2019年5月23日木曜日

韓国で原子炉に異常も11時間止めず(詳報)

 韓国原発で原子炉の熱出力が制限値を超えて急上昇したにもかかわらず、発電所が11時間停止させなかった問題で、東京新聞が詳報を出しましたので紹介します。
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原子炉に異常 11時間止めず 韓国原発、重大事故の恐れ
東京新聞 2019年5月22日
 【ソウル=中村彰宏】韓国原子力委員会は、南西部の全羅南道(チョルラナムド)・霊光(ヨングァン)にあるハンビッ原子力発電所1号機で、原子炉の熱出力が制限値を超えて急上昇したにもかかわらず、運営する韓国水力原子力(韓水原)が即時停止せず、原子炉を止めたのは約十一時間半後だったと発表した。放射能漏れなどは確認されていないが、同委員会は重大事故につながる恐れがあったとみて、安全措置不足と原子力安全法違反として1号機の使用停止を命令した。
 
 同委員会によると、今月十日、原子炉の制御棒の試験中に熱出力が制限値の5%を超えて18%まで上昇したが、韓水原は即時停止しなかった。原子力安全法では、熱出力が制限値を超えた場合は原子炉の稼働をすぐに停止するよう定めている。また、制御棒を無資格者が操作していたことも明らかになった。
 同委員会は、特別司法警察官を投入し、原因の調査を始めた。韓国メディアによると、特別司法警察官の投入は原発の商業運転が始まった一九七八年以降、初めて。同委員会の孫明善(ソンミョンソン)安全政策局長は「事故には至らなかったが、今までに起こった国内の原発の問題の中で非常に深刻な状況なのは間違いない」と述べ、重大な事故につながる危険性があったと指摘した。
 
 一方、韓水原は、熱出力が上昇後すぐに制御棒を挿入したと主張。また、出力が25%を超えれば原子炉は自動停止する設計になっており、事故が起きる恐れはなかったと反論した。
 韓国では今年に入り、原発が突然停止するなどの問題事案が相次いでいる。韓国内にある商業用二十四基のうち十八基は日本海側にあり、事故が起きれば日本に被害が及ぶ可能性もある。
 
◆安全上、深刻な問題
<東京工業大の奈良林直(ただし)特任教授(原子炉工学)の話> 東京電力福島第一原発事故以降に各国が原子力の安全対策に取り組む中、無資格の職員が操作し、運営指針に違反した状態で長時間の運転が続いたのはあってはならず、安全文化上の深刻な問題だ。原子炉出力がごく短時間で18%まで上がるのは異常な急上昇だ。燃料や機器などが傷んでいないか総点検するべきだ。ただ出力が上がると通常自動ブレーキがかかるため、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故のような爆発に至るとは考えられない。
 
 
韓国 原発 原子炉出力が制限値超も11時間半運転続ける
NHK NEWS WEB 2019年5月22日 12時48分
韓国の原子力安全委員会は、南西部の原子力発電所で原子炉の出力が制限値を超えたにもかかわらずおよそ11時間半にわたって運転を停止させなかったとして、運営会社に対して原子炉の使用停止を命じ、違法な運転の原因について捜査を進めています。
 
韓国の原子力安全委員会によりますと、今月10日午前、南西部チョルラ(全羅)南道の黄海に面したハンビッ原子力発電所1号機で、定期検査の過程で、無資格の職員が原子炉の制御棒を抜く操作を行ったところ出力がすぐに制限値の5%を超え、一時は最大で18%まで上昇したにもかかわらず、その後およそ11時間半にわたって原子炉を停止させなかったということです。
委員会によりますと、原子炉から放射性物質の漏えいはなく、出力も制限値を超えたあとすぐに制御棒が戻され制限値以下に下げられたということです。
 
今回の措置について韓国水力原子力はNHKの取材に対し「原子炉は出力が25%になれば自動的に停止するよう設計されている」として、安全性に問題はなかったと強調しています。
しかし原子力安全委員会は、安全措置の不足や原子力安全法の違反が確認されたとして、20日、運営会社である韓国水力原子力に原子炉の使用停止を命じ、捜査権のある委員会の職員が当時、どのような監督体制のもとで制御棒の操作が行われていたのかなど捜査を進めています。
韓国のメディアは重大な事故につながるおそれがあったとして、再発の防止と徹底した捜査が必要だと報じています。
 
近隣の原発事故どう把握
韓国では、日本海に面した18基をはじめ、合わせて24基の原子力発電所があります
日本の近隣ではほかにも、中国で沿岸部を中心に45基あるほか、台湾でも4基あり、事故が起きた際に、日本への影響がないか把握するための枠組みがもうけられています。
 
1986年に起きたウクライナのチェルノブイリ原発事故では、ヨーロッパをはじめ世界の広い範囲に放射性物質が拡散し、影響が広がりました。
この事故をきっかけに結ばれたのが、「原子力事故早期通報条約」です。
条約では、国境を越えて影響が及ぶ可能性がある原子力事故が起きた場合、可能なかぎり早期に近隣の国と国際原子力機関=IAEAに通報することが義務づけられていて、日本や韓国、中国が加盟しています。
また、日本、韓国、中国の3か国の原子力規制機関による連絡体制も作られているほか、台湾との間でも情報交換のための覚書を結んでいます。
 
原子力規制庁によりますと今回の韓国のトラブルについては、これまでのところ日本への通報はないということです。
また、放射性物質の影響が日本に及ぶ可能性がある場合には関係する省庁が参加して、内閣官房に放射能対策連絡会議が設置されます。
全国各地には、原発の監視用とは別に原子力規制庁が運用する放射線を検知するモニタリングポストがおよそ300基あるほか、各都道府県には放射性物質をサンプリングする装置もあります。
関係省庁では、連携して必要に応じ対策を進めることになっています。
 
原子炉専門家「原子炉の知識ない人が操作か」
原子炉工学が専門の東京工業大学の奈良林直特任教授は「再稼働の前に、出力ゼロの状態から徐々に制御棒を抜いて効き具合などを確認する通常の試験を行っていたと考えられる。制御棒を段階的に抜いていくはずが、何らかの原因で抜きすぎてしまったのではないか」と分析しました。
そのうえで「制御棒の異常な引き抜けは過去に日本でも起きているが、急激に出力が上昇すると最悪の場合燃料が壊れ、爆発に至るため、各国で対策が義務づけられている。試験中、一般的には出力が25%まで上昇すると自動的に制御棒が挿入されるはずだが、今回はそこまでもいっていないので原子炉の機器や燃料には大きな影響はないだろう。制限を超えたあとも11時間半にわたって停止しなかったというのは、原子炉の知識がない人が操作していた可能性があり、電力会社の管理責任は大きい。福島第一原発の事故を踏まえて世界中で安全文化を徹底しようと取り組む中で起きたことは、非常に重たい事案だ」と話しています。
 
韓国原発の専門家「組織的な問題」
韓国の原発に詳しい、愛媛県にある松山大学のジャン・ジォンウック教授は、「韓国の原子力安全法の運営指針では、出力異常があれば運転を停止することになっているが、それをせずに、規制機関の指示で11時間半たってから停止させたようだ。資格のない人が作業をしたという情報もある。事実だとすれば電力会社の組織的な問題ではないか。韓国の原子力安全委員会は、福島第一原発の事故のあとに作られた、特別司法警察という警察権をもった専門家を初めて投入したが、重大な事故につながりかねない事態であり、厳格な捜査が望まれる」と話しています。