原子力規制委は13日、原発の運転期間延長を可能にする新しい制度案を4対1の多数決で決定しました。多数決は異例ということですが、理論的に納得できなければ賛成しないというのは正しいことで、石渡明委員が反対した理由は以下の3つでした。
原発運転期間延長を推進する経産省が示した新しい方針で、「原発運転の原則40年
最長60年」ルールが変わらないなら、規制委側は法改正をする必要はない
(2) 延長に向けたこの改正は科学的、技術的な知見に基づくものではない
(3) 審査を厳しくすればするほど、高経年化した原子炉が運転することになる
いずれも正論で、賛成者側にこの3点を論破することが出来なかったのであれば、むしろ賛成が正しい態度だったかをこそ見直す必要があります。
そもそもこの運転延長は、経産省が原発メーカーの要望で無根拠のまま運転期間を延長したところに根本的な問題がありました。
規制委は経産省の意向に押されてストッパーの役を果たさなかったということです。
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規制委で何が起こっているのか? 原発の運転期間延長に突然の「待った!」
異例の“多数決”決定のワケ
FNNプライムオンライン 2023/2/14
2月10日、岸田政権は原発の運転期間を延長する基本方針を閣議決定した。
電力ひっ迫や電気代の高騰を受け、世間の原発に対する考え方が変わってきている。これを追い風に、政府はこのまま原発推進を進めたい考えだ。
原発の安全を管理する「原子力規制委員会」も運転期間延長を可能にする新しい制度案を13日に決定した。
しかし、委員会内の議論で意見が鋭く対立。原発の安全という重要課題について全員一致できず、多数決で反対意見を抑えるという“異例の”強硬手段がとられた。
突然の“待った”受け、開かれた臨時会議
原発は現在、原則40年、最長で60年の運転が認められている。政府は「最大限の原発の活用」を掲げ、実質的に60年を超える運転を可能にする方針に舵を切った。
これを受け、「原子力規制委員会(以下、規制委)」は、30年を超えて運転する原発を10年ごとに審査していく新しい制度案について議論を続けていた。
規制委が所管する「原子炉等規制法」から運転期間の規定を削除し、60年超の運転を可能にする改正案を今国会に提出する準備を進める。2月8日の委員会でこれらの案の正式決定が予定されていた。
ところが、会議終了間際、委員会の一人のメンバーが「我々が自ら進んで改正する必要はない」と発言。地質学を専門とする石渡明委員による反対表明だった。
石渡委員の主張はこの三つ。
(1)原発運転期間延長を推進する経済産業省が示した新しい方針で、「原発運転の原則40年最長60年」ルールが変わらないなら、規制委側は法改正をする必要はない
(2)この改正は科学的、技術的な知見に基づくものではない
(3)審査を厳しくすればするほど、高経年化した原子炉が運転することになる
今までの会議でも慎重な意見を口にしていた石渡委員だが、このタイミングでのはっきりとした反対表明に傍聴していた記者たちも驚いた。この議論は10月から始まり、会議は9回にもおよんでいた。
会議終了後、山中伸介委員長は「反対意見が出ることは議論を尽くすという意味ではいい」としながらも「石渡委員が誤解している部分もあると思う」と記者に話した。
石渡委員を説得するため、急遽、13日に臨時会議が開かれたのである。
約1時間に渡り議論を重ねたが、最後まで石渡委員との意見の隔たりは埋められなかった。「根本的な運転期間に対する意見の食い違い」として、これ以上議論を続けても説得は難しいと山中委員長は判断。5人の委員で意見がまとまらないまま、4対1の多数決で委員会として案を決定した。
法改正という重要案件を多数決で決めることは極めて異例だ。
山中委員長は「原発の運転期間は政策判断(経産省)で考えることで、規制委として意見を申し述べる立場ではない」と繰り返し説明した。原発の運転が60年を超える可能性が出るからこそ、安全を守るために新しい安全規制のルールを作るべきという考えだ。
“ちゃぶ台返し”恐れない「原子力規制委員会」とは
ある規制庁幹部は「石渡委員に限らず、こうして反対するのはほかの委員でもある」と話す。「2022年9月に退任した更田豊志前委員長が『ちゃぶ台返しを恐れずに』と会見したように、度々あること。一般の人にはちょっと理解しがたいかもしれない」と話す。
規制委はこの石渡委員を含め、4人の委員と1人の委員長で構成される、いわば“原発専門家のトップ集団”だ。毎週水曜日に定例会議が行われ、原発の安全にまつわる様々な議論が行われている。ときには委員も原発の現地視察にも赴き、自らの目で安全性を確認する。
規制委の設立は2011年。福島第一原発の事故を受け、二度とこのような事故を起こさないために原発推進を担う経済産業省と「独立する」機関として作られた。原発の「真の安全」を確立し、規制することミッションとして掲げる。規制委のもとで、環境省外局の「原子力規制庁」の職員が事務を担う。
指摘される経産省との“事前相談”
一方、この原発の期間延長をめぐって一つの指摘がなされている。
10月に委員会で議論が始まる前に経産省の職員と規制庁の職員で、水面下で“情報交換”をしていたというものだ。原発に反対するNPO「原子力資料情報室」の指摘で判明したもので、報道を受け、規制庁から説明があった。
それによれば、7月27日に政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で原発の推進政策が打ち出され、翌日から経産省担当者と規制庁担当者の間で資料や必要な法改正の在り方のイメージ共有が始まったというもの。面談の回数は7回にもおよんだ。
“事前相談”とも言える行為で、「規制委の独立制を揺るがすものではないのか?」と記者からも指摘が相次いだ。
規制庁担当者は「面談したことは確かだが、事前相談にあたるとは考えていない」と、規制委としての考え方に影響を与えるものではなかったと説明する。山中委員長も「担当者の頭の体操」だとして「特段の問題を感じていない」と話した。
法改正を作るにあたり、規制委は12月から1月の間に一般から意見を募集した。約2000件の意見が寄せられたが、そのほとんどがこの事前面談に対する批判など、反対意見だった。
「急かされた議論」に「違和感」
さらに、賛成した委員の中からも議論の在り方に疑問の声があがった。
13日の臨時会議の終了間際に杉山智之委員が「これ、言っていいのかなと思いますけど…」と切り出し、「我々、これ(新制度案)を決めるにあたって外から決められた締め切りを守らなきゃいけないと急かされて議論してきました」「我々は独立した機関でじっくり議論すべき。他省庁との関係もあるのでしょうけど、我々は他のペースに巻き込まれないで議論すべきだった」と自省を込めて発言した。
伴信彦委員も「制度論ばかりが先行し、60年超をどうするかの議論が後回しになっていることに違和感」と続いた。
これに対し、山中委員長は「4カ月間の議論は短いとは思っていない」としながらも、「法案提出には決められた締め切りがあるのでそこはやむを得なかった」と認めている。
どうなる今後の原発運転期間延長の議論
山中委員長は石渡委員の賛同を得られないまま多数決で決めたことに対し「非常に残念」と振り返った。今後の議論には引き続き石渡委員も積極的に参加してもらい、丁寧なやりとりを続けたいとしている。
今後は60年を超えた原発の評価をどうするかなどについて具体的な議論が始まる。そもそも原発の運転期間延長について、国民の理解を得ているとはまだ言いがたい。規制委でも議論の在り方の模索がつづく。 (フジテレビ経済部・内閣府担当 井出光)