2021年12月4日土曜日

原発被災地医療費免除、23年度にも縮小

 福島原発事故の避難者らを対象にした医療や介護の保険料、自己負担分を免除する特例措置に関し、政府は既に避難指示が解除された地域について、早ければ2023年度にも縮小を始める方向で検討しています

 特例措置で19年度に介護保険の保険料を免除されたのは約4万4000人、利用料を免除されたのは約8500人です。原発事故後、避難指示地域では要介護認定を受ける住民や1人当たりの介護費用が軒並み急増しました。
 復興庁幹部は「周知と準備期間を経て、早ければ23年度から段階的に縮小したいが、間に合わなければ無理はしない」と述べました。
 福島県立医大の坪倉正治教授は「支援を軟着陸させて終わらせるのは難しい」とした上で「介護サービスの利用をやめて、家にこもったり人と会わなくなったりして、健康悪化につながる住民が出てくることが想定される。個人ごとの相談やケアプランの点検といった対策とセットで打ち切りを進めることが重要」と語ります
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原発被災地医療費免除、23年度にも縮小 実情に応じた運用望む声
                             毎日新聞 2021/12/3
 東京電力福島第1原発事故の避難者らを対象にした医療や介護の保険料、自己負担分を免除する特例措置に関し、政府は既に避難指示が解除された地域について、早ければ2023年度にも縮小を始める方向で検討している。発生から10年以上。被災地では縮小はやむをえないとの意見がある一方、地域の実情に応じた運用を望む声が出ている。【尾崎修二、柿沼秀行、関谷俊介】
 特例措置は東日本大震災の津波・地震被災地や原発事故被災地を対象に発生直後の11年3月に始まった。津波・地震被災地への適用は12年に終了。現在は福島県内13市町村で原発事故で避難指示などが出た地域に当時居住していた人を対象とし、住民票を避難先に移した人も対象としてきた。
 厚生労働省によると、特例措置で19年度に介護保険の保険料を免除されたのは約4万4000人、利用料を免除されたのは約8500人で、免除額は総額約50億円。他の災害でも実施されているが、期間はおおむね1年で、16年の熊本地震でも約1年半だった。

 政府は19年の「復興の基本方針」で初めて「被保険者間の公平性などの観点から、適切な見直しを行う」とし、今年3月の基本方針では「避難指示解除の状況も踏まえ、適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら、適切な見直しを行う」と踏み込んだ。
 ただし、今も人が居住できない帰還困難区域が多く残る自治体とそうではない自治体では事情が異なる。以前に緊急時避難準備区域に含まれ、町による避難指示を12年3月末に解除した福島県広野町の遠藤智町長は「避難生活で損なわれた健康の回復ができていないなら継続が必要」としつつ「公平性が損なわれるという側面も承知している」と話す。一方、唯一住民が帰還できていない双葉町の伊沢史朗町長は「一律に運用を終了しないでほしい」と訴える。
 このため帰還困難区域では当面縮小しない方針で、復興庁幹部は「周知と準備期間を経て、早ければ23年度から段階的に縮小したいが、間に合わなければ無理はしない」と語る。
 「今までお世話になったし、打ち切りになっても仕方ないかな」。原発事故で避難指示が出た福島県南相馬市小高区の自宅を離れ、3年前から同県いわき市の災害公営住宅(復興住宅)に住む吉田タツさん(90)は言う。事故後、福島県内の避難所や千葉県の息子の家などを転々とし、いわき市の復興住宅に入った。そこは7カ所目の移転先。小高区への避難指示は16年7月に解除されたが、住民票はいわき市に移した。
 以前から心臓の調子が悪かった。避難生活の中で動脈硬化と診断され、心臓の血管を広げる治療をした。月に1度は復興住宅にある診療所に通うほか、緑内障や膝の治療も続けており、医療費無料はありがたい。政府の縮小方針に異論はないが、「介護を受けるとなったら(費用は)高いでしょうね」と、不安もある。

 原発事故後、避難指示地域では要介護認定を受ける住民や1人当たりの介護費用が軒並み急増した。65歳以上が払う介護保険料の基準額が多い全国の上位10市町村に避難6町村が入った時期もあった。「避難で住民が農作業をできず、震災前に比べ体力が低下した」(福島県葛尾村)といった訴えのほか、家族離散や地域コミュニティー喪失、介護サービスの充実した都市部への避難など、複合的な要因が絡む。
 葛尾村の松本弘副村長は「村民の帰還率は今も3割だ。支援はできる限り継続してほしいし、利用が増えた介護保険の免除は特に延長を望む」と話す。
 対象外の周辺住民との不公平感、無料ゆえの過度な利用を指摘する声もある。福島県立医大の坪倉正治教授(放射線健康管理学)は「支援を軟着陸させて終わらせるのは難しい」とした上で「(居宅や通所など)介護サービスの利用をやめて、家にこもったり人と会わなくなったりして、健康悪化につながる住民が出てくることが想定される個人ごとの相談やケアプランの点検といった対策とセットで打ち切りを進めることが重要」と語る。