2023年7月17日月曜日

中国は海洋放出に猛反発! 「処理水」と「汚染水」認識のズレはどこに?

 ASEANと日中韓の外相会議で、日本の福島第1原発「処理水」の海洋放出計画をめぐり、中国外交トップの王毅政治局委員が「汚染水」と発言し、林芳正外相が声を荒げる場面があった件を日刊ゲンダイが取り上げました。
 では「処理水」か「汚染水」か ─ 認識のズレはどこにあるのでしょうか。
 日本政府は放出(予定)水を「処理水」と称し、通常の原発でもトリチウムの放出は認められていることを盛んに強調しますが、通常の原発からの排水はイオン交換樹脂によって金属イオンがほぼ完全に除去された「純水に近い水」の中にトリチウムが含まれているものであるのに対して、福島原発からの排水は、デブリを冷却した汚染水を吸着処理しただけなので、吸着剤と相性が悪い12種の放射性物質は殆ど除去されません。それ以外の金属類の吸着除去率もそう高くはありません。
 そうした汚染水にトリチウムが混在している訳なので「汚染水」というのが正確で、しかもその汚染度は通常の原発からの排水とは比較にならず、六ケ所の再処理工場から排出される汚染水に近いものです。
 では再処理工場からの排水がどれほど汚染されているのかですが、トリチウム以外の放射性物質についても、それを公表すれば大問題になるので政府も公表できないほど高いレベルです(世界中の核燃料再処理工場で共通)。さすがに福島原発の汚染水はそれよりは綺麗ですが、通常の原発排水とは比較にならないレベルに汚染されているのは間違いありません。
 規制委などが敢えて放出水を40倍に希釈すると称しているのは、そうしないとトリチウム以外の物質も排出できなくなるからです。
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中国は海洋放出に猛反発! 福島原発「処理水」と「汚染水」認識のズレはどこに?
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「国際基準と国際慣行にのっとり実施する」
 ASEAN(東南アジア諸国連合)と日中韓の外相会議で、日本の福島第1原発「処理水」の海洋放出計画をめぐり、林芳正外相(62)が声を荒げる場面があった。林氏の発言は、会議に参加している中国外交トップの王毅政治局委員(69)が「汚染水」と発言。海洋放出に反対姿勢を示したことに対して抗議する意味もあったとみられる。

原発処理水放出でG7の“お墨付き”獲得できず ドイツ閣僚「歓迎できない」と日本にクギ
 岸田政権が福島の漁業関係者らの反対を押し切り、「夏ごろ」にも強行しようとしている「処理水」の海洋放出。時事通信が実施した世論調査では、「賛成」(39.2%)が「反対」(28.0%)を上回り、中国側が「汚染水」と反発していることについても、ネット上では、《いちゃもん》《政治的な揺さぶり》といった批判的な声のほか、《他の国の原発でも処理水が放出されている。日本にだけなぜ、文句を言うのか》といった意見が少なくない。
「処理水」か「汚染水」か──認識のズレはどこにあるのか。

 一つのヒントになるのは、2020年12月の衆院東日本大震災復興特別委員会の質疑だ。
 立憲民主党の玄葉光一郎議員(59)は「ALPS(多核種除去設備)処理水というのは、他の原発から出ているトリチウムと同列に論じていいのかどうか」と質問。これに対し、当時の江島潔経産副大臣(66=自民党)は、ALPS処理水について、「溶融した核燃料に直接触れている水が由来であります。従いまして、核分裂で生じた核種を含んでいるということは事実」とした上で、「(核燃料の)再処理工場というものから出てくる排水には、同じく核分裂で生じた核種が含まれている」「トリチウムに加えまして、セシウム、放射性ヨウ素、それからカーボン14等々、福島第一原発のALPS処理水に含まれる核種と同じものが確認をされている」と答弁。
 同委員会に出席していた東電副社長も、「損傷した燃料に触れた水という点では、通常の原子力発電所で発生いたします液体廃棄物に含まれない放射性物質が含まれております」と説明していた。

