2019年9月19日木曜日

科学的に立証されていないトリチウム汚染水の安全性

 福島原発のトリチウム汚染水の処理に関して、維新の会代表で大阪市長の松井一郎氏が、「科学的に安全性が証明されれば大阪湾での放出を受け入れる」と発言したことに関連して、安全性の証明に関して考察した記事を出しました。
 現行では「科学的に有害性が立証されていなければ安全である」という論理が横行しているとしています。
 
 かつてカナダが、米国産のガソリンには(燃焼後)神経に害を及ぼす添加物が用いられているから輸入しないとしたのに対して、米国はその立証を迫り、最終的に輸入を受け入れさせた例があります。有害性を完全に証明するのはなかなか難しいという例です。
 何故逆に米国に対して「神経に害を及ぼすことはない」ことを立証させなかったかと思いますが、米加2国間貿易協定の紛争処理(ISD)委員会は、そもそも米国製品の販売を阻害するものの排除を最優先させる機関であったためと思われます。
 
 植草氏は、前述の論理(科学主義ではなく、「予防原則」に立つべきであるとしています。これは1992年環境と開発に関する国連会議で出されたリオデジャネイロ宣言の第15原則のことで、次のような文言になっています。
 
環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的取組を広く講じなければならない。重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない
 
 やや分かりにくい表現ですが、(生体に危険を及ぼしたり)環境悪化させる惧れがある場合、そのことが十分な科学的確実性を以て証明されていなくても、それを(摂取することや)環境に放出することを避けるべきであるというものです。
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科学的に立証されていない放射能汚染水安全性
植草一秀の「知られざる真実」 2019年9月17日
東京電力福島第一原子力発電所に、100万トンを超える放射能汚染水が保管されている。
放射能汚染水はいまも増え続けている。
この問題について、原田前環境相が「放出しかない」と発言したが、9月11日の内閣改造で環境相に就任した小泉進次郎氏は、首相官邸での就任記者会見で、
「福島の漁業の再生などに努力されてきた方々のご苦労をさらに大きくしてしまうようなことがあったとしたら、大変申し訳ないことだと思う」と述べた。
 
この発言について、原発推進派が批判している。
この問題に関して、日本維新の会代表で大阪市長の松井一郎氏は、科学的に安全性が証明されれば「大阪湾での放出を受け入れる」との考えを示した
ここで問題になるのが、「科学的に安全性が証明されれば」という言葉の意味だ。
食の安全でも「科学的証明」という言葉が用いられる。たとえば、遺伝子組み換え食品や毒性の強いグリホサートを主成分とする農薬の利用についてだ。
 
「科学的証明」によって利用が認められるというのは次の説明による。「科学的に有害性が立証されていないから摂取することに問題はない」
遺伝子組み換え食品の有害性に関する研究は数多く行われている。マウスを使った動物実験では発がん性が確認されている。しかし、この研究結果によって「科学的に有害性を立証すること」は容易でない。
 
フクシマで原発事故後に甲状腺がんの発生が激増している。通常の発生確率をはるかに上回る確率で甲状腺がんが発生している。しかし、原発事故による放射能拡散と甲状腺がんの因果関係を「科学的に立証すること」は容易でない。
遺伝子組み換え食品の有害性が強く懸念される状況であっても、「有害性を科学的に立証すること」は容易でなく、その壁を超えない限りは、「科学的に有害性は立証されておらず」「安全である」とされてしまうのだ。
放射能汚染水を海洋に放出することについても、そのことによる有害性を「科学的に立証できない」限りは、「安全」とされてしまう
 
「科学主義」の反対概念は「予防原則」である「予防原則」とは、安全であることが科学的に立証されるまでは危険性のリスクを回避する原則である。
 
福島原発事故に伴う放射性物質の拡散による健康被害について、健康被害を引き起こさないことについて科学的に立証されるまでは、リスクを回避する行動を取る。健康調査を徹底して実施する。居住制限を安易に解除しない。これが「予防原則」に立脚した対応になる。
放射能汚染水の海洋放出についても、安全性が科学的に立証されるまでは、これを認めない。これが「予防原則」に立つ対応になる。
 
米国で使用が認められていたグリホサートを主成分とする農薬の利用によってがんを発症した人が損害賠償を求める訴訟を提起した。米国の裁判所は原告の訴えを認めて農薬メーカーに損害賠償を命じる判決を示した。
このようなことが現実に生じている。
「予防原則」を基軸にした対応が取られていれば被害は防ぐことができていた。
放射能汚染水の安易な海洋放出を認めるべきではない。
(以下は有料ブログのため非公開)