2021年8月25日水曜日

風評対策の実効性に疑問符 処理水海洋放出に反対の漁業者ら

 福島第1原発のトリチウム水を巡り、政府は24日、処分に関する関係閣僚会議を首相官邸で開き、海洋放出に伴い水産物の需要が落ち込み、販売減少や価格下落などの被害が出た場合、緊急避難的な措置として、国費で買い取って漁業者を支援することを盛り込んだ当面の風評被害対策を取りまとめました。
 しかし福島県内の漁業関係者からは実効性や議論の進め方を疑問視する声が相次いだ。処分方針決定から4カ月余り。放出に反対する漁業者と国の溝は埋まらず、合意形成は依然見通せなません。「説明も話し合いも全く足りていない。新型コロナウイルス下で風評対策の議論は深まらず、これで誰が納得するのか」と漁業関係者は語ります。
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政府 福島第一原発 処理水の風評被害対策 新たな基金創設へ
                     NHK NEWS WEB 2021年8月24日
東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海に放出する方針をめぐり、政府は水産物の需要が落ち込んだ場合は国の基金で一時的に買い取るなど風評被害の新たな対策をまとめました。
政府は、東京電力福島第一原発のトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を国の基準を下回る濃度に薄めたうえで海に放出する方針をめぐり24日、関係閣僚らによる会議を開き、風評被害への対応など当面の対策をまとめました。
対策では、国内で水揚げされた魚など水産物の需要が風評被害によって落ち込んだ場合に備え、国が新たな基金をつくるとしています。
基金を通じて冷凍可能な水産物については一時的に買い取って保管するほか、冷凍できないものについては新たな取引先の紹介や宣伝など販路の確保につながるよう支援する方針です。
2023年春ごろをめどとしている処理水の放出までに基金の規模など具体的な仕組みを整えることにしていて、政府としては実際に風評被害が起きた場合は機動的に対応できるようにしたい考えです。
一方、こうした対策を講じても風評被害が続く場合は、政府が東京電力に対し被害に見合った賠償に応じるよう指導することにしています。
官房長官「風評生じさせない取り組みを徹底」 
加藤官房長官は関係閣僚らによる会議で「処理水の処分の安全性については、IAEA=国際原子力機関が厳正かつ透明性ある評価を実施し、客観的な立場から国際社会に情報発信する取り組みを開始することで合意した。他方、さまざまな方と意見交換を重ねる中で、処理水の安全性や放出に伴う風評の発生について懸念の声をお聞きしている」と述べました。
そのうえで「まずは風評を生じさせないための取り組みを徹底し、万一、風評が生じたとしてもこれに打ち勝ち、安心して事業を継続できる環境を整備する。各省の施策を総動員して、一過性ではなく被災者の立場に寄り添った継続的な取り組みを進めていく」と述べました。
東京電力「内容を重く受け止める」 
政府が当面の対策を取りまとめたことを受けて、東京電力の小早川智明社長は「さまざまな関係者からの丁寧なヒアリングをしたうえでの対策の取りまとめで、内容を重く受け止めている。しっかりと安全性の確保を証明してほしいという意見が多く、モニタリングなどに反映したい」と述べました。
また、風評被害への対応については「国内外への正確な情報発信も含めて最大限の風評の抑制を行うとともに、さまざまな事業者に不安があると思うので、万が一、損害が生じた場合の賠償もしっかり準備し、できれば一両日中に示したい」と述べ、東京電力としても安全性への対応や賠償の具体的な計画について近く示す考えを明らかにしました。
福島県 内堀知事「真に実効性のある対策を」
福島県の内堀雅雄知事は「今回示された当面の対策の取りまとめにあたっては、各省庁において真摯(しんし)に検討していただいたものと受け止めている。政府には実行可能な対策から速やかに実施するとともに、今後必要な予算をしっかり確保し、真に実効性のある対策としていただきたい。福島県としては、必要な対策が確実に講じられるよう、引き続き国に求めていくとともに、風評・風化対策の推進に全庁一丸となって取り組んでいく」というコメントを発表しました。
福島県漁連「海洋放出に断固反対の立場変わらない」
福島県漁連の担当者は、NHKの取材に対し「政府から報告や説明があれば、内容を確認していくことになるが、いま把握できるかぎりでは、具体性に欠ける印象を持つ。現時点において、福島県漁連として処理水の海洋放出には断固反対する立場に変わりはない」と話しています。
全漁連 岸会長「全国の漁業者は海洋放出に断固反対」
全漁連・全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は「漁業者の不安払拭(ふっしょく)のために、海洋放出の方針について国が責任を持って説明することや、安全性をどう国内外に説明し、担保するのか明確に示すことなど、申し入れを行ってきたが、いまだに具体的な回答はない。全国の漁業者は、処理水の海洋放出に断固反対であることを改めて表明するとともに、申し入れに対して国が明確に回答することを引き続き求める」という声明を出しました。


風評対策の実効性に疑問符 処理水海洋放出に反対の漁業者ら
                        河北新報 2021年08月25日
 政府が処理水の海洋放出に向けて風評被害対策の中間案を公表した24日、福島県内の漁業関係者からは実効性や議論の進め方を疑問視する声が相次いだ処分方針決定から4カ月余り。放出に反対する漁業者と国の溝は埋まらず、合意形成は依然見通せない
「説明も話し合いも全く足りていない。新型コロナウイルス下で風評対策の議論は深まらず、これで誰が納得するのか」
 福島県新地町の漁師小野春雄さん(69)は憤りを隠さない。相馬双葉漁協によると、4月の政府方針決定後に国が組合員向けに開いた説明会は同月下旬の一度だけだった。
 政府と東電が6年前、処理水の処分について「関係者の理解」を事実上の要件とする約束を漁業者と交わしたことに触れ、「確約をしても破られ、今回は誰も信用していない。一方的に進められ、泣くのはわれわれ漁業者だ」と話した。
「現状では首を縦に振れない」と強調するのは相双漁協の立谷寛治組合長。管内主力の底引き網漁は昨年9月、東日本大震災後初めて増産目標を掲げ、5年間の復興事業を始動させた。県全体でも、長く続いた試験操業から本格操業に向けて移行を始めたばかりだ。
 立谷組合長は「一番の望みは震災前のように漁業を営める状態になること。今回の政府案は漁業者が安心できる内容とは言えない」と指摘。「(基金新設などにより)魚を買い取る話があるようだが、具体的な枠組みが不明だ」と語った。
 いわき市漁協の江川章組合長は海洋放出に反対の立場を改めて示した上で「海洋放出ありきだ。買い取るといったって、漁業者の意見も聞かずどう買い取るというのか」と話した。福島県漁連の担当者は「国から説明があれば聞き、組合員の意見を集約しながら(中間案の)中身を精査したい」と話した。