2021年6月3日木曜日

東電に賠償命令 原発事故で新潟に避難した住民に 新潟地裁 +

 新潟県に避難した住民ら約800人が、国と東電に計約88億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、新潟地裁は2日、東電に計約1億8400万円の支払いを命じました。国への請求は棄却しまし
 
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原発事故で避難、東電に賠償命令 国への請求は棄却、新潟地裁
                          共同通信 2021年6月2日
 東京電力福島第1原発事故で福島県から。
 弁護団によると、新潟訴訟の原告数は各地で提訴された集団訴訟のうち、福島を除き最大規模。
 判決理由で篠原礼裁判長は、国は2002年に公表した地震予測の「長期評価」などを基に、津波の到来は予見できたと指摘した。しかし、大規模津波の具体的な危険性を裏付ける知見に乏しく「原発事故を防ぐことができたとは認められない」と述べ、国の責任を否定した。


国の責任否定 東電に一部賠償命令 新潟地裁 原発避難者訴訟判決
                            新潟日報 2021/06/02
 東京電力福島第1原発事故で福島県から新潟県への避難を余儀なくされたとして、237世帯801人の住民らが国と東電に計約88億5500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、新潟地裁は2日、東電に対し、原告636人に計1億8375万8600円を支払うよう命じた。国への請求は棄却した。原告側は不服として控訴する方針。
 新潟訴訟の原告数は、福島訴訟以外では最大規模。原告側弁護団によると、全国で約30件の同種訴訟が起こされ、国が被告となった16件のうち、国の責任を認めなかったのは8件目となった。
 判決理由で篠原礼裁判長は、国は2002年に公表した地震予測の「長期評価」などに基づき、津波を予見できたと指摘。一方、「具体的な危険性を根拠づける知見は十分でなく、予見可能性の程度は低いか、一定程度だった」とした上で、事故を回避できたとは認められないと結論付けた。
 原告らの損害に関しては、原発事故により避難し、職業や学校生活などに大きな変化を強いられたなどとして「多様な精神的苦痛を被った」と認定。自主避難の合理性と相当性を認めた。
 賠償は原告636人に対し、請求の一部を認めた。避難指示等区域内の原告に対して1人当たり16万5千円~935万円、自主的避難等対象区域内の原告に対しては1万1千円~33万円とした。原告側弁護団によると、一部認定された原告の大半は自主避難者が占め、大人1人当たり約23万円のケースが多い。
 判決後、記者会見した遠藤達雄弁護団長は「被害救済をないがしろにした判断と言わざるを得ない。引き続き、妥当な賠償を求めて闘う」と述べた。
 東電は「ご迷惑とご心配をお掛けし、心からおわび申し上げる。判決内容を精査し、対応を検討する」とコメント。原子力規制庁は「国への請求が棄却されたと承知している。事故を踏まえて策定された新規制基準への適合性審査を厳格に進め、適切な規制を行っていく」とした。
 新潟訴訟は、13年7月の第1陣を皮切りに第4陣までが提訴。20年10月に結審し、提訴から判決まで約8年を要した。

◎賠償制度の見直し不可欠
 東京電力福島第1原発事故で国の責任を認めなかった2日の新潟地裁判決は、原発事故被害者の苦しみを深めたといえる。原告801人が求めたのは国と東電の責任の所在と損害賠償だが、訴えの根底にあるのは一方的で被害の実態に向き合わない賠償ルールへの怒りだ。判決で認められた損害額は「少額過ぎる」(弁護団)。このルールこそ改めなければ、被害者の心は救われない。
 原発事故の賠償ルールは、東電が国の指針を基に支払額や対象を決める。被害者が東電に直接請求し、基準内で支払われる。基準にない賠償を求める場合は、国の機関に裁判外紛争解決手続き(ADR)で和解の仲裁を申し立てる。
 例えるなら国と東電が作った法律に基づき、両者が裁判長も務める法廷で被害者は賠償を求めているようなものだ。
 さらに被害者の範囲は国の避難指示区域の線引きに基づく。本県にはこの区域外からの自主避難者が多く、新潟訴訟の原告も約8割を占める。東電がこれまでに慰謝料として支払ったのは、避難した場合大人1人12万円にとどまる。地裁判決は自主避難者の大人1人当たり約23万円の支払いを命じた。しかし、弁護団は「苦痛を適切に評価していない」と反発する。
 また、判決は原発を推し進め、被害者を区域内外に分断した国に対し、事故の責任はないとした。原発事故被害者の落胆は計り知れない
 原発事故の被害者はそれぞれに失った大切なものがある。土地や家、家族、仕事、友人、故郷の絆-。釣りや山菜採りといった生きがいや喜びも奪われた。
 国と東電は柏崎刈羽原発の再稼働を掲げ続けている。現状、被害者に寄り添った賠償の仕組みはない。原発避難者訴訟と原発事故の賠償ルールは、新潟県民にとって決して人ごとではない。


