福島第一原発事故で避難を余儀なくされた福島県浪江町は、23年3月31日に避難指示が解除されます。
浪江町出身の栃本あゆみさん(35)は、21年に東京から浪江町に戻り、おむすび専門店「えん」を開きました。22年10月に出店の期限を迎えたため一旦店を閉じましたが、23年6月に新しい店をオープンする予定で、ふるさとや町民 そして訪れた人に食材を作った人を、おむすびで縁を結んでいこうとしています。
福島テレビがそんな栃本さんの意気込みを伝えました。
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変わり果てた故郷・浪江町との縁を結ぶ おむすびに込めた思い「帰れる場所を作りたい」
福島テレビ 2023/3/22
福島第一原発事故で避難を余儀なくされた福島県浪江町。2023年3月31日の避難指示解除に向け復興が進む。そんな町の”おむすび専門店”は、町民も訪れた人も…浪江町に関わるすべての人との“縁”を結ぶ。
おにぎりではなく”おむすび”
浪江町出身の栃本あゆみさん(35)。高校を卒業後東京で働いていたが、2021年に浪江町に戻り、おむすび専門店「えん」を開いた。
栃本さんが店を構えたのが仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」 避難指示の解除後、浪江町に戻った人の生活を支える場所として2016年にオープンした。
2021年からは町内で事業を始める人を支援する、チャレンジショップに目的を変更。栃本さんは、2022年10月に出店の期限を迎えたことから一旦店を閉じ、チャレンジショップから初めての独立を目指している。
「えん」の”おむすび”は、福島県産のコメに請戸産のジャコなど、食材は地元のものを使っている。栃本さんは「人との繋がりを大事にしたいという意味でおにぎりではなく、”おむすび”と呼んでいます」と話す。
浪江町に帰れる場所を作りたい
震災の津波で大きな被害を受けた故郷・浪江町。
栃本さんは東京で生活していたが、原発事故で避難指示が出され変わり果てていく町の姿を複雑な思いで見てきた。
「人もいない。人がいないから音もしないですし、すべてが、木とか全部止まっているような感覚になりましたね」
栃本さんの家族も福島県いわき市で避難生活を続けていたが、2016年に父親の典一さんが故郷へ帰る日を待たずに、避難先で亡くなった。
栃本さんは「家族みんな、浪江に帰りたいっていう思いがすごく強くて。皆を帰らせてあげられなかったという無念さもありますし、亡くなった父や祖父などは悔しかっただろうなっていう思いもあります。帰れる場所を作りたい」と思いを語った。
おむすびがくれる安らぎ
店を開いて、町民が帰れる場所を作ろうと考えた栃本さん。上京して間もない頃に、自分が癒やされた「おむすび」を提供しようと決めた。
「本当にほっこり、懐かしさだったり自分の心を癒された記憶があって。あんなおむすびを、浪江の人たちとか沢山の人たちに食べて欲しいなっていう思いがあって、おむすびにしました」
2023年3月31日・午前10時。浪江町は復興拠点の避難指示が解除され、復興がまた一歩前へ進む。
栃本さんは、JR浪江駅近くの施設で働きながら、再び店を開く準備を進めている。「人の流れが出てきて、出入りが多くなってきて、これからすごく楽しみだなって思います。人がどんどん増えていくんだろうなって」とすでに変化を感じていた。
浪江町の中心部に、おむすび屋「えん」をオープンさせる予定。しかし建築資材や調理器具の価格が高騰しているなど、オープンに向けて逆風が吹く。そんな中でも応援を力に乗り越えようとしている。
「応援してくれた方々が、まだなの?と言ってくれるので、期待に応えたいというその気持ちがあるのが一番かもしれないです」
栃本さんの新しい店のオープン予定は2023年6月。ふるさとや町民 そして訪れた人に食材を作った人。おむすびで縁を結んでいく。
「色んな人の心も体も幸せになれるような、おむすびを提供していけるように頑張りたいです。一緒に成長していくじゃないですけど、浪江町と関わりながら、自分もお店も成長していけたらなって思います」