「原発銀座」と呼ばれ4原発13基と研究炉2基が集るで福井県の若狭湾沿岸部では、2008年に始まった敦賀市の新型転換炉ふげんの廃炉工事を皮切りに廃炉が相次ぎますが、それでも地域の経済を大きく底上げするものではなかったということです。
廃炉工事は約20年から30年と長い時間をかけるので1年あたりの工事費用は10億円程度と少なく、うま味のある原子炉周りは技術のある大手企業が担当し、地元企業にはもうからない隙間的(ニッチ)な仕事しか回ってこないためです。
また廃炉は工事箇所ごとに工事開始のおよそ1カ月半前に発注されますが、不慣れで仕事の段取りが間に合わず、受注できない地元企業も多いとみられます。
東京新聞が廃炉工事の地域経済に及ぼす影響を取り上げました。
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廃炉相次ぐ福井の原発 経済効果への期待「空回り」
東京新聞 2020年8月26日
原発が集中立地する福井県の若狭湾沿岸部。敦賀半島にある日本原子力発電の敦賀原発1号機が、初の商用原発として動きだしてから半世紀が過ぎた。4原発13基と研究炉2基が集まり、「原発銀座」と呼ばれるこの地も、東日本大震災後は廃炉が相次ぐ。地元にとって、廃炉とは何か。行き場を失った使用済み核燃料はどこで保管されるのか。地域の現状と課題を報告する。(藤共生、今井智文)
◆地元企業の参入進まず
「廃炉は嶺南(福井県の若狭湾沿岸地域)の経済を大きく底上げするものではなかった。地域経済への効果は薄い」。敦賀商工会議所の伊藤敬一常務理事は、これまでの「廃炉ビジネス」の広がりのなさをため息交じりに振り返る。
2008年に始まった敦賀市の新型転換炉ふげんの廃炉工事。ビジネスチャンスになると、地元経済界にとって期待は高かった。しかし、徐々に「さめた空気」が広がったという。
なぜ経済効果が薄いのか。元関西電力大飯原発の所長で、現在は原発廃炉工事のコンサルティングを行う「若狭原子力技術シニアコンサルティング」(敦賀市)の肥田善雄代表は「廃炉工事は約20年から30年と長い時間をかけるから、1年あたりの工事費用が少ない」と指摘する。
◆「もうからないニッチな仕事」
13カ月に1度の原発の定期検査は数十億円の費用をかける。一方、廃炉は敦賀1号機の場合、1年で10億円ほど。加えて、お金のかかる原子炉周りは技術のある大手企業が担当する。「地元企業にとって、もうからないニッチな仕事」と肥田代表は話す。
廃炉工事の進み方がよく分からないことも地元企業参入の壁だ。企業の参入を後押しする若狭湾エネルギー研究センター(敦賀市)産業育成部によると、地元企業へのアンケートで「先のことが知りたい」という意見が上がった。
廃炉は工事箇所ごとに発注されるが、その時期は工事開始のおよそ1カ月半前。仕事の段取りが間に合わず、受注できない地元企業も多いとみられる。
◆企業の熱意、住民との話し合いがカギ
廃炉ビジネスの可能性を評価する声もある。まちづくりやエネルギーの関連事業に取り組む株式会社「PTP」(福井市)の福嶋輝彦代表は「廃炉は地元企業でも熱意があれば関われる。もうからないなら、大手は参入しないということ。息の長いビジネスとして期待できる」と話す。
厚生労働相の政務秘書官などを務めたことがあり、海外の廃炉措置を研究した。英中部セラフィールドの原子力施設では、地元の住民と企業が廃炉を話し合う仕組みがあった。「廃炉と同時に地域経済をどうしていくかも話し合う。同じような仕組みが、福井でも必要ではないか」。その先に廃炉ビジネスの広がりもあるとみる。
県が今年の春に策定したエネルギー政策「嶺南Eコースト計画」は、廃炉ビジネスを柱の一つに据えた。「大きな一歩」と評価する福嶋代表は「地元企業、住民、県。廃炉に向けてみんなが一歩前に出ていかないと」と話した。
◆原発の建屋を「産業遺産に」
廃炉原発を「産業遺産」にー。若狭原子力技術シニアコンサルティングの肥田善雄代表は、原発の建屋の一部を除染し、見学施設にすることを提案している。「全て壊して更地に戻しては何も残らない。次世代への教育や観光資源として活用してはどうか」と話す。
肥田代表は「廃炉半島敦賀戦略」と名付けた廃炉に向けた提言をしてきた。県内には、沸騰水型と加圧水型の軽水炉、新型転換炉、高速増殖原型炉などさまざまな種類の原発がある。「日本の各種炉型がそろっている。福井は廃炉技術の中心地になれる」と語る。
通常の廃炉は、建屋を壊して更地にして返還する。「遺産として残していくには、地元から声が上がらないと実現しない」と、議論の盛り上がりを期待する。
◆たまる使用済み核燃料の保管場所 関電約束果たせる?
「使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地がいまだに決まらない。関西電力の原発はすべてごく近い将来にふん詰まりだ」
6月25日に開かれた関電の株主総会で、筆頭株主の大阪市の代理人として出席した河合弘之弁護士がそう訴えると、他の株主たちから拍手が起きた。
関電が県内に建設した三つの原発(美浜、高浜、大飯)では、使用済み核燃料プールの容量の約7割が埋まった。原発が稼働を続けるためには、プールが満杯になる前に核燃料を搬出する必要があるが、搬出先を巡る議論は進んでいない。
関電の岩根茂樹社長(当時)は2017年に大飯原発(おおい町)の再稼働の同意を求めた際、西川一誠知事(当時)に中間貯蔵施設の県外候補地を18年中に提示すると明言。だが約束を果たせず、「20年を念頭にできるだけ早く示す」と修正した。その後に関電役員らの金品受領問題が明らかになり、関電には厳しい目が注がれている。
中間貯蔵施設の候補地とうわさされた和歌山県白浜町では、昨年12月に核のごみの持ち込みを禁じる条例が制定されるなど、阻止の動きも広がった。関電の約束実現には、懐疑的な見方が強まっている。
◆原発立地自治体は核燃料への課税で「抵抗」
県外の原発立地自治体では、使用済み核燃料の長期保管に「異議」を唱える動きも出ている。東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県柏崎市は、使用済み核燃料に課す税について、燃料搬出を促そうと保管期間が長くなるほど税額を高くする「経年累進課税」にし、10月に開始予定だ。
中間貯蔵施設や使用済み核燃料の再処理工場(青森県)に搬出できるようになるまでは課税を見合わせるという条件付きだが、桜井雅浩市長は「使用済み核燃料を長期保管することは認めないという市の意思表明だ。累進課税化で、国にも強いメッセージを伝えることができる」と訴える。
福井県は「発電は引き受けたが、核のごみまでは引き受けていない」とし、使用済み核燃料の県外搬出を求めてきた。杉本達治知事も6月30日、県庁で関電の森本孝社長に「(県外候補地提示の期日まで)あと半年しかない。具体的な形にして早く報告してほしい」と迫ったが、関電の出方を待つ姿勢にとどまる。
龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「中間貯蔵施設は受け入れる自治体に利益がなく、地元の議論を経ないで決めることは難しい」と、関電の置かれた立場の厳しさを指摘する。
県内の原発立地の首長からは、専用容器に核燃料を入れて空冷する「乾式貯蔵」の議論を容認する意見も出ており、大島教授は「県として燃料の問題を踏み込んで議論する委員会があってもいい」と提案した。