2013年9月22日日曜日

首相の汚染水問題の認識はおかしい

 安倍晋三首相19日に福島原発を視察し、何故かその場で6号機を廃炉にするよう東電に指示しました。そして記者会見では、五輪招致のプレゼンテーション時に問題となった「放射能は原発港湾内の0・3平方キロメートルの範囲に完全にブロックされている」という発言を繰り返しました。
 プレゼン時には沈黙していたメディアも、21日、いくつかの新聞が社説でそれを取り上げました。

 まず視察の場で6号機廃炉に言及したことに対しては、毎日新聞が「首相廃炉要請 パフォーマンスは無責任」、「首相廃炉要請 無人の町で誰が動かすか」(西日本新聞)、「首相廃炉要請 格好だけで解決できぬ」(京都新聞)などのタイトルで、批判を展開しています。

 次に、「放射能が原発港湾内完全にブロックされている」という発言はまともに取り上げる価値もないものですが、それをいいことに繰り返すに至ってはさすがに放置することもできません。北海道新聞は「汚染水問題 首相の認識はおかしい」、朝日新聞は「首相と汚染水―正しい現状認識で臨め」、高知新聞は「首相の原発視察 汚染水ブロックは完全か」とそれぞれ首相の認識をたしなめています。
 安倍氏は一体なぜ180年も前に発表されたアンデルセン童話「裸の王様」を演じているのでしょうか。

 また地元の福島民報は、そう言うのであれば確実に達成して欲しいとばかりに、「原発の汚染水処理 首相は有言実行を」と「首相廃炉要請 体制整え有言実行果たせ」の2つの社説を立てました。

 またプレゼン時の記者会見では、「東京は福島から250キロも離れているから大丈夫」ということも強調されました。しかしそれは福島を見捨てた発言だと批判されました。
 果たして福島県浪江町の町議会は20日、フクシマの現状は深刻であり、放射能はコントロールも完全にブロックもされていない、安倍首相の発言は福島を軽視するもので憤りを禁じ得ない、とする意見書を全会一致で可決しました。

 以下に、北海道新聞の社説と浪江町議会に関する毎日新聞の記事を紹介します。
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社説 汚染水問題 首相の認識はおかしい
北海道新聞 2013年9月21日
 安倍晋三首相は、東京電力福島第1原発を視察し、汚染水問題について、原発港湾内で「完全にブロックされている」とあらためて言明した。 
 しかし、実態は首相の認識とはかけ離れている。政府の試算でさえ、毎日300トンの汚染水が港湾内に流れ込む。それが船舶の出入り口を通じて外洋に流出し、薄められているにすぎない。 
 政府が公費を投入して建設する凍土遮水壁の効果も未知数で、事故収束に向け手探りに近い作業が続いている。首相の言葉とは裏腹に、状況がコントロールされていないことは誰の目にも明らかだ。 
 今回の視察では、被災者や漁業者と直接対話する機会もなかった。 
 東京五輪開催で汚染水の影響を懸念する海外に向けた演出が露骨ではないか。根拠の薄い安全宣言を重ねても疑念は拭えまい。 
 この時期にあえて、運転停止中の5、6号機の廃炉を東電に要請した首相の意図も不可解だ。もともと廃炉は事故直後から不可避とみられ、ほぼ既定路線だった。 
 首相が挙げる「事故対処に集中するため」という理由の聞こえはいいが、緊急性に乏しい。 
 現状は、1~4号機の廃炉の前提となる汚染水処理でつまずいている。福島第1原発では約3千人が過酷な作業を強いられており、手を広げる余裕があるか疑問だ。 
 本気で5、6号機の廃炉に着手するのであれば、人員、予算の手当てをした上で、廃炉計画全体を練り直す必要がある。 
 新たな仕事を加えることで、事故を起こした原子炉と汚染水という最優先課題の解決に遅れや支障が生じるとしたら、本末転倒だ。 
 綱渡りのような現実を直視せず、最高指導者が楽観論をふりまく現状に危うさを覚えざるを得ない。 
 不測の事態が起きれば、国際的な信用は失墜してしまう。 
 それ以上に憂慮すべきは、事故処理を担う東電や政府関係者がトップの見方に合わせ、事態の過小評価や、不都合な情報を伏せるといった行為に走りかねないことだろう。 
 原発をめぐっては、電力会社の隠蔽(いんぺい)体質と政府による情報操作まがいのやり方をいやというほど見せつけられてきた。福島の事故後も、改善されたとは言い難い。 
 政府と東電は汚染水対策に全力を挙げなければならない。同時に、汚染水の経路を突き止め、海洋モニタリングを強化し、国内外への情報公開を徹底すべきだ。 
 国民が何よりもまず知りたいのは、首相の見通しではなく、福島第1原発の現状と汚染の実態である。
 
 
浪江町議会:首相に抗議 汚染水制御発言「事実に反する」
毎日新聞 2013年9月21日
 東京電力福島第1原発の汚染水問題を巡り、安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)総会で「状況はコントロールされている」などと発言したことについて、原発事故で全域が避難区域に指定されている福島県浪江町の町議会は20日、「事実に反する重大な問題がある」とする抗議の意見書を全会一致で可決した。

 意見書によると、原発から1日推計300トンの汚染水が流出している「深刻な事態」であり、「『コントロール』『(港湾内で)完全にブロック』などされていない」と指摘。安倍首相が「健康への問題は全くない」と発言したことに対しては、浪江町だけで震災関連死が290人を超えるとし、「福島を軽視する政府、東電に憤りを禁じ得ない」と訴えている。【三村泰揮】