2021年10月31日日曜日

裁判官が第1原発を初視察 東京地裁(詳報)

 福島民友に、福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁の朝倉佳秀裁判長ら29日、原発の敷地内を視察した記事が載りましたので、詳報としてお届けします。

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     (10月29日)地裁裁判官 原発敷地を初視察 東電株主代表訴訟で
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裁判官が第1原発を初視察 東京地裁、東電株主代表訴訟
                     福島民友ニュース 2021年10月30日
 東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁の朝倉佳秀裁判長らは29日、第1原発の敷地内を視察した。原告側代理人弁護士によると、原発事故の責任が争われた裁判で裁判官が敷地内に入るのは初めて。
 視察は現地での進行協議の位置付けで非公開。朝倉裁判長のほか、丹下将克裁判官、代理人弁護士ら約10人が立ち会った。
 終了後に記者団の取材に応じた原告側代理人弁護士によると、朝倉裁判長ら一行は約3時間半、東電社員の説明を受けながら、1~6号機を視察した。朝倉裁判長は持参した原発内部の図面を手に、水が敷地内に浸入した部分などについて質問し、「実際に見ると迫力がある」と事故前後の津波対策に関心を示したという。
 原告側代理人の海渡雄一弁護士は「事故前に現実的な津波対策ができたという印象を持ってもらえたのではないか。判決に期待できる協議ができた」と話した。
 訴訟は原発事故を巡り、東電の株主が勝俣恒久元会長のほか武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長ら旧経営陣5人に約22兆円の損害賠償を求めている。11月30日に結審する見通し。

原発事故避難者、埼玉・加須で聞いた「一票」への思い

 原発事故福島県内から避難し加須市で避難生活を送る住民は約400人、有権者は約320人ということです。福島県外で唯一開設された埼玉県内の期日前投票所で避難者はどんな思いで一票を投じるのか河北新報がきました
 農業を営む男性(84)は「10年たって古里への思いは切れてしまったよ」と胸の内を明かし「一緒に暮らす子どもや孫が安心して暮らせる社会になってほしい」との思いを口にしました。無職の男性(75は、「不満ばかり言ってられない「今の状況がいいとは思わない。何かを変えてくれそうな人に一票を入れた」と語りました
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原発事故避難者、埼玉・加須で聞いた「一票」への思い
                         河北新報 2021年10月27日
 東京電力福島第1原発事故に伴い福島県内から県外に避難している人は2万7964人(9月9日現在)いる。原発事故から約10年半後の衆院選。県外避難者はどんな思いで一票を投じるのか。福島県外で唯一開設された埼玉県内の期日前投票所で聞いた。

思いは「切れた」
 埼玉県加須市にある市騎西総合支所。公示後、初めての週末となった23日、3階の会議室に福島県双葉町選管の期日前投票所が開設された。設置は25日までの3日間だった。
 双葉町は原発事故後の2年3カ月の間、加須市の旧騎西高に役場機能を置いた。町役場がいわき市に移った後も、総合支所2階に職員が常駐する埼玉支所がある。市内で避難生活を送る住民は約400人、有権者は約320人という。
 23日午前9時に投票が始まると間もなく、1組の夫婦が投票に訪れた。農業を営む男性(84)は「10年たって古里への思いは切れてしまったよ」と胸の内を明かした。「一緒に暮らす子どもや孫が安心して暮らせる社会になってほしい」との思いを込めた。
 程なくして、無職の男性(75)が階段を上ってきた。「不満ばかり言ってられない。自分の意思は示さないとな」。古里の家は解体したが、土地が残る。「どうしたらいいのか。税金だけ納めてんだ」と漏らし、「今の状況がいいとは思わない。何かを変えてくれそうな人」に一票を入れた

復興論戦少なく
 選挙戦で被災地の復興が論じられる場面は少ない。選挙直前に誕生した新内閣は復興相を初めて兼務にした。書道教室を営む男性(78)は「とんでもないことだ。10年たって一区切りということなのか」と国政での風化を嘆いた。
 町内の帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除は来年6月以降になる見通し。復興拠点から外れた帰還困難区域については、政府が8月末、「希望者の2020年代の帰還」の方針を示したばかりだ。
 「双葉の復興を進めてほしい」と語ったのは自営業の男性(73)だ。息子は自分の仕事を継ぎ、町内で商いを始めた。「浪江や大熊と比べても遅れている」。住民が戻り、若い世代に託せる古里の将来を願った。
 複雑でさまざまな思いが交差した投票所。23日に票を投じたのは34人だった。

