2023年6月28日水曜日

日本を救った男-吉田昌郎元所長の原発との壮絶な闘いと死(門田 隆将氏)

 福島原発事故の収束作業を現場で指揮した故・吉田昌郎元福島第1原発所長を生前に長時間にわたりインタビューし、多くの関係者取材を行ったノンフィクション作家門田 隆将吉田氏が亡くなって7月9日で10周忌のを迎えるのを前に、生前の闘いを報じたnippon.comの記事を再公開しました
 門田氏は、吉田氏を原発に携わる人間としての「本義」を忘れず「チェルノブイリ事故の10倍」規模の被害に至る事態をぎりぎりで回避させ、文字通り「日本を救った男」と評価しています。
 東電の上層部や本社関連の人たちが総体として防潮堤の設置には消極的であったのは事実でした。吉田氏もその一人と見做されましたが、門田氏は「事実は違う」として具体的にどう対応したかを述べています。
 困難を極めた現地で結果的に最悪の事態を回避できたのは、吉田氏の命を度外視した使命感の賜物であり、それは周囲から絶大な信頼を寄せられていたからだと述べています
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日本を救った男-吉田昌郎元所長の原発との壮絶な闘いと死
                     門田 隆将 nippon.com 2023/6/27
                        ノンフィクション作家
東日本大震災の際、福島第1原発事故の収束作業を現場で指揮した故・吉田昌郎元所長。吉田氏への長時間インタビュー、多くの関係者取材を行ったノンフィクション作家が、改めて吉田元所長の闘いを振り返る。
<吉田元所長が亡くなって、2023年7月9日で10周忌の節目を迎えるのを前に、生前の闘いを報じたnippon.comの記事を再公開する(初出:2013 年8月21日、肩書きは公開時のまま)。>

「お疲れさまでした。本当にありがとうございました」
7月9日午前11時32分、吉田昌郎・福島第1原発元所長が亡くなったという一報を吉田さんの親友からもらった時、私はそうつぶやいて胸の前でそっと手を合わせた。
吉田さんは、最後まで原子力発電に携わる人間としての「本義」を忘れず、「チェルノブイリ事故の10倍」規模の被害に至る事態をぎりぎりで回避させ、文字通り、「日本を救った男」だった。今も東京に住み続けている一人として、吉田さんへの心からの感謝の念が込み上げてきたのである。

国家の「死の淵」で闘い、「戦死」した男 
吉田さんは、昨年2月7日に食道がんの手術を受け、回復するかにみえたが、7月26日に今度は脳内出血で倒れ、二度の開頭手術とカテーテル手術を受けた。
しかし、がん細胞は肝臓へと転移、最後は、肺にも転移し、太腿に肉腫もでき、肝臓の腫瘍はこぶし大になっていた。
そのことを聞いていた私は、「いつかはこの日が来る」ことを覚悟していた。吉田さんは暴走しようとする原子炉と闘い、過剰介入を繰り返す首相官邸とも闘い、時には、理不尽な要求をする東京電力本店とも闘った。自分だけでなく、国家の「死の淵」に立って究極のストレスの中で闘った吉田さんは、58歳という若さで「戦死」したのだと私は思っている。
昨年7月に脳内出血で倒れる前、私の二度にわたる都合4時間半のインタビューを受けてくれた。それは、あらゆるルートを通じて1年3カ月も説得作業を続けた末のインタビューだった。
初めて会った吉田さんは、184センチという長身だが、闘病生活で痩せ、すっかり面変わりしていた。吉田さんは、それでも生来の明るさとざっくばらんな表情で、さまざまなことを私に語ってくれた。
前述のように、あそこで被害の拡大を止められなかったら、原子炉の暴走によって「チェルノブイリ事故の10倍」規模の被害になったこと、そして、それを阻止するべく原子炉冷却のための海水注入活動を行い、汚染された原子炉建屋へ突入を繰り返した部下たちの姿を詳細に語ったのである。

