2023年7月22日土曜日

政府も国民も福島第1原発「処理水放出」問題をあまりに他人事と捉えていないか

 高野孟氏が掲題の記事を出しました。政府はこれまで、アルプス「処理水」は安全であり、万一風評被害が生じた場合は保障するからとして、原子力規制委と足並みを揃えて、「海洋放出」以外の方法は検討することも不要という態度を貫いてきました。
 本当にそれで良かったのか、イヤ それで本当にいいのかという問題提起です。
 まず通常の原発からのトリチウム排水とアルプス「処理水」とでは、前者はイオン交換樹脂で事実上金属イオン類が100%除去された純水にトリチウムが混在したものであるのに対して、後者はデブリに直に接した冷却水を性能が遥かに劣る吸着処理したものなので、吸着と相性が悪い12種の放射性物質は殆ど除去されないし、それ以外の金属類の吸着除去率もそう高くないため トリチウム以外の放射能物質がかなりの濃度で含まれています。
 概要は下記を参照ください。
 ⇒(7月17日)中国は海洋放出に猛反発! 「処理水」と「汚染水」認識のズレはどこに?
 既に中国側は日本の10県からの魚介類は全品放射能をチェックすると明言しています(香港政府は輸入禁止)。検査待ちで鮮度が落ちれば価格も大いに下落します。政府はどう対応するのでしょうか。
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永田町の裏を読む 高野孟
政府も国民も福島第1原発「処理水放出」問題をあまりに他人事と捉えていないか
                      高野孟 日刊ゲンダイ 2023/07/19
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 最新の共同通信の調査で、「福島第1原発処理水放出に関する政府の説明は十分だと思うか」との問いに、「不十分だ」と答えた人は80.3%、「十分だ」は16.1%にとどまった。
「処理水を海洋放出した場合、風評被害が起きると思うか」の問いには、「大きな風評被害が起きる」「ある程度の風評被害が起きる」合わせて87.4%に達する。ところが「海への放出に賛成ですか」との問いには、「どちらとも言えない」が43.1%、「賛成」が31.3%、「反対」が25.6%で、つまり風評被害は出るに決まっているけれども、他に方法がないなら放出するしかないのかなと思っている人が相対的には多数ということである。

 しかし政府も国民も、これをあまりにも他人事と捉えていないか。トリチウムが基本的に無害で、世界中で放出が行われていて、IAEAもわざわざ調査に来てこの程度なら大丈夫とお墨付きを与えた。「科学的データ」で見ればその通りだが、世の中が「合理」で割り切れるなら世話はなくて、実際には「非合理」の感情とか生き方とか魂とかいった要素で突き動かされている部分が小さくない。
 考えてみていただきたいのだが、福島原発事故の後、福島の漁民たちは一時は全面的な操業・出荷停止に追い込まれ、それから一部制限付きで漁業を行えるようになったものの、その細々とした営みも吹き飛ばすような風評被害という情報の津波に襲われた。それをなんとか押し返そうと、県のモニタリング調査に加えて「試験操業」という仕組みをつくって自分らで放射能測定をして「科学的データ」で福島の魚が安全であることを必死で訴えた。
 試験操業は事故から10年で終わったが、その後も漁協は「自主検査」としていわき、相馬双葉の両地区での魚のデータを公表している。例えば14日発表のデータを見れば、同日に四倉沖で取れたイシガレイの生が放射能不検出であったことなど、同日分だけで40件のデータが示されていて、彼らの涙ぐましいほどの努力がうかがえる。しかし、そこまでしてこの12年間闘ってきた漁民たちが直面しているのは、他都道府県向けの出荷はいまだに事故前の「2割」にとどまっているという過酷な現実である。

 それを知った上で、新たな風評被害の波を引き起こすに違いない放出を強行するなど、人間のすることではない。「科学的データ」の名において漁民たちの魂を押しつぶすことはできない

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。


処理水放出、日本側に懸念伝達 「食品安全が最優先」 香港長官
                         時事通信 2023/7/21
【香港時事】香港政府トップの李家超行政長官は21日、在香港日本総領事館の岡田健一総領事と会談し、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画について「香港の食品の安全と公衆衛生を最優先に考える」と述べ、強い懸念を改めて表明した。
 海洋放出された場合、香港政府は福島など10都県の水産物の輸入を禁止する方針だ。
 李氏は会談で、原発処理水を30年にわたり海洋放出する計画は前例がなく、「食品の安全と環境へのリスクを排除できない」と主張。その上で「日本が自らの方法に固執するなら、香港の食品の安全と市民の健康を守るための措置を講じる必要がある」と訴えた。
 これに対し岡田氏は、香港政府の禁輸方針について、極めて遺憾だと伝達。既存の規制の撤廃を改めて求めるとともに、さらなる規制強化を再考するよう強く申し入れた。

放出「科学的には影響小さい」 原発処理水巡り規制委員長
                             共同通信 2023/7/19
 原子力規制委員会の山中伸介委員長は19日の定例記者会見で、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に関し「科学的、技術的には、基準を守って放出すれば環境や人への影響は極めて小さい」と改めて強調した。また「第1原発全体のリスク低減のためには、放出が必須だという歴代の委員長、委員会の考えも変わっていない」と述べた。
 海洋放出に反発を強める中国に関しては「各国、さまざまな意見があることは承知している。(処理水に関し)個別、直接の問い合わせが来れば、丁寧に説明したい」とした。現時点では、規制委に対する直接の質問は把握していないという。