2013年8月31日土曜日

被災者支援の基本方針案は無内容

 29日に発表された「子ども・被災者生活支援法」に基づく基本方針案に対して、原発事故で避難した人たちが30日記者会見を開き、「公聴会などの手続きを踏まないで方針案をまとめた」、「支援の対象を福島県内の33の市町村としたのは狭すぎる」、「福島県外に避難した人たちへの支援が殆どない」、などと批判しました。
 そして「福島への帰還を促す内容ばかりでがっかりした。避難する権利がもっと認められるよう政府に要望していきたい」と話しました。

 子ども・被災者生活支援法の8条には、(要旨)国は、支援対象地域(政府による避難基準=年間20mSvを下回っているが一定の基準以上である地域)で生活する被災者を支援するため、医療の確保に関する施策、子どもの就学等の援助に関する施策、家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策、・・・(以下略)・・・を講ずるものとする」と定められています。

 ところが方針案は、その根幹となる線量基準に関する具体的な検討を行わないまま、いきなり福島県内33市町村を対象地域と設定していて、方針案がなかなか決まらないことの言い訳に利用してきた線量基準の設定が完全に抜け落ちています。
 また支援施策の中身も、今年3月15日に復興庁が公表した「被災者支援パッケージ」とほとんど変わらず、それに除染と健康不安の解消に関わるものを追加しただけに過ぎません。
 同法で最も重要であり期待されていた「避難の権利」を保障する避難者支援策は、全くありません。
 新たに出された「準支援対象地域」の意味も不明です。

 要するにこれだけの長い時間を掛けてまとめた、ということを窺わせるものは何もありません。
 こうした無内容なものが突然提出されたのは、基本方針の遅れを行政の不作為として、被災者たちが裁判を起こしたために、慌ててその段階で整えられる範囲のものをまとめたとしか考えられません。
 それではこの基本方針案を待ちくたびれていた被災者・避難者たちに対して、あまりにも不誠実です。

 以下にNHKニュースを紹介します。
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被災者支援の基本方針案を批判
NHK NEWS WEB 2013年8月30日
原発事故の被災者支援を定めた「子ども・被災者生活支援法」に基づく基本方針案がまとまったことを受けて、原発事故で避難した人たちが30日、記者会見を開き、「支援の対象地域を福島県内の33の市町村としたのは狭すぎる」と批判しました。

復興庁は「子ども・被災者生活支援法」に基づき、原発事故で相当の放射線量が計測された福島県内の33の市町村を「支援対象地域」に指定し、子どもの就学援助や住宅の確保など総合的な支援を行うなどとした基本方針案をまとめました。
これを受けて、原発事故で避難した人や福島県の住民などが30日、東京都内で記者会見を開き、「放射性物質は33市町村以外にも広がっていて、支援の対象地域が狭すぎる」と訴えました。
また、「法律では、基本方針を策定しようとするとき、住民の意見を反映させる措置を取ることになっているのに、これまで公聴会などの場が設けられなかった」、「福島県内で暮らす場合に不安を解消するための施策ばかりで、福島県外に避難した人たちへの支援が少ない」などという批判が相次ぎました。
福島市から都内に自主的に避難している二瓶和子さん(36)は、「福島への帰還を促す内容ばかりでがっかりした。避難する権利がもっと認められるよう政府に要望していきたい」と話していました。
 
 

2013年8月30日金曜日

福島汚染水問題がようやく進みだしました

 経産省の有識者会議は、来月の早い時期に汚染水問題についての抜本的な対策を取りまとめるということです。また排水中の放射性物質を除去する装置の増強も検討するということです。
 事態は少しずつ進みだしました。

 排水処理装置が稼動しないことにはいたずらに排水を貯蔵し続けることになるので、その増強は必要不可欠なことです。十分な性能を持ち、かつ処理能力的に十分に余裕のある装置を計画し選定して欲しいものです。

 東電は当初フランスのアレバ社から高額な放射能汚染水処理装置を購入しました。それはいまどうなっているのでしょうか。その後この4月に「ALPS」(多核種除去装置=東芝製)を完成させましたが、それもトラブルが続いていていまだに稼動していません。
 東電に装置を選定する能力や製作を管理する能力が備わっているのか疑問です。結局は全て国費で賄うことになる以上、有識者会議にはその辺のことも十分に見極めて欲しいものです。