官邸、東電上層部の命に反して、断固として海水注入を続行
吉田さんは、いち早く自衛隊に消防車の要請をし、海水注入のためのライン構築を実行させ、1号機の原子炉格納容器爆発を避けるための「ベント」(格納容器の弁を開けて放射性物質を含む蒸気を排出する緊急措置)の指揮を執っている。空気ボンベを背負ってエアマスクをつけ、炎の中に飛び込む耐火服まで身に着けての決死の「ベント作業」は、すさまじいものだった。
その決死の作業を行った部下たちは、私のインタビューに、「吉田さんとなら一緒に死ねる、と思っていた」「所長が吉田さんじゃなかったら、事故の拡大は防げなかったと思う」。そう口々に語った。自分の命をかけて放射能汚染された原子炉建屋に突入する時、心が通い合っていない上司の命令では、“決死の突入”を果たすことはできないだろう。
吉田さんは、彼らが作業から帰ってくると、その度に一人一人の手をとって、「よく帰ってきてくれた! ありがとう」と、労をねぎらった。
テレビ会議で本店にかみつき、一歩も引かない吉田さんの姿を見て、部下たちは、ますます吉田さんのもとで心がひとつになっていった。吉田さんらしさが最も出たのは、なんといっても官邸に詰めていた東電の武黒一郎フェローから、官邸の意向として海水注入の中止命令が来た時だろう。「官邸がグジグジ言ってんだよ! いますぐ止めろ」
武黒フェローの命令に吉田さんは反発した。「なに言ってるんですか! 止められません!
海水注入の中止命令を敢然と拒否した吉田さんは、今度は東電本店からも中止命令が来ることを予想し、あらかじめ担当の班長のところに行って、「いいか、これから海水注入の中止命令が本店から来るかもしれない。俺がお前にテレビ会議の中では海水注入中止を言うが、その命令は聞く必要はない。そのまま注入を続けろ。いいな」。そう耳打ちしている。案の定、本店から直後に海水注入の中止命令が来る。だが、この吉田さんの機転によって、原子炉の唯一の冷却手段だった海水注入は続行されたのである。
多くの原子力専門家がいる東電の中で、吉田さんだけは、原子力に携わる技術者としての本来の「使命」を見失わなかったことになる。

最後まで現場で闘った「フクシマ69」
2011年3月15日早朝、いよいよ2号機の格納容器の圧力が上昇して最大の危機を迎えた時、吉田さんは「一緒に死んでくれる人間」の顔を一人一人思い浮かべ、その選別をする場面を私に語ってくれた。
吉田さんは指揮を執っていた免震重要棟2階の緊急時対策室の席からふらりと立ち上がったかと思うと、今度はそのまま床にぺたんと座り込んで頭を垂れ、瞑想を始めた。それは、座禅を組み、なにか物思いにふけっているような姿だった。
「あの時、海水注入を続けるしか原子炉の暴走を止める手段はなかったですね。水を入れる人間を誰にするか、私は選ばなければなりませんでした。それは誰に“一緒に死んでもらうか”ということでもあります。こいつも一緒に死んでもらうことになる、こいつも、こいつもって、次々、顔が浮かんできました。最初に浮かんだのは、自分と同い年の復旧班長です。高卒で東電に入った男なんですけど、昔からいろんなことを一緒にやってきた男です。こいつは一緒に死んでくれるだろうな、と真っ先に思いました…」
生と死を考える場面では、やはり若い時から長くつき合ってきた仲間の顔が浮かんだ、と吉田さんは語った。
「やっぱり自分と年嵩(としかさ)が似た、長いこと一緒にやってきた連中の顔が浮かんできましてね。死なせたらかわいそうだなと思ったんですね。だけど、ここまできたら、水を入れ続けるしかねぇんだから、最後はもう諦めてもらうしかねぇのかな、と。そんなことがずっと頭に去来しながら、座ってたんですね…」
それは、壮絶な場面だった。この時、のちに欧米メディアから“フクシマ・フィフティ(Fukushima 50)”と呼ばれて吉田さんと共に現場に残った人間は、実際には「69人」いた。
どんなことになろうと、俺たちが原子炉の暴走を止める―その思いは、事故に対処した福島第1原発の現場の人間に共通するものだっただろう。こうしてあきらめることのない吉田さんたちの格闘は、ついに福島が壊滅し、日本が「3分割」される事態を食い止めた。

