2019年12月25日水曜日

泊原発が放射性廃棄物を半量で報告 30年超

 原発のデータ隠蔽や捏造については、2000年代に大々的に東電のデータ隠蔽が明らかにされて以来疑惑に塗れてきました。
 北電は24日、泊原発から大気中に放出している放射性廃棄物について、1号機が試運転を開始した1988年当時から、周辺自治体などに、「誤って」実際の半分程度の値を報告していたと発表しました。本当に「誤って」だったのか俄かには信じられません。
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泊原発、放射性廃棄物を過少報告 30年超、実際の半分
共同通信 2019/12/24
 北海道電力は24日、泊原発(泊村)から大気中に放出している放射性廃棄物について、1号機が試運転を開始した1988年当時から、周辺自治体などに、誤って実際の半分程度の値を報告していたと発表した。原発の運用ルールの保安規定で定める目標値は下回っており、周辺環境に影響はないとしている。
 同社によると、気体の放射性廃棄物はフィルターなどで放射性物質を低減した上で、1~3号機の排気筒や、原子炉建屋に隣接する「放射性廃棄物処理建屋」の焼却炉煙突などから排出している。
 放出量は原子力規制庁や道、泊村などに定期的に報告している。

福島第1原発のトリチウム水処分に3案(続報)

 福島民友が、政府が小委員会に提言した「希釈して海洋放出」「蒸発させて大気に放出(水蒸気放出)」「両者の併用」の3案について報じました。続報として紹介します。
 政府は「希釈して海洋放出」する案が実績のある案だとしていますが、これは各原発が国民に公表しないまま稼働後 密か続けてきたということに過ぎず、福島原発で大量に発生したのを機に公表したに過ぎません。
 改めて大量を放流する危険性について審議すべきです。
 末尾の解説の記事が完全に政府案に同調しているのも気になります。
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福島第1原発の処理水処分に3案 政府小委、長期保管含まず
福島民友 2019年12月24日
 東京電力福島第1原発で保管される放射性物質トリチウムを含む処理水を巡り、経済産業省は23日、政府の小委員会が取りまとめる提言案を示した。処分を前提に国内外の実績などを踏まえ、「希釈して海洋放出」「蒸発させて大気に放出(水蒸気放出)」「海洋、大気放出の併用」の3案を提示した。事実上、処分方法を絞り込んだ形で、結論に向けた議論が大きく動きだした。
 東京都内で開いた会議で示した。処分時期については「政府が責任を持って決定すべきだ」と求めた。委員から風評被害対策が不足しているとの指摘が出たため、議論は年明け以降も継続される。政府は県民の意見も踏まえて方針を決定するが、漁業関係者を中心に処分に反対する声は根強く、処分方法の決定に向けた先行きは不透明だ。

 小委は2016(平成28)年11月以降、政府の作業部会がまとめた〈1〉地層注入〈2〉海洋放出〈3〉水蒸気放出〈4〉水素放出〈5〉地下埋設―五つの処分方法を検討してきた。
 提言案では、地層注入、水素放出、地下埋設は前例がなく「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多い」と指摘。その上で、国内外の原発で実績がある海洋放出、米国の原発で前例のある水蒸気放出に加え、風評への影響が漁業など特定の産業に偏ることを防ぐ観点から、二つを組み合わせた3案で検討することを明記した。

 長期保管についてはタンク増設のための第1原発敷地の拡大や敷地外への処理水移送が困難だと結論付けた。
 この日の会合では、風評被害の観点から海洋放出と水蒸気放出に難色を示す声もあった。また、風評被害の影響について「心理的な消費行動によるところが大きく、社会的影響の観点から処分方法の優劣を比較するのは難しい」とした提言案の記載に関し、「公聴会や海外の反応を考えると、海洋放出の社会的影響は極めて大きいと書くべきだ」との意見も出た。

◆「反対姿勢変わらず」県漁連担当者
 小委員会の提言案に対し、県漁連の担当者は「トリチウム水の海洋放出反対の姿勢は変わっていない。今後の推移を見守っていきたい」とコメントした。

