2021年7月22日木曜日

原発60年超運転 安全よりも経済性なのか

 信濃毎日新聞が「原発60年超運転 安全よりも経済性なのか」とする社説を掲げました。

 原発は当初30年ほどをライフと想定していた(原子炉圧力容器の中性子劣化度をチェックするテストピースは30年分取付)筈ですが、福島原発事故後それが40年に延長され、さらに例外的に60年まで延長できるとしました。
 当初それは例外規定でしたが、周辺の機器配管等を補強することで60年まで延長できることが事実上通例化しました。肝心の原子炉圧力容器や格納容器の交換が出来ないにもかかわらずにです。
 万一運転中の原子炉が爆発すればその被害は福島の比ではありません。それをさらに60年よりも延長しようというのは最早 非常識で、経済性を優先させ安全性を度外視するものです。
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〈社説〉原発60年超運転 安全よりも経済性なのか
                          信濃毎日新聞 2021/07/21
 「原則40年間、最長60年間」としている原発の運転期間の規定について、政府が延長を検討している
 40年ルールと称される現在の規定は、2011年の東京電力福島第1原発事故を教訓に、翌年の原子炉等規制法改正によって新たに導入された安全確保策の根幹である。
 原発ゼロへの世論が高まる中、老朽化原発から徐々に廃炉を進める趣旨で設けられた。原子力規制委員会が認可すれば1回に限り最長20年延長できるとの規定もあるが、当時の民主党政権は「極めて例外的」と強調していた。
 その例外延長は既に、全国で4基認可されている。うち運転開始から44年の関西電力美浜原発3号機(福井県)が先月、40年超原発として初めて再稼働した。原則は骨抜きになっている。
 そうした状況の上に表面化した60年超の検討だ。事故の教訓を完全に忘れたかのような対応と言わざるを得ない。なし崩しの原発復権を認めることはできない。
 原発は、古いものほど事故の危険性が高まる。配管などは新品に交換できるが、中心部分である原子炉圧力容器などは取り換えることができない。運転期間が長いと中性子線による劣化が進む。
 美浜原発では、40年超の運転に多くの地域住民が強い懸念を示している。60年超に理解が得られるとは思えない。
 政府が原発復権に向けた姿勢を強める背景には、菅義偉政権が掲げる「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」がある。
 原発は、発電に伴う二酸化炭素(CO2)を排出しない。このため脱炭素社会の実現に有効だとして活用を訴える動きが自民党内で加速している。経団連など経済界でも声が高まっている。
 経済界、そして原発を抱える大手電力会社が重視しているのは経済性だ。推進を主張する国会議員からは、巨額資金を投じた原発を十分に活用しないのは不経済、といった声が聞かれる
 推進派の本音は、事故後封印してきた新増設やリプレース(建て替え)の実現である。運転の延長だけでは、遅かれ早かれ原発の数が減っていくからだ。
 政府がいまのところ延長の検討にとどめているのは、脱原発を求める世論を刺激したくない思惑がある。批判をかわしつつ、いずれ本格的な原発復権につなげようとする意図が透ける。
 地球温暖化対策を口実に安全性の懸念より経済性を優先する。そんな姿勢は受け入れられない。