 追記 先に作業員12人が(頭部を中心に)放射性物質に汚染された問題について
     その原因はシャワー水によるものではなく、がれきの撤去作業で放射性物
     質を含むちりが飛び散ったためわかりました。
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汚染水処理設備の増強 新たに検討へ
NHK NEWS WEB 2013年8月30日
東京電力福島第一原子力発電所で汚染水を巡る問題が深刻さを増しているとして、経済産業省は、来月の早い時期に抜本的な対策を取りまとめる方針で、汚染水を処理する設備の増強を新たに検討することになりました。

福島第一原発では、高濃度の汚染水が地下水とともに海に流出していることが明らかになったのに続き、今月、山側のタンクから汚染水300トン余りが漏れ、一部は海に流れ出したおそれが出ています。
こうした状況を受けて、経済産業省の有識者会議では、汚染水の海への流出を防止するとともに、汚染源のある建屋付近に地下水が流れ込まないよう、抜本的な対策を来月のできるだけ早い時期に取りまとめる方針です。

さらに、東京電力はトラブルで停止中の「ALPS」と呼ばれる放射性物質を減らす処理設備の試運転を来月半ばにも再開することにしていますが、敷地内のタンクにたまっている30万トン以上の汚染水など敷地全体の汚染水を減らしていくため、経済産業省の有識者会議では処理設備の増強を新たに検討することになりました。

一方、今月12日と19日、福島第一原発の廃炉作業の拠点になっている免震重要棟の前で合わせて作業員12人が放射性物質に汚染された問題について、東京電力は、当時の風向きや作業の状況から免震重要棟の南東側にある3号機の屋上で行われてたがれきの撤去作業で放射性物質を含むちりが飛び散ったのが原因とみられると明らかにしました。
3号機の屋上では、先月末から今月にかけて、大型のがれきが撤去され、その下にあった放射性物質を含むちりが飛び散りやすくなったと考えられるということです。
今後、がれきの撤去作業を行う際には、ちりが飛び散るのを防ぐ特殊な処理をする範囲を広げ、免震重要棟の前をシートで覆う対策を行うことにしています。
当初、東京電力は熱中症対策で使っている霧状の水を発生させる装置が原因の可能性があるとしていましたが、この装置を使っていないときにも汚染が起きたため調査していました。

被災者支援法 基本方針案まとまる +


 復興庁は、「子ども・被災者生活支援法」に基づいて策定する基本方針をまとめ、福島県内の33市町村を「支援対象地域」に指定しました。そのほかに「準支援対象地域」を設ける予定だということです。

 市町村を指定した際の基準線量がいくつであるのかはまだ分かりませんが、もしもこれまで許容基準とされてきた年間1mSvから逸脱したものであれば、「子ども・被災者生活支援法」の趣旨からも逸脱することになります。
 本来、被曝線量によって基準を定める筈のものが、なぜこのような決め方をしたのか釈然としません。「年間1ミリシーベルト以上」の地域設定を求めていた市民団体などの要望とはかけ離れた内容です。

 基準線量のほかにも、被災者・避難者に対して具体的にどのような支援が行われるのか気になるところです。
 政府は、秋の臨時国会までに基本方針閣議決定するというので、その過程でいずれ基本方針の詳細が明らかになります。

 極めて長期間の検討を経て復興庁が決めた基本方針なので、被災者に十分に寄り添ったものなのか注目されます。
   +毎日新聞の記事を追加
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被災者支援法 基本方針案まとまる
NHK NEWS WEB 2013年8月29日
復興庁は、原発事故の被災者支援を定めた「子ども・被災者生活支援法」に基づいて策定する基本方針について、福島県内の33市町村を「支援対象地域」に指定し、医療施設の整備や子どもの就学の援助を行うなどとした案をまとめました。