◆風評対策記載乏しく 
【解説】経済産業省が処分方法を海洋放出と水蒸気放出に絞り込んだ背景には国内外の原発での実績を踏まえ、技術的な確実性や安全性などの裏付けがある。ただ処分に伴う風評被害を懸念する声は多く、国内、海外を含めた理解の醸成をどう図るかが大きな課題だ。
 小委の初会合から約3年で議論が節目を迎えた。五つの処分方法のうち、海洋放出は基準を満たせば放出が世界的に認められており、水蒸気放出は炉心溶融した米・スリーマイルアイランド原発で実施済みだ。いずれも被ばく線量が通常生活で自然に被ばくする線量より大幅に低いという試算もあり、風評被害を少しでも抑制したい狙いがある。

 ただ提言案ではこれまで風評被害対策について議論してきた記載が乏しく、委員からは「検討が不足している」として、放出に伴う社会的影響について精査を求める意見が出た。小委は科学的な安全性に加え、社会的影響の検討も重視してきた経緯があり、次回会議で詳しく示される見通しだ。
 東電の処理水の保管計画では早ければ22年夏にも保管タンクの容量は満杯になる。だが、処分に反対する漁業関係者ら地元住民の納得なくして処分方法の決定はない。時間的制約が迫る中、地元理解という高いハードルは残されたままだ。

25- 肥育牛検査を全頭から全戸に縮小 福島県が方針

肥育牛検査を縮小 福島県が方針、全頭から全戸に
河北新報 2019年12月24日
 福島県は23日、東京電力福島第1原発事故後に続けている県産牛の放射性物質濃度の全頭検査で、2020年度から肥育牛については一部を除き、農家ごとに年1頭以上の全戸検査に縮小する方針を明らかにした。「不検出」が8年以上続くためで、福島市内で開かれた有識者らの検討会議で示した。国と今後詳細を詰め、年明けに正式決定する。
 県内の肥育牛は県産牛全体の8割に当たる年1万5000頭が出荷される。全戸検査は約200戸の農家が対象となる。
 県によると、全頭検査が始まった11年8月から今年11月までに検査した計17万2728頭で、国の基準値(12年10月から1キログラム当たり100ベクレル)を超えた事例はなかった。繁殖期を終えたおおむね8歳以上の老齢牛(年3000頭出荷)は下限に近いごく微量の検出例があり、全頭検査を続ける。
 生産者団体や流通業者らが出席した会議は非公開で行われた。「丁寧に情報発信してほしい」などの慎重意見が出たが、目立った反対はなかったという。県畜産課の森口克彦課長は「消費者に十分安心してもらえるよう丁寧な検査と情報発信に努める」と話した。

2019年12月24日火曜日

トリチウム汚染水を「海洋放出」「大気放出」「併用」の3案に 政府

 政府は福島原発のトリチウム汚染水の処理について、これまでの6案から ①放射性物質の濃度を基準値以下に薄めて海に流す ②蒸発させ大気に放つ ①と②を併用する の3案に絞ることを有識者小委員会に提案しました。
 最も安易な方法(とその組み合わせ)であり、国民の健康や地球汚染を配慮したとは思われません。
 福島県の漁業者らからは「海洋放出ありきで強引だ」などと反発の声が上がりました。
 これは福島県だけの問題ではありません。
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海洋放出、漁業者反発 「結論ありき、再検討を」 福島原発
時事通信 2019年12月23日
 「海洋放出ありきで強引だ」。経済産業省が23日、東京電力福島第1原発で発生する処理水の処分方法を、海洋や大気への放出に絞った報告書案を明らかにしたことに対し、福島県の漁業者らからは反発の声が上がった。
 小名浜魚市場(同県いわき市)の運営に携わる県漁業協同組合連合会の柳内孝之理事は「処理水が一度(海に)放出されれば、科学的に正確な情報を発信しても風評被害は抑えられず、漁業の衰退を招く」と危惧する。
 柳内理事は、処理水を長期間保管すれば放射線量が下がってリスクを減らすことができると指摘し、「小委員会は海洋放出ありきで議論しており、強引だ。再検討してほしい」と訴えた。


