「沸騰水型軽水炉(BWR)」の実績を持つ東電、中電、日立、東芝の4社は、8月28日に原発の共同事業化を検討していくことで基本合意しました。原発の先行きが見通せない中で、共同事業化によって電力会社とメーカーが人材と技術を集め、再稼働に向けた体制を整備し、新規建設にもつなげたい考えです。
とはいえ、廃炉が決まっている東電の福島第1、第2は共同事業の対象から外し、停止したままの中電・浜岡原発(地震の震源地の真上に建った世界一危険な原発と言われている)は中電が主体的に取り組むとみられ、残る東通原発(東電が建設中・青森県)を共同事業とすることが重要な検討テーマです。
東北電力も加えた5社連合として東通原発全体を運営するという構想も従来からある由ですが、東芝は「当社が原発運営事業者ではない」として賛成していません。
そもそも原発には事故時の「無限責任制」が課されているので、メーカーは運営のための共同出資会社の設立には二の足を踏みます。
関係者の本音は、経産省が原賠法の無限責任性を見直して欲しいというのがなのですが、国民の大半が原発の稼働に反対する中で、そんなことが出来る筈はありません。
どこから見ても原発の稼働には大いに無理があります。
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東電など4社に「思惑の不一致」 原発事業の共同化検討の行く末
J-CASTニュース 2019年9月16日
東京電力ホールディングス(HD)、中部電力、日立製作所、東芝の4社が原発の共同事業化を検討していくことで基本合意した。2019年8月28日に合意書を締結した。東電福島第1原発事故の影響で原発の先行きが見通せない中で、共同事業化によって電力会社とメーカーが人材と技術を集め、再稼働に向けた体制を整備し、新規建設にもつなげたい考えだ。ただ、発電所の運営リスクについては温度差がある。
東電と中部電は、福島第1原発(福島県)と同型の「沸騰水型軽水炉(BWR)」と呼ばれる原発を保有・運営し、日立と東芝がそれらの建設を手掛けてきた。だが、福島第1事故後、関西電力などの「加圧水型軽水炉(PWR)」は再稼働したが、BWRは1基も再稼働できておらず、東電・柏崎刈羽原発(新潟県)、中部電・浜岡原発(静岡県)は停止したままだ。
BWRの運営
4社はBWRで結ばれた「運命共同体」といえる関係で、2018年8月、原子力事業の提携に向け本格的な協議に入る覚書を締結している。今回の基本合意について4社は、「BWRを将来にわたって安全に運営し、建設と運転につなげられる持続可能な事業の構築を目指すため」と説明している。抽象的な表現にとどまるのは、1年前の覚書から具体的に話が進んだというより、このまま停滞してじり貧になるのを避けるため、協議を加速するための意思表示をしたものと受け止められている。
具体的には、原発の建設から運営、保守、さらに廃炉までを対象に、人材と技術を持ち寄り、原発の安全性の向上やコスト削減などを進める。2021年をめどに共同事業体を設立する構想もある。廃炉が決まっている東電の福島第1、第2は共同事業の対象から外す一方、東電が大震災で建設を中断している東通(ひがしどおり)原発(青森県)を共同事業とすることは重要な検討テーマ。また新型炉の設計に向けた研究開発の一元化なども進めたい考えだ。
4社は「運命共同体」と書いたが、その思惑が一致しているわけではない。
東電は福島第1の事故対応に約16兆円がかかるとして、廃炉・賠償費用を毎年5000億円確保したうえで3000億円の最終利益を出す必要がある。福島第1の全6基に加え19年7月に福島第2の全4基の廃炉を決定済みで、今後、稼働が期待できる原発は柏崎刈羽原発だけ、そして建設中が東通原発だけとあって、共同事業化で効率化・コスト削減を進めたい。
特に電力小売りの全面自由化で東京ガスなど新電力に攻められ、顧客流出が続いており、関西電力のように、原発の再稼働で電気料金を引き下げ、競争力を回復させたい思惑がある。
中部電も浜岡原発の再稼働の見通しが立たない中、技術継承の機会を増やしたい。
5社連合構想も
メーカー側は、日立が1月に英国での原発新設計画が凍結になり、東芝も米国での原子力事業で巨額の損失を計上して海外案件から撤退している。ただ、両社は、再稼働や廃炉を中心に、技術の継承や人材育成の点からも、単独より東電などとの協力に意義を見いだし、協議には前向きだ。
具体的な協力の行方はどうか。
まず、福島の廃炉は共同事業の対象としないほか、再稼働の見通しが立たない柏崎刈羽と浜岡も、東電と中部電がそれぞれ主体的に取り組むとみられる。
そこで、注目が東通だ。東電は1、2号機を計画し、1号機は2011年1月着工したが、2か月後の東日本大震災で工事が中断し、敷地はほぼ更地のまま現在に至る。東電は東通を共同事業化の候補と考えている。安全対策強化で高騰した原発の建設コストの負担をシェアでき、建設を進めやすくなると期待する。
東電の東通は予定地に隣接して、停止中の東北電力の東通原発がある。稼働再開に向けた安全対策の負担が重くのしかかるのは東北電も同じだから、合流して5社連合として東通原発全体を運営するという構想も、従来から浮かんでいる。
原子力損害賠償法に見直し論も
一方、これまで原発の運転には取り組んでいないメーカー側には慎重な意見が根強い。万一、原発事故が起きた際の賠償のリスクが大きいからで、東芝の車谷暢昭・会長兼最高経営責任者(CEO)は「当社が原発(運営)事業者でないことは明確にしたい」と語っている。
そこで、4社以外の重要なプレーヤー(最重要といってもいい)がいることを忘れてはいけない。お国、つまり経済産業省だ。
政府のエネルギー基本計画は原発を「重要な基幹電源」と位置づけ、また原発の海外への輸出を成長戦略の中に組み込んでもいる。しかし、海外への原発は日立の英国での新設計画凍結など行き詰っている。国内でも再稼働が停滞し、新増設の見通しも立たないなど原発の将来が見通せない中で、技術や人材をどう維持していくか、「民間任せでは展望は開けない」(大手紙経済部デスク)。
具体的に問題になるのが原発の大事故に備えた原子力損害賠償法だ。原発事業者には賠償額に上限を設けない「無限責任」を定めており、共同出資会社の設立にメーカーが二の足を踏む最大の理由とされる。
大手紙は共同事業化をあまり大きく取り上げておらず、9月11日までに社説に書いたのは読売(9月10日)だけ。それでも、日経、産経を含め、原発推進の3紙は4社共同事業化への期待を隠さず、産経電子版「ビジネス解読」(8月27日)は「実現すれば、国内の原発事業の新手法になる可能性が高い」と評価している。
そして、課題はやはり原賠法。日経は8月29日付朝刊の「東電など原発提携に温度差、国の関与焦点に」とする記事で、「共同出資会社の設立に向けてはこの法律の見直し議論は避けて通れない」と、制度見直しを明快に要求。読売社説も、同法の無限責任がメーカーなどにも及ぶ可能性を指摘し、「どのような制度的手当てが必要か。政府は真剣に検討しなければならない」と、同法見直しを暗に求めている。