「不当判決」原告怒りの声 原発避難者訴訟 「気持ち届かなかった」
                            新潟日報 2021/06/03
 多くの別れを重ねてきた。避難先で新しい出会いに救われもしたが、不安と葛藤がつきまとう10年だった。2日、新潟地裁が判決を言い渡した東京電力福島第1原発事故による避難者集団訴訟。地裁は国の責任を認めなかった。「不当判決だ」。避難者からは怒りの声が上がった。どうして、避難生活のありのままと向き合ってくれないのか。一人一人の思いと苦しみは、置き去りにされている
 「避難者の気持ちは届かなかった。8年も争って、こんな結果なんて」。福島県郡山市から、娘とともに避難する原告の女性(47)は新潟地裁の判決を聞き、ため息をついた。
 原発事故から間もない2011年5月、夫と離れ、4歳と7歳だった娘と新潟市に避難した。当時、郡山市内の放射線量は毎時約1・6マイクロシーベルト(事故前は0・05マイクロシーベルト前後)。「逃げよう」。国は郡山市に避難指示を出さなかったが、放射線の脅威と娘たちの健康への不安が背中を押した。
 不安から逃れるための決断だったが、新たな苦悩が次々と生まれた。知人はいない。頼れる人もいない…。何より、娘たちを父親と離ればなれにしたことが心苦しかった。
 二重生活による経済的な不安も大きかった。17年3月に住宅無償提供が打ち切られ、家計はさらに苦しくなった。「できることは全てやろう」。自身に言い聞かせ、2人の娘を育てながら、パートをこなした。
 一昨年の春、長女は高校進学のタイミングで帰郷した。夫とは長く離れた暮らしがすれ違いを生み、昨年、離婚した
 避難前はマイホームを持つ夢があった。「結局こんなことになってしまった。避難していなければ違ったのかな」。言葉を詰まらせ、涙を拭った。
 来春は次女の高校受験を控えている。次女も福島へ戻るか悩んでいて、帰郷すればようやく見つけた新潟でのフルタイムの仕事を手放すことになってしまう。「福島に戻れば、また一からの生活。どこに身を置けばいいのか分からない」
 裁判では勇気を振り絞って法廷に立ち、意見陳述をした。「私たちは何も悪いことはしていません。ただ、家族で普通の暮らしをしたいだけです」。一方、これまで国と東電は「いつでも帰還できる状況の中で避難生活の苦痛は各人の選択の結果」などと避難者を逆なでする主張をしてきた。
 そして、この日の判決。新潟地裁は避難の合理性と相当性を認めた一方で、国の責任は認めなかった。女性は「避難したことが間違いではないと認められたのは良かった。でも、国には避難を尊重してほしい。最後まで面倒を見てほしい」と強く思う。
 国も東電も被害者一人一人の思いに向き合わず、一方的に線引きをして避難者を区別しているように感じる。「区域内外なんて関係なく、避難したつらさは同じ。原発事故さえなければ避難なんてしていない」
 (報道部・原田こころ)

◎判決に不満ともどかしさ 弁護団会見
 原告弁護団が判決言い渡し後に開いた記者会見では、判決に対する不満ともどかしさが渦巻いた。国の責任が認められず、支援者からは「結局、裁判所は個々の被害者の苦しみと向き合っていない」と怒りの声が飛んだ。
 判決では、原告側の主張が認められた点もあった。国から避難を求められた区域の外からの「自主避難」でも合理性はある。ふるさとを喪失した苦しみも賠償対象の精神的苦痛に当たる-。
 「ならば、なぜ…」。弁護団は、裁判所が判決で認めた損害と賠償額との落差に落胆した。今回、多くの自主避難の原告に支払いが命じられたのは、大人1人当たり約23万円。中間指針は上回ったが、長い避難生活と負担に見合う額とは言えないものだった。
 遠藤達雄弁護団長は「8年かけてこの判決は非常に残念」と声を落とした。離婚、偏見、将来の不安など、裁判で多くの原告が訴えた被害を念頭に、近藤明彦弁護士は「どれだけの『生活破壊』が起こっているか、裁判所は分かっていない」と語気を強めた。
 国の責任についても、原告には矛盾しているように感じる。国が2002年の段階で福島第1原発が津波で被災する可能性を把握していたと認めた一方、「当時その予見可能性の程度は低かった」として原告の主張を退けた。
 弁護団は「不当判決だ」として、会見の席で控訴する方針を表明。近藤弁護士は「主張が認められたところもあり、光はゼロではない。われわれの訴えの足りなかったところを(控訴審で)しっかり訴えていきたい」と強調した。
 南相馬市から避難し、胎内市に住む原告の泉田昭さん(73)は、地裁の外で判決を待った。泉田さんは「国が避難区域の内外で住民を分断しようとしている」と感じる。「そうなったら本当の負け。区域に関係なく、一緒に控訴審を闘いたい」と今後を見据えた。