それによりますと、原発事故で相当の放射線量が計測された福島県内の33市町村を「支援対象地域」に指定し、医療施設の整備や医師の確保、それに子どもの就学の援助など、総合的な支援を行うとしています。
また、「支援対象地域」以外でも、「準支援対象地域」を設け、各地域の実情に応じた支援を行うとしており、政府は、秋の臨時国会までに基本方針を閣議決定する方針です。
基本方針を巡っては、福島県から避難した住民などが今月、「『子ども・被災者生活支援法』が成立して1年以上たっても示されないのは違法だ」などとして、国に速やかな対応を求める訴えを起こしています。
また復興庁は、来年度・平成26年度予算案の概算要求で、基本方針案に盛り込んだ支援策に必要な費用をはじめ、道路や水道などのインフラ整備を含め、被災地のまちづくりを本格的に進める費用など、総額で2兆7000億円を要求する方針を固めました。

被災者支援法:線量基準定めず、福島33市町村に限定
毎日新聞 2013年08月30日 
 東京電力福島第1原発事故に対応する「子ども・被災者生活支援法」で、復興庁が支援対象地域を線引きする放射線量基準を決めないまま、福島県内33市町村を対象地域に指定する基本方針案をまとめたことが分かった。住民からは「基準作りを回避し、支援の範囲を不当に狭めるものだ」との批判が出そうだ。【日野行介、袴田貴行】

 基本方針案によると、対象地域は「原発事故発生後に相当な線量が広がっていた」とする同県東半分の自治体のうち、避難指示区域やその周辺を除く33市町村。具体的な支援策は、復興庁が3月発表した「支援パッケージ」の拡充を検討するとした。さらに、同県の西半分の会津地域や近隣県を「準支援対象地域」と位置づけ、個人線量計による外部被ばく線量調査などの支援を実施する。

 だが、法令は一般人の年間被ばく線量限度を1ミリシーベルトと定めている。原発事故後に広く指標とされてきた空間線量でこの1ミリシーベルトを基準としたなら、支援対象範囲は福島県以外にも及ぶ。近隣県にも局所的に線量の高い地域があり、福島県内の一部に範囲を限定することに対して反発は必至だ。
 また、災害救助法に基づく県外への避難者向けの民間住宅家賃補助は、昨年末に新規受け付けが打ち切られた。支援法による復活を求める声もあるが、基本方針案には含まれない。

 一方、原子力規制委員会は28日、復興庁の要請を受けて専門家チームを設け、関係省庁を通じて支援対象地域の個人線量データ収集を始めた。住民一人一人の個人線量は空間線量より低く出る傾向がある。国はこの点に着目し、低いデータを基に住民に帰還を促すとともに、線量に基づかない対象地域指定を科学的に補う狙いがあるとみられる。

 支援法は昨年6月、議員立法で成立。原発事故に伴う年間累積線量が一定の値以上で、国の避難指示区域解除基準(20ミリシーベルト)を下回る地域を支援対象とする。だが一般人の被ばく限度との整合性をどう取るか難しく、線引きによっては避難者が増える可能性もあり、復興庁は基本方針策定を先送りしてきた。福島県などの住民は早期策定を求めて東京地裁に今月提訴した。

支援対象地域となる33市町村
支援対象地域となる33市町村
(赤色部分:避難指示区域と川内村楢葉・広野町は除く)
 
 
 
 
 

2013年8月29日木曜日

汚染水対策にようやく政府が本腰

 安倍首相は外遊先で、福島原発の汚染水問題に政府が率先して取り組むことを再度明言しました。

 ようやく政府も福島原発の汚染水流出問題に真剣に取り組み出したということです。いまさらですがアメリカのCNNテレビを見て、日本とは扱いが違うことに政府筋は驚いたといいます。そこには政府と癒着している日本のマスメディアとは異なる報道姿勢があったのでしょう。

 政府が本腰をいれる動機が、汚染水問題が東京オリンピック招致に向けてのマイナス要因にならないようにするためというところが笑いですが、取り組みの遅れはもう2年半にも及ぶのですから、“にんじん”が何であれ必死に走り出す必要があります。

 以前から言われていたことですが、中国や韓国はいうまでもなくカナダやアメリカでも、もしも近海の水から放射能が検出されれば天文学的な賠償金額を要求してくるでしょう。そうした問題に比べれば、オリンピックの招致に成功するかどうかなどは微々たるものに過ぎません。

