2023年7月1日土曜日

最高裁もズブズブ 原発事故免罪人脈を暴く(しんぶん赤旗)

  私たちはこれまで国の方針に反する民事訴訟に対して、それを認める勇気ある地裁判決が出されても、高裁、最高裁に進むにつれて判決が国寄りになるのを見てきました。

 福島原発事故に関する生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟の4つの国家賠償請求訴訟を一括して審議した最高裁第2小法廷は22年6月17日、想定外の津波がきたので、事故前の予測に基づいて対策の基本である防潮堤をつくっても、事故は防げなかった。だから国に責任はない″と、国を免罪する判決を出しました。判決への賛否は3人が賛成で1人が反対でした。
 判決文は全11頁の極めて簡略なもので実質判断部分はわずか4した。それに対して三浦判事の反対意見29にわたり、国の責任を冷静かつ論理的に立証しました。
 こうした異様さは、国を免罪するという結論ありきの判決と見れば納得がゆきます。
 しんぶん赤旗日曜版(7月2号)にフリージャーナリスト後藤秀典さんによる「最高裁もズブズブ 原発事故免罪人脈を暴く」と題した記事が載りました。

 最高裁判決を支持した裁判官を調べると、巨大法律事務所、国、東電との人脈構図が明確になりました。
 後藤秀典さんこの問題について雑誌『経済』(新日本出版社)に詳しい記事を書いたところ大きな反響があり、三者がこれほど深くつながっていることに法律家、弁護士からも多くの驚きの声が寄せられたということです。
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最高裁もズブズブ 原発事故免罪人脈を暴く
                    しんぶん赤旗日曜版 2023年7月2日号
 東京電力福島第1原発事故の教訓を忘れ、原発回帰に大転換する原発推進法。岸田政権が自民・公明・維新・国民の賛成で成立させました。この原発回帰に免罪符を与えたと批判されているのが、生業(なりわい)訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟の四つの国家賠償請求訴訟の最高裁第2小法廷(2022年6月17日、菅野博之裁判長)です。背景には裁判所、国、東電、巨大法律事務所の癒着がありました。その実態を調査報道で明らかにしたフリージャーナリスト、後藤秀典さんに聞きました。
  フリージャーナリスト 後藤秀典さん
    ごとう・ひでのり=1964年生まれフリージャーナリスト「報道特集」「N
   NNドキュメント」など報道番組を制作NHK分断の果てに原発事故避難
   は問いかける」で2020年貧困ジャーナリズム賞受賞「『国に責任はない』
   原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか」(雑誌『経済』5月号)。著書『変
   節する東京電力 司法エリートの被災者攻撃と最高裁(仮)』(旬報社から近日刊
   行)

対策の基本を防潮堤に限定 各高裁の事実認定を覆す 1

 昨年6月の最高裁判決には多くの問題が指摘されています。
 判決の内容は想定外の津波がきたので、事故前の予測に基づいて対策の基本である防潮堤をつくっても、事故は防げなかった。だから国に責任はない″というものです。
「ふるさとを返せ津島原発訴訟」の原告・避難者側の代理人をしている大塚正之弁護士は、「こんな理屈がまかり通れば、国の責任だけでなく、東電の過失責任も否定できることになる」と指摘しています。
 最高裁判決は防潮堤が対策の基本としていますが、まったく事実に反しています。各高裁判決は、防潮堤だけでなく、原発に水が入らないようにする「水密化」という津波対策を十分取り得たと事実認定しました。
 11の最高裁判決のうち実質判断部分はわずか4です。地裁、高裁判決では、福島県沖でも大津波をもたらす津波地震が発生すると予測した「長期評価」(02年7月、政府の地震調査研究推進本部)の信頼性が最大の焦点になりました。ところが最高裁判決は「長期評価」に対する判断も行っていません

最高裁「想定外の津波で国に責任ない」
事実論じない大雑把な判決 反対した判事は詳細に責任論証 2

 判決への裁判官の賛否は3対に分かれました。判決を支持したのは菅野博之裁判長と草野耕一判事、岡村和美判事。反対したのは三浦守判事です。
 判決文には判決の3倍近い29にわたる三浦判事の反対意見が付され、国の責任を冷静かつ論理的に立証しています
 その中で三浦判事は「『想定外』という言葉によって、全ての想定がなかったことになるものではない。保安院及び東京電力が法令に従って真摯(しんし)な検討を行っていれば、適切な対応をとることができ、それによって本件事故を回避できた可能性が高い。本件地震や本件津波の規模等にとらわれて、問題を見失ってはならない」と判決を鋭く批判しています。

調査官無視か
 最高裁には40人ほどの調査官がいます。調査官は全国の裁判所から選ぱれたエリート裁判官です。最高裁判事の中には学識経験者など、判決文を書いたことがない判事も少なくありません。そこで調査官が高裁判決の争点を明確にし、法的解釈を加えた「調査官意見書」をつくり、判事に提示します。大方の判事はそれをもとに判決を出します
 津島訴訟原告代理人の大塚弁護士は、大阪高裁や東京高裁などで裁判官を長く務め、最高裁事務総局に勤めた経験もあります。その大塚弁護士によると、今回の最高裁の判決文は調査官意見書をもとにして書いたようには見えないと言います。
「三浦意見がかなり具体的事実に基づいて詳細に論じているのに多数意見は、要するに大きい津波が来たから防げなかった、と非常に大ざっぱ。調査官がこんな大ざっぱな意見書を書くとは思えません。恐らく調査宮室の意見は三浦意見のような内容だったのではないか。それを裁判長らは受け入れなかった。三浦判事は調査宮とも相談して意見書を書いたのではないでしょうか」
 東電株主代表訴訟の原告代理人の海渡雄一弁護士は、「多数意見は、『国に責任がある』という結論をひっくり返すために不慣れな裁判官がやっつけ仕事で書いたとしか思えない」とみています。

