2020年8月13日木曜日

13- 長泥地区 解除後でも除染してと 営農再開に望み

 福島原発事故で帰還困難区域となっている飯舘村長泥行政区の住人で、現在は福島市松川町に避難しながら週1回、同行政区での作物栽培の実証試験に参加している農業鴫原圭子さんの思いを福島民報が取り上げました。
 拠点内住民には現時点で一括解除という「特殊事例」について説明はなく、鴫原さんは、一括解除に向けた村の方針を新聞報道で知りました。
 そして「長泥の名が悪い意味で広まるかもしれない。解除後でもいいから除染はしっかり行うべき」と訴えました。長泥の地で将来営農を再開するとの決意があるからです
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解除後でも除染して 風評 …営農再開に不安
福島民報 2020/08/11
 東京電力福島第一原発事故で帰還困難区域となっている飯舘村長泥行政区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)で、村内の除染土壌を農地に再利用する事業が進む。行政区内から福島市松川町に避難している農業鴫原圭子さん(58)は農地の安全性を検証する作物栽培の実証試験に参加している

 避難先から週に一度、長泥行政区に通い、作物を育てる。農作業に没頭していると、この場所で暮らしているような気持ちになる。だが、ふと周囲を見渡すと、除染作業用の車両が道路をひっきりなしに行き交っている。周囲の建物はほとんど解体された。見慣れぬ光景に、古里が変わってしまったのを実感する。
「遠い将来であっても、住民が長泥で平和に生活できる日がいつか来るはず」。そう信じ、作物に水をまく。
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 実証試験は環境省の主導で二〇一九年春、本格的に始まった。盛り土実証ヤードと呼ばれる三・五アールの農地は、村内の除染土壌から選別した一キロ当たり五〇〇〇ベクレル以下の土を埋め、汚染されていない土を約五十センチの厚さに覆っている
 環境省はバイオマス燃料に使用できるソルガムやアマランサスなどのほか、トルコギキョウなどの花卉(かき)を栽培し、放射性セシウムの移行の有無や周辺の空間放射線量などを調べている。二〇二〇(令和二)年度からはトマトやキュウリ、トウモロコシなど食物の栽培も始まった。一部では除染土に覆土しない状態での生育実験も行われている。
 村内の除染廃棄物は現在、中間貯蔵施設に搬出できていない約百二十万立方メートルが農地などに仮置きされている。国は復興拠点の避難指示解除を目指す二〇二三(令和五)年春までに、拠点内の約三十四ヘクタールに仮置き場で選別した除染土壌の一部を運び込み、農地を造成する方針だ。除染土壌を再利用する仕組みを確立して普及させ、最終処分量を減らす狙いがある。
 実証試験は環境省から委託を受けた業者が実施し、長泥行政区の住民十人が協力している。
 鴫原さんはその一人だ。除染土壌の再利用は受け入れられない人もいるだろうと思う。汚染された土に不安や嫌悪感を抱かれるのは仕方がない。だが、県内の除染廃棄物の減量につながるなら、実施すべきと考える。「理解を得るには時間がかかる。でも、安全性が確認された上で取り組みが広がってほしい」
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 飯舘村は復興拠点外の全面的な除染を行わないことを容認する形で、帰還困難区域の一括解除を目指し、国と協議を進めている。村は拠点外の住民への説明会を開き、合意を得ている。一方、鴫原さんら拠点内の住民には現時点で一括解除という「特殊事例」について、説明はないという。鴫原さんは一括解除に向けた村の方針を新聞報道で知った。
「長泥の名が悪い意味で広まるかもしれない。解除後でもいいから、除染はしっかり行うべき」と訴える。未除染で生じる風評を懸念するのは、長泥の地で将来、営農を再開するとの決意があるからだ。