2014年10月7日火曜日

石橋克彦神戸大教授が「川内原発審査は無効」と告発

 火山は、いつ、どこで、どんな噴火を起こすか分からない」、それが御嶽山の突然の大噴火の教訓でした。
 巨大噴火は予知できるとして原子力規制委員会は火山群近くにある川内原発の再稼働を認めましたが、果たして科学的に正しいことだったのでしょうか。
 
 川内原発地元の薩摩川内市長と鹿児島県知事は、審査合格後に経済産業相名の次の文書をそれぞれ受け取ったということです
 「万が一事故が起きた場合は関係法令に基づき、政府が責任を持って対処する」
 
 政府の持つ責任が一体どんなものなのかは、福島原発の事故でもう知れ渡っていることです。 
 いま必要なのはそんな空文ではなく、規制委の判定は科学的だと言えるのか、特に火山と地震の災害の面からもう一度見直すことです。
 
 「原発震災」を予言した地震学者石橋克彦神戸大学名誉教授は、「川内原発再稼働の審査書決定は無効だ!」と告発しています。
 
   註.同氏の告発の内容はこれまでいくつかのブログで紹介されてきました。
      オリジナルに近いと見られるものを紹介します。
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「原発震災」を予言した地震学者 石橋克彦氏が告発
「川内原発再稼働の審査書決定は無効だ!」
 @nifty ニュース 2014年9月24日
(週刊朝日 2014年10月3日号配信掲載)
 九州電力の川内原発(鹿児島県)が再稼働に向けて急ピッチで動き始めた。審査書を原子力規制委員会が正式決定し、政府は再稼働を進めるという文書を交付した。だが、「原発震災」を早くから警告してきた地震学者の石橋克彦・神戸大学名誉教授は、審査書は無効だと訴える。
 
 これまで川内原発の審査書に対する批判は、火山噴火が軽視されているとか、避難計画が不十分であるとかが大半でした。しかし、地震に関して重大なことが見過ごされています。
 福島原発事故の反省に立って原子力規制行政が抜本的に改められ、国民の不安と不信を払拭(ふっしょく)すべく新規制基準が作られたはずです。全国初となる川内原発の審査書は、その試金石です。
 ところが、新基準自体の欠陥は脇に置くとしても、新基準のもとで規制委員会がきちんと審査したかというと、実はそれが驚くほどいい加減なのです。
 九州電力の申請書は9月10日、規制委員会によって「新規制基準に適合する」と認められた。12日には政府が再稼働を進めることを明記した文書を、上田隆之・資源エネルギー庁長官が鹿児島県の伊藤祐一郎知事と同県薩摩川内市の岩切秀雄市長に手渡した。政府のお墨付きを得たことで、九電は再稼働に向けた準備を着々と進めていくことになる。
 だが、石橋氏は月刊誌「科学」9月号に、そもそもの審査がおかしいと批判する論文を発表した。どういうことなのか。
 
 一言でいうならば、耐震設計の基準とする揺れ=「基準地震動」を策定する手続きが規則で決められているのに、それを飛ばしているのです。これは基準地震動の過小評価につながり、法令違反とさえ言えます。
 
 原発の安全上重要な施設は、基準地震動に対して無事であることが求められています。そのため、「内陸地殻内地震」「プレート間地震」「海洋プレート内地震」について、敷地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選び、それらによる地震動を検討することになっています。
 しかし九電は、活断層による内陸地殻内地震しか検討しませんでした。プレート間地震と海洋プレート内地震については、揺れは震度5弱に達せず、原発に大きな影響を与えないとして無視したのです。
 実は、けっしてそうは言い切れません。地震学的に、具体的な懸念があるのです。ところが審査では、九電の言いなりにしてしまった。
 プレート間地震については、社会問題にもなっているように、内閣府の中央防災会議が駿河湾~日向灘にマグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震を想定しています。そこでは、川内付近の予想最大震度は5弱に達しています。
 しかも、これは全体の傾向をみるための目安にすぎないので、特定地点の揺れは別途検討するように言われています。震源のモデルを安全側に想定すれば、川内では震度6になるかもしれません。
 海洋プレート内地震については、九州内陸のやや深いところで発生する「スラブ内地震」が重要です。「スラブ」というのは、地下深部に沈み込んだ海洋プレートのことです。
 
