2015年12月31日木曜日

31- 原発再稼働しなければ交付金を減額 国が自治体へ圧力

 安倍政権は、原発立地自治体への交付金の算定方法を、これまでの「停止中の原発については一律81%稼働と見なす」から、16年度以降は「福島事故前10年間の平均稼働率を適用する」に変えました(市町村に対しては下限や激変緩和措置あり)。
 
 東電柏崎刈羽原発は、2000年代の東電のトラブル隠しに起因する運転停止と中越沖地震2007年)による長期停止(大小3000個所以上の故障)重なったため平均稼働率が約48%と低く、みなし稼働率と比べて30ポイント以上落ち込みます。これは全原発中最大の下落率です。
 
 政府のこの新しい算定方式が合理的だという根拠は何もありません。
 元経産省官僚の古賀茂明氏は、再稼働に慎重な新潟県知事を狙い撃ちしたもので、異常なやり方だと語りました。
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原発再稼働しなければ交付金を減額 国が自治体へ圧力
しんぶん赤旗 2015年12月30日
 国が地方自治体に出す交付金をてこにした原発立地自治体への圧力が強まっています。安倍晋三政権は2016年度予算案の作成にあわせて電源立地地域対策交付金の算定方法を変更しました。再稼働しなければ交付金が大幅に減額される仕組みです。なかでも知事が再稼働に慎重姿勢をとっている新潟県の下落幅が最も大きくなることが、本紙の調べで分かりました。 (佐久間亮)
 
 同交付金は、発電所の立地自治体を支援する名目でつくられた制度です。11年に起きた東京電力福島第1原発事故で全国の原発が停止するなか、発電電力量に応じて払われる交付金の扱いが問題になってきました。
 これまで国は、停止中の原発について一律81%の“みなし稼働率”を適用し、発電電力量を試算してきました。16年度以降は、原子炉ごとに福島事故前10年間の平均稼働率を適用します。上限は68%で下限はありません。市町村に対しては下限や激変緩和措置があり、下限なしで一気に減額する道県と二重基準になっています。
 原発が再稼働した場合は、実際の発電電力量に基づいて交付金額を算定し直します。全国43基の原発のうち平均稼働率が68%を下回るのは18基。多くの原発は再稼働で交付金が増える可能性が高く、再稼働に向けた動きが強まる恐れがあります。
 
 新潟県の東電柏崎刈羽原発は、2000年代に東電のトラブル隠し中越沖地震によって運転停止が相次いだため、7基合計の平均稼働率が約48%と15年度までのみなし稼働率と比べ30ポイント以上落ち込みます。同県の担当課は「減額でいろいろ影響がでてくる」と語ります。
 安倍政権は、みなし稼働率の見直しで同交付金を15年度から43億円減額する一方、廃炉が決まった原発立地自治体向けの新たな補助金(エネルギー構造転換理解促進事業)として45億円を計上しました。再稼働に積極的な福井県の西川一誠知事などが政府に求めてきたものです。
 
慎重な新潟県 狙い撃ち
元経済産業省官僚の古賀茂明さんの話
 原発の交付金見直しは、経産省の官僚がいくつものパターンをシミュレーションしてつくったものでしょう。来年の知事選も念頭に、再稼働に慎重な新潟県を狙い撃ちしたものだと思います。
 再稼働に前向きな自治体には補助金で優遇するが、後ろ向きな自治体は他の予算を含め徹底的に冷遇するという脅しです。
 島尻安伊子沖縄担当相が、沖縄県知事の姿勢と沖縄振興予算を結びつける発言をして問題になりました。全く同質の問題です。
 これまでも野党の首長に対し、国が予算面で嫌がらせをすることはありました。しかし、そのために交付金の制度設計をいじるというのは聞いたことが無く、安倍政権の異常さを示しています。

2015年12月30日水曜日

チェルノブイリは今 事故から来年で30年

 原発事故からまもなく30年を迎えるチェルノブイリ原発の現状を東京新聞がレポートしました。
 
 チェルノブイリ原発事故は、発電所全体を厚いコンクリートで覆うことで核燃料から放出される放射能をその中に閉じ込めることができました。この方式は後に「石棺」と名づけられました。
 事故で溶かされた核燃料(デブリ)の在り処も明確で、コンクリート製の地下室に「ゾウの足」と呼ばれる形状で存在しています。発電所の全周には深さ30~35mのコンクリート製の壁が打ち込まれているので地下水への放射性物質の流出もありません。
 ただ30年近くが経過する中で核燃料の自己崩壊による中性子を受けてコンクリートが劣化したため、いま石棺全体をステンレス製のカバーで覆う工事が進められています。
 