 原子力規制委員長の田中俊一氏が28日の記者会見で、東電福島原発の地上タンクから大量の高濃度汚染水が漏れた問題をめぐり「東電の発表には根拠のない推論が多過ぎる。データ収集の計画や手法などを踏み込んで指導したい」と述べたということです。
 まことに当然な指摘です。
 事故発生以来、繰り返されているあのお粗末な記者会見は、記者クラブ制度の上に安住しているマスメディアと東電の癒着がもたらしたものではないでしょうか。記者たちがその都度的確な質問を発し 糾していれば、あそこまで無内容な発表が続けられる筈がありません。

 ここに来てようやく与党は実務者でつくる「汚染水処理対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、9月上旬にも汚染水問題に関する衆院経済産業委員会の閉会中審査を実施するということです。
 今度こそ国会は国会の機能を果たし、政府には率先して且つ全力を尽くして取り組んでもらって、でき得るかぎり早期に解決して欲しいものです。
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汚染水対策に躍起=五輪招致への影響懸念-政府・与党
時事通信 2013年8月28日
 東京電力福島第1原発の高濃度汚染水漏れへの対応に、政府・与党が躍起となっている。国内外の批判が強まりつつある現状に、政権のアキレスけんになりかねないとの危機感を抱いているからだ。政府内からは、東京が他の2都市と争う2020年夏季五輪の招致レースへの影響を懸念する声も出ている。

 汚染水が海に流出した可能性を東電が認めた7月22日以降、政府は具体策の検討に着手。14年度予算で、第1原発の敷地周囲の土を凍らせて、地下水の流入や汚染水の流出を防ぐ「凍土方式」による遮水壁の設置などを進める方針を決めた。緊急性に応じて13年度予算の予備費活用も検討。国費投入を含め「できることは全てやる」(菅義偉官房長官)との姿勢だ。

 与党も28日、実務者でつくる「汚染水処理対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、取り組みを強化することを確認。民主党などの求めに応じ、汚染水問題に関する衆院経済産業委員会の閉会中審査を9月上旬にも実施する方向となった。
 しかし、汚染水は毎日約400トンずつ増え続けているにもかかわらず、政府の対応は場当たり的な面が否めず、海外からも厳しい視線が注がれている。五輪の開催都市が決まる9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会の直前だけに、政府も国際世論の動向には神経をとがらせており、「(汚染水問題を)招致のネガティブキャンペーンに使われたらきつい。米CNNテレビを見ると、日本とは扱い方が違う」(政府筋)との声が漏れる。
 一方、野党は政府を徹底追及する構えだ。民主党の大畠章宏幹事長は28日、「(対応が)遅過ぎた。政府が前面に出る仕組みを築くことが大事だ」と記者団に語り、政権の取り組みを批判。共産党の穀田恵二国対委員長は記者会見で「(東電社長を国会招致するのは)当然だ」と語った。
 
 

チャチなベント・フィルターでいいのか 柏崎刈羽原発

 26日、27日の二日間、新規制基準に基づいて柏崎刈羽原発に新設されるベント・フィルター過酷事故時に原子炉容器内⇒格納容器内の蒸気を放出する際のろ過器。=フィルター付きベント)について、東電による住民説明会が行われました。
 フィルターの性能が、粒子状の放射性セシウムは99.9%以上除去できるものの放射性希ガスは除去できないことから、「一時的な待避が必要」になるという説明に、フィルターの性能は十分なのか」などと不安視する声が相次いだということです

 これまで 原発メーカーは、ベント・フィルターを通すことで大気中に放出される放射能は1万分の1以下になると宣伝していましたが、今回の説明では大いに異なります。チャチな簡易型を選定した可能性があります
 原子炉容器内⇒格納容器内の蒸気中に含有される放射性物質は大部分が希ガス状なのではないでしょうか。その「京ベクレル」単位の放射能のうちから、僅かに粒子状の放射性セシウムのみを99.9%除去する程度のろ過器ではとても安心できません。
 もしもその程度の性能でOKになるものであるならば、規制基準自体が極めて不十分なものということになります。

 それに加えて、格納容器とフィルターを結ぶ長距離排気配管が軟弱な地盤上を走ることになるので、それが肝心な地震時に破損する惧れはないのでしょうか。泉田知事が非常に懸念していることです。