茨城県内世論調査 東海第2 再稼働「反対」53%

 茨城新聞社が行った世論調査で、東海第2原発(東海村)の再稼働に「反対」と答えた人が、532%で「賛成」の299%を大幅に上回りました。19年参院選時の前回調査に比べると反対が76ポイント減少し、29歳以下の若い世代のみ賛成が反対を上回りました。
 男女別では女性は反対562%、賛成216%。男性は反対502%、賛成384%でした。
「脱原発」の賛否では、賛成が574%で反対の268%の倍以上となりました。
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衆院選 茨城県内世論調査 東海第2 再稼働「反対」53% 若年層は「賛成」多数
                        茨城新聞クロスアイ 2021/10/29
衆院選に合わせ、茨城県内有権者を対象に茨城新聞社が行った世論調査で、日本原子力発電東海第2原発(東海村)の再稼働に「反対」と答えた人が、回答者の53・2%に上り、「賛成」の29・9%を大幅に上回った。2019年参院選時の前回調査に比べると反対が7・6ポイント減少し、29歳以下の若い世代のみ賛成が反対を上回った。ただ、年代が上がるにつれて反対の割合が増え、依然として再稼働に慎重な県民感情が浮き彫りになった。
東海第2の再稼働を巡る質問は、茨城新聞社が12年衆院選以降、国政選挙のたびに実施している。
前回調査で再稼働反対は60・8%だった。今回、賛成は前回より7・2ポイント増えた。29歳以下は賛成が反対を1・6ポイント上回り、70歳以上では反対が賛成の3倍近い60・8%となった。
女性は反対56・2%、賛成21・6%。男性は反対50・2%、賛成38・4%。男女年代別で反対が一番多いのは70歳以上女性の60・7%で、賛成が際立つのは29歳以下男性で51・4%。

支持政党別では、いずれも反対が賛成を上回った。反対の割合は、既存原発の再稼働を見据える自民で47・9%(賛成37・0%)、連立政権を組む公明で55・3%(賛成30・6%)、代替電源の確立まで原発を活用する姿勢を示す国民で58・0%(賛成31・6%)だった。ほかに、立民、共産、社民は7割超、維新は6割近く、無党派層は約5割が反対だった。

今回の調査は、原発依存をやめ自然エネルギーなどを中心とする「脱原発」の賛否も問い、賛成が57・4%で反対の26・8%の倍以上となった。年代別では、東海第2再稼働で賛成が反対を上回った29歳以下が67・9%で最も高い結果となった。
東日本大震災以降、停止している東海第2は、11月で営業運転開始から43年が経過する。最長20年の運転延長が認められ、安全対策工事は22年12月に終える予定だ。半径30キロ圏の避難対象地域には全国最多の約94万人が居住。圏内14市町村に義務付けられる広域避難計画の策定に至ったのは5市町にとどまり、実効性の担保が課題となる。

■憲法9条 改正「賛成」やや上回る  
世論調査では憲法9条改正の賛否も尋ね、改正に「賛成」が36・3%で、「反対」の34・9%をわずかに上回った。2017年の前回衆院選時は反対が48・6%で賛成に差をつけたが、今回は逆転した。年代別では29歳以下の46・8%が改正を支持した
9条は戦争放棄と交戦権の否認、戦力不保持を定める。賛否が拮抗(きっこう)する中「分からない・無回答」も28・8%に上った。
年代別で、29歳以下は賛成が反対を11・1ポイント上回り、30、40、60代も賛成が3割台で反対よりやや多かった。50代と70歳以上は、やや反対が上回った。
性別で男性は、50代を除く各年代で賛成が反対を上回った。一方、女性は30代で反対が賛成の2倍以上になるなど、29歳以下を除く各年代で反対が上回った。
支持政党別で賛成が反対を上回ったのは、自民、維新、N党で、いずれも5割前後が賛成。立民、公明、共産、国民、れいわ、社民は反対が上回った。

▽調査の方法  

23~26日の4日間、衆院選の投票行動と併せて、県内有権者を対象に、コンピューターで無作為に電話番号を発生させて電話をかけるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法で実施。2845人から回答を得た。 