 1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故では、放射能汚染を恐れる陸続きの欧州各国から早急な収束を強要されました。
 その要請に応えるべくゴルバチョフ大統領は文字通り決死的な放射能の封じ込め作業を行って、わずか10日間で放射性物質の飛散をほぼ封じることができました。
 福島原発事故後もうじき5年になろうとしているのに、事故を一向に収束させることができないでいる日本とは対照的です。 
 
 ソ連では、発災の2日目から空軍大将の指揮下で、大型ヘリコプターにより中性子を抑えるホウ酸40トン、燃焼抑制用の石灰岩800トン、放出抑制用の鉛2400トン、それに粘土と砂など、合計5000トンを原子炉へ投下する作業をはじめ、6日目で投下を完了しました。
 放射性物質の放出量は、2日目で初日の1/3に6日目には1/6に減じましたが、7~9日目には封じられた核燃料の崩壊熱等で放出量が1/2にまで上がりました。
 しかし8日目に核燃料と水の接触による水蒸気爆発を避けるためサプレッションプールの水抜きを行い、9日目に溶融した核燃料の冷却のため原子炉下部窒素液体窒素?を注入した結果、10日目に放出量が急激に低下してほぼ収束しました
 (「ソ連政府はどのように収束させたのか―福島原発震災 チェルノブイリの教訓(3)」 2011.4.12 ダイヤモンドオンライン http://diamond.jp/articles/-/11838 )
 
 その後引き続き敷地を除染コンクリートで舗装し、原発の全周にコンクリート製防護壁(深さ30~35m)を巡らして地下水が浸透しないようにし、最終的に原発施設全体をコンクリートで覆いました。
 この石棺が1986年11月に完成したことで、放射能の放出はほぼなくなりました。
 
 とりわけ発災の当初は、強烈な放射能を防御する方法もないままで様々な地上作業を行わざるを得なかったので、延べ数万人の作業員を投入する人海戦術が取られました。チェルノブイリ事故では、後にがん等を発症した人は数千人とも数万人ともいわれていますが、そのほとんどはこの作業にかかわった人たちと見られています。
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チェルノブイリは今 事故から来年30年
東京新聞 2015年12月29日
 一九八六年四月に起きた旧ソ連・チェルノブイリ原発事故から、来年で三十年になるのを前に、本紙は十一月下旬から今月にかけ、原発と周辺地域の現状を取材した。現場では爆発した4号機を覆う巨大なカバーができつつあるが、溶けた核燃料など抜本的な対策は未定。廃炉はまだ遠い。
 
 事故は原子炉の欠陥や運転員の熟練不足などが絡み合って発生。4号機を停止させようとして出力が急上昇し、爆発炎上した。同原発は格納容器がなく、炉内の放射性物質が飛散して本州に匹敵する二十万平方キロメートルを汚染。汚染地域に当たるウクライナ、ベラルーシ、ロシアで移住を迫られた人は四十万人に上り、がんなどの犠牲者は集計機関により数千人から数十万人まで諸説ある。 (大野孝志)
 
◆老朽化、さらに石棺 チェルノブイリ廃炉まだ先
 事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機では、吹き飛んだ原子炉建屋上部や側面を大量のコンクリートや鋼材で覆う「石棺(せきかん)」にして核燃料を封じ込めた。しかし、半年で急造した石棺は三十年の間に傷み、さらなる風化を防ぐため建屋をカバーで覆う必要に迫られている。
 現場に近づくと、遠目からも石棺の外壁にはさびが目立ち、雨水が流れた跡で茶色く汚れ、老朽化は明らかだった。現地の広報施設で、詳細な石棺の構造模型を見せてもらったが、鋼材は溶接やボルト固定されておらず、大破した建屋で支えているという。
 