津波対策にも奔走していた矢先に発生した大震災
吉田さんの死後、反原発を主張するメディアが、「吉田は津波対策に消極的な人物だった」というバッシングを始めたことに私は驚いた。それは、まったく事実に反するからだ。
吉田さんは、2007年4月に本店の原子力設備管理部長に就任した。その時から、津波について研究を続けている
土木学会の津波評価部会が福島県沖に津波を起こす「波源」がないことを公表し、日本の防災の最高機関である中央防災会議(本部長・総理大臣)が、「福島沖を防災対策の検討対象から除外する」という決定を行っていたにもかかわらず、吉田さんは明治三陸沖地震(1896年岩手県三陸沖で発生、津波による犠牲者が約2万2000人)を起こした波源が「仮に福島沖にあった場合はどうなるか」という、いわば“架空の試算”を行わせた。これによって「最大波高15.7メートル」という試算結果を得ると、今度は、土木学会の津波評価部会に正式に「波源の策定」の審議を依頼している。
さらに吉田さんは、西暦869年の貞観(じょうがん)津波の波高を得るために堆積物調査まで行い、「4メートル」という調査結果を得ている。
巨大防潮堤の建設は、簡単なものではない。仮に本当に大津波が来て巨大防潮堤にぶち当たれば、津波は横にそれ、周辺集落へ大きな被害をもたらすことになる。巨大防潮堤は、海の環境も変えてしまうので、漁業への影響ほか「環境影響評価(環境アセスメント)」など、クリアしなければいけない問題もある。

吉田さんは、津波対策に「消極的」どころか、その対策をとるため、周辺自治体を説得できるオーソライズされた「根拠」を得ようと、最も「積極的」に動いた男だったのである。
しかし、その途中でエネルギー量が阪神淡路大震災の358倍、関東大震災の45倍という、どの学会も研究機関も予想し得なかった「過去に類例を見ない巨大地震」が襲った。福島第1原発の所長となっていた吉田さんは、自らの命を賭けてこの事故と闘った。

吉田さんのもと、心をひとつにした部下たちが放射能汚染された原子炉建屋に何度も突入を繰り返し、ついに最悪の事態は回避された。吉田さんが、「あの時」「あそこにいた」からこそ、日本が救われたのである。

門田 隆将 【プロフィール】

ノンフィクション作家。1958年生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部で記者、デスクなどを経て、2008年4月に独立。主な著作に『この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社/2010年、山本七平賞受賞)、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所/2012年)、『慟哭の海峡』(角川書店/2014年)および『汝、ふたつの故国に殉ず―台湾で英雄となったある日本人の物語』(角川書店/2016年)などがある。 

トリチウム水の海洋放出 地元業者の了解は? 福島テレビ、テレビユー福島など

 トリチウム水の海洋放出に当たり、東電は放出ラインの緊急遮断弁「電源喪失でも空気喪失でもどんな形でも閉まる方向にしか行かない」いわゆる「フェールセーフ(最悪のケースでも安全側に作動する)」になっていると強調しました。それは当然のことであってトリチウム水を海水で希釈して放出することの問題性に比べれば微々たる事柄です。

 福島テレビは「国と東京電力は関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という条件をどう考えているのか、はっきり示す必要があると述べています。
 テレビユー福島も、福島県漁連会長「我々は廃炉過程の中でこの海洋放出に反対するという立ち位置としては、ここで漁業をやめない、ずっと続けていくというのが反対の意思表示」との発言を伝え、準備大詰めを迎えたものの、関係者の理解や風評への懸念など、課題は残ったままとしています。
 それは宮城県の関係者間でも全く同様に受け止められています。
 国(と東電)が何故これほどまでに怠慢を極めているのかどうしても理解できません。
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記者が見た 原発処理水・海洋放出に向けた現場
安全性を強調「緊急遮断弁」 処分の条件提示は?
                           福島テレビ 2023/6/27
6月26日 福島第一原発沖で行われた掘削機械の引き揚げ作業。放出口に土砂などが入り込むのを防ぐコンクリート製のフタの設置も行われた。
政府と東京電力が2023年夏頃までの開始を目指す処理水の海洋放出。
東京電力担当者:「ALPS処理水希釈放出設備等の実施計画に基づく工事が完了し、使用前検査の準備が整ったという判断をしております」
2021年12月のボーリング調査から約1年半、処理水を流す海底トンネルの工事が完了した。
28日から3日間、原子力規制委員会による設備の使用前検査が行われ、規制委員会が「合格」と判断すれば、処理水を薄めて放出する設備は使用できる状況になる。
IAEA・国際原子力機関は、最終報告書を6月中に公表するとしていて、近く「国際的な安全基準を満たしているかどうか」の判断も示される。
                  ***
工事が大詰めを迎えていた6月26日、福島第一原発を取材した。陸上に設けられた処理水の海洋放出に関わる設備は、すでに完成していて、東京電力は「設備面の安全性」を強調した。
福島テレビ・石山美奈子記者:「ALPSで処理された水は、こちらの黒い配管を通りまして、そしてこの水色の大きな設備で海水と希釈されます。この設備だけを見てもかなり大掛かりなことがわかります」
26日東京電力が公開した処理水の放出に関わる設備。

