東日本大震災から12年、政府は原子力政策を大きく転換したと受け取れる閣議決定について、政府諮問機関の原子力委員会でかつて委員長代理を務めていた長崎大学の鈴木達治郎教授は、岸田首相が「原子力を最大限活用する」としたことは、「脱炭素社会の実現」を口実にした原子力政策の大転換で、今の電力危機、価格高騰をうまく利用して原発政策転換を法律にしてしまおうという動きに見えると指摘します。
また運転期間の規定を原子力規制委が所管する「原子炉等規制法」から、経産省が所管する「電気事業法」に移した(安全規制に関わる条文を「推進側」の経産省が所管する法律に移した)ことは、規制委の独立性の点で問題であるとしました。
原発の新設については経済的合理性がなく疑問で、今の段階で法律を改正するのは拙速だと思うと述べました。
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“原子力政策の大転換だ” 原子力委員会で委員長代理を務めた長崎大学・鈴木達治郎教授
RKB毎日放送 2023/3/16
東日本大震災から12年、政府は原子力政策を大きく転換したと受け取れる閣議決定をしました。議論の進め方や決定の仕方に問題はなかったのか。政府諮問機関の原子力委員会で、かつて委員長代理を務めていた長崎大学の鈴木達治郎教授は「原子力政策の大転換だ」と指摘しています。
「60年超え原発の稼働はやめろ!」
3月11日、東日本大震災から12年を迎えました。
RKB小畠健太「福岡市天神です。東日本大震災の時間帯にあわせて開かれたデモ集会には、多くの人が集まっています」
福岡市でも原子力発電所の運転に反対する約200人が抗議の声を上げました。
抗議デモ「60年超え原発の稼働はやめろ!」
原発の運転期間“原則40年、最長60年”
2011年3月、福島第一原子力発電所で起きた事故。福島県内の広い地域で「帰還困難区域」が設定され、多くの人がふるさとでの生活を奪われました。当時の民主党政権は、原発の安全性を担保する独立した機関として、「原子力規制委員会」を設置したほか、原発の運転期間を原則40年、最長60年として、「原子力への依存度をできる限り低減する」方針を決めました。その方針はずっと引き継がれてきましたが…
岸田総理「原子力を最大限活用する」
岸田総理「次世代革新炉への建て替えや、運転期間の一定期間の延長を進めます」
岸田総理は先月、脱炭素社会の実現などに向けて「原子力を最大限活用する」とした基本方針を発表、その後、関連する法案を閣議決定しました。その内容には、最長で60年としてきた原発の運転期間を延長できるようにする、次世代型革新炉の新設を政府が後押しして進める、廃炉・放射性廃棄物処分の体制を強化する、ということが盛り込まれています。
鈴木教授“原子力政策の大転換だ”
政府諮問機関の原子力委員会で、かつて委員長代理を務めていた長崎大学の鈴木達治郎教授。今回の政府の方針転換について「脱炭素社会の実現」を口実にした原子力政策の大転換だと指摘します。
長崎大学 鈴木達治郎教授「今回の閣議決定の中には、(元々あった)原子力依存度を低減するという文章はないので、どう考えても政策転換というふうに解釈されてもおかしくはないと思います。今の電力危機、価格高騰をうまく利用して原発政策転換を法律にしてしまおうっていう、そういう動きに見える、見えますよね」
今回の政府の方針によると、安全審査などで停止していた期間を繰り越して、最長60年とした期限を超えての運転が可能になります。運転期間の延長とその安全性について、原子力規制委員会でも4か月にわたり議論が行われてきました。
原子力規制委員会 石渡明委員「この改変、法律の変更というのは科学的技術的新知見に基づくものではない。安全側への改変とも言えない。こうしたことにより、この案に反対致します」
議論の進め方に苦言
先月13日の委員会では、5人中1人の委員が反対する中、異例の多数決で「延長を認める」判断が決定されました。その際、賛成した委員からも議論の進め方に苦言が呈されました。
杉山智之委員「これ説明が圧倒的に足りないと思うんですよ。我々これを決めるにあたって、外から定められた締め切りを守らなくてはいけないと、そういう形で急かされて議論してきた。我々は外のペースに巻き込まれずに議論をすべきだったと思う」
長崎大学 鈴木達治郎教授「原子力規制委員会の独立性をどう担保するかというのがまず第一ですね。これは信頼性にも関わってきますね。今回の法律改正の狙いである、運転期間の延長、例えば60年の寿命を迎える原発は日本ではまだ10年以上先なんですよね。だから慌てることはないです。じっくり議論したらいい」
鈴木教授“規制委の独立性に問題か”
鈴木教授は、ほかにも問題点があると指摘します。それは、運転期間の規定を原子力規制委員会が所管する「原子炉等規制法」から、経済産業省が所管する「電気事業法」に移すことです。安全規制に関わる条文を、「推進側」である経産省が所管する法律に移す必要はないと話します。
長崎大学 鈴木達治郎教授「『規制委員会の方が止めようと思えば止められるので、今と変わらない』と説明していますが、だったらわざわざ電気事業法に持って行く必要もない。経産大臣の管轄になるので、非常に寿命延長のやり方がやりやすくなるというふうに思ったに違いないということは、原子力規制委員会に対して規制の一部を取り除くことになりますので、これは規制委の独立性という意味では問題かもしれないと私は思います」
鈴木教授“原発新設に疑問”
もう一つの大きな方針転換が、原発の新設です。先月、閣議決定した基本計画では「原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と明記されています。鈴木教授は、既存原発の再稼働については「経済的合理性がある可能性が高い」とする一方で、原発を新設することには疑問を呈しています。
長崎大学 鈴木達治郎教授「2030年に新しく原発を建てたときのコストとしては、経産省がもう2年前に計算していて、必ずしも「最も安い電源ではない」ということが明らかになっています。新設のものについて言えば、再生可能エネルギーよりはもう多分高いだろうっていうことは、国際的な常識になっています。今の段階で、本当に既存の原発の運転延長の方が経済的なのか、新設の方が経済的によくわからない段階で法律改正してしまうというのは、やはり拙速だと思いますね。福島第一の原発の廃炉をどうすんだ、復興はどうすんだ、今まで今でも避難されている方々の対応はどうするんだ、賠償の問題はどうするんだという。やんなきゃいけないこと一杯あるわけですよ。そっちにまず優先順位を置いてほしい」