の開発・建設」についてはどうか
 次世代革新炉は(1)革新軽水炉、(2)小型モジュール炉(SMR)、(3)高速炉、(4)高温ガス炉、(5)核融合炉──の五つが想定されている。このうち経産省が「本命」とするのは革新軽水炉だ。発電に必要な熱を取り出す冷却材に水を使う原発が軽水炉で、日本の商用原発はいずれもこのタイプになる。この軽水炉の安全性を向上させたものを「革新軽水炉」と呼ぶ。事故時に、溶けた核燃料を受け止めて格納容器の損傷を防ぐ「コアキャッチャー」などを備えている。
 だが、原子力資料情報室の松久保さんは、革新軽水炉は「脱炭素」の観点から矛盾すると話す。
「革新軽水炉は建設から運転開始まで10年近く要します。その間、火力発電に依存することになり、二酸化炭素(CO2)の排出量が増えて脱炭素は進みません」
 一方、太陽光の発電設備の建設は1年もかからず、風力発電は洋上であっても数年でできる
「電力逼迫に関してまず行うべきは、再エネと省エネの普及です。その上で足りないところはどうするかという議論が必要だと考えます」(松久保さん)

■安易な「回帰」は誤り
 日本のエネルギーのあり方について、国際大学の橘川さんも、再生可能エネルギーを主力電源に位置づけるべきだと語る。
「日本は、18年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画で、再生可能エネルギーを主力電源にすると決めました。だとすれば、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー危機になったのであれば、議論しなければいけないのは原発の話ではなく、再エネをどうするかです
 再エネの主力となるのは太陽光と洋上風力だが、これらは天候による変動が大きいので、バックアップの仕組みが不可欠。そこで、原子力を選択肢の一つとして持つことが現実的だという。
 ただし、あくまで「副次的」に使い0~10%程度持つのがいい。そして、より危険性が高い古い原子炉は積極的に廃炉にし、より危険性が低い新しい炉に建て替えるべきだと指摘する。
 残りは、火力でカバーする。しかし、従来型の火力発電ではCO2を排出するため、燃料にアンモニアを用いCO2を排出しないカーボンフリー火力の活用がカギになる。
 すでに、JERA(東京電力と中部電力が出資する電力会社)などが石炭とアンモニアの混焼に成功していて、アンモニアの安定調達などの問題をクリアすれば、40年代には実用化できると見る。
「カーボンフリー火力ができれば、原発依存度を低下させながら、かつ脱炭素の道が見えてきます」(橘川さん)
 今回の方針転換の大義名分にされたロシアのウクライナ侵攻では、原発への武力攻撃の危うさが現実のものとなった。安易な「原発回帰」が誤りなのは明らかだ。(編集部・野村昌二)             ※AERA 2023年2月6日号より抜粋