30- 福井 美浜原発3号機 重大事故想定の大規模訓練 7000人参加

 福井県美浜原発3号機での重大事故を想定した大規模な防災訓練が、29日、30日に行われおよそ7000人が参加しました。初日の29日は地震によって外部電源が失われ原子炉の冷却ができなくなった想定で関西電力の社員が応援に駆けつけた北陸電力の電源車のケーブルを原子炉建屋の近くにある「電源接続盤」につなぎ込む流れを確認しました。
 30日には、美浜町にある福祉施設の入所者役の職員が、同県おおい町の施設へ避難し、要介護者のトイレや浴室への移動、ベッドでの介護の手順などを確認しました。
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福井 美浜原発3号機 重大事故想定の大規模訓練開始 7000人参加
                    NHK NEWS WEB 2021年10月29日
原則40年の運転期間を超えてことし再稼働した、福井県にある関西電力美浜原子力発電所3号機での重大事故を想定した大規模な防災訓練が、29日から始まりました。
訓練には2日間でおよそ7000人が参加し、事故の収束に向けた手順や住民避難の方法などを確認します。
訓練は、福井県が内閣府などと毎年共同で実施し、初日の29日は、美浜町にある美浜原発3号機で地震によって外部電源が失われ原子炉の冷却ができなくなった想定で始まりました。
原発の構内では関西電力の社員が、応援に駆けつけた北陸電力の電源車のケーブルを原子炉建屋の近くにある「電源接続盤」につなぎ込む流れを確認しました。
これは10年前の福島第一原発の事故で外部から来た電源車を速やかに接続できなかった教訓を踏まえたもので、社員たちはケーブルの接続部分の形を合わせる特殊な装置を使ってつなぎ込んでいました。
そして、電源車の到着から10分程度で接続が完了し、電気の供給を開始しました。
美浜原発3号機は国の特別な検査に合格し、運転開始から40年を超えた原発としては全国で初めて、ことし6月に再稼働しました。
訓練では30日、周辺住民の避難訓練が行われ、新型コロナウイルスの感染予防対策などを含めた避難計画の実効性を検証する予定で、2日間で合わせておよそ7000人が参加することになっています。


要介護者避難の手順確認、福井 美浜3号機事故を想定し訓練
                            共同通信 2021/10/30
 運転開始から40年を超えて再稼働した関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)の事故を想定した県の原子力防災訓練の一環で、美浜町にある福祉施設の入所者役の職員が30日、同県おおい町の施設へ避難し、要介護者のトイレや浴室への移動、ベッドでの介護の手順などを確認した。
 避難してきた要介護者をスムーズに受け入れられるかどうかが課題だったといい、県担当者は「訓練で問題ないと分かった」と語った。

 訓練は、若狭湾沖で震度6弱の地震が起き、美浜3号機の外部電源が喪失、原子炉へ注水できなくなったと想定した。 

2021年10月30日土曜日

東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(上)(中)(下)