福島第1汚染処理水「海洋放出」「大気放出」「海洋・大気の併用」
  政府が3案
毎日新聞 2019年12月23日
 政府は23日、東京電力福島第1原発でタンクにためられている汚染処理水について、これまで示されていた6案から「海洋放出」「蒸発させ大気放出」「海洋、大気放出の併用」の3案に絞ることを有識者小委員会に提案した。3案以外は、法律の規制や技術の面などで課題が多いという。処分の開始時期については踏み込まず「政府が責任をもって決定する」とした。 

 タンクの汚染処理水は11月の時点で約117万キロリットル。技術的に取り除くのが難しい放射性トリチウムなどが含まれ、1日当たり約170キロリットル(昨年度)ずつ増えている。東電は、敷地内の空き地に計137万キロリットル分までならタンクを整備できるとしているが、2022年夏ごろに満水になる。 
 政府の有識者小委では、これまで①放射性物質の濃度を基準値以下に薄めて海に流す ②蒸発させ大気に放つ ③セメントなどで固めて地下に埋める ④パイプラインで地下に注入 ⑤電気分解して処理後に大気に放出 ⑥貯蔵タンクで長期保管――の6案が示されていた。

 政府は23日に開いた有識者小委に、海洋放出などの3案を提案。その理由として、国内外の原発で実績があることや、環境への放射性物質の広がりを確認しやすいことなどを挙げた。長期保管は、11年から30~40年としている廃炉までの期間に汚染処理水を処分できないため、政府の提案から漏れた。

 政府の提案について、ジャーナリストの崎田裕子委員は、前例のある処分方法(海洋または大気放出)が安心感につながるとした。東京大総合防災情報研究センター准教授の関谷直也委員は「海洋放出した場合、社会的な影響が大きいことを提言に盛り込むべきだ」と話し、今後も議論を続けていくことを確認した。

 毎日新聞が委員に実施したアンケートでは、複数の委員が「6案から処分方法を決めて提言はしない」という認識を示していたが、3案に絞られたことに異論は出なかった。政府は、この3案を軸に小委に提言をとりまとめてもらう方針。政府は小委がまとめた提言を踏まえ、自治体など地元の関係者に意見を聞いて、最終的な処分方法を決める。【岩間理紀、斎藤有香】 

汚染廃焼却のリスク考慮を 仙台で講演会

 国基準(1キログラム当たり8000ベクレル)以下の放射能汚染廃棄物の焼却中止を求める訴訟を巡り22日、専門家を招いた講演会が仙台市で開かれました。
 そこでは一旦土壌に沈着した放射性セシウムが強風などの諸要因で空間に放出され、「人体に容易に取り込まれる」と指摘されました。
 汚染廃棄物の焼却は放射性物質を拡散させ、地域住民が内部被ばくする危険性をはらむことになります。

追記)セシウムは焼却するとガス化するので通常のバグフィルターでは捕捉できません。
  何よりも排煙中のセシウム除去装置の仕様と性能を先ず明確にする必要があります
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汚染廃焼却のリスク考慮を 仙台で講演会
河北新報 2019年12月23日
 東京電力福島第1原発事故に伴う国基準(1キログラム当たり8000ベクレル)以下の汚染廃棄物の焼却中止を求める訴訟を巡り、原告団を支援する有志団体が22日、専門家を招いた講演会を仙台市内で開いた。
 登壇したのは元裁判官で原発訴訟に詳しい井戸謙一弁護士。土壌に沈着した放射性セシウムが強風などの諸要因で空間に放出される仕組みをスライドで解説し、「人体に容易に取り込まれる」と指摘した。
 その上で、汚染廃棄物の焼却は放射性物質を拡散させ、地域住民が内部被ばくする危険性をはらむと強調。「従前の司法はこのリスクを軽視してきた。全国の先陣を切る訴訟として頑張ってほしい」と述べた。

