しんぶん赤旗日曜版(7月25日号)に科学ジャーナリスト添田孝史氏による「ヤマ場を迎える東電株主代表訴訟」という記事が載りました。
それは東京地裁公判傍聴記で、裁判では現在専門家4人と東電の勝俣恒久・元会長ら被告の役員4人の証人尋問が続いているところで、裁判官が元経営幹部を1時間近くも尋問で問い詰める異例の場面が紹介されていてます。
それは判事による審尋のごく一部なのですが、その場の雰囲気等がリアルに伝わって東電幹部の対応のいい加減さは呆れます。
文中に「推本の予測について『知見ではなく、ご意見』と武藤氏が述べた時は、法廷内から失笑が漏れました」となっている箇所は、多分、地震調査研究推進本部が出した津波の高さの予測について東電幹部が一向に重要視する姿勢を見せなかったことに対して、判事が「それでは推本の知見をどう考えていたのか」と聞いたことに対する答えだったと思われます。
この傍聴記を読むと東電幹部の不真面目さ、無責任さが良く分かります。
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ヤマ場迎える東電株主代表訴訟
しんぶん赤旗日曜版 2021年7月25日
東京電力福島第1原子力発電所の事故(2011年)によって東電が被った損害について、旧経営陣の責任を問う株主代表訴訟(東京地裁)がヤマ場を迎えています。科学ジャーナリストの添田孝史さんがリポートします。
科学ジャーナリスト 添田孝史さん
裁判では、専門家4人と東電の勝俣恒久・元会長ら被告の役員4人の証人尋問が続いています。
その中で専門家は、津波対策をするよう東電杞事故前に忠告していたという事実を初めて明かしました。裁判官が元経営幹部を1時間近くも尋問で問い詰める異例の場面もありました。
裁判官 東電を質問攻め
「推本がバカみたいじゃないですか」
「あなたの話を聞いていると、推本(政府の地震調査研究推進本部)がバカみたいじゃないですか」
7月6日の証人尋問。朝倉佳秀裁判長は法廷内に響く大きな声で、証言台の武藤栄・東電元副社長をただしました。
08年6月、7月の社内会議で、推本の予測にもとづくと福島第1原発に15・7mの津波が襲来するという計算結果が報告されました。
それを受け、武藤氏は、予測の妥当性を土木学会に数年かけて検討してもらうよう部下に指示。その理由を「推本の予測の根拠が分からなかったから」と説明しました。
しかし裁判長は、トップレベルの専門家が集まった推本に東電が根拠を確認するわけでもなく、専門性で劣る別の組織に判断を丸投げするのはおかしいのではないかと疑問に思ったようです。
武藤氏は「経営として適正な手順」だと答えましたが、説得力は感じられませんでした。
このような形で、裁判長ら3人の裁判官が次々と武藤氏に鋭い質問を投げかけ、証言の不自然さが一つ一つ浮き彫りにされていきました。
福島第1原発事故をめぐる裁判で証人尋問は何回も傍聴していますが、裁判官が東電元幹部にこれだけ集中砲火を浴ぴせたのを見たのは初めてでした。
記録を否定する武藤元副社長
御前会議の“津波”資料「見てません」
原告側の弁護士たちは、社内の関係者がやりとりした電子メールの記述や、会合の議事録・資料の内容と、武藤氏の証言が食い違っていることを突きつけました。
ポイントの一つは、武藤氏が津波の問題を初めて知ったのはいつか、という点です。
08年2月16日、勝俣・元会長らが出席する「御前会議」で、福島第1の津波の高さの想定は「7・7m以上」と書かれた資料が配布されましたが、武藤氏は「見てません」と否定。同年3月には部局を超えて津波対策の検討が始まりました。その証拠となる電子メールについても、「どうしてこういう書き方になっているか私には分かりません」と述べました。 「武藤氏が専門家への(津波対策を先送りする)根回しを指示した」と部下が検察に供述していることについては、「そんなことは言ってません」と色をなして否定しました。
推本の予測について「知見ではなく、ご意見」と武藤氏が述べた時は、法廷内から失笑が漏れました。
「先に対策を」と伝えた
専門家証言 東電のウソ暴く新事実
驚くような事実も明らかにされました。
産業技術総合研究所の岡村行信・名誉リサーチャーの証言です。
(2月26日)
貞観地震(869年)の津波を研究してきた岡村氏は、原子力安全・保安院が古い原発の耐震安全性を検討するために設置した審査会の委員も務めていました。
岡村氏は、09年に東電の社員が面会に来た際、「『津波堆積物調査をします』と言って来られたのですけれど、今から調査をしても無駄だと言い、先に(津波)対策をした方がいいですと伝えた」と証言しました。
事故調報告書や刑事裁判で明らかにされていなかった新事実に、法廷内は少しざわめきました。
東電元幹部の刑事裁判の判決で、東京地裁は無罪とした理由の一つに「(東電の安全対策に関する方針や対応について)行政機関や専門家を含め、東京電力の外部からこれを明確に否定したり、再考を促したりする意見が出たという事実も窺(うかが)われない」ことを挙げました。その誤りが明らかになったのです。
岡村氏から「対策をした方がいい」と言われたのに東電は保安院に報告しなかっただけでなく、「専門家から東電の方針(対策先送り)に特段コメントはなかった」とウソを伝えていたことも分かりました。
10月に原発の現地視察
裁判官が初めて敷地に立ち入りへ
7月6日には武腰元副社長のほか、武黒一郎・元副社長、勝俣恒久・元会長、清水正孝・元社長も証言台に立ちました。
清水元社長は、事故翌年の12年に国会の事故調査委員会で聴取を受けて以来、9年ぶりに公の場で事故について述べました。
武藤氏らは一様に、津波想定についての意思決定の場面での会議資料に残された記録などについて「記憶にない」「知らない」「現場に任せていた」と責任を否定しました。20日には清水氏らへの原告側弁護士の反対尋問があります。
株主代表訴訟では、原発の現地視察が10月29日に予定されています。裁判官が原発敷地に入るのは初めてです。原告側弁護士によると、裁判長は「実際に現地を見て事故の責任を判断したい」と話したそうです。
事故から10年。政府や国会による事故調査が中途半端に終わったため、事故の原因解明は裁判に委ねられています。
まだこれからも新事実が明らかにされそうです。
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東電株主代表訴訟
同社株主約50人が旧経営陣に同社が原発事故で被った22兆円の損害を賠償するよう求めて東京地裁に提訴した民事訴訟o 11月に結審予定。
津波予測と褐患難発 |
そえだ・たかし
朝日新聞大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当o原発と地震についての取材を続け、2011年5月に退社しフリーに。福島第1原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当o著書に『東電原発裁判』(岩波新書)、『東電原発事故10年で明らかになったこと』(平凡社新書)など