 福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、一審東京地裁で無罪となった勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人の控訴審初公判は11月2日、東京高裁で開かれます。
 福島民友社は、控訴審を前に遺族の思いや、控訴審の見通しなどについて、3回のシリーズで報じました(27~29日)。
 ポイントは、経営者たちが津波襲来の可能性を予見できたのかどうかですが、約30件の避難者訴訟においてこれまで高裁判決は4例あり、うち国と東電の賠償責任を認めた判決は愛媛訴訟の高松高裁判決、福島訴訟の仙台高裁判決、千葉訴訟の東京高裁判決の3例あります。直近の高松高裁では、「政府の機関が公表した地震の評価は、専門家の審議によるもので信頼できる。国は、これに基づいて津波の危険性を予測できたはずだ」と、国に責任があるとしています(一審で国の賠償責任を認めたものは更に多数あります)。
 福島民友の記事によると、これまでの控訴審判決4例はすべて民事裁判であるのに対して、東電経営者に対する強制起訴案件は刑事裁判なので、被害者を救済する目的もある民事裁判に比べ、「合理的に疑いのない程度」の高度な立証が求められるとしています。
 経営者個人の人権を守るという立場は理解できますが、逆に彼らが原発を運転する企業の責任者としての自覚が十分にあったのかについては、そう思わせるものは何もなくただひたすら責任回避の姿勢に終始していました。
 一審判決のように「結果回避義務」について、「事故を回避するため、原発を停止させなければならないほどの事情はなかった」と簡単に断定するのは納得できません。
 福島民友の記事を紹介します。
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【東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(上)】弱者と向き合う審理を
                        福島民友 2021年10月27日
 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、一審東京地裁で無罪となった勝俣恒久元会長(81)ら旧経営陣3人の控訴審初公判は11月2日、東京高裁で開かれる。ほかの被告は武黒一郎(75)、武藤栄(71)の両元副社長。裁判で被害者とされるのは、原発事故による長時間の避難を強いられ、死亡した双葉病院(大熊町)の患者ら。控訴審を前に遺族の思いや、控訴審の見通しなどに迫った。
 「なぜ、あそこで家族が死ななくてはならなかったのか。原発事故の責任は誰にあるのか」。旧経営陣3人に無罪判決が言い渡されてから約2年。双葉病院患者の遺族らは、近づく控訴審を注視している。
 大熊町から双葉郡内に避難して生活を送る女性(68)は被害者参加制度を利用し、一審が開かれた東京地裁に20回以上通った。裁判官に震災時の経験を直接伝えようと意見陳述もした。
 女性は、双葉病院系列の介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」に入所していた父親=当時(92)と母親=同(88)を原発事故による避難中に亡くした
 長男(43)と一緒に法廷に向かったのは、両親の死の理由を知りたいと思ったからだ。「(原発が)爆発さえしなければ...」。その思いを抱え、傍聴し続けた。
 そして、下った一審判決。亡くなった両親が置いてけぼりにされていると思った。審理は専門的な議論が多く、女性はむなしさが込み上げてきたという。女性は来月開かれる控訴審について「あとは見届けるだけです」と静かに語った。
 大熊町から水戸市に避難する菅野正克さん(77)は、肺炎で双葉病院に入院していた父健蔵さん=当時(99)=を亡くした。事故から約1カ月後に病院で対面した健蔵さんは意識があったが、事故前とは違い、かなり衰弱した姿だった。
 菅野さんは一審の裁判記録をノートに書き留め続け、判決を迎えた。無罪判決は到底納得できるものではなかった。怒りが込み上げ、判決内容を聞いている時間が苦痛だったという。
 「(指定弁護士は有罪にするための)証拠をそろえたのに。10年たっても誰に責任があるのか分からないなんて」。消化できない思いが今も残る。
 父の写真を見つめる菅野さんは「弱者に向き合い、納得する判決を出してほしい」と話し、待ち望んでいた控訴審を迎えようとしている。
                   
 東電旧経営陣強制起訴裁判 起訴状によると、旧経営陣3人は大津波の浸水によって原発事故を招き、長時間の避難を余儀なくされた大熊町の双葉病院や系列の介護老人保健施設の入院患者や入所者ら44人を死亡させたほか、原子炉建屋の水素爆発で自衛官ら13人にけがを負わせたとしている。東京地裁で行われた一審では3人にいずれも禁錮5年が求刑されたが、2019年9月、無罪判決が言い渡された。その後、検察官役の指定弁護士が控訴していた。