 訴訟を巡っては仙台高裁が7月、焼却中止を求める住民側の仮処分申請を却下。仙台地裁では、焼却関連の公金支出の停止を求める訴訟が続いている。
 「大崎住民訴訟を支援する会」が10月に発足したのを記念して開催され、約110人が参加した。

24- 核ごみ最終処分 八戸で県内2度目の説明会

核ごみ最終処分について青森懸念 八戸で県内2度目の説明会
河北新報 2019年12月22日
 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分について理解を深めようと、原子力発電環境整備機構(NUMO)と資源エネルギー庁は21日、対話型の説明会を八戸市で開いた。核のごみを一時貯蔵する青森県で説明会を開くのは、昨年7月の青森市以来2回目。
 説明会には応募した県民ら約40人が参加。前半は地層処分の意義や安全性、選定後のプロセスなどに関して担当者が説明した。最終処分地の候補となり得る地域を色分けした「科学的特性マップ」を示しながら理解を求めた。

 後半は少人数のグループに分かれ、参加者とNUMOの職員が直接議論。「処分地が決まる見通しはあるのか」「本当に安全だと言い切れるのか」などの質問が出された。県内が最終処分地となりかねないことへの不安の声も聞かれた。
 エネ庁の那須良・放射性廃棄物対策課長は「最終処分の実現に向けて、取り組みを一歩ずつ進めていく」と話した。NUMOは22日、弘前市でも説明会を開く。

2019年12月23日月曜日

原発を止めた裁判官が語る、運転停止を判断した恐ろしすぎる理由

 ジャーナリストの新恭(あらたきょう)氏が、樋口英明・元福井地裁裁判長が12月1日に兵庫県内で行った講演について詳しく語りました。
 樋口英明氏は2014年5月21日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じ、2015年4月14日には、関西電力高浜原発3・4号機について再稼働差し止めの仮処分を認める決定を出した裁判官です。
 そのことに慌てた最高裁事務総局(判事の人事を管轄)は直ちに樋口氏を家庭裁判所の判事に異動し、その後任に事務総局勤務経験のあるエリート判事らを当てて控訴審ではいずれも再稼働を認めさせたのはご存知の通りです。

 樋口元判事は講演で、現行の原発の強度は低すぎて、予想される地震の地震動に持たないことを強調しました。現実に福島第一原発の格納容器は「地震動によって」下部構造の一部が破壊され、そこから圧力が抜けたために格納容器の大爆発が避けられたのでした。
 
 長文ですが読み応えのある報文です。
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原発を止めた裁判官が語る、運転停止を判断した恐ろしすぎる理由
まぐまぐニュース 新恭(あらたきょう) 2019.12.20
樋口元裁判長はなぜ原発を止めたのか
福島第一原発の事故が起きてからこのかた、全国各地で提起された原発訴訟で、原発の運転を止める判決を出した裁判長はたった二人である。
そのうちの一人、元福井地裁裁判長、樋口英明氏は、12月1日に兵庫県内で行った講演で、なぜ裁判所が原発に「ノー」を突きつけたか、その理由を理路整然と語った。
静かな語り口に、迫力を感じ、筆者は思った。ひょっとしたら、福島第一原発事故のほんとうの怖さを、政府も、原子力規制委員会も、電力業界も、そして大半の裁判官も、わかっていないのではないか、あるいは、わかろうとしていないのではないかと。