 新潟日報の記事を紹介します。
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柏崎刈羽で原発住民説明会 フィルター付きベントに不安相次ぐ
新潟日報 2013年8月28日
 東京電力が原発の新規制基準に基づく安全審査申請を目指している柏崎刈羽原発6、7号機について、東電が立地地域で開いた住民説明会が27日、2日間の日程を終えた。過酷事故時に放射性物質を含んだ格納容器内の蒸気を放出するフィルター付きベントについて、住民からは「性能は十分なのか」などと不安視する声が相次いだ。
 フィルター付きベントは新基準で設置を義務付けられ、申請の前提となる設備だが、住民の不安は根強いことが浮き彫りになった形だ。
 26日の柏崎市、27日に刈羽村で開かれた説明会には合わせて約200人が参加。東電は、フィルター付きベントの役割を炉心損傷の防止と敷地外の土壌汚染を減らすためと解説。粒子状の放射性セシウムは99・9%以上除去できるが、放射性希ガスは除去できないことから「一時的な待避が必要」と述べた。
 刈羽村の住民から「希ガスが取れないのに安全なのか」との声が上ったのに対し、川村慎一・原子力設備管理部長は「(蒸気を)放出する際に近くにいると危険で、決して安全とは言えない」とし、住民避難のため自治体と情報共有を進める考えを示した。
 住民からは「避難計画を自治体任せにしていいのか」「高齢者もいるのに本当に逃げられるのか」との意見が出た。
 こうした声が上がっていることについて、原子力規制庁の地元事務所の内藤浩行所長は27日の記者懇談会で、フィルター付きベントの運用に際し「防災計画や住民避難は自治体が中心になって考える問題なので、設備について東電はしっかり説明してほしい」と注文した。
 
 

汚染水流出問題を海外メディアはどう報じているか

 27日の東京新聞が「原発汚染水の海外報道 世界が注目 政府と落差」と題して、海外メディアの汚染水流出問題に対する強い懸念と、日本政府や東電に注がれている厳しい視線についての記事を掲載しました。

 冒頭に「五輪の東京招致には影響はないと考えている」という、福島原発事故での汚染水漏れを大した問題でないと考えている菅義偉官房長官コメントを紹介した後、海外の各メディアが極めて深刻な問題であると捉えていることを報じています。
 
 そして「海外メディアの強い懸念と、諸課題のひとつと捉える政府の対応の温度差は拡大する一方」と記事を結んでいます
 これはそのまま日本のマスメディアの報道姿勢にもいえることです。

 東京新聞の記事を紹介します。
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原発汚染水の海外報道 世界が注目 政府と落差
東京新聞・こちら特報部 2013年8月27日
 「五輪の東京招致には影響はないと考えている」─。福島原発事故での汚染水漏れで、菅義偉官房長官は26日、こうコメントした。五輪招致のみならず、政府は原発輸出を成長戦略のひとつに位置付けているが、海外メディアの視線は対策が見通せない汚染水漏れと東電、政府の事故対応に注がれている。(小倉貞俊、林啓太)

◆英BBC「認識よりはるかに危ない」  独紙「また東電うそ暴かれた」
 「日本国民の怒りを再び呼び起こしたのみならず、海外諸国からも憂慮されている」。21日付英紙ガーディアン(電子版、以下の各紙なども同じ)は、汚染水問題についてこう記し、世界的に関心が集まっていることを伝えた。
 汚染水問題では今月7日、政府が「汚染された地下水の海への流出量は1日300トンに上る」との試算を発表した。さらに汚染水タンクからの漏れも発覚。原子力規制委員会は事故の深刻度を表す国際的な事故評価尺度(INES)で「重大な異常事象」であるレベル3への引き上げを検討している。抜本的な解決策は見いだせていない。

 英BBC放送は22日、「2年前にメルトダウン(炉心溶融)が起きて以来の深刻な状況」と表現。「複数の原子力専門家たちは東京電力や日本政府が認めたいと思っているレベルより、はるかに危ない状況と懸念している」と論じている。

 英紙インディペンデントも20日付で「日本政府は原発閉鎖の費用や複雑さを過小評価し、東電も問題を組織的に隠してきた」という専門家の言葉を紹介した。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは22日付で「汚染水漏えいの背景には、もっと深刻な問題がある。東電は原発内の冷却水の流れを制御できなくなり、状況が悪化している」と指摘。事故以来、最悪の危機に直面しているとした。