緊急遮断弁の前で東京電力担当者:「電源喪失でも空気喪失でもどんな形でも閉まる方向にしか行かないんです」
停電した場合などには「緊急遮断弁」が自動的に閉まって、処理水の放出がストップする仕組みになっていること。
当直責任者が持っている専用の鍵がなければ放出を行えないこと。
震度5弱以上の地震が発生したら手動で停止するとマニュアルで定めていること。
東京電力はトラブルへの備えを強調し、「人間も機械もミスがあるものと思い、大丈夫と過信せず対応を進めていく」と説明している。

<「処理水の海洋放出」の流れ>
燃料デブリに触れて放射性物質に汚染された水からほとんどの放射性物質を取り除く。これが「処理水」で、海水を加えて、トリチウムの濃度を下げてから海に放出する。緊急遮断弁は、放射性物質が多く残っていた場合や海水をくみ上げるポンプが止まった場合などに自動的に作動して放出を止める。
「弁」は何もしなければ閉じるように作られている。
運転している時は電気の力で弁を開けるが、停電で弁を開ける力が働かなくなると、弁が閉じる仕組みだ。

国と東京電力は安全面の備えだけでなく、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という条件をどう考えているのか、はっきり示す必要がある
政府と東京電力が放出開始を目指す「今年夏頃まで」の時期はすでに迎えている。考えを示さないことで膨らむ疑念もある。


【処理水 福島の葛藤(4)】
処理水放出設備、28日から原子力規制委検査 県漁連は改めて反対表明
                         テレビユー福島 2023/6/27
福島第一原発の処理水を海に放出するための海底トンネルについて、東京電力は、設備全体の試運転を問題なく終えたことを明らかにしました。

▼シリーズ「処理水 福島の葛藤」
東京電力は26日、海底トンネルを掘った掘削機を引き揚げ、処理水の放出設備の工事が完了しました。また、6月12日から行われていた真水と海水を使った試運転も26日で終了し、整備に問題がなかったことを発表しました。
28日から3日間は、原子力規制委員会による使用前の検査が行われ、異常があった時に処理水の放出を止める緊急遮断弁と、海水を混ぜる希釈設備などを確認する予定です。
この試験に合格すれば、放出に向けた設備面の準備が全て整うことになります。
処理水の海洋放出に向けた動きが大詰めを迎えるなか、福島県漁連の野崎会長は27日に福島県いわき市で行われた会議で、改めて反対の意思を示しました。
県漁連・野崎会長我々は廃炉過程の中でこの海洋放出に反対するという立ち位置としては、ここで漁業をやめない、ずっと続けていくというのが反対の意思表示だと思っています」
政府は6月末にも、IAEAがまとめる処理水に関する包括的な報告書をもとに、放出開始時期の具体的な検討に入る見通しです。

▼処理水 福島の葛藤
処理水の海洋放出に向け、準備が大詰めを迎えていますが、関係者の理解や風評への懸念など、課題は残ったままです。TUFでは、処理水をめぐる課題や現状をシリーズでお伝えしています。


