福島第1原発事故の際、放射線から子どもを守ろうと、自主的に避難した子育て世帯が多くいました。
柏崎刈羽原発から半径5〜30キロ圏の長岡市などの住民は、事故時にはすぐに逃げず「屋内退避」をすることが原則となっています。しかし子どもを抱える親たちはその通りにとどまる積りでしょうか。
新潟日報が子どもを抱える親たち実際にどうする積りなのかを聞きました。共通して言えることは親たちは木造家屋では放射能を防護できないことを自覚しているということです。
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原発事故でも逃げちゃダメ? 半径5~30キロ“屋内退避の原則”とは 「子どもだけでも」「避難後の生活が…」子育て世帯が抱える不安
新潟日報 2025/8/16
2011年の東京電力福島第1原発事故の際、放射線から子どもを守ろうと、自主的に避難した子育て世帯が多くいた。東電柏崎刈羽原発から半径5〜30キロ圏の長岡市などの住民は、事故時にはすぐに逃げず「屋内退避」をすることが原則となっている。子どもを抱える親たちはその通りにとどまるのか、遠くへ逃げるのか-。
【地図】柏崎刈羽原発の避難準備区域(UPZ)などの範囲
7歳と4歳の子を育てる長岡市の主婦、河内沙苗さん(45)は、 家族4人分の安定ヨウ素剤を、防災グッズや備蓄用の水と一緒に自宅に保管する。ヨウ素剤は、県が柏崎刈羽原発から半径30キロ圏内の希望する住民に事前配布した。河内さんは県の説明会に参加して受け取った。「原発で何かあったら、影響のある地域なんだなという意識はある」と話す。
事故が起きたら、まずは屋内退避という原則も知っている。だが、子どもは大人に比べて放射線の感受性が高いとされている。
河内さんは「どんな影響が出るか分からない。それなら安全性の高い方を選ぶ」。放射性物質が拡散する事態になれば、国からの避難指示がなくても、県外にある実家に避難する決断を下すだろうと考えている。
▽「屋内退避の原則」に不満
福島第1原発事故後に定められた国の原子力災害対策指針では、原発から半径5キロ圏内の即時避難区域(PAZ)、5〜30キロ圏の避難準備区域(UPZ)を設定。重大事故の際には、UPZの住民が屋内にとどまり、PAZの住民をスムーズに避難させる体制を取っている。
「つまり、(UPZの)私たちは逃げては駄目だということですよね」。長岡市で子育て中の自営業女性(41)は、屋内退避の原則に不服そうな表情を見せた。
木造の自宅にとどまることで被ばくから身を守れるとは思えず「気持ち的には逃げたい」と思う。ただ、「専門用語や数字を聞いても分からない。行政の指示を聞くしかない」と語る。
PAZの住民が、放射性物質の放出が始まる前から避難を行うのに対し、UPZの住民が避難するのは、屋内退避後に放射性物質が拡散し、空間放射線量が上がった場合だ。長岡市の50代男性は「とどまって被ばくするくらいだったら、子どもと妻だけでも逃がすと思う」と語った。
▽「逃げた先」の生活に不安
国は、福島第1原発事故の教訓として、病気の人や小さい子を連れての避難行動は、心身に負担を伴うといったリスクを説明する。一方で、内閣府の原子力防災の担当者は、原発事故時に屋内退避を求められているUPZ住民で避難を望む人がいることについて、「UPZ外に避難することを必ずしも禁止してはいない」と語る。
長岡市と同様にUPZに入る出雲崎町で地域おこし協力隊員として働き、2歳と0歳の娘を育てる北谷美穂さん(27)は「自分の判断で避難したとして、避難所に入れる保証もない」と話し、自宅にとどまることが現実的だと考える。
福島第1原発事故で自主的に避難した人たちには、10年以上たっても故郷を離れて暮らす人もいる。北谷さんは「逃げて終わりではなく、その先の生活がある。逃げた方が不安だ」と話す。