 米誌ネーションは19日付で「最初に問題を否定し、対応が遅れる。その末に事実を認めて謝罪する。こうした東電の対応はよくあることになってしまった」と指摘。「汚染水漏れが続く福島原発が心配の種であることは容易に忘れ去られる。現場の映像がほとんど提供されないことなどが原因で、関連報道がほとんど注目されていない」

 脱原発の方針を決めているドイツはどうか。7日付の独紙フランクフルター・アルゲマイネは、「東電は6月、外国人ジャーナリスト向けの現地説明で『原発事故は管理下にあり、まったく危険はない』と言っていた。しかし、放射能に汚染された水が太平洋に流れ込んでいた。東電はこれまでもうそをついては暴かれた。一体、何を学んできたのか」と非難。
「東電のうそが、原発政策を進めようとする安倍首相を苦境に立たせている」と論評した。

 25日付の韓国紙の中央日報は「日本の食品恐怖に積極的に対応すべきだ」と題した社説を掲載。韓国内で日本からの輸入食品への不安が膨らみ、「ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)では放射能怪談が絶えない」と報じた。
 韓国政府に対しては「徹底した検疫を通じ、国民の不安感を解消するべきだ」「日本政府が事故情報を隠し、縮小していなかったか、細かく確かめ対策を促さなければいけない」と訴えた。

 海外メディアの強い懸念と、諸課題のひとつと捉える政府の対応の温度差は拡大する一方だ。
 
 

2013年8月28日水曜日

再稼働しないと電気料金が25%上昇という欺瞞

 経産省は27日基本政策分科会を開き、原発の再稼働が遅れれば家庭の電気料金は今より25%上がるという試算を公表しました
 民主党が定めた「2030年代に原発の稼働ゼロ」を覆そうというのが狙いです。

 会合では原発の耐用年数40年をさらに延ばそうという意見も出されたということです。現行の40年という決定すら異常なのにそれをさらに延長しようというもので唖然とします。そうした検討は政策分科会などですべきことではなくて、「原子炉鋼材の強度劣化」という材料物性・材料力学の領域で決められるべき問題です。

 日本はもともと発電用燃料の自給率はゼロであり、国内での石炭採掘がコスト的に太刀打ちできない以上、海外への依存度を減らす余地などありません。そして原発の殆どが停止している現在 化石燃料の比率が上がるのはごく当然のこと(水力発電は頭打ちで、太陽光・風力発電は未普及)です。

 何よりの欺瞞は、経産省が原発の発電コストが火力発電よりも安いとしたことです。多分核燃料の購入価格をベースにしたものなのでしょう。円安が燃料代を押し上げている点は核燃料も同じです。むしろ核燃料の方が早晩品薄になり、価格が高騰し、ついには枯渇するといわれています。
      ※ 7月14 2020年代、高騰する核燃料で世界中の原発が崩壊」

 原発立地市町村への交付金、使用済み核燃料の崩壊熱除去の仮保管、処理費、少なくとも数百年間に及ぶ保管費用、東電1社だけでも500億円といわれる莫大な広告費(殆どは原発の宣伝)、大学その他の原子力村の維持に要する固定費、さらには福島原発事故の補償費(またはそれ用の保険金)等々を正式に加算すれば、原発の発電コストがLNGや石炭が主力の火力発電を上回ることは、原発に関心を持つ人たちの間では知れ渡っていることです。

 さらに現行のLNGの購入価格は諸外国に比べると極めて割高という問題があります。それはこれまでコスト意識を持つ必要がなかった電力会社の責任であり、それを黙認してきた経産省の責任でもあります。その点を今後改善すれば火力発電のコストの優位性はさらに高まります。

 それにしても何もかも承知している筈の経産省がこうした欺瞞を演じるのは、「電気料25%アップ」の見出しが躍れば再稼動やむなしの機運が生じるというのが目論見なのでしょう。電力・財界と一体になった再稼動へ向けた世論誘導です。

 以下に、日経新聞の記事を紹介します。
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原発再稼働遅れれば料金25%上昇 経産省試算 
日経新聞 2013年8月27日
 経済産業省は27日、エネルギー基本計画をつくる基本政策分科会を開いた。原子力発電所の再稼働が遅れれば家庭の電気料金は今より25%上がると試算。原発1基が1年間に発電する電力量を住宅用太陽光パネルで賄うには、東京都内のほぼ全ての戸建て住宅に相当する175万戸に導入する必要があると指摘した。

