2021年6月4日金曜日

04- トリチウム水海洋放出 宮城、茨城両県にも危機感

 福島原発のトリチウムを含む処理水の海洋放出方針を巡り、福島県同様、宮城、茨城両県の漁業関係者からも国民の理解が進まない中での海洋放出に反対の声が上がりました。
 両県でも「海はつながっている」ので原発事故の影響で魚介類が値崩れし、近年ようやく価格が回復傾向にある中、「海洋放出となれば新たな風評が生まれ、再び魚の価格が下がるだろう」と危機感を強めています。
 宮城県はトリチウム水放出に関して、地元の要望をまとめる官民会議を設置し5月11日に初会合を開きました。座長の村井嘉浩知事は海洋放出が国民的理解を得られた状況ではないとして、「国と東電が責任ある対応を取るよう、申し入れたい」と述べました。
 また福島民報は「論説 処理水の風評対策 また聞き置くだけか」とする論説を出しました。
 2つの記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【官製風評 処理水海洋放出】宮城、茨城にも危機感 風評長引きかねないと漁業関係者 自民の意見聴取 
                             福島民報 2021/06/03
 東京電力福島第一原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出方針を巡り、自民党東日本大震災復興加速化本部が実施した意見聴取に対し福島、宮城、茨城の三県知事が風評対策などを求めた二日、福島県同様、宮城、茨城両県の漁業関係者からも国民の理解が進まない中での海洋放出に反対の声が上がった。両県でも原発事故の風評で魚介類が値崩れした。価格が回復傾向にある中、「新たな風評が生まれ、影響が長引きかねない」と危機感を強めた
 福島県いわき市南部の勿来地区から南に約六キロに位置する茨城県北茨城市の大津漁港。県内有数の水揚げを誇り、春と秋に旬を迎えるシラスは全国的に高い評価を得ている。
 海はつながっており、茨城県の漁業への影響は避けられない。放出には反対だ」。大津漁協所属の第十一勝貴丸船長の岩崎勝昌さん(56)は語気を強めた。二日、底引き網漁でアンコウやメヒカリ、ヤナギガレイなどを水揚げした。新鮮な「常磐もの」を見つめ「あの時と同じように、風評被害は避けられないのでは…」とうつむいた。
 政府が四月に処理水の海洋放出方針を決定して以降、政府や東電からの説明はないという。本県の漁師と思いは同じで、「国民の理解は深まっていない。国と東電は説明責任を果たしてほしい」と訴えた。
 大津漁協副組合長の井上清一さん(68)は、海洋放出に伴う新たな風評が後継者不足に拍車を掛けると懸念する。漁師の数は近年、減少し続け高齢化も進む。原発事故発生時、風評が魚介類の値崩れを引き起こし、漁業の新たな担い手の誕生を阻んだ。
 東京の市場に何度も足を運び、安全性をアピールした。少しずつ価格は戻ったが、いまだに値段が下がったままの魚種もある。中国や台湾、韓国などへの海産物の輸出は止まったままだ。「風評が続くことで漁業がさらに衰退するのでは」と不安視する。
 宮城県亘理町荒浜の直売所「鳥の海ふれあい市場」に二日、荒浜漁港で水揚げされたカレイやタイ、サバなどが並んだ。店長の菊池美智子さん(63)は「海洋放出となれば再び魚の価格が下がるだろう」と心配そうな表情を浮かべた。
 東日本大震災の津波で荒浜地区は甚大な被害を受け、二〇一一(平成二十三)年六月に水揚げが再開された。鳥の海ふれあい市場は仮設施設を経て二〇一四年に移転・再開した。連日、多くの人が訪れ、鮮魚を買い求める。
 宮城県南部に位置し本県に近い。原発事故の影響で魚介類の価格は一時、低迷した。風評払拭(ふっしょく)に向けて、漁業関係者は地道な努力を重ねてきた。「国はきちんと風評対策を示してほしい」と訴えた。

■宮城県 官民会議で意見集約へ 福島、茨城と情報共有
 宮城県は処理水放出に関して、政府や東京電力に対する地元の要望をまとめる官民会議を設置し、五月十一日に初会合を開いた。今後も会議を開き、風評対策や賠償の在り方に関する意見をまとめ、政府や東京電力に提言する。福島、茨城両県とも情報を共有する。
 会議の中で座長の村井嘉浩知事は海洋放出が国民的理解を得られた状況ではないと指摘し「国と東電が責任ある対応を取るよう、申し入れたい」と述べ、JA宮城中央会の高橋正会長は「農業に与える影響も理解してほしい」と求めている。


論説 【処理水の風評対策】また聞き置くだけか
                            福島民報 2021/06/03
 東京電力福島第一原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出方針決定を受けた政府による意見聴取で、県内の各種団体はあらためて具体的な風評対策を示すよう求めた。政府は今夏に中間まとめを行う行動計画に意見を反映するとしただけで、風評抑止策の検討状況は明らかにしなかった。要望を聞き置くだけで利害関係者との議論を深めようとしない姿勢では、何の解決策も見いだせないのではないか
 政府は昨年、処理水の処分方針決定に向けて計七回の意見聴取会を開いた。多くの団体が環境への放出による新たな風評の発生を心配し、具体的な対策を求めてきた。それに何も応えないばかりか、全国的に処理水そのものへの理解が深まっているとは言えない状況にもかかわらず、方針決定に突き進んだ
 今回の会合で座長の江島潔経済産業副大臣兼原子力災害現地対策本部長は「風評払拭[ふっしょく]にどのような対策が効果的か教えてほしい」と繰り返した。政府の処分方針決定から二カ月を経過しようとする段階で、原発事故収束の責任者の一人として発する言葉とは思えない。菅義偉首相は処分方針を決定した閣僚会議で「政府が前面に立って処理水の安全性を確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を取る」と表明したはずだ。
 幾度となく処理水処分による弊害を訴えてきた出席者の一人は「まずは政府が対策を考えるのが筋だ。本県の窮状を理解しておらず、本気で風評対策を考えているのか」と怒りをあらわにした。原発事故で著しい風評に見舞われた県民が海洋放出方針に懸念を抱き、政府の他人任せとも受け取れる対応に憤るのは無理もない。政府の当事者意識の欠如を指摘せざるを得ない。
 会合出席者からは処分方針決定により「既に風評が生じている」との声もあり、対策は待ったなしの課題だ。影響が及ぶのは農林水産業にとどまらず、観光や宿泊業など多方面にわたる。政府は今後も意見を聞く場を県内で設けるとしているが、日程は決まっていない。このまま中間まとめとなれば、手続きの在り方が再び問われるだろう。

 政府には国民理解の醸成を図り、風評の発生を食い止める対応が求められる。対策の中身や検討状況を早急に明示し、利害関係者とともに十分な内容なのか、実効性はあるのかなどの議論を尽くした上で納得できる結論を導き出す責任がある。そうした段取りを丁寧に踏んだ後に処理水の処分方針を決定し直すのが道理だ。(円谷真路)