【東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(中)】長期評価、再び焦点
                         福島民友 2021年10月28日
 東京高裁で11月2日に開かれる東京電力旧経営陣3人の控訴審初公判は、一審判決で否定された、政府がまとめた地震の規模や切迫度に関する予測「長期評価」の信頼性が再び大きな争点になる見通しだ。
 業務上過失致死傷罪に問われた勝俣恒久元会長(81)ら旧経営陣3人が無罪となった一審判決は、検察官役の指定弁護士が巨大津波を予測できる根拠とした長期評価の信頼性を否定し、「大津波を具体的に予見し、対策工事が終わるまで運転を停止すべき法律上の義務はなかった」と結論付けた。判決後、指定弁護士は「明らかな事実誤認」と控訴しており、控訴審でも最大の争点になるとみられる。
 業務上過失致死傷罪の成立には、〈1〉危険性を事前に予見できたのか(予見可能性)〈2〉必要な措置を講じれば、結果を避けられたか―の2点が重要だ。一審では長期評価の信頼性を根拠とした巨大津波の予見可能性と、原発事故を回避するための結果回避義務違反について争われた。
 指定弁護士は一審で、旧経営陣の3人が事故前に、最大15.7メートルの津波が来る可能性があるとした長期評価を基にした試算を把握しており、「津波襲来の危険性を知りつつ、何一つ対策をしなかった」と主張。一方、弁護側は長期評価は信頼性が欠け、「大津波は予見できなかった」と反論した。また「仮に試算に基づく対策をしても、実際の津波は全く異なる規模で事故は防げなかった」として3人の無罪を主張した。
 控訴審での判断の行方はどうなるのか。過失犯に詳しい立命館大法科大学院の松宮孝明教授(63)=刑法=は「長期評価の信頼性は大きな争点だが、安全対策をしていれば事故は防げたのか、結果回避義務の部分も重要」とし、長期評価の信頼性に加えて結果回避義務違反を巡る判断の行方にも注目している。
 結果回避義務違反を巡っては、指定弁護士が一審で、建物を浸水から守る「水密化」や非常用電源の高台設置、運転停止など5点を主張したが、判決は「事故を回避するため、原発を停止させなければならないほどの事情はなかった」と退けた。
 松宮教授は控訴審の見通しについて「(指定弁護士は)何をすべき義務があったかだけではなく、それをしていれば事故前に対策が整い、原発事故が防げたという因果関係を主張していくだろう」と予想する。
 その上で、指定弁護士に一審判決を覆すためハードルの高い立証を求められる控訴審について「(指定弁護士は)長期評価の信頼性が低くても、過失が認められるような論理が必要だろう」と指摘した。
                   ◇
 長期評価 政府の地震調査研究推進本部がまとめたプレート境界の海溝や、活断層などで繰り返し起きると考えられる地震の規模や切迫度に関する予測。切迫度は「30年以内の発生確率」として規模や海域ごとに示すことが多い。2002年7月31日に公表された長期評価は、三陸沖から房総沖にかけて「マグニチュード8.2前後の津波地震が30年以内に20%の確率で起こる」としていた。


【東電旧経営陣強制起訴 迫る控訴審(下)】民事裁判と違う立証
                         福島民友 2021年10月29日
 東京電力福島第1原発事故を巡る裁判は、民事と刑事で判断が分かれている。民事裁判では、巨大津波の予見性の根拠となる政府の地震予測「長期評価」の信頼性を認め、国や東電に賠償命令を出す判決も出ている。一方、東電の旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判では、長期評価の信頼性が否定されて全員無罪となった。「なぜ、刑事と民事で結論が分かれるのか」。困惑する県民の声も出ており、初公判が11月2日に開かれる控訴審での判断が注目される。
 民事と刑事の違いは、立証の厳格さとされる。被害者を救済する目的もある民事裁判に比べ、刑事裁判は「合理的に疑いのない程度」の高度な立証が求められる
 その刑事裁判の中でも、検察官が起訴を見送った事件を審理する強制起訴裁判は、さらに立証のハードルが高いとされる。
 強制起訴は、国民感覚を司法に反映させるため約10年前に導入された制度で、強制起訴された事件10件のうち有罪が確定したのは2件にとどまる。兵庫県尼崎市で2005年に起きた尼崎JR脱線事故の強制起訴裁判で、検察官役の指定弁護士を務めた河瀬真弁護士(51)=神戸市=は立証の難しさを語る。
 「(強制起訴裁判は)検察官が持っている資料では立証が不十分ということが前提。証人尋問が重要になり、いかにいろいろな角度から質問し、証言の端々をつないで一定の評価を得るか。通常の刑事裁判とは違っていた」と振り返る。
 強制起訴には司法の場だからこそ明らかとなる「副産物」もある。東電旧経営陣の一審東京地裁では、長期評価に基づく津波予測を巡り、東電内での議論や経緯などが次々と明らかになった。
 河瀬弁護士は「『事件や事故が避けられたのでは』『避けられる方法があったのでは』と刑事司法の場で考えることが大事だ。強制起訴がある意義は大きい」と強調する。
 近づく控訴審の開廷。民事裁判に関わる関係者も、その行方を見守っている。国と東電に損害賠償を求める集団訴訟(生業(なりわい)訴訟)の原告側弁護人の一人、鈴木雅貴弁護士(35)は「民事では企業全体を加害者と捉える一方、刑事では旧経営陣個人に責任があったかを問う違いがある」とした上で「経営者の判断なしに津波対策などは決められない。被告が企業か旧経営陣かは結論に大きな影響を与えるものではない」と話し、控訴審でも長期評価の信頼性を認めた民事裁判と同様の判決を期待した。(この連載は影山琢也、安達加琳が担当しました)
                   ◇
 強制起訴制度 検察が起訴を見送っても、市民らでつくる検察審査会の議決が2度にわたって起訴するべきだと判断すれば、裁判所が指定した検察官役の弁護士が自動的に起訴する仕組み。国民の司法参加を目指した司法制度改革の柱として、2009年5月に施行された。対象事件はこれまで10件で、被告は14人。このうち有罪判決が出たのは2件2人(いずれも確定)にとどまる。