「二つの奇跡」を樋口氏はあげた。それがなかったら、東日本は壊滅状態となり、4,000万人が避難を余儀なくされたかもしれないのだ。
樋口氏は2014年5月21日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じ、2015年4月14日には、関西電力高浜原発3・4号機について再稼働差し止めの仮処分を認める決定を出した。電力会社にとっては“天敵”のような存在だった。
樋口氏は原発について、しっかりと情報を集め、冷静に分析したうえで、確信を持って運転停止の判断をしていた。
まず、福島第一原発が、どれくらいの地震の強さを受けたのかを把握しておこう。800ガルだ。震度でいえば6強。
この揺れで、火力発電所と電線でつながっている鉄塔が折れ、外部電源が遮断された。地下の非常用電源は津波で破壊された。800ガルの地震が原発に及ぼす影響の大きさを記憶しておいていただきたい。
福島第一原発は電源のすべてを失った。稼働中だった1、2、3号機はモーターをまわせなくなって、断水状態となり、蒸気だけが発生し続けた。水の上に顔を出したウラン燃料は溶けて、メルトダウンした。
4号機でも空恐ろしいことが起きていた。定期点検中で、原子炉内にあった548体の燃料すべてが貯蔵プールに移されていたため、合計1,331体もの使用済核燃料が、水素爆発でむき出しになったプールの水に沈んでいた。
使用中の核燃料なら停電すると5時間でメルトダウンするが、使用済み核燃料はエネルギー量が少ないため4、5日かかる。しかし、使用済み核燃料のほうが放射性降下物、いわゆる「死の灰」はずっと多い。もし、4号機の使用済み核燃料が溶融したらどうなるか。
菅首相の要請を受けて、近藤駿介原子力委員長が、コンピューター解析をさせたところ、放射能汚染で強制移住が必要な地域は福島第一原発から170km、任意移住地域は250kmにもおよび、東京都の1,300万人を含め4,000万人を超える人々が避難民になるという、恐怖のシナリオが想定された。

不幸中の幸いというべきか、4号機の燃料貯蔵プールは偶然、大量の水によって守られた。ふだんは無い水がそこに流れ込んできたからだ。
原子炉圧力容器の真上に「原子炉ウェル」という縦穴がある。ちょうど燃料貯蔵プールの隣だ。ふだん、このスペースに水は入っていない。
だが、定期点検中だった事故当時、「シュラウド」と呼ばれる隔壁の交換を水中で行う作業が遅れていたため、原子炉ウェルと隣のピットは大量の水で満たされたままだった。そして、そこから、水が隣の燃料貯蔵プールに流れ込んだのだ。

樋口氏は語る。「原子炉ウェルと貯蔵プールは別のプールです。水が行き来することはない。だけど、仕切りがズレた。地震のせいでズレたのか、仕切りが、たまたま弱くて、ズレたのかわからない。入ってきてはいけない水が入ってきた」。
ふだんは無い水がそこにあり、入るべきではないのに侵入した。おかげで、4号機プールの燃料は冷やされ、最悪の事態は免れたというわけだ。このめったにない偶然。「4号機の奇跡」と樋口氏は言う。

もう一つの「奇跡」は2号機で起きた。2号機はメルトダウンし、格納容器の中が水蒸気でいっぱいになり、圧力が大爆発寸前まで高まった。圧力を抜くためにベントという装置があるが、電源喪失で動かせない。放射能が高すぎて、人も近寄れない。
当時の福島第一原発所長、吉田昌郎氏は、格納容器内の圧力が設計基準の2倍をこえた3月15日の時点で、大爆発を覚悟した。のちに「東日本壊滅が脳裏に浮かんだ」と証言している。
ところが不思議なことに、そういう事態にはならなかった。水蒸気がどこからか抜けていたのだ。
「多分、格納容器の下のほうに弱いところがあったんでしょう。格納容器は本当に丈夫でなければいけない。だけど弱いところがあった。要するに欠陥機だったために、奇跡が起きたんです」

福島第一原発事故の放射能汚染による帰還困難地域は、名古屋市域とほぼ同じ広さの337平方キロメートルにおよぶ。それだけでも、未曾有の人災である。しかし、二つの奇跡がなかったら、被害は国の存亡にかかわるほど甚大だったはずだ。
たまさかの工事の遅れと設備のズレで4号機プールに水が流れ込んだ。2号機の原子炉の欠陥部分から蒸気がもれ、圧力が逃げた。本来ならマイナスである二つの偶然が、奇跡的にプラスに働いた。あのとき、日本の命運は、かくも頼りないものに寄りかかっていたのである。
樋口氏が言いたいのは、原発がいかに危険であるか、もっと知ってほしいということだ。めったに起こらないことが起こっただけと高をくくってはいけない。原発がある限り、日本が崩壊する危険性と隣り合わせであることを自覚してほしいということだ。
「二つの奇跡」の話、知っている国民がどれだけいるだろうか。そして、原発の耐震設計基準は、大手住宅メーカーの耐震基準よりはるかに低いことを知っているだろうか。