 突貫工事で造り上げた石棺風雪でもろくなり、隙間が広がって雨水が入り、放射性物質が漏出している。鉄骨で補強をしたが、一昨年冬には雪の重みで屋根の一部が崩れた。
 現在、4号機の西三百メートルの地点で、石棺や周辺の建屋をすっぽり覆う間口二百六十メートルのステンレスなどでできた巨大カバーの建設が進む。「新石棺」や「第二石棺」と呼ばれるが、石棺を風雨から守り、放射性物質の漏出を防ぐためだ。
 作業員の無用の被ばくを避けるため、離れた場所で造り、完成後にレール上をスライドさせて建屋にかぶせる。費用は十五億ユーロ(約二千億円)。完成予定は当初の計画より五年遅れの二〇一七年で、遅れの原因を広報担当者は「想定外の積雪と強風。設計になかった工事も必要だったから」と話した。国の資金繰りの悪化も一因とされる。
 
 4号機に近づくと線量計の値が跳ね上がり、建屋内は毎時二〇マイクロシーベルトの地点もあった。ここに二日ほどいれば一般人の年間被ばく限度(一ミリシーベルト)に達する。
 事故時に溶岩状になって原子炉から建屋内に流れ出た「ゾウの足」と呼ばれる核燃料には、人が近づけない状態が続く。カバーが完成しても、外側を覆うだけで、本格的な廃炉作業はその後となる。広報担当者は「核燃料をどう処理するか決まっていない。これから検討する」と説明した。

30- 規制庁が濃縮工場の安全管理体制見直し要求

東奥日報 2015年12月29日
 原子力規制庁が六ケ所村にある日本原燃ウラン濃縮工場について、法令順守の徹底などこれまでの度重なる指摘に対し、抜本的な改善が図られなかったとして安全管理体制の見直しを求めていることが28日、分かった。原燃は工藤健二社長をトップとする特別チームを編成して同工場の実態調査に乗り出す異例の事態となっている。
以下は有料記事のため非公開

2015年12月29日火曜日

東電 13年末以降に計画した除染費の負担に応じず 

  東電は、13年末以降に計画された除染費用について環境省からの請求に応じずに、経産省も東電の立場を支持しているということです。環境省が立て替えている費用を東電が払わなければ結局は国民が負担することになります。
 
 除染費用東電の負担であるのは当然のことで一体何が問題なのかと思いますが、131220日に閣議決定された福島復興指針には「実施済みまたは現在計画されている除染・中間貯蔵施設事業の費用は東電に求償(請求)する」とされ、その時点で計画がなかった除染などについては請求の可否が示されていないためだということですあきれかえる話です。 
 
 東電も東電ですが所詮はそういう会社なのですから、そんなおかしな閣議決定をした内閣に責任があります。もともとがそういう含み(=東電救済)のある閣議決定だったというのですから尚更です。
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東電  除染費負担応じず…13年末以降の計画分
毎日新聞 2015年12月28日
国、立て替え200億円 
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染の費用負担を定められている東電が、2013年末以降の計画分について環境省の請求に応じない姿勢を示していることが同省などへの取材で分かった。具体的な対象は、本格化しつつある帰還困難区域の除染で、福島県大熊町で今年着手した同区域の除染で同省が立て替える200億円超も完了後の請求が宙に浮く見込みだ。経済産業省は東電を支持する立場を取り、省庁間の意見の対立も浮上。最終的に誰が負担するか決まらないまま巨額の国費が投じられる異例の事態となっている。【関谷俊介、小林洋子】 
 
閣議決定根拠に 
 原発事故後の11年に成立した放射性物質汚染対処特別措置法は、除染などについて「(東電は)請求があったときは速やかに支払うよう努めなければならない」と定めている。一方、13年12月20日に閣議決定された福島復興指針には「実施済みまたは現在計画されている除染・中間貯蔵施設事業の費用は東電に求償(請求)する」とされ、その時点で計画がなかった除染などについては請求の可否が示されていない。 
 環境省によると、帰還困難区域では閣議決定前、公共施設などで試験的な除染が行われ、東電は費用請求に応じていた。だが、同区域の主要道路などの除染は、閣議決定後に計画され請求の対象ではないとして支払いに応じていないという。 
 