■政府や東電の二転三転した対応も近隣諸国の不信感に…
 日本共産党の高橋千鶴子議員(63)は、処理タンクで液漏れやさび、硫化水素の発生などのトラブルが続いた事実を挙げ、「事故炉を通した水であること、トリチウム以外に62種の放射性物質があり、濃度や組成はタンクによって均一ではないこと、タンクの中で有機結合型トリチウムの発生も確認されていること、こうしたことから、通常運転時に放出されるトリチウムと同一視することはできない」と断言。さらに「そもそも、基準、基準と言いますけれども、事故炉に対して総量規制を取っ払ってしまっていること、再処理工場はもっと高いからという何かすごい答弁がございましたけれども、数万倍も高い濃度のトリチウムを放出すると言われている再処理工場には、濃度基準さえない」と指摘していた。
 この時の質疑をそのまま受け取ると、福島原発の「処理水」をたどると、ネット上でみられる「他の原発の処理水と同じ」とは言い難く、再処理工場で粉砕された核燃料に触れるなどした「排水」に近いようだ。

 もっとも、それでも政府や東電はALPSの処理を重ね、IAEA(国際原子力機関)のOKも得たから「処理水」と主張したいのだろう。ただ、一方で、この問題を振り返ると、もともとALPS処理後に残るのはトリチウムだけと言われていたはずが、その後、他にも放射性核種が含まれており、(排出)基準を上回るものも多い──ということが発覚して大騒ぎとなったのは記憶に新しい。
 政府や東電のこうした二転三転した対応が、中国など近隣諸国の不信感を招く要因になった面は否めないのではないか。


中国は「核汚染水」と表現…日中関係改善に暗雲、風向き一変させた「処理水」対立
                       読売新聞オンライン 2023/7/15
 東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」を巡り、科学的根拠に基づき、海洋放出に理解を求める日本政府に対し、中国政府が事実無根の非難を繰り返し、日中関係の改善に暗雲が立ちこめている。日本側は夏頃の放出後、秋以降に「建設的かつ安定的な関係」の構築に向け、仕切り直しを図りたい考えだ。
【図解】一目でわかる…「処理水」海洋放出を巡る日中韓の立場
 「習近平(シージンピン)国家主席との首脳会談について、現時点で決まったものは何もない」
 岸田首相は12日夜(日本時間13日未明)、訪問先のリトアニア中部カウナスで記者団にこう語った。政府高官は「処理水の問題が片づかない限り、両国首脳が相互に往来して会談することはないだろう」との見通しを示した。
 日中関係は今年に入り、一時、関係改善の兆しを見せていた。林外相が4月、日本の外相としては約3年3か月ぶりに訪中し、中国の秦剛(チンガン)国務委員兼外相と会談。首脳や外相レベルでの緊密な意思疎通を行うことで一致した。日本政府では、2019年12月の安倍首相(当時)以来となる首相の訪中も「現実味を帯びてきた」との見方が広がった。
 風向きを一変させたのが処理水を巡る問題だ。
 処理水の放出について、日本政府は「環境や人体への影響は考えられない」との立場だ。国際原子力機関(IAEA)もお墨付きを与え、包括報告書で「国際的な安全基準に合致している」と放出の妥当性を認めた。
 中国政府は「処理水」を「核汚染水」と表現し、「原発事故で発生した汚染水を海に放出するのは前例がない」(呉江浩(ウージャンハオ)駐日大使)などと批判を続けている。
 政府間の対立は、議員外交にも影響が及び始めたとの見方がもっぱらだ。超党派の国会議員でつくる日中友好議員連盟の会長を務める自民党の二階俊博・元幹事長や、公明党の山口代表が早期の訪中を計画していたが、日程が固まる見通しは立っていない。
 日本政府内では、重要な国際会議に合わせ、日中首脳会談を調整するべきだとの声もある。9月にはインドで主要20か国・地域(G20)首脳会議、11月には米国でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が控える。
 ただ、処理水問題で日本側に譲歩する選択肢はなく、外務省幹部は「中国側の出方を慎重に見極めつつ、関係改善の糸口を探るしかない」と語った。