 政府は年内に新しいエネルギー政策の枠組みをつくる方針。民主党政権が打ち出した「2030年代に原発の稼働ゼロ」をゼロベースで見直し、現実的な計画を示す。

 27日はエネルギーを巡る国際情勢や経済への影響などを中心に話し合った。「原発の安全性を確保したうえでエネルギー構成のバランスをとる必要がある」(西川一誠・福井県知事)、「20~30年後を見据えた場合、原発は本当に40年の運転制限でいいのか」(山名元・京大原子炉実験所教授)などの意見が出た。

 米国や欧州など先進国では2000年前後からエネルギーの輸入量が増え、燃料の自給率が徐々に低下していると指摘。原発を活用すれば自給率は10%改善するとした。
 日本の12年度のエネルギー構成をみると、石炭や石油、液化天然ガス(LNG)など化石燃料の割合は86%。第1次石油危機が起きた1973年度の74%を上回る高水準になった。電力各社の13年度の燃料費は東日本大震災前と比べ、原発停止分だけで3.8兆円膨らむ。国民1人当たり約3万円の負担増になる。

 原発1基(出力100万キロワット)の年間発電量をほかの代替燃料で賄うにはどれだけ必要か、との試算も示した。LNGだと95万トン、石油だと155万トン、石炭だと235万トンになる。一方、国内の民間在庫はLNGが13日分、石油が67日分、石炭が33日分にとどまり、海外への依存度をいかに減らすかが課題になる。

 茂木敏充経産相は27日の閣議後の記者会見で「今までは月1回程度の開催だったが、9、10月で3回ほど開きたい」と、年内の計画策定へ議論を速める考えを表明した。
 
 

中・韓両国も海洋汚染に注目

 福島原発からの海洋への放射能流出には、当然ながら中・韓両国も注目しています。
 
 中国人民日報は26日、放射能汚染物質の中国管轄海域への影響はひとまずないとする国家海洋局のコメントを伝えました。しかし「今後西太平洋の公海で継続的観測を続け、最新の影響を把握して、中国の海洋における正当な権利を守る方針である」とも述べました。公海での汚染が確認されれば損害賠償を請求するという意志を表明したものと思われます。

 韓国の聨合ニュースは28日、福島原発の汚染水が韓国まで流れてくるには5年程度がかかり、その間に放射能は希釈され韓国への影響はほぼないとする国立水産科学院予測を報じる一方で、万一の事態に備え、海流の変動などを持続的にモニタリングする計画であると述べました。やはり自国領海内での汚染が確認されれば損害賠償問題に発展するものと思われます。

 安倍政権は今度こそ政府の責任で汚染水問題を解決する覚悟を固めるべきです。

 以下に中・韓両国メディアの記事を紹介します。
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日本の放射能汚染物質は中国海域にひとまず影響なし
(中国)人民網日本語版 2013年8月26日
 国家海洋局がこのほど伝えたところによると、さきの東日本大震災を受けて日本の福島第一原子力発電所で事故が発生して以来、同局は3年にわたり太平洋の公海で追跡調査を続けてきた。その結果、事故による放射能汚染物質の海への影響はその範囲が拡大しており、北緯20度付近で事故により放出されたセシウム(132Cs)が確認された。2013年の最新の観測結果によると、事故による放射能汚染物質の中国管轄海域への影響はひとまずないという。人民日報が伝えた。

 あるメディアの報道によれば、事故発生後、放射性物質を含む汚染水が海に流れ続けている。同局はこの点を非常に重視し、大量の観測活動を行ってきた。最新の観測結果によると、現時点では放射能汚染物質による中国管轄海域への直接の影響はまだ確認されていない。同局は今後、事故の最新の進展状況に十分注意し、西太平洋の公海で継続的観測を続け、最新の影響を把握して、中国の海洋における正当な権利を守る方針。必要であれば、国際社会は福島付近の海域で合同観測を行い、原発事故が西太平洋の公海に与えた影響の範囲と程度を全面的に把握することを求める権利をもつという。(編集KS)

福島原発の汚染水 韓国に影響なし=国立研究機関
(韓国)聯合ニュース 2013年8月28日
【釜山聯合ニュース】韓国の国立水産科学院は27日、2011年から韓国近海の海水を採取・調査した結果、日本の放射能汚染水による影響はないと明らかにした。

