2021年2月10日水曜日

ずさん過ぎる管理体制露呈 柏崎刈羽原発不正入室問題

 柏崎刈羽原発の所員が原発中央制御室に不正に入った問題で、原子力規制庁は8日、不正入室の経緯を明らかにしました。
 新潟日報が規制庁の説明を基に不正入室を再現する記事を出しました。
 二つ目の記事では、地元首長の反応や反対派の批判がまとめられています。
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ずさん過ぎる管理体制露呈 柏崎刈羽原発不正入室問題
                            新潟日報 2021/02/09
 「無断でロッカーからIDカードを持ち出した」「警備員はIDカードと社員の顔を見比べ、疑念を抱きつつも、入域を許可した」-。東京電力柏崎刈羽原発の所員が原発中央制御室に不正に入った問題で、原子力規制庁は8日、不正入室の経緯を明らかにした。説明からは、テロ対策上も厳重な管理が求められるはずの中央制御室の入室で、ずさんで危機意識を欠いた対応が重なっていた実態が浮かび上がった。規制庁の説明を基に不正入室を再現した。

■無断で別社員のカード持ち出し
 2020年9月20日、中央制御室に勤務する社員Aは、自分のIDカードが見つからなかったため、非番の社員Bのロッカーを開け、無断でカードを持ち出した。紛失の報告やIDの無効化など必要な手順は踏まなかった。社員Bも中央制御室の勤務員だったが、ロッカーに鍵をかけてはいなかった
 その後、社員Aは中央制御室に通じる、二つの「関門」でそれぞれ警備担当者に対し、社員Bの名前を名乗った。いずれも警備担当者が社員Aの顔とIDカードの顔写真との違いに疑念を抱いたが、通過させた。

■認証エラー、しかし
 二つ目の「関門」となる防護区域出入り口。IDカードの認証が複数回エラーになったが、警備担当の社員Cが出入り口を開けた。
 この社員Cは権限がないのに独断で社員Aが出入り口を通れるようカードの識別情報の登録も変更した。その後、社員Aの顔に見覚えがある警備員が違和感から声を掛けたが、Aは社員Bの名前で押し通し、中央制御室までたどり着いた。
 この日の勤務を終えた社員A。自分のロッカーの奥に自身のIDカードが落ちているのを見つけた。無断で借りたIDカードは社員Bのロッカーに戻した。
 翌21日、社員Bが自分のIDカードで防護区域に入ろうとした際、識別情報の登録が変更されていたためエラーが発生。前日も対応した社員Cが不審に思い、事情を聞いたことから問題が発覚した。
 東電は同日、原子力規制庁に報告した。

【解説】適格性「合格」に疑念
 東京電力柏崎刈羽原発で発覚した不正入室問題は、二重の意味で不信をもたらした。一つは福島第1原発事故を起こした東電が再び原発を動かす「適格性」、もう一つはその適格性に合格を与えた規制当局そのものの信頼性だ。
 原発の心臓部に当たる中央制御室に入る際、核防護上の幾つものルールをないがしろにした東電は論外だ。一方で、「適格性」に関する議論のさなかに、この不正を議論の考慮に入れないでいいと判断した原子力規制庁の問題意識の低さも重大だ。
 現在の規制当局は2層構造になっている。有識者5人が選任された原子力規制委員会の下に、行政職員で構成する規制庁が事務局として連なり、実質的に審査実務を担っている
 規制庁は今回の不正事案を発生直後の昨年9月に把握しながら、ただちに規制委に伝えない判断をした。発生から4カ月後の報道をきっかけに問題が明るみに出た後、今年2月8日になって「判断が甘かった」と認めた。市民感覚からかけ離れていると言わざるを得ない。
 問題が深刻なのは、原発のテロ対策審査を含め、核防護にかかる問題が公表されず、外部からの検証が困難なことだ。今回の問題も報道がなければ、いまも明らかになっていない可能性がある。こうした状況は、規制委の審査そのものに疑念を生じさせる。
 規制委と規制庁は福島第1原発事故翌年の2012年に発足した。原発を推進する経済産業省の中にあったかつての規制当局が、津波対策の不備に十分対応せず、事故を防げなかったとの反省に立った。
 柏崎刈羽原発7号機の再稼働問題を考える上で、規制委の審査は重要な材料と言える。規制は誰のためにあるのか。当局の姿勢があらためて問われている。


