ダイヤモンド編集部の堀内 亮記者が、「伊方原発3号機運転差し止めの裏事情、原発事業の司法リスクに政権は『塩対応』」とする記事を出しました。(「塩対応」という聞きなれない言葉は、「そっけない対応」というほどの意味で、「無視」という意味に近いかも知れません)
堀内記者がいう通り、広島高裁の決定は「ざっくりいえば、火山、活断層という争点で、原子力規制委が司法にコテンパンに打ち負かされた」のでした。司法による指摘は実に明快でした。
ところが同記者は、国の政策を左右するような判決、または決定を出す場合、何者からも独立している裁判官でも勇気の要ることであるとして、司法関係者のなかでは「定年を控えた裁判官は思い切った判決、決定を出すことができる傾向にある」とされていると述べています。
実際に広島高裁で伊方原発3号機運転差し止めの仮処分が下されたのは、2度共定年間際の裁判官に拠ったのでした。また記事では言及されていませんが、最初に福井地裁で大飯原発運転差し止めの判決や高浜原発運転差し止めの仮処分決定を下した樋口英明裁判長(当時)もやはり定年間近でのことでした。
判事の人事は最高裁事務総局が握っていて、権力に楯突く判決を書いた裁判官が左遷されるケースは少なくありません、現実に樋口氏はその後名古屋家裁部に回されるなどの処遇を受けました。
それでも判事には高額な報酬が保証されているのだから、昇進に拘らずに良心に基く判決を出すべきだという考え方も当然ありますが、決められた官舎に住まわされ、狭い人間関係の中で生きて行くしかない判事に取ってはやはり酷な要求になるのでしょう。
何よりも判事が、憲法と良心のみに拠って判断を下すことが妨げられている現実こそがまず改善されるべきです。そのことは樋口英明元裁判長がいまも大飯原発運転差し止めや高浜原発運転差し止めの判決乃至決定に絶対的な自信を持って各所で講演していることからも明らかです。
三権の一角の筈の司法が。現実には政権という権力に従属しているのは極めて重大な問題であり、まことに不幸なことです。
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伊方原発3号機運転差し止めの裏事情、
原発事業の司法リスクに政権は「塩対応」
堀内 亮 ダイヤモンドオンライン 2020.1.23
ダイヤモンド編集部 記者
運転差し止めの仮処分決定は
2回連続で定年退官間際の裁判長
高松市内の四国電力本店で緊急会見した西崎明文常務は「決定は到底承服できない」と怒りをにじませた。
愛媛県の伊方原子力発電所3号機が司法判断によって運転停止に追い込まれたのは、2017年12月に続き2度目となる。
1度目は伊方原発から100キロメートル圏内の広島市と松山市の住民が、今回は50キロメートル圏内にいる山口県の住民がそれぞれ伊方原発3号機の運転差し止めの仮処分を申し立てた。
1度目は広島地裁が却下し、その後広島高裁が一審を破棄して運転を差し止める仮処分を決定した。その後の広島高裁の異議審で仮処分は取り消されている。
これに対し、今回は山口地方裁判所岩国支部が却下し、これを不服とした住民側が広島高裁に即時抗告していた。
1度目の運転差し止めを決めた仮処分は、伊方原発から130キロメートル離れた火山が噴火すれば火砕流が伊方原発に到達する可能性を指摘し、伊方原発3号機が安全審査に基づいて規制基準に適合したとする原子力規制委員会の判断が「不合理」だとした。
今回の広島高裁決定は、四電が実施した伊方原発近くにあるとされる活断層の評価が不十分とし、原子力規制委員会がその不十分な評価に基づいて安全審査をクリアさせた判断は「過誤ないし欠落があった」と結論づけた。
ざっくりいえば、火山、活断層という争点で、原子力規制委が司法にコテンパンに打ち負かされたのである。
揺れに揺れる司法判断ではあるが、実は、広島高裁で2度も決定が下された伊方原発3号機に対する運転差し止めの仮処分については、ある共通の傾向がある。
1度目の決定を下した野々上友之裁判長(すでに退官)、今回の仮処分を決めた森一岳裁判長、いずれも定年退官間際の裁判官なのだ。
原発に限ったことではないが、国の政策を左右するような判決、または決定を出す場合、何者からも独立している裁判官でも勇気の要ることだ。
裁判官とはいえ、会社と同じように上層部、つまり最高裁判所に人事が握られている。権力に楯突くような判決を書いた裁判官が左遷されるケースは少なくない。
翻せば、ほぼキャリアを終えた裁判官ならば、誰に忖度する必要もない。司法関係者は「定年を控えた裁判官は思い切った判決、決定を出すことができる傾向にある」と指摘する。
定年退官を控えた裁判長が裁判官のプライドに懸けて、原発の運転を差し止める仮処分はこれからも起こりうるだろう。
脱原発派は闘争手段として、全国各地で今後も原発運転差し止めを求める仮処分申し立てを繰り広げられるのは、ほぼ間違いない。
仮処分の申し立ては、原発から半径250キロ圏内の住民に訴訟を提起できる資格を認めていて、脱原発弁護団全国連絡会共同代表を務める河合弘之弁護士は「司法の力で止める」と断言しているからだ。
いわば、原発を抱えた電力会社は、“もぐら叩き”のごとく全国各地で繰り広げられる法廷闘争に対処しなければならず、司法によって原発を止められるリスクから逃れられない。
原発政策の放置続ける
安倍政権の“塩対応”
原発は国策民営方式でこれまで推進し、電力業界と政府はガッチリとタッグを組んで二人三脚で歩んできた。電力業界にとって“相棒”であるはずの政府は、原発に対する司法リスクに関しては“塩対応”だ。
伊方原発3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分を受け、菅義偉内閣官房長官は「原子力規制委員会の審査に適合した原発は、規制委の判断を尊重して再稼働を進める」と、まるでお題目を唱えるかのようにコメントした。
菅官房長官のこのコメント、全く的外れなのである。そもそも、広島高裁は原子力規制委員会の判断そのものを「不合理」と断じているのだ。
司法によって原発に“ノー”が突きつけられた場合に対する原子力規制のあり方や原子力行政について語っておらず、安倍政権が原子力行政、そしてエネルギー政策に全く関心がないことの現れである。
資源の乏しい日本にあって、原発は“準国産”エネルギーとして重要な位置を占めてきた。世界が脱炭素化社会を目指す上で、政府は原発が「実用段階にある脱炭素化の選択肢」とうたっているが、政策は漂流している。