「凍土壁」一部で温度上昇(詳報)

 NHKが、凍土壁の温度上昇についてやや詳しい記事を出していましたので「詳報」として紹介します。

 それによると「凍土壁」の一部で、先月中旬以降、地中の温度が0度を上回り、最高で10度以上に達していたということです。「凍土壁と交差する排水路にひびが入るなどして水が漏れ、凍った部分にしみ出して、温度が上がった可能性がある」としています。
 排水路ひび割れの原因は地震と考えられます。このところ福島地方ではやや頻繁に地震が起きており、大きいものでは9月2日と17日に震度3の地震が起きました(その他震度1~2が9月中に4回)。
  関連記事
    (10月29日)福島第1原発、凍土壁で温度上昇 一部融解の可能性
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福島第一原発 汚染水対策「凍土壁」一部で温度上昇 10度以上も
                    NHK NEWS WEB 2021年10月28日
福島第一原子力発電所からの汚染水を減らす対策として、建屋の周囲の地盤を凍らせて地下水の流入を抑える「凍土壁」の一部で、先月中旬以降、地中の温度が0度を上回り、最高で10度以上に達していたことが分かりました。東京電力は「地下水の流入を抑える機能に影響はない」としたうえで、原因を調べています。
「凍土壁」は、汚染水を減らす対策の一つで、福島第一原発の建屋の周囲にパイプを埋め込み、氷点下30度の液体を流し込んで凍らせて、“氷の壁”を張り巡らせることで地下水が建屋に流れ込むのを抑える仕組みです。
東京電力は「凍土壁」に温度計を設置し、地中の温度を測定していますが、福島第一原発4号機の山側に位置する一部のエリアで、通常氷点下にある温度が上昇し、先月中旬以降、0度を上回る状態が続いているということです。
温度の上昇が確認された場所は、深さ1メートルから4メートルほどの地点で最高で10度を超えた日もあったということです。
凍土壁の厚さは10メートルほどあり、東京電力は「壁の内側と外側で水位の差に大きな変動はなく、地下水の流入を抑える機能に影響はない」としています。
そのうえで「凍土壁と交差する排水路にひびが入るなどして水が漏れ、凍った部分にしみ出して、温度が上がった可能性がある」として、現場を詳しく確認するなど原因を調べることにしています。

地裁裁判官 原発敷地を初視察 東電株主代表訴訟で

地裁裁判官、原発敷地を初視察 東京電力株主訴訟、非公開で
                         東京新聞 2021年10月29日
 福島第1原発事故を巡る東京電力の株主代表訴訟で、東京地裁の朝倉佳秀裁判長らは29日、第1原発の敷地内を視察した。株主側の代理人によると、原発事故の責任が争われた刑事、民事の裁判で裁判官が原発周辺を訪れた例はあるが、敷地内に入るのは初めて。視察は非公開で行われた。
 朝倉裁判長と丹下将克裁判官は29日午前、第1原発に近い福島県大熊町のJR大野駅に到着。株主側代理人らとバスに乗り、原発へ向かった。

 訴訟では、東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣が巨大津波の襲来を予見できたかどうかや、適切な安全対策が取られていたかが争点となっている。(共同通信) 

30- 国内在住の台湾の若者ら福島第1原発を視察

台湾の若者ら福島第1原発を視察 復興状況を発信
                            共同通信 2021/10/26
 福島県と台湾の交流拡大を目指す「福島前進団」に参加する国内在住の台湾人5人が26日、東京電力福島第1原発を視察し、事故に伴う汚染水から放射性物質を取り除く工程や処理水の性質について学んだ
 同県川内村のNPOが、正しい情報を発信し、台湾で続く福島県など日本産食品の禁輸の解除につなげようと企画した。台湾人らは原発がある双葉郡内に分散して1週間ほど滞在し、魅力や復興状況を発信する。
 2023年春ごろ処理水の海洋放出が始まるが、国内外で懸念が出ている。処理水が入ったボトルを真剣に見つめていた馮詩媛さん(26)は「こんなに透明だとは思わなかった」と話した。