反対派、規制庁の姿勢に反発 原発不正入室 地元首長は推移見守る姿勢
                           新潟日報 2021/02/09
 東京電力柏崎刈羽原発の所員が中央制御室に不正入室した問題で、原子力規制委員会が昨年9月に保安規定変更案の審査で「合格」を認める前に、規制委事務局の原子力規制庁が問題を把握していたことを認めた8日、同原発の地元首長は冷静に事態の推移を見守る姿勢を示した反対派は規制庁が委員に報告しなかったことに反発。「規制庁は東電福島第1原発事故前の規制機関に先祖返りした」と怒りの矛先を向けた
 規制委は同変更案で、福島事故を起こした東電が再び原発を動かすことの適格性について担保されるかを審査。「規制基準の順守にとどまらず、自主的に原発のさらなる安全性を向上する」など7項目の「決意」を盛り込んだ変更案を昨年9月23日に了承した。
 規制庁はこの2日前の同21日に東電から不正入室の報告を受けながら、約4カ月間も規制委に報告しなかった。この問題は変更案の審査に反映されなかった
 条件付きで再稼働を容認する新潟県柏崎市の桜井雅浩市長は「中央制御室への不正入室を防ぎ切れなかった管理体制の不備は、東電自ら責を負わなければならない」とのコメントを出した。規制委が審査した東電の「適格性」については「これら事案を招いたものこそ『適格性』なのではないかと強く疑う」として、再検討などの対応を求めた。
 刈羽村の品田宏夫村長は、取材に対し「セキュリティーが甘かったのは間違いない。しっかりしろと言いたい」と東電に苦言を呈した。規制庁の対応については「重要度の評価、再発防止も含めて規制当局の判断に任せる」と述べるにとどめた。
 反対派の住民は「審査合格が既定路線だったため、規制庁が規制委に報告をしなかったのではないか」と指摘。規制庁に厳しい視線を向ける。
 柏崎刈羽原発市民研究会の竹内英子共同代表は「規制庁が東電から報告を受けた事実を委員会に報告すると、審査に悪影響が出るから隠したのではないかと思われても仕方ない」と批判する。
 柏崎刈羽原発反対地元3団体の矢部忠夫共同代表は「東電が原発を運転する資格がないことを改めて確認した」と語気を強めた。規制庁に対しては「すぐに規制委に報告するのが当然で、感覚がまひしている。東電の適格性の審査もゼロからやり直すべきだ」と求めた。

■長岡で住民説明会、具体的説明なく
 東京電力が8日、長岡市で開いた柏崎刈羽原発7号機の安全対策工事に関する住民説明会。東電は所員が他人のIDカードを使って中央制御室へ不正に入室したことを陳謝する一方、不正の経緯などは具体的に説明せず、出席した市民からは不満や憤りの声が相次いだ
 説明会では、安全対策工事の詳細が説明された半面、不正入室に関しては表面的な言及にとどまった。長岡市の無職男性(76)は「再稼働ありきの姿勢を強く感じた技術の問題というより、組織体質の問題だ」と非難した。同市の無職男性(66)は「東電は不正を食い止められる組織でない。原発を動かせる企業になっていない」と切り捨てた。

 不正入室問題の報告を東電から受けた原子力規制庁が、原子力規制委員会に報告していなかったことを問題視する声も聞かれた。長岡市の会社員男性(72)は「悪い情報ほどいち早く公開し、改善させることが信頼につながる」と指摘。同市の社会福祉士の男性(71)は「規制する側がより強い立場で規制する仕組みにならないといけない」と語った。