 今回の調査は東京電力福島第1原発事故が韓国の漁場や水産生物に及ぼす影響を把握するため行われた。2011年から2カ月に1回ずつ韓国の東・西・南海と東シナ海の75カ所から海水を採取し、韓国原子力安全技術院が海水に含まれた放射能を測定した。
 放射性ヨウ素(1311)と放射性セシウム(134Cs)は検出されなかった。放射性セシウム(137Cs)は微量が検出されものの、基準値を下回る例年同様の水準で福島原発の汚染水漏れ問題は韓国に影響を与えていないという。

 国立水産科学院は福島原発の汚染水が韓国まで流れてくるには5年程度がかかり、その間に放射能は希釈され韓国への影響はほぼないと予測した。ただ、万一の事態に備え、海流の変動などを持続的にモニタリングする計画だ。

放射能海水の恐怖現実に…福島の汚染度、急上昇
(韓国)中央日報日本語版2013年08月26日
  日本の福島第1原発の放射能汚染水の流出で、原子力発電所周辺の海水の放射能濃度が急激に増加したことが明らかになった。 

  東京電力は23日「第1原発から約500メートル離れた港湾入口で19日に採取した海水の放射能汚染度を測定した結果、放射性トリチウム(三重水素)の濃度が1リットルあたり68ベクレルの値が出た」と明らかにした。ほかの4地点のトリチウム濃度も52~67ベクレルに達した。この数値は12日に測定した数値に比べ1週間で8~18倍に高まった。1~3号機周辺の地下水汚染のため監視が強化された6月以降最高の数値でもある。 

  トリチウムのほかにも体内に入れば骨に蓄積されて骨髄がん・白血病などを引き起こす半減期29年の放射性物質ストロンチウムも海水から大量検出された。 

  東京新聞は「今回300トン以上の放射能汚染水が流出したタンクの下流地点でセシウム(半減期30年)はほとんど検出されなかったが、ストロンチウムは1リットルあたり200~580ベクレルで非常に高かった」と指摘した。新聞は「港湾から測定された数値は結局、原子力発電所内のタンクからもれた放射能汚染水が、排水口を通ってそのまま海に流れ出たことを実証的に立証している」と分析した。 

  東京電力は「汚染水が流れ出たタンクは、東日本大地震の発生直後の2011年6月にほかの場所に設置されていたが、該当場所が地盤沈下を起こしたために解体して現在の位置に移されたもの」としながら「ほぼ同時期に移設した残りのタンク2カ所の汚染水をくみ出してほかのタンクに移す方針」と発表した。 

  一方、朝日新聞は「タンクの汚染水の流出よりもはるかに深刻なのは1~3号機周辺の汚染地下水が直接海に流れ出ているという点」と指摘した。 

  東京電力は汚染地下水の海への流出を防ぐために1~2号機の間の地面の下に地下遮断壁をつくったが、汚染水の水位が高まったために遮断壁の上を越えて海に流れている。これに対し東京電力は23日、汚染水の水位を下げるために真空ポンプを使用し、敷地内28カ所で一日最大70トンの地下汚染水を吸い上げ始めた。新聞は「東京電力は原子炉建物の坑道内にたまった超高濃度の汚染水が一日10リットルほど直接海で流出している可能性も認めている状況」と指摘した。 

◆韓国新薬処「ストロンチウムは検査除外」=食品医薬品安全処は昨年6月から日本産の輸入水産物について日本政府と同じ基準(1キログラムあたり放射性セシウム100ベクレル以内)を適用している。国内の放射性物質許容基準値はセシウム370ベクレル、ヨード300ベクレルだ。 

  新薬処によれば、福島原発事故以後の2011年3月から現在まで韓国内に入ってきた水産物の中で放射性セシウム・ヨードが検出された件は計131件、約3011トン程度だ。農産物・畜産物・加工食品などではまだ放射性物質が検出されたことはない。新薬処の関係者は「放射能検出量はすべて基準値以内なので安全だ」と説明した。だが現在、ストロンチウムのような放射性核種に対しては別の検査を行っていない。新薬処関係者は「ストロンチウムを検出するには最低6週間ほどかかり、水産物にこのような検査をすることは難しい」と話した。