2020年12月9日水曜日

原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に(上)(東京新聞)

  東京新聞が「原発つかむ民意 東海村版自分ごと化会議を前に」とする3回シリーズを始めました。

「自分ごと化会議」とは聞き慣れない言葉ですが、政策シンクタンク「構想日本」が開発した手法で、「身近な問題を行政任せにせず、自分ごととして住民主体で考えて提案し、事業の見直しなどにつなげていく」ものです。自分ごと化会議は14年のスタート以来、全国22自治体で34回の開催実績があり、テーマはごみ問題や子育て支援など多岐にわたります。
 東海村は19日、無作為に選ばれた村民が原発問題を議論する「自分ごと化会議」をスタートします。
 東京新聞が「原発」全国で初めて取り上げた松江市の例を紹介します。
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原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に(上)
松江の試み 当事者が議論、自信に
                          東京新聞 2020年12月8日
 日本原子力発電東海第二原発を抱える東海村は十九日、無作為に選ばれた村民が原発問題を議論する「自分ごと化会議」をスタートする。モデルになったのが、中国電力島根原発の地元・松江市の市民団体などが二〇一八年十一月〜一九年二月、四回にわたって開いた「自分ごと化会議in松江」だ。
 「原発の問題は普段から話したくても話せず、もやもやしていた」
 会議を提案した松江市の市民団体「市民自治を考える会・まつえ」代表の大谷怜美(さとみ)さん(34)はそう振り返る。
 東京電力福島第一原発事故直後は、原発政策が語られる場面は多かったが、関西電力や九州電力でなし崩し的に再稼働が進む中、議論は低調だ。特に原発が立地する自治体の住民の間では、事故に不安を抱いていても、原発で働く人もおり、気軽に話せない雰囲気が漂う。
 そんな状況を打破しようと、大谷さんらは実行委員会を組織し、無作為に選んだ住民が、原発の問題点やメリットを率直に語り合う場をつくった。
 島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地し、市役所などがある中心市街地は十キロ圏内にある。現在、1号機は廃炉中だが、2号機と、建設中の3号機については中国電が新規制基準に基づく審査を原子力規制委員会に申請し、稼働に向けた動きが出てきたことも背景にあった。
 実行委員会は、政策シンクタンク「構想日本」(東京都)の自分ごと化会議の手法を採り入れた。身近な問題を行政任せにせず、「自分ごと」として住民主体で考えて提案し、事業の見直しなどにつなげていくのが狙いだ。
 自分ごと化会議は一四年のスタート以来、全国二十二自治体で三十四回の開催実績がある。テーマはごみ問題や子育て支援など多岐にわたるが、「原発」は松江市が全国初だった。
 松江では、約二十万人の市民のうち選挙人名簿から無作為に約二千二百人を選び、そのうち二十一人が参加に手を挙げた。市民の内訳は男性八人、女性十三人で、会社経営者や元公務員、専業主婦、会社員、子育て世代などさまざまな立場の市民が集まった。
 これに島根大の学生五人を加えた計二十六人が、中国電など原発推進派と脱原発の市民団体関係者の双方から話を聞き、島根原発も視察した。
 参加者は、島根原発の再稼働の賛否には触れず、自分の生活レベルで原発を考えながら「子どもたちに負の遺産を残したくない」「原発関連の工事で街の経済が潤っている」などと意見を自由に出し合った。
 大谷さんとともに、実行委で共同代表を務めた福嶋浩彦・中央学院大教授(64)はこう成果を誇る。
 「参加者は何が正しいかではなく、私はどうしたい、どのような社会にしたいかを考えていった。最初は恐る恐るだったが『原発の議論ができるんだ』と自信を持つようになった」
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 東海村版「自分ごと化会議」は民意をつかむことができるのか。松江市の試みを参考に、村の狙いを三回にわたって探る。 (この連載は松村真一郎が担当します)