福島第一原発事故では800ガルの揺れが外部電力の喪失を引き起こした。800ガルといえば先述したように震度6強クラスだ。その程度の地震は日本列島のどこで、いつなんどき起こるかしれない。
2000年以降、震度6強以上を記録した地震をあげてみよう。
・鳥取県西部:6強 ・宮城県北部:6強 ・能登半島沖:6強 ・新潟県上中越沖:6強
・岩手県内陸南部:6強 ・東北地方太平洋沖:7 ・長野県・新潟県県境付近:6強
・静岡県東部:6強 ・宮城県沖:6強 ・熊本:7 ・北海道胆振東部:7 
・山形県沖:6強
これだけある。

ガルで表せば、もっとわかりやすい。大阪府北部地震は806ガル、熊本地震は1,740ガル、北海道胆振東部地震は1,796ガルを観測している。
三井ホームの耐震設計基準は5,000ガル。すなわち5,000ガルの揺れに耐えるよう設計されることになっている。住友林業の耐震設計基準は3,406ガルだという。
それに対して、原発の耐震設計基準はどうか。大飯原発は当初、405ガルだった。なぜか原発訴訟の判決直前になって、何も変わっていないにもかかわらず、700ガルに上がった。コンピューターシミュレーションで、そういう数値が出たと関電は主張した。
たとえ700ガルまで耐えられるとしても、安心できる設計ではないのは、これまで述べてきたことで明らかであろう。

樋口氏はため息まじりに言った。
「原発は被害がでかいうえ、発生確率がものすごく高い。ふつうの地震でも原発の近くで起これば設計基準をこえてしまう。電力会社は400とか700ガルの耐震設計基準で良しとして、大飯原発の敷地に限っては700ガル以上の地震は来ませんと、強振動予測の地震学者を連れてきて言わせる。信用できないでしょ。“死に至る病”を日本はかかえているんです」
首相官邸の影響下にある最高裁事務総局の意向を気にする“ヒラメ裁判官”がはびこるなか、政府の原発再稼働政策に逆らう判決を繰り返した気骨の裁判官は、原発の危険性について、ここまで掘り下げ、分析したうえで、結論を出していたのだ。
2014年5月、樋口氏が福井地裁の裁判長として大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じたさいの判決文にはこう書かれていた。

原子力発電は経済活動の自由に属するが、憲法上、生命を守り生活を維持する人格権の中核部分より劣位に置かれるべきもの

人の生命や生活のほうが、経済活動の自由より大切であると、日本国憲法を根拠に断定した根底には、「原発は被害がでかいうえ、発生確率がものすごく高い」という樋口氏の認識があった。
「3.11の後、原発を止めたのは私と大津地裁の山本善彦裁判長だけ。二人だけが原発の本当の危険性をわかっていた。ほかの人はわからなかった。それだけのことです」
原発はどこも400ガルとか700ガルとかいった低い耐震基準でつくられているが、いまや日本列島全体が、それを上まわる強さの揺れの頻発する地震活動期に入っている。にもかかわらず、経産省・資源エネルギー庁シンドロームにおかされた政府は、電源構成に占める原子力の割合を2030年に20~22%まで復活させるプランを捨てていない。
繰り返しになるが、安倍首相ら政権中枢は、原発のほんとうの怖さをいまだにわかっていない、と断定するほかないだろう。国を滅ぼさないために、憲法改正より先にすることがある。原発ゼロ方針を内外に宣言し、実現のために一歩を踏み出すことである。

新恭(あらたきょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。