2021年10月29日金曜日

福島第1原発、凍土壁で温度上昇 一部融解の可能性

 東電は28日、福島第1原発の「凍土遮水壁」の一部で温度が上昇し、氷の壁が解けている可能性があると発表しました。温度上昇は8月下旬から始まっていたものの公表しなかったということです。

 東電は「壁の内外で地下水の水位差は保たれており、遮水機能は維持されている」としていますが、元々遮水壁は一部区間が凍結しないまま運転に入っているので、今回の融解個所の漏水量はこれまでの140トン/日に比べると小さいという意味です。
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福島第1原発、凍土壁で温度上昇 東電「遮水機能は維持」
                            共同通信 2021/10/28
 東京電力は28日、福島第1原発の建屋周辺の地盤を凍結させ、汚染水増加の原因となる地下水流入を抑える「凍土遮水壁」の一部で温度が上昇し、氷の壁が解けている可能性があると発表した。「壁の内外で地下水の水位差は保たれており、遮水機能は維持されている」としている。2017年の凍土壁の全面運用開始以降、温度の上昇は初めてという。
 上昇は8月下旬から始まっていたが公表していなかった。今月に入り、地中の温度が0度を超え続けているため公表したと説明している。温度が上昇したのは4号機南西側で、凍土壁と排水路が地中で交差する地点。

柏崎原発でケーブル焦げる

 柏崎刈羽原発1号機タービン建屋南側にある雨水排水ポンプのケーブルが焦げていることを社員が発見し消防署に通報しました。消防署は火災と判断しました。

 9月にも、3号機のタービン建屋地下3階で電源ケーブルの一部が焼ける火災が発生しており、原因を調べています。
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柏崎原発でケーブル焦げる 放射性物質漏れなし
                             共同通信 2021/10/25
 25日午後5時半ごろ、新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる東京電力柏崎刈羽原発で1号機周辺のケーブルが焦げているのを同社社員が発見し、119番した。柏崎市消防本部は火災と判断した。東電によると、外部への放射性物質漏れはなく、けが人もいないという。
 東電によると、焦げたのは1号機タービン建屋南側にある排水ポンプのケーブル。雨水を排水するポンプを動かすための電源につながっており、24日に起きた電源設備故障に伴う点検作業の途中で社員が発見した。
 柏崎刈羽原発では9月にも、3号機のタービン建屋地下3階で電源ケーブルの一部が焼ける火災が発生しており、原因を調べている。

志賀原発2号機の現地調査は再稼働に向け大きなステップと松田社長

 北陸電力の松田社長は、28日開いた中間決算の会見で、来月実施予定の原子力規制委による志賀原発2号機の活断層調査に対し、再稼働に向けた大きなステップと認識していると述べました。

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北陸電力 松田社長「現地調査は再稼働に向け大きなステップ」
      …志賀原発2号機
                         富山テレビ放送 2021/10/28
北陸電力の松田社長は、28日開いた中間決算の会見で、来月実施されるとみられる原子力規制委員会による志賀原子力発電所2号機の現地調査に対し、再稼働に向けた大きなステップと認識していると言及しました。
*北陸電力 松田光司社長「今回、エネルギー基本計画において、これまで記載された内容に追加して、必要な規模の原発を持続的に活用するという文言が入った。将来にわたっても(原子力が)一定程度、必要な電源であることが打ち出された。志賀原発の現地調査は大きなステップ。一日も早い再稼働を目指したい」

会見で、松田社長は、先週、閣議決定されたエネルギー基本計画に触れ、原子力発電の必要性について述べるとともに、原子力規制委員会が来月にも実施の意向を示している現地調査を、再稼働に向けた大きなステップとしました。

