2013年9月6日金曜日

福島汚染水 国は当事者として責任果たせ

 オリンピックの東京招致委が4日、IOC総会が開かれるブエノスアイレスで記者会見を開いたところ、外国メディアからは原発の汚染水漏れ問題についての質問が相次ぎ、竹田理事長は「福島とは250キロ離れている。東京は安全」と繰り返し、不安の払拭に追われたということです。

 そもそも2年余りも東電と政府が実質的に問題を放置しておきながら、オリンピック招致の障害になりそうだからと、慌てて汚染水対策の基本方針を発表したのが3日でした。
 その丁寧な説明を受けたとも思えない竹田氏が、記者会見の場で政府になり代わって説明させられる立場に置かれたのはとんだ災難でした。

 政府の基本方針に対しては当然国内でも批判が上がっています。

 新潟日報は、
 「政府の対応策は従来の計画の枠内にとどまり、実施の主体は東電のままで国は金と口を出すだけという立場、東京五輪開催地招致を意識し体裁を繕ったパフォーマンスといわれても仕方がない。
 事態がここまで悪化したのは、事態を過小評価したばかりか経営優先でコスト意識に縛られ、対策が後手後手になった東電の責任が大きいが、その一方で、そうした状況を重く受け止めずに、対応を東電任せにしてきた国の姿勢も問われる。今度こそ国が前面に立ち、一刻も早く事態を解決しなければならない」
としています。

 琉球新報は、
 「対策のメインとなる凍土遮水壁は実効性が不確実であり、根本的な解決につながるのかは不透明。抜本的な対策を打ち出すなら東電の破綻処理も真剣に検討すべき時期」
と、より具体的な指摘をしています。
 
 確かに水温15℃前後で地中を日量1000トン規模で流動する地下水を、凍結させることができるという技術的な見通しが本当にあるのかは疑問です。
 また汚染水対策に投入される国費は、東電に返還させるか破綻処理させて政府が全責任を負うのかのどちらかしかありませんが、東電としては返還分は電気料金に上乗せするしかないので、どちらにしても国民が負担することになるわけです。
 東電をこのまま存続させて国民を納得させるのには無理がありそうです。

 以下に新潟日報と琉球新報の社説及び米紙NYタイムズの記事(東京新聞)を紹介します。
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(社説) 国の汚染水対策 当事者として責任果たせ
新潟日報 2013年9月5日
 これで底なしに見える危機を乗り切れるのだろうか。
 東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題で政府は470億円の国費を投入するなど対策の基本方針を決めた。東電任せだった対応を改め、国が前面に立つ姿勢を示したことは一歩前進だ。
 しかし、示された対応策は従来の計画の枠内にとどまり、実現まで時間もかかる。いまそこにある危機を食い止める決定打とはなり得ない。
 しかも、それらの実施主体が東電であることに変わりなく、国は金と口を出すだけという立場のままだ。
 これでは、福島県民をはじめとする国民の不安を拭うのは難しい。2020年の東京五輪開催地招致を意識し、体裁を繕ったパフォーマンスという指摘さえ出ている。

 今回の汚染水漏れは、評価レベル3に相当する新たな原発災害である。政府は先頭に立ち、当事者として事態収拾に当たるべきだ。
 7月、原発から毎日300トンもの汚染水が海上に流出していたことが明らかになり、8月には汚染水を貯蔵するタンクが水漏れを起こしていることが分かった。

 タンクの水漏れには、構造上の問題が関わっており、さらに拡大の様相を呈している。
 メルトダウンした核燃料が炉心に残る限り、汚染水は発生し続ける。それを確実に安全に処理し続けることが何よりの優先課題だ。

 状況が次々と連鎖的に悪化していったのは、東電の責任が大きい。事態を過小評価したばかりか、経営優先でコスト意識に縛られ、対策が後手後手に回ってしまった。
 その一方で、この状況を重く受け止めず、参院選挙や五輪招致への影響ばかりを懸念し、対応を東電任せにしてきたかに見える国の姿勢も問われねばならない。
 今回、国が予備費を投入して行う対策は、土中に凍土の壁を作って原子炉建屋への地下水流入と汚染水流出を防ぐ工事と、汚染水から放射性物質を取り除く除去装置の増設だ。