 取材に対し、同省除染・中間貯蔵企画調整チームの小野洋チーム長は「同じ特措法に基づく除染なのに閣議決定前後で請求できるかどうか区別されるのはおかしい。帰還困難区域の除染も請求できると考えている」と主張。一方、経産省資源エネルギー庁電力市場整備室は「閣議決定には計画外の除染を請求するとは書かれていない。東電には閣議決定に従うよう指導している」と話し、東電広報室は「特措法、原子力損害賠償制度、13年の閣議決定に基づき、(環境省などから)丁寧に内容を聞いた上で、関係省庁と協議しながら適切に対応していく」とコメントした。 
 
 除染費用は東電の負担と定められているため、10年間で32兆円と設定された復興事業費には含まれず、東電が請求に応じなければ新たな財源が必要となる。財務省幹部は「環境省とエネ庁で話をして結論を出すことが必要だ」と話している。 
 
 環境省はこれまで12回にわたり除染費用計3810億円を東電に請求。過去にも除染関連の研究開発や普及啓発費などの支払いに遅れが生じたことはあったが、東電は基本的に請求に応じ、計3505億円を支払った。放射線量の高い帰還困難区域での本格的な実施は大熊町が初めてで、今夏に始まり来年度完了予定の95ヘクタール分の事業費は200億円超。同町の残り305ヘクタール分のほか、双葉、浪江、富岡各町なども国に本格的な除染を要望している。 
 
解説…「東電救済」省庁間で対立 
 賠償や中間貯蔵施設事業を含め総額11兆円に達する原発事故の処理費用について、国がどこまで財政支援し、東京電力を“救済”するのか。関係省庁や与党内でもさまざまな意見のある支援の線引きをあいまいなままにしてきたことが、新たな難題を生じさせた。 
 2013年11月、与党内で処理費用の東電任せを見直す提言がまとめられた。除染などについて新たに特措法を制定して国の財政的関与を打ち出すべきだという声も出たが、世論の反発を考慮し、最終的に「現在計画されている除染を実施した後のさらなる取り組みについては公共事業的観点から検討する」という表現に落ち着いた。だが現在も「取り組み」が除染そのものを指すのか、その他の環境整備を指すのか、提言に関わった議員の中でも認識が分かれ、「除染を公共事業としてやるべきだ」という議員がいる一方で、「除染は基本的に東電の責任だ」という議員もいる。 
 
 提言を受けた形でその翌月に閣議決定された福島復興指針も、計画外の除染については記述がない玉虫色の表現となった。 
 中心部が帰還困難区域となっている大熊町や双葉町では、除染の要望が強まっている。ある関係省庁幹部は「帰還困難区域の除染をどう考えるか議論せず、費用負担が宙に浮いてしまった」と話す。13年の閣議決定時点で計画中の除染が具体的にどれを指すかもそもそも明確でない。計画外の除染費用を東電に請求しないなら財源をどうするのか。議論を先送りにした国の責任は重い。【関谷俊介】 
 
除染費用◇ 
 国直轄分、市町村実施分とも環境省が立て替え、実施後に年4回東京電力に請求する。東電は、国から資金投入されている原子力損害賠償・廃炉等支援機構の支援を受け、同省に支払う。機構は保有する東電株の将来の売却益で国庫納付するが、除染費用は来年度予算分を含めると総額2兆6321億円に上り、同省の2013年時点での試算25兆円を超えている。 

29- 福島原子炉建屋にキツネが侵入 (^○^)

 福島原発にキツネが侵入しました。別に人里離れた、持ち主不明の山小屋というわけではありません。外ならぬ最重要の原子炉建屋でのことです。東電がいま全神経を集中すべき現場に侵入したということです。
 ネズミなどとは大違いで1メートル30センチもあるキツネです。こんな大きな動物が出入りできるということは、そのまま東電の精神的な弛緩状態を表わしています。
 
 キツネ(と思われる)の画像は下記の記事にアクセスしてご覧になってください。
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福島第一原発 原子炉建屋内にキツネ侵入か 
NHK NEWS WEB 2015年12月28日
東京電力福島第一原子力発電所で、2号機の原子炉がある建屋内にキツネのような動物が入り込んでいるのが監視カメラで捉えられ、東京電力は、動物の侵入を防ぐ対策を急ぐことにしています。
 