福島第一原発の処理水放出へ工事完了 漁業や観光に依然として風評被害への懸念
                         khb東日本放送 2023/6/27
 福島第一原発の処理水を薄めて海に放出する計画について、設備面の準備は原子力規制委員会の検査を残すだけとなりました。放出の開始目標とする夏ごろが迫る中、漁業や観光関係者には風評への懸念が依然として残っています。
 平山栄大 カメラマン「処理水のトンネル掘削に使われたシールドマシンが船上に確認できます」
 東京電力は26日、福島第一原発から沖合1キロの海上で、処理水を送る海底トンネルを掘った機械を引き揚げました。
 これで放出設備の主な工事は全て終わり、28日にも設備全体の性能を確認する原子力規制委員会の検査が始まります。
 政府と東京電力は2023年夏ごろの放出開始を目指していて、計画は大詰めを迎えています。
 しかし、風評被害への懸念は宮城県にも依然残っています
 石巻市雄勝は、通年で生食用のカキが養殖できる全国でも数少ない漁場です。
 この地区でカキやホヤなどを養殖し販売、輸出を行う水産加工会社では、処理水の海洋放出への懸念は依然、払拭できていないと話します。
 海遊 伊藤浩光社長「今後しっかりちゃんと責任持ってやってくれるかどうかですよね。
曖昧にせずに漁業者と向き合って話をして、それで決めていくっていう方向にしないと海を生業としてるものとしてはね、そこらへんちゃんとしないでやられると一番不安もあるし、生活ができなくなるっていうことがあるんで」
 海洋放出に対する不安は、海のレジャー関係者にも広がっています。
 震災後、休止が続いていた雄勝の荒浜海水浴場は、今シーズン13年ぶりに開設されることになりました。
 震災前には多い年で1万人以上が訪れていた海水浴場だけに、地元からは不安の声が聞かれました。
 荒地区 高橋周一会長風評被害が一番怖いですね。できるならタイミングが合わない方が良かったんですけどね。このシーズンとにかく無事に終われればいいなと思っております」
 政府は、海洋放出の時期について規制委員会による検査結果とIAEA=国際原子力機関の報告書の内容を踏まえて判断する方針です。

28- 福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち(ハンギョレ新聞)

 ハンギョレ新聞オ・チョルウ氏から寄稿された記事「福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち」が載りました。
 同記事は韓国以外の海洋研究者や研究者組織から出されている海洋放出反対の意見を紹介していて、結論として、福島第一原発の汚染水の放出は議論が終息して実行のみを残す問題ではなく、共有地である海に依存して生きていく人間と人間以外の生態系の健康のために、科学者と科学者との間でさらに多くの調査、評価、分析が行われるべき問題なのだと述べています。
 実はそうした観点が原子力規制委や東電あるいは国に最も欠如しているものです。
 また日本の主張は要するに「海水で希釈したから安全」ということに尽きますが、それでは「なぜ(脱塩して)飲料水や農業用水に使おうとしないのか」という追及に堪えられません。
 そもそも当初挙げられていたいくつかの処分案(下記など)を一顧だにすることなく、また各地で行われた説明会で圧倒的に反対意見が多かったことも完全に無視して、当初の予定通りに「海洋放出」に決めてしまったことに問題があります。

処分方法

前処理

処分期間(月)

監視期間(月)

処分費用(億円)

地層注入

なし

69~102

456~912

177~180

希釈

85~156

処分期間中

501~3976

海洋放出

希釈

52~88

処分期間中

17~34

水蒸気放出

なし

75~115

処分期間中

227~349

水素放出

なし

68~101

処分期間中

600~1000

地下埋設

なし

62~98

456~912

1219~2533

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[寄稿]福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち
                  オ・チョルウ ハンギョレ新聞 2023/6/28
                     ハンバッ大学講師(科学技術学)
 日本政府が推進する福島第一原発の汚染水放出が迫るにつれ、汚染水放出の安全性をめぐる議論が激しくなっている。多くの専門家の見解を総合すると、汚染水の放出が周辺国に直ちに目で確認しうる深刻な危険をもたらすとは予測できない。東京電力と国際原子力機関(IAEA)も、安全基準と環境影響評価に問題はないと強調している。しかし、不確実性も依然として大きい。多くの人が懸念、心配する理由のひとつは、評価と検証が原子力の専門家を中心に行われ、海洋生物学者や放射線医学のような分野の専門家の見解が十分かつ透明に反映されていないというものだ。

