双葉町に昨秋開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」を西日本新聞の記者が訪ねました。
記者は、同館が「語り部」に対し、国や東電など「特定の団体」を批判しないよう求めている点に関心を持ち、未曽有の事故がどう紹介されているのか伝承館を訪ねたとしています。
「語り部」向けマニュアルには「笑顔で対応する」「喜怒哀楽、感情をコントロールしながら話す」「特定の団体への批判・誹謗中傷等は含めない」といった指示が記されていることが紹介されています。
県や町が介在するとどうしてもこうした事なかれ主義というか、国は正しいという点にこだわることになるので、その点を差し引いて理解するしかないのですが・・・。
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語り部に批判認めず…原子力災害伝承館ルポ
山下 真 西日本新聞 2021/2/14
東日本大震災の発生から10年を前に、福島県双葉町に昨秋開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」が注目されている。同町に立地する東京電力福島第1原発の事故被害を伝える県の施設で、新型コロナウイルス禍にありながら、来館者数は当初の予想を上回る。ただ、館は語り部に対し、国や東電など「特定の団体」を批判しないよう求め、専門家から「教訓の核心を伝えていない」と不満も漏れる。未曽有の事故はどう紹介されているのか。伝承館を訪ねた。
伝承館は太平洋を望み、大津波にのまれた平野に立つ。除染作業で出た土を保管する中間貯蔵施設が近くに見え、南には廃炉作業中の福島第1原発。国の交付金を受けて建設され、昨年9月の開館後、4カ月で年間5万人の目標に迫る約3万4千人が訪れた。
館内は資料約170点を並べるが、展示エリアは撮影が禁じられている。津波の到達時刻を示したままの時計や流されたポストなどが並ぶ一方、作業員の防護服などは実物でなく、新品の「同等品」。事故の過酷さが伝わりにくいものも目に付いた。
気になったのは、町に掲げられていた看板の行方だ。「原子力 明るい未来の エネルギー」の標語には、原発誘致による地域発展の願いがにじみ、安全神話を過信する怖さを考えさせられる。教訓を伝える物証のはずだが、館は「展示スペースの確保が難しい」。
事故後に解体された看板は福島県立博物館に保管された。展示を求める声に押され、現在は一転して展示を検討するが、昨年11月の取材時は、看板の写真パネルに「福島第一原発と地域の結び付きを示している」と簡潔な説明文が添えられていただけだった。
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「原発はずっと暮らしの中にあった。安全に疑問を持たず、無関心でした」。館では、語り部約30人が交代で被災体験を紹介する。
実は、館には語り部向けマニュアルがあり、物議を醸している。関係者が見せてくれたマニュアルには「笑顔で対応する」「喜怒哀楽、感情をコントロールしながら話す」「特定の団体への批判・誹謗(ひぼう)中傷等は含めない」といった指示が記されていた。
「国や東電の糾弾をやめるよう言われ、被災者の悲しみや怒りが軽んじられた気になった。復興への前向きな姿勢をアピールしたいのでしょう」。語り部の一人は不満を口にする。話す内容は館が事前にチェックし、修正もあるという。
館の橘内隆企画事業部長はマニュアルの意図を「あくまで一般的な注意」と強調。語り部経験が乏しい人もいるため「スムーズに話してもらう」のが目的だという。所管する福島県生涯学習課は「(被災者が国や東電に損害賠償を求めた)訴訟が続く中、確定した事実でなければ、ふさわしくない」と批判を認めない理由を説明した。
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伝承館は原発事故の実相を伝え切れているのか。福島大の後藤忍准教授(環境計画)は「事故が起きた背景を人災という側面から考える材料は乏しい」と指摘する。例えば、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を巡る展示。福島県は事故発生直後、試算結果のメールを受け取りながら大半を消去していたが、こうした「失敗」に触れていない。
後藤氏は「原発を推進し、安全を広報した反省も不十分。ただし、館の周囲には生々しい現場が残り、来場に一定の学びはある」と語った。 (山下真)