 1909年に宮崎県西部の深さ約150キロで推定M76のスラブ内地震が起こり、宮崎、鹿児島、大分、佐賀で震度5を記録して各地に被害が生じました。
 スラブは鹿児島県の地下にも存在しますから、もっと川内に近いところのスラブ内大地震を想定すべきです。そうすれば川内原発は震度6程度の揺れを受ける恐れもあります。
 基準地震動は1万~10万年に1度くらいしか起きない地震を想定すべきものです。だからプレート間巨大地震とスラブ内大地震も検討する必要があるのに、九電も審査側も、規則を無視して「手抜き」をした
 
 九電は、内陸地殻内地震による基準地震動については、原発から少し離れた活断層で起こるM72~75の地震を想定して、最大加速度540ガル(加速度の単位)としました。
 南海トラフ巨大地震とスラブ内地震では、この値を超えるかもしれません。前者については、九電は免震重要棟のために長周期地震動をいちおう検討しましたが、内閣府の震源モデルの一部をつまみ食いしただけの不十分なものです。
 仮に最大加速度が540ガルより小さかったとしても、プレート間地震とスラブ内地震は活断層地震とは非常に違った揺れ方をするので、基準地震動を策定して重要施設の耐震安全性をチェックすべきです。
 
杜撰審査続けば
再び原発震災も
 川内原発の基準地震動は620ガルとよく言われますが、これは直下で震源不詳のM6.1の地震が起きた場合の想定最大加速度です。しかし、活断層がなくてもM7程度までの大地震は起こりうるので、これは明らかに過小評価です。
 2007年新潟県中越沖地震(M6.8)では東京電力柏崎刈羽原発の1号機の岩盤で1699ガルを記録しました。地震の想定と地震動の計算の不確かさを考えれば、最低その程度の基準地震動にすべきです。
 
 しかし、そういう技術的な話とは別に、規則に定められた手続きを飛ばしたのは、「耐震偽装」ともいえる大問題でしょう。
 川内原発の審査書を決定する前に、規制委員会は7~8月に審査書案への意見(パブリックコメント)を募った。その結果、全国から1万7千件余りの意見が寄せられた。
 実は石橋氏も、前述のような意見を提出して、審査に過誤があり結果的に規則に違反していると指摘した。だが規制委員会が公表した文書では、この意見に対する回答として〈申請者は、プレート間地震及び海洋プレート内地震については、(中略)敷地に大きな影響を与える地震ではないと考えられることから、検討用地震として選定していません〉という「考え方」が示されただけだ。
 
 石橋氏は憤る。
 これでは規制委員会は九電の代弁者にすぎません。まるで“子供の使い”です。審査メンバーに地震がわかっていて真剣に考える人がいないか、再稼働路線に屈服したかでしょう。
 石橋氏といえば、東大助手だった76年に東海地震の可能性を指摘し、社会現象にもなった。97年からは「原発震災」という言葉を使って大地震による原発事故の危険性を訴え続け、11年の東日本大震災でその正しさが図らずも実証された。
 その石橋氏が、今はこう警告する。
 これほど杜撰(ずさん)な審査なのですから、無効にしてやり直すべきです。これが前例になって手抜き審査が続けば、第二の原発震災を招きかねません。
構成 本誌・藤村かおり
 
いしばし・かつひこ 1944年生まれ。神戸大学名誉教授。専門は地震学、歴史地震学。『大地動乱の時代─地震学者は警告する』『原発震災─警鐘の軌跡』など著書多数。近著は『南海トラフ巨大地震』(岩波書店)。