 汚染水の放出を懸念する科学者たちの声は今も大きい。今月22日、「ネイチャー」は「福島第一原発の汚染水放出は安全か? 科学が語ること」と題する記事で、汚染水放出を擁護する科学と憂慮する科学との争点を取り上げた。一方では広い海に希釈された放射能の水準はほぼ0に近いと主張するが、もう一方では海の生態系と人体にとって安全であることは十分には確信できないと主張する。

 先月25日には専門メディア「ナショナルジオグラフィック」が、米ウッズホール海洋研究所の海洋環境放射能センターの責任者ケン・ベッセラー氏の見解を詳しく伝えた。同氏は「汚染水の放出が太平洋を取り返しのつかないほど壊すことはないだろうが、かといって心配しなくても良いというわけではない」として、放射性核種をろ過する装置が効果的かどうかが透明に立証されていない中で放出を推進することに懸念を示した。1月24日には「サイエンス」が、物議を醸す汚染水を放出せずに陸上で貯蔵する代案を紹介している。

 一部の科学団体や機関は、汚染水の放出に深刻な憂慮と反対の意思を表明している。18カ国からなる太平洋諸島フォーラム(PIF)が任命した独立の専門家パネルは、昨年8月22日、日本のメディア「ジャパンタイムズ」で、東電のデータを分析したところ安全性が不確実なため、放出は無期限延期し、さらに調査、検討を行うべきだと主張している。
 昨年12月12日には、100の海洋学研究所が集う全米海洋研究所協会(NAML)が「日本による放射能汚染水放出に対する科学的反対」と題する声明を発表している。先月14日には、ノーベル平和賞(1985年)受賞経験のある団体「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」が理事会で採択した声明で、太平洋を放射性廃棄物の処理場として使用しようという計画を中止し、海と人間の健康を保護するオルタナティブな方法を追求するよう求めている。

 専門メディアの報道や科学者たちの主張をみれば、福島第一原発の汚染水問題は調査、検証、確認が必要な論争事案であることが容易に分かる。希釈によって汚染水は処理できると約束する科学者たちがいる一方で、生態系の絡み合い、相互作用、データの不透明性を憂慮する科学者たちがいる。福島第一原発の汚染水の放出は、議論が終息して実行のみを残す問題ではなく、共有地である海に依存して生きていく人間と人間以外の生態系の健康のために、科学者と科学者との間でさらに多くの調査、評価、分析が行われるべき問題なのだ。

オ・チョルウ|ハンバッ大学講師(科学技術学) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

2023年6月26日月曜日

柏崎刈羽原発の稲垣所長「適格性あるところを証明していく」と

 東電の小早川社長が22日、追加検査で残る課題について改善の仕組みを7月中に整備する方針を示したことを受け、柏崎刈羽原発の稲垣所長は23日、「現場の改革を日々推進していくしっかり適格性があるというところを証明していかなければいけない」と話しました。
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原子力規制委が東京電力の“適格性”再評価の方針に…稲垣所長「適格性あるところを証明していく」【新潟】
                       NST新潟総合テレビ 2023/6/23
東京電力の小早川社長が6月22日、追加検査で残る課題について、改善の仕組みを7月中に整備する方針を示したことを受け、柏崎刈羽原発の稲垣所長は23日、「現場の改革を日々推進していく」と話しました
東京電力の小早川智明社長は22日、原子力規制委員会の臨時会議で、侵入検知設備の不要警報対策など追加検査で残された4つの課題について、改善の仕組みを7月中に整備する方針を明らかにしました。

これを受け23日、柏崎刈羽原発の稲垣武之所長は…
【柏崎刈羽原発 稲垣武之 所長】4つの課題への対応について、整備を進めることはもとより、現場にて現地現物での改革を日々推進し、よりよいものにしていくことだと考えている」
こうした話した上で、「検査で指摘される前にみずから発見し、改善できる組織を目指す」と述べました。

また、原子力規制委員会が22日、東電に原発を運転する能力があるのか再評価する方針を示したことについては…
【柏崎刈羽原発 稲垣武之 所長】我々としてはしっかり適格性があるというところを、証明していかなければいけない
一方で、稲垣所長は不適切な事案が相次いでいるため「いま100%完全だとは言えない」とも話し、今後、規制委員会の意向を踏まえながら対応していく考えです。