 だが凍土壁建設はこれまで実績が無く、その効果や耐久性は未知数だ。除去装置も完成まで1年以上かかる上、現存の装置は故障のため休止中で信頼性にも懸念がある。

 最も急がれるのは、地下水が原子炉建屋に流入する前にくみ上げ、安全性を確認した上で海へ流す「地下水バイパス」だ。これにより汚染水そのものの発生量を、核燃料の冷却に必要な最低限にまで減らすことが求められる。
 この方式には、風評被害拡大を恐れる地元漁民の反発もある。信頼性を失った東電がその説得に当たることは不可能だろう。

 国が前面に立ち、安全性の検証や補償責任を担い、一刻も早く実現しなければならない。
 汚染水問題の拡大に加え、柏崎刈羽原発の再稼働遅れなどで東電の経営見通しは厳しくなっている。経営破綻処理を求める声もあるほどだ。
 国家の信頼にかかわる問題だ。国が当事者としての立場を明確にし、あらゆる手段の結集を急ぐべきだ。

(社説) 汚染水国費投入 「東電任せ」のツケ残すな
琉球新報 2013年9月5日
 東京電力福島第1原発の汚染水漏えい問題に対処するため、政府は470億円の国費を投じて総合的対策を講じることを決めた。安倍首相は「東電任せにせず、政府が前面に立ち、解決に当たる」と強調した。しかし、今回の政府の対策も漏えいをすぐに食い止める有効策は見当たらず、根本的な解決につながるのかは不透明だ。
 政府の対策は、陸側から原子炉建屋に流れ込む地下水を遮る凍土遮水壁の設置と汚染水の浄化設備の増強が柱だ。だが、技術的にも実効性は不確かで、実現したとしても数年の時間を要する中期的な対策だ。

 対策ではまた、汚染水漏れを引き起こしている「フランジ型」のタンク約300基全てを、より信頼性の高い溶接型に切り替える。しかし、溶接型設置には1基で1カ月以上かかるとされ、フランジ型でのさらなる汚染水漏れのリスクを抱えながらの作業となる。
 そもそも、鋼板の接合部分をボルトで締めるフランジ型は当初から危険性が指摘されていた。しかし、東電は低コストで工期も短い同型の増設を重ねてきた。

 汚染水対策を急ぐ事情もあっただろうが、東電はここでも判断ミスをし、その場しのぎの対策を繰り返したことになる。全ての情報を東電が握り、隠蔽(いんぺい)的な体質と感覚で対策を進めてきた結果だ。
 東電の事故収束作業が行き詰まっていることは早くから見えていた。安倍政権は原発再稼働や原発輸出に熱心な半面、事故収束への対応は最優先課題として取り組んでこなかったのではないか。

 今回の対策も2020年夏季五輪の東京誘致に汚染水問題が影を落としていることを懸念し、慌てて政府の取り組む姿勢をアピールしているようにも見える。政府までが姑息(こそく)な対応になっては国内外の世論の信頼は得られない。
 抜本的な対策を打ち出すのなら、東電の破綻処理も真剣に検討すべき時期だ。汚染水対策への国費投入には「東電に返還させるか、破綻処理させて政府が全責任を負うのか、どちらかしかない。納税者にツケが回るのはおかしい」(河野太郎衆院議員)との批判も出ている。
 福島第1原発は廃炉に向け、汚染水だけでなく使用済み核燃料の処理など多くの難題が横たわる。事故対策費や賠償金が膨らむのは確実だ。問題の先送りはより大きなツケを生むことになる。

汚染水対策を疑問視 米紙NYタイムズ
東京新聞 2013年9月5日
 【ニューヨーク共同】米紙ニューヨーク・タイムズは5日までに、東京電力福島第1原発の汚染水漏えい問題について「専門家らが政府や東電の危機対応能力を疑問視し始めた」と伝える記事を掲載した。

 記事は政府が3日、総事業費500億円前後に上る対策を決定したことを紹介。その上で「2020年夏季五輪の開催地を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会を念頭に(懸念を払拭しようと)政府が発表した」との見方も出ていると指摘している。

 これまで放射性物質への対応を東電の手に委ね、結果的に原発を十分に制御できなかったとして、政府に対する国民の批判が最も強いとも伝えた。