29- 東電は期末160億円赤字の見込み 燃料高のため

 東電は27日、22年3月期連結決算予想について160億円の赤字に下方修正したと発表しました。燃料高により調達コストが一時的に拡大するためです

 北陸電力の4月から9月までの連結中間決算、営業収益は2716億円で、前年同期に比べ12減りました会計処理の制度変更に伴う減収分が570億円ほどあるため、実質的にはおよそ200億円の増収だとしています。
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東京電力、160億円の赤字に 22年3月期、燃料高が圧迫
                            共同通信 2021/10/27
 東京電力ホールディングスは27日、2022年3月期連結決算について、純損益を前回予想の670億円の黒字から160億円の赤字に下方修正したと発表した。燃料高により調達コストが一時的に拡大するため。赤字になれば福島第1原発事故後に収益が悪化した13年3月期以来9年ぶり。
 東電は柏崎刈羽原発(新潟県)が核物質防護の不備問題で再稼働が見通せず、火力発電に頼らざるを得ない状態だ。新型コロナウイルス禍からの各国の経済回復で、液化天然ガス(LNG)や原油は需要が拡大し価格が高騰しており、調達コストは今後も膨らみそうだ。


北陸電力中間決算 燃料高などで減収減益
                           北日本放送 2021/10/28
 北陸電力が発表した今年度の中間決算によりますと、連結での経常利益は石炭価格の高騰の影響などで、大幅な減益となりました。また原子力規制委員会が実施の方針を示した石川県の志賀原子力発電所2号機の現地調査について松田光司社長は、「説明の妥当性を示し、1日も早い再稼働を目指す」と述べました。
 北陸電力のことし4月から9月までの連結中間決算によりますと、営業収益は2716億円で、前年同期に比べ11.7%減りました。ただ会計処理の制度変更に伴う減収分が570億円ほどあるため、実質的にはおよそ200億円の増収だとしています。
 経常利益は63.5%減の91億円、純利益は56億円と大きく落ち込みました。
 売り上げ増加など増益要因の一方で、石炭価格が過去最高まで高騰した影響で160億円ほどの減収要因となりました。通期の業績は、減収減益を予想しています。
 また、今月14日に原子力規制委員会が志賀原子力発電所2号機の審査をめぐり、来月にも現地調査する方針を示したことについて、松田社長は。
 北陸電力 松田光司社長
「審査を一歩一歩進めていって、志賀原子力発電所の再稼働、地域の理解を大前提に一日でも早く再稼働、目指したい」

 松田社長はこのように述べて、現地調査を次のステップにつなげたい考えを強調しました。

2021年10月28日木曜日

島根原発の運転差し止め認めず 広島地裁

 中国電力島根原発は耐震基準は算定方法が誤っており、低い設定になっているとしてさいたま市の無職男性と、福井県小浜市の住職の男性が運転差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁は27日、請求を棄却しました。産経新聞の記事によると、裁判長は福島第1原発事故と同様の事故が起きたとしても、島根原発から250キロ以上離れた場所に住む原告らに重大な被害が生じる具体的な危険は認められないと判断したということです。

 記事からは基準地震動が適正であったかの判断が出されたのかは不明ですが、どうも遠地の住民には被害を及ぼさないからと躱されてしまった感じで釈然としません。
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島根原発の運転差し止め認めず 請求棄却の判決 広島地裁
                        東京新聞 2021年10月27日
 中国電力島根原発(松江市)は耐震性が不十分だとして、さいたま市の無職男性と、福井県小浜市の住職の男性が運転差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁(大森直哉裁判長)は27日、請求を棄却した。
 訴状によると、原子力規制委員会による島根原発の耐震基準は算定方法が誤っており、低い設定になっていると主張。将来起きる地震の予測は困難で、原発事故が起きれば甚大な被害をもたらすとしている。
 島根原発は1号機が廃炉作業中。2号機は9月に規制委の審査に合格し、2022年度内に安全対策工事を終える予定で、再稼働は工事完了以降となる。3号機は新規稼働に向けた審査を申請した。(共同)


運転差し止め認めず 島根原発から遠く重大な被害なし
                             産経新聞 2021.10.28
 中国電力島根原発(松江市)で事故が起きれば重大な被害が生じるとして、さいたま市の無職男性と、福井県小浜市の住職の男性が運転差し止めを求めた訴訟で、広島地裁は27日、請求を棄却した。
 大森直哉裁判長は国の試算などを踏まえ、島根原発で東京電力福島第1原発事故と同様の事故が起きたとしても、島根原発から250キロ以上離れた場所に住む原告らに重大な被害が生じる具体的な危険は認められないと判断した。
 島根原発は1号機が廃炉作業中。2号機は9月に原子力規制委員会の審査に合格し2022年度内に安全対策工事を終える予定で、再稼働は工事完了以降となる。3号機は新規稼働に向けた審査を申請した。