東京電力によりますと、今月21日、福島第一原発2号機の原子炉建屋内に取り付けた監視カメラでキツネのような動物が通り過ぎる様子が捉えられました体長は1メートル30センチ程度とみられ、7、8分程度歩き回ったあと姿を消したということです。
この現場には原子炉を取り囲む「格納容器」と呼ばれる設備につながる配管があり、毎時1シーベルトから10シーベルトと極めて放射線量が高いということです。また、ここでは来年2月以降、原子炉の真下にロボットを投入する作業が行われる予定ですが、キツネが原因とみられるトラブルは起きていないということです。
2号機の原子炉建屋は事故後も壊れたままの扉や、ケーブルなどを通すための隙間などがありますが、どこからやってきたかや、今も建屋内にいるかなど詳しいことは分かっていません。
福島第一原発では、おととし、配電盤などにネズミが入り込んで配線がショートし、使用済み燃料プールの冷却が一時的に停止するトラブルが起きていて、東京電力は今後、動物が入り込まないように対策を急ぐことにしています。 

2015年12月28日月曜日

28- 南相馬「特定避難勧奨」解除1年 住民帰還はわずか 追加除染が不可欠

 南相馬市の152世帯は昨年の12月28日、空間線量が年間被曝量20ミリシーベルトを下回ったということで無理やり特定避難勧奨地点の指定が解除さ精神的損害賠償3月で打ち切られました。
 指定の解除から1年が過ぎましたが、住宅の雨どいの近くなどでいまも毎時約4マイクロシーベルトを示す場所もあるという具合で、若い世帯は全く戻っていないということです。年間被曝限度量を20ミリシーベルトというような途方もない値に設定して解除したのですから極めて当然のことです。
 現在は自宅に戻っている60代男性は「同じ地区から避難した若者はみんな戻ってきていない」「徹底的な除染をしないと不安が解消されず、人は戻らないだろう」と話しています
 
 福島民報が指定解除地区のいまの状況をレポートしました。
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住民帰還わずか 追加除染求める声 南相馬「特定避難勧奨」あす解除1年
福島民報 2015年12月27日
 東京電力福島第一原発事故に伴う南相馬市の特定避難勧奨地点の指定が解除され、28日で1年を迎える。放射線への不安などから、いまだ帰還しない住民は多いとみられる。住民からは追加除染などを求める声が上がる。
 
 「いつ帰るかはまだ決まっていない」。特定避難勧奨地点だったわが家から南相馬市原町区の仮設住宅に避難を続けている女性(37)は、線量を伝える新聞を見ながらため息をついた。解除から1年が過ぎても、現実は何も変わっていない。
 除染で自宅敷地の線量は年間積算線量が20ミリシーベルトを下回る基準まで下がったが、雨どいの近くなど一部では毎時約4マイクロシーベルトを示す場所もある。子どもたちは「家に帰りたい」とせがむが、最も幼い三男は5歳。自宅だけでなく、宅地周辺の線量の影響にも不安を感じ、帰還には踏み切れない。
 避難で両親と世帯が分かれ、水道、電気などの料金負担は増した。しかし、精神的損害賠償は平成27年3月で打ち切りになった。「原発20キロ圏内の避難者と状況は同じなのに」。政府の対応に疑問を感じている。
 いったん、避難はしたが現在は自宅に戻っている60代男性は「同じ地区から避難した若者はみんな戻ってきていない」と肩を落とす。地域の未来を思うと先が不安になる。「徹底的な除染をしないと不安が解消されず、人は戻らないだろう」と話した。
 
 南相馬特定避難勧奨地点地区災害対策協議会の菅野秀一会長(75)は「若い世帯はまったく戻っていないし、高齢者世帯でも解除後に戻ったのはほんのわずか」と厳しい表情。「追加除染を国に求めているが、なしのつぶてだ。解除前よりも解除後のケアを重要視してほしい」と注文を付ける。
 市や政府は解除後の帰還の実態を把握できていない。市危機管理課の担当者は「避難の時に世帯が分離したこともあり、調べるのは困難」とする。帰還の促進についても、「現状ではそれぞれの世帯の意思を尊重するしかない」と話す。原子力災害現地対策本部の担当者は「今後も不安払拭(ふっしょく)に努めたい」と述べるにとどまった。
 
