10年余り運転を停止していた茨城県大洗町にある研究用原子炉「高温ガス炉=HTTR」が30日に運転を再開しました。
このHTTRは炉心の冷却にヘリウムガスを使う(核燃料は耐熱性の高いセラミックスで覆う)もので、原子炉で950℃に加熱されたヘリウムガスが減圧膨張する過程でガスタービンを回すことにより発電し、減圧によって200℃まで冷却されたヘリウムガスは原子炉に戻り、以後上記のサイクルを繰り返します。
原子炉とガスタービンの間にはヘリウム/ヘリウムの熱交換器が挿入され、この2次側で得られる900℃ヘリウムガスの熱量を利用して水から水素を製造します(関連記事参照)
下記の記事に概略のフローシートが載っているのでご覧ください。
⇒ 水素で延命? 原子力業界 大洗、高温ガス炉運転再開へ 大量生産目指す
ここでHTTRを登場させたことについては、「原発の再稼働や新増設が行き詰まる中で、クリーンエネルギーのイメージがある水素を隠れみのにして、原子力ムラを温存する動き」(上岡直見・環境経済研究所代表)だとの批判もあります。
先ずは本当に安定的に動くのか注目されます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
茨城 大洗町の研究用原子炉 運転再開 新基準の審査に合格
NHK NEWS WEB 2021年7月30日
10年余り運転を停止していた、茨城県大洗町にある新しいタイプの研究用原子炉の「高温ガス炉=HTTR」が、国の新しい規制基準の審査に合格したことなどを受けて30日に運転を再開しました。
平成10年に運転を始めた茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の「HTTR」は、炉心の冷却にヘリウムガスを使い、核燃料を耐熱性の高いセラミックスで覆う新しいタイプの原子炉で、1000度近くの高温の状態で熱を取り出せることから、熱を効率的に利用した発電や水素の製造などが可能で、国のエネルギー基本計画に推進が盛り込まれています。
東日本大震災前の平成23年2月に定期検査のため運転を停止し、その後、国の新しい規制基準に基づく審査に合格し、火災対策などの工事を行って、30日に運転を再開しました。
30日は、午前11時すぎに中央制御室で運転員がボタンを操作して核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く作業を行い、午後2時40分に核分裂反応が連続する「臨界」の状態となりました。
「HTTR」は、徐々に出力を上げて、ことしの9月下旬まで運転を行いながら、まず10年ぶりに稼働した設備の状況を検査します。
来年の1月からは、運転中のトラブルを想定して、制御棒や主要な冷却設備を使わずに出力や温度を下げるなど、安全性を検証する実証試験を行う計画です。
日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門大洗研究所の根岸仁所長は「今後のエネルギー開発にむけ、高温ガス炉が期待されているなか、運転再開を果たすことができ感慨深く感じている。引き続き安全対策を最優先にして、慎重に対応していきたい」と話していました。
新型原子炉「高温ガス炉」が10年半ぶりに運転再開 水素製造で原子力温存狙いも
東京新聞 2021年7月30日
日本原子力研究開発機構は30日、大洗研究所(茨城県大洗町)の高温ガス炉の実験炉「高温工学試験研究炉(HTTR、熱出力3万キロワット)」を10年半ぶりに運転再開した。
高温ガス炉は通常の原子力発電所(軽水炉)とは異なり、冷却材に水ではなく、ヘリウムガスを使う。より高温の熱を取り出すことができ、これをガスタービン発電や水素製造など多目的に利用する構想だ。
政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」は、新型炉開発の柱として高温ガス炉を重視するが、「原発の再稼働や新増設が行き詰まる中で、クリーンエネルギーのイメージがある水素を隠れみのにして、原子力ムラを温存する動き」(上岡直見・環境経済研究所代表)との批判もある。
午前11時すぎ、中央制御室で運転員が制御棒を引き抜く操作を開始。午後2時40分に臨界に達した。運転しながら原子炉の性能を順次チェックし、9月末にフル稼働の状態で最終検査を実施。来年1月から、トラブルを想定した安全性実証試験に入る計画だ。
経済産業省が昨年12月に発表した「グリーン成長戦略」は、HTTRで30年までに水素製造の基本技術を確立するとする。原子力機構によると、東京電力福島第一原発事故のような炉心溶融や水素爆発は原理的に起こらない設計になっているという。
根岸仁所長は報道陣に「福島以降、原子力に対して厳しい情勢があるのは認識しているが、安全性が非常に高いことも周知しながら、ご理解いただくように努力したい」と話した。
HTTRは1998年に初臨界。11年1月を最後に運転していない。原子力規制委員会は昨年6月、地震・津波対策などが新規制基準に適合していると判断した。(宮尾幹成)
(関連記事)
高熱利用で水素製造、150時間連続で運転 原子力機構
日経新聞 2019年1月29日
日本原子力研究開発機構は高熱を利用した化学反応で水から水素を製造する装置で、世界で初めて150時間の連続運転に成功した。機構は次世代型原子炉「高温ガス炉」から取り出した熱を水素の大量製造に利用する研究開発を進めている。水素製造装置の実用化に見通しがついたとして、自動制御システムなどの開発に力を入れる方針だ。
大洗研究所(茨城県大洗町)にある試験装置で18日から25日にかけ、毎時約30リットルの水素を150時間連続で製造した。装置はヨウ化水素が水素とヨウ素に熱分解する反応など3つの化学反応を組み合わせ、全体として水から水素を生み出す仕組みだ。熱は電気ヒーターで供給した。
2016年に毎時約10リットルの水素を8時間連続で作ることに成功したが、析出したヨウ素が固まって配管を塞いだり、配管が腐食したりする問題が残った。機構は加熱の細かな制御でヨウ素の析出を防ぐなど十数項目の改良を施し、水素の連続製造に成功した。
大洗研究所には高温ガス炉の研究炉「HTTR(高温工学試験研究炉)」がある。高温ガス炉は核分裂反応で生じる熱をヘリウムガスで冷却する原子炉で、高熱を炉外に取り出して活用できる。HTTRは再稼働に必要な原子力規制委員会の安全審査が続く。機構は30年代にHTTRの熱を利用した水素製造の試験に取り組む方針だ。