東電の上告申立「意見書は元最高裁判事が作成

裁判長は東電代理人事務所に 3

 最高裁判決を支持した裁判官を調べると、巨大法律事務所、国、東電との人脈構図が浮かんできました。
 菅野裁判長は最高裁判決を出した翌月の22年7月に退官し、直後の8月3日、日本の五大法律事務所の一つ、「長島・大野・常松法律事務所」の顧問に就きました。
 同法律事務所の4人の弁護士が、東場株主代表訴訟で乗場の代理人として、被告の東場元会長ら旧経営陣側についています。同法律事務所のホームページでは「菅野弁護士の入所を機に、依頼者の皆様により良いリーガルサービスを提供」と紹介されています。「国に責任はない」という判決を出した菅野氏は、東電にどんな「より良いリーガルサービス」を提供するというのでしょうか。
 判決を支持した岡村判事もかつて、「長島・大野・常松法律事務所」の前身の「長島・大野法律事務所」に所属していました。判決を支持したもう一人の草野判事は、19年に最高裁判事になるまで五大法律事務所の一つ「西村あさひ法律事務所」の代表パートナー(代表経営者)を務めていました。
 生業訴訟の控訴審で敗訴した東電は最高裁に上告しました。上告の理由を記した上告受理申立理由書(2012月)に添付した意見書は、「長期評価」の信頼性に疑問を投げかけ、「中間指針に基づき払ってきた以上の賠償を払う必要はない」としています。
 この意書を書いたのは元最高裁判事の千葉勝美氏です。千葉氏は16年に最高裁判事を退官し、「西村あさひ法律事務所」の顧問になりました。
 電の上告は22年3月に棄却されましたが、最高裁判事経験者が個別の事案で意見書を出すのは異例です。
 千葉氏が1980年に最高裁事務総局行政局参事官を務めていたとき、菅野裁判長は同局付で働いていました。つまり、千葉氏の指導を受ける立場だった菅野氏が裁判長を務める裁判に、千葉氏は東電側の立場で意見書を出したのです。
 前出の大塚弁護士は「千葉氏が意見書を出してきたときに私の頭に浮かんだのが菅野裁判長でした。菅野氏は千葉氏の指導を受けて育っていった。これは結びついているなと感じました。最高裁では国を勝たせる判決が出るかもしれないと思いました」

規制庁の職員も東電側に転身
一審では国側の指定代理人だったのに 4

 津島原発訴訟の控訴審で、東電から出された書面を見て大塚弁護士は驚きました。21年7月に判決が出た一審で国側の指定代理人だった前田后穂(みほ)弁護士が、控訴審では東電側の代理人になっていたからです。
 前田氏は17年に原子力規制庁に入庁しました。同庁は原発事故後、原発を監督・規制するために新設された原子力規制委員会の事務局、つまり東を監視する国の機関です。前田氏は21年6月に原子力規制庁を退職し、同年7月から、「西村あさひ法律事務所」の弁護士たちが独立して設立し、五大法律事務所の一つに数えられるようになった「TM総合法律事務所」に入りました
 監視する側の原子力規制庁の職員が退職したとたん、監視される側の乗場の代理人になったのです。
「西村あさひ法律事務所」の共同経営者の新川麻(しんかわ・あさ)弁護士は、経済産業省の電力関係の八つの審議会委員・専門委員を務めた後、21年に東電の社外取締役に就任しています。
 新川弁護士の夫、新川浩嗣(ひろつぐ)氏は、財務省主計局長を務める官僚です。18年には安倍晋三首相(当時)の秘書官でした。

世論の力で最高裁を包囲する
原告たち道理をもって声あげ続ける

 この問題について雑誌『経済』(新日本出版社)に記事を書いたところ、大きな反響があり、法律家、弁護士からも多くの驚きの声が寄せられました全体の人脈の構造を俯瞰(ふかん)してみると、これほど深くつながっているのかと改めて驚いたというのです。
 4月末に仙台高裁で津島原発訴訟控訴審の口頭弁論がありました。その取材に行き、裁判後の集会で最高裁と東電、国の結びつきの話をすると、原告たちから「がっかりした」という声が上がりました。しっかり被害を伝えれば、裁判官は聞いてくれるという思いがあったのに、裁判官が国や東電とこんなに「ズプズブ」の関係にあったと知ってがっかりしたというのです。
 一方で原告たちは、最高裁の4人の裁判官の一人、三浦判事が国を免罪する判決に反対し、国の責任を認める意見を書いたことに意を強くしています。道理をもって声をあげれば分かってくれる裁判官もいる、だから世論で最高裁を包んでいくしかないと。
 原告たちの言葉に私も勇気づけられました。