※南相馬市の特定避難勧奨地点 
      東京電力福島第一原発事故に伴い、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるとして、平成23年7月から11月にかけて橲原、大原、大谷、高倉、押釜、馬場、片倉の7行政区、142地点(152世帯)が指定された。政府は年間積算線量が20ミリシーベルトを下回ることが確実になったとし、26年12月28日に指定を解除した。

2015年12月27日日曜日

自主避難者への家賃補助 30年度末で終了

福島民報 2015年12月26日
 東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域外から避難する自主避難者に対する平成29年度以降の県の家賃補助期間は30年度末までとなる。25日、発表した。
 低所得世帯や母子避難世帯で、国などの支援金を受給していないケースを対象とする。県内に避難している場合は妊婦や子どもがいる場合に限る。こうした世帯の収入が県が設ける一定の基準額を下回った場合、家賃月額6万円を目安に1年目は2分の1(月最大3万円)、2年目は3分の1(同2万円)を補助する。補助の開始時期は29年4月だが、異動などを考慮し1カ月程度の前倒しも可能。対象は約2千世帯で、予算額は全体で20億円前後となる見込み。
 県が29年3月末で住宅の無償提供を打ち切ることに伴い、住宅の契約者が自治体から避難者に切り替わることが想定される。この際に発生する礼金や手数料の負担を軽減するため、家賃とは別に定額で10万円を補助する。
 補助対象に該当しない自主避難者には、県営住宅や県内外の雇用促進住宅などの空き室に優先して入居できるよう条件を緩和する。県営住宅は中通りを中心に150~200戸程度を確保する。
 問い合わせは県被災者のくらし再建相談ダイヤル 電話(0120)303059へ。

汚染水処理の現状(小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは「汚染水処理の現状」がテーマです。
 原発事故の発生から間もなく5年になろうとしていますが、汚染水の処理は遅々としていてほとんど何一つ解決されていません。
 東電は汚染水の発生量を大幅に減らすべく護岸遮水壁を10月下旬に完成させましたが、考え方が間違っていたらしく却って高度に汚染された地下水が増えてしまい、汚染水の日発生量は600トンに倍増しました。
 汚染水は一旦タンクに蓄えて、それをアルプスという装置で放射性物質を除去してから放流するのですが、アルプスはトラブル続きで稼働率が低いのでそれもほとんど進まず、またトリチウムはもともと取れない(取る手段がない)ので放流することができません。結局汚染水はたまる一方で、そのスピードが倍加したということです。
 
 1~3号機の溶融炉心の取り出しについては、いまだにその在り場所も分からないので全く進んでいませんし、取り出しの計画も具体化されていません。
 
 小出氏は、「チェルノブイリ原子力発電所でやったように石棺という形で封じ込めるしかない。数十年を掛けて、原発の上部と地中部を石棺形式で覆うことになるだろう」と述べました。
 
追記 文中の太字箇所は原文の太字強調個所を示します。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。

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汚染水処理の現状 (小出裕章ジャーナル
〜第155回小出裕章ジャーナル 2015年12月26日
「トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです」
 
