2013年12月16日月曜日

原子力 「公開」の原則は守られるのか

 
 1955年に作られた原子力基本法には、当時の良心的な学者たちの強い要求を反映して、「民主、自主、公開」の大原則が謳われています。
 しかしながら、昨年6月(20日)野田内閣のもとで原子力規制委員会設置法を成立させるに当たり、その「付則で「わが国の安全保障に資する」との文言を基本法に明記するよう定めました。基本法の下位にあたる法律のしかも本則ではなく付則で改正するという、極めて異例で、詐欺に近いような手法でした。
 
 原子力の開発・利用に関する基本法に、「我が国の『安全保障』に資する」という“きな臭い”文言が加われば、公開の原則が失われかねないし、安全保障を口実にして武器の開発に向かうことをも可能にする余地が生じます。
 
 この6日には特定秘密保護法が安倍政権の強引な手法で成立し、13日には経済産業省分科会が原発活用を柱とする新エネルギー基本計画の素案を了承しました。
 そうしたなか熊本日日新聞が「射程」というコラムで、原子力基本法が定める「民主、自主、公開」の大原則は守られるのかと、改めて懸念を表明しました
 
 条文に僅かな文言を加えることで、解釈の幅が大きく変わる好例に、憲法制定時の「芦田修正」があります。1946年、憲法改正草案の審議に当たり、憲法改正小委員会委員長の芦田均が、第9条2項の冒頭に原案にはなかった「前項の目的を達するため」という文言を挿入する修正を行いました。当時中国はその修正の危険性を指摘しましたが、この文言の挿入によって戦力不保持の目的を限定して、そのことで自衛権の保持や国際安全保障への参画が可能になったとする見方を生じさせました。
 そういう理解が可能であるかどうかはともかくとして、芦田はそういう目的で挿入したことを後日間接的な言い方ですが述べています。
 
 昨年6月21日の東京新聞の記事も併せて紹介します。
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“射程” 特定秘密保護法と原子力
熊本日日新聞  2013年12月15日  
 原子力の憲法ともいわれる原子力基本法が昨年6月、国民的論議もないまま、わずか4日間の国会審議であっさりと改正された。
 
 手が加えられたのは直接的には基本法の条文ではない。原子力規制委員会設置法の付則で「わが国の安全保障に資する」との文言を基本法に明記するよう定めたのだ。基本法の下位にあたる法律のしかも本則ではなく付則で改正するという、極めて異例で複雑な形式だった。
 さらに、同法案が各議員に示されたのは衆院への提出とほぼ同時。「付則までチェックする時間がなかった。そんな付則があるとは知らなかった」。提出と同日に衆院を通過した後、ある野党幹部は共同通信の取材にそう答え、絶句したという。
 
 当時は民主党政権だが、同法案は民主、自民、公明の3党合意によって提出された。問題の付則は自民党の要望によって加えられた経緯がある。
 法成立後に、この付則は「潜在的核兵器能力保持と解釈することもできる」と物議を醸したが、特定秘密保護法の成立で「別の狙いもあったのでは」との推測も浮上し始めている。
 同法ではその第1条で「特定秘密」に指定する情報について「わが国の安全保障に関する情報」と定めている。つまり、原子力情報は基本法改正と相まって、丸ごと「特定秘密」とすることが可能になったのである。
 
 13日には経済産業省の総合資源エネルギー調査会分科会が、原発活用を柱とする新エネルギー基本計画の素案を了承した。原子力基本法が定める「民主、自主、公開」の大原則は守られるのか。これまで以上に注視する必要がある。(泉潤) 
 

「原子力の憲法」 こっそり変更  
東京新聞 2012年6月21日
 二十日に成立した原子力規制委員会設置法の付則で、「原子力の憲法」ともいわれる原子力基本法の基本方針が変更された。基本方針の変更は三十四年 ぶり。法案は衆院を通過するまで国会のホームページに掲載されておらず、国民の目に触れない形で、ほとんど議論もなく重大な変更が行われていた。
 設置法案は、民主党と自民、公明両党の修正協議を経て今月十五日、衆院環境委員長名で提出された。
  基本法の変更は、末尾にある付則の一二条に盛り込まれた。原子力の研究や利用を「平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に」とした基 本法二条に一項を追加。原子力利用の「安全確保」は「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として」行う とした。
 追加された「安全保障に資する」の部分は閣議決定された政府の法案にはなかったが、修正協議で自民党が入れるように主張。民主党が受け入れた。各党関係者によると、異論はなかったという。
  修正協議前に衆院に提出された自公案にも同様の表現があり、先月末の本会議で公明の江田康幸議員は「原子炉等規制法には、輸送時の核物質の防護に関する規 定がある。核燃料の技術は軍事転用が可能で、(国際原子力機関=IAEAの)保障措置(査察)に関する規定もある。これらはわが国の安全保障にかかわるも のなので、究極の目的として(基本法に)明記した」と答弁。あくまでも核防護の観点から追加したと説明している。
 一方、自公案作成の中心となった塩崎恭久衆院議員は「核の技術を持っているという安全保障上の意味はある」と指摘。「日本を守るため、原子力の技術を安全保障からも理解しないといけない。(反対は)見たくないものを見ない人たちの議論だ」と話した。
 日本初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹らが創設した知識人の集まり「世界平和アピール七人委員会」は十九日、「実質的な軍事利用に道を開く可能性を否定できない」「国益を損ない、禍根を残す」とする緊急アピールを発表した。
<原 子力基本法> 原子力の研究と開発、利用の基本方針を掲げた法律。中曽根康弘元首相らが中心となって法案を作成し、1955(昭和30)年12月、自民、 社会両党の共同提案で成立した。科学者の国会といわれる日本学術会議が主張した「公開・民主・自主」の3原則が盛り込まれている。原子力船むつの放射線漏 れ事故(74年)を受け、原子力安全委員会を創設した78年の改正で、基本方針に「安全の確保を旨として」の文言が追加された。