2020年6月27日土曜日

再処理工場の有様が示す原発の現状(田中弁護士の“つれづれ語り”)

 田中淳哉弁護士が、新規制基準に適合するとされた六ケ所村の使用済み核燃料の再処理工場について、「再処理工場の有様が示す原発の現状」を明らかにしました。
 当ブログの様に「再処理工場」は無意味と頭ごなしにけなすのではなく、いつもながら限られた字数の中でその問題点を簡潔に分かりやすく説明しています。
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つれづれ語り(再処理工場の有様が示す原発の現状)
田中弁護士のつれづれ語り 2020年6月24日
『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」
2020年6月24日付に掲載された第86回は、「再処理工場の有様が示す原発の現状」です。
破綻していることが明らかな核燃料サイクルがどうして続けられているのか、それにはどのようなリスクや弊害があるのかといったことについて、書きました。
私は個人的に、核燃料サイクル、辺野古新基地、イージスアショアを、「日本三大無駄遣い」と呼んでいます。イージスアショアに続いて、他の2つも見直すべきではないかと思います。

再処理工場の有様が示す原発の現状
先月、原子力規制委員会が、日本原燃の六ケ所再処理工場について、新規制基準に適合するとの審査書案を了承した。

当初の想定が狂う
再処理工場は、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを分離・抽出するための工場である。抽出されたウランとプルトニウムは燃料加工工場で加工され、再度原発で使用される。こうした「核燃料サイクル」によって、核燃料を節約できる、との説明がなされていた。
計画当初、核燃料の「再利用」は、高速増殖炉で行うことが想定されていた。ところが、高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」は、ナトリウム漏れ事故を起こしたこと等から、2016年に廃炉となることが決まった。その後継にあたる実証炉、実用炉の見通しはまったく立っていない。

撤退できない事情
本来なら、高速増殖炉の見通しが立たなくなった時点で再処理工場の計画自体を断念すべきだったが、電力業界としては簡単に撤退を決められない事情があった。
日本原燃は地元自治体との覚書で、「再処理事業が著しく困難になった場合は、使用済み燃料の施設外への搬出などの措置を講ずる」ことを約束している。再処理事業を断念すれば、再処理工場のプールに運び込まれている約3000トンの使用済み核燃料が各地の原発に戻されることとなる。各原発の使用済み燃料プールは、ただでさえ満杯に近い状態であるから、再処理工場から使用済み核燃料が戻されれば原発内のプールはたちどころに容量オーバーとなり、原発は即時停止せざるを得ない。
つまり再処理工場は、「燃料を再利用するための施設」ではなく、「原子力発電を続けていくために辞められない施設」となっているのだ。

フル稼働できない事情
他方で、再処理工場が完成しても、フル稼働できない事情もある。
日本はこれまで、イギリスやフランスの工場で使用済み核燃料を再処理してもらっており、これにより抽出されたプルトニウムを約47トン保有している。これは核兵器6000発分にも相当する量だ。軍事転用を企図しているのではないかとの国際的な批判や懸念の高まりを受けて、原子力委員会は、2018年7月、「プルトニウム保有量を減少させる」内容の基本指針を決定・表明した。
保有量を減らすためには消費しなければならないが、その要と位置づけられていた高速増殖炉は暗礁に乗り上げてしまった。それに代わるプルトニウム消費手段としてひねり出された苦肉の策が、プルサーマルだ。プルサーマルでは、通常の原子炉(軽水炉)でウランとプルトニウムを混合したMOX燃料が使用されるため、プルトニウムを消費することとなるのだ。
しかし、プルサーマルは、ウラン燃料のみを使用する通常の原発と比べ、技術的な困難が多く危険性も高いことから、現在4基しか実施されていない。プルトニウムの消費量は、4基分を合計しても年間で約2トン程度に過ぎない。
これに対し六ケ所村の再処理工場がフル稼働すると、年間約7トンのプルトニウムが抽出されることとなる。プルトニウム保有量を増やさないためには、稼働を制限せざるを得ない

問題の先送り
再利用のあてはないが、ゴミが戻ってくると困るので再処理をする。でも再処理しすぎるのもマズイので、再処理の分量を制限せざるを得ない。こんな馬鹿げた有様では、事業の破綻は明らかだ。
しかし、政府と電力業界は、問題を取り繕い、ごまかしを重ねながら、必要性が失われた事業を継続するようだ。

2つの重大問題
再処理事業を継続することには、看過できない重大問題が多々あるが、紙幅の関係で2点のみ指摘する。
1つ目は、再処理工程の危険性だ。再処理工場では、高レベルの放射性物質が硝酸等の化学物質とともに、広大な施設内の至るところに行き渡ることとなる。「放射性物質の化学プラント」とも呼ばれ、原発以上に未熟で危険な技術とされている。実際、イギリスやロシア等、海外の再処理工場では、臨界事故・爆発事故・火災事故が度々起こっている。
六ケ所再処理工場は1993年に着工し、当初は97年に竣工予定だった。しかし、設計ミスや施工ミス、管理不備による事故やトラブルが相次いだため、実に24度にわたって工期が延長され、未だに完成に至っていない。日本原燃に、危険な施設を管理する能力があるとは到底思われない
2つ目は、費用の問題だ。再処理事業全体にかかる費用は約14兆円と試算されている。この費用は最終的には、電気料金に上乗せされる形で国民が負担することとなる。
原子力発電をやめれば、このように高度の危険を抱える必要も、高額の費用を負担する必要もない。原子力発電はそこまでして維持しなければならないものなのだろうか。冷静な判断と、勇気ある決断が求められている。
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