矢野宏: 事故から5年近くになります。この東京電力福島第一原発が今どうなっているのか。この大阪にいても全く伝わってこないんですよねえ。
小 出: そうですね。
矢 野: はい。今、1号機から4号機までのプラントというのは、今どんな状態にあるという風に考えたらよろしいんでしょうか?
小 出: はい。4号機というのは事故の当日、定期検査で動いていませんので、炉心が溶け落ちるということは、辛うじて避けれらたのです。
   ただし炉心にあった燃料も、全てが使用済み燃料プールというプールの底にあって、そのプールが崩れ落ちる。あるいは水が干上がるようなことになってしまえば、東京すらがもう人が住めないと言って、当時の原子力委員会の委員長だった近藤駿介さんという人が報告書を出したのです。
   でもその4号機の使用済み燃料プールはかなり奇跡的な出来事もあって、辛うじて持ちこたえました。そしてプールの底にあった燃料も、すでに隣にある共用燃料プールというプールに移し終えましたので、4号機の危機は一応は去ったと考えて頂いていいと思います
   残りは1号機、2号機、3号機なのですが、いずれも当日運転中で原子炉が溶け落ちてしまいました。そして5年近く経った今も、溶け落ちた炉心がどこにどのような状態にあるかすらがわからないという状態が続いているのです
   その場所には、人為的に炉心をこれ以上溶かさないということで水をかけ続けていますし、巨大な地震に襲われたがために、本来は外部と繋がっていてはいけないはずの原子炉建屋もおそらく至るところで破損してしまっていて、地下水がどんどんと原子炉建屋の中に流れ込んでくる、それら全てが放射能汚染水になってしまうという状態が、いまだに続いているということなのです
矢 野: なるほど。汚染水に対して、今どのような対策をとってるんでしょうか?
小 出: 当初はとにかくどんどんどんどん増えるに任せていたのですけれども、1年ほど経った段階から汚染水を浄化して、それを循環して炉心の冷却に使うというようなシステムができました。ただし浄化すると言っても、汚染水の中から取り除けた放射性物質はセシウムという物質ただひとつだけだった
矢 野: ひとつだけですか?
小 出: はい、だったのです。それでは、残りの放射性物質が全て汚染水の中に残った状態が続いていたわけですけれども。それを何とかしなければいけないということで、アルプスと私達が呼んでいる装置を東京電力が新たにつくりまして、それでセシウム以外の放射性物質、一番重要なのはストロンチウムという名前の放射性物質なのですが、それを捕まえようとしてきたのです。しかし、アルプスもつくったものの、まともに動かない。
矢 野: 動かない。
小 出: はい、という状態が続いていまして、つくってみては止まってしまう、つくってみては止まってしまうということを繰り返しながら、今日までやってきているのです。まあそんなことを繰り返しながら、何とか少しストロンチウムも捕まえることができるようになったというのが、今の状態です。ただしセシウムを捕まえた、ストロンチウムを捕まえたと言っても、トリチウムという名前の放射性物質もあるのですが、それは仮にアルプスが完璧に動いたとしても、完璧に取れない
矢 野: 取れないわけですね。
小 出: 全く取れない。ですから今のような状態が続く限りは、トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです
 
矢 野: なるほど。あと問題の1号機、2号機、3号機のこの使用済み核燃料、まず取り出さなければいけないわけですが、これは結構、至難の技ですよねえ。
小 出: それは、私はできない。
矢 野: できない。
小 出: はい、と思って、ですからチェルノブイリ原子力発電所でやったように、石棺という形で封じ込めるしかないのですが、チェルノブイリ原子力発電所の場合には、地下の構造物はまだ壊れずに維持されていたので、地上だけに石棺を作れば済んだのですけれども、福島第一原子力発電所の場合には、もう地下が先程も聞いて頂いたように、ボロボロに壊れてしまっているわけですから、地下にも石棺をつくる、地上にも石棺をつくるということに結局はなるだろうと思います
   そのために10年では到底できませんでし、何10年か経った時に、ようやくにして石棺というものができるということなんだろうなと、私は思います。
矢 野: なるほど。しかし今もこうした事故を起こしながら、東電の責任者は誰一人その責任を追及されてませんよね。
小 出: これだけ酷いことをやっても、誰も責任を取ろうともしないし、処罰もされないという、こんなことが起こり得るんだろうかと思うようなことが、今起きているわけです。
矢 野: そうですよねえ。だから平気で再稼働に動いていくんでしょうね。
小 出: はい。私が福島第一原子力発電所の事故から学んだ教訓というのは、万が一でも事故が起きてしまえば大変悲惨な被害が出るので、もう原子力発電というのはあきらめて止めるというのが私が得た教訓なのですが、原子力を進めてきた人達が得た教訓というのは、私が得た教訓とは全く違っていて、どんな酷い被害が出たとしても、誰一人責任をとらずに済むし、処罰もされないという教訓を彼らが得たのです
   そうなれば何にも怖いものはないので、これからは原子力発電所を再稼働してまた金儲けをしたいという、そういう選択を彼らがするようになったのです。
矢 野: 何ともほんとにもう悔しいし、今も福島の人達は10万人以上の方が家を追われてるわけですよねえ。
小 出: そうです。
矢 野: そういった人達のことを考えれば、もう私達のとるべき道は、原発を再び動かさないということだと思うんですけれども。
小 出: おっしゃる通りだと、私は思います。
矢 野: 小出さん、どうもありがとうございました。
小 出: はい、ありがとうございました。