島根原発2号機 再稼働への審査 事実上の合格 原子力規制委員会
NHK NEWS WEB 2021年6月23日
中国電力が再稼働を目指している島根原子力発電所2号機について原子力規制委員会は、新しい規制基準に適合しているとして23日、事実上の合格を示す審査書案を取りまとめました。今後、正式に合格する見通しで、その場合、事故を起こした福島第一原発と同じタイプの原発では5基目となります。
中国電力は8年前、島根原発2号機の再稼働を目指し、原子力規制委員会に審査を申請しました。
規制委員会では、中国電力が原発近くにある活断層について当初より長く評価し直し、地震の想定を引き上げたことや、その対策として耐震補強を追加したことなどの安全対策が新しい規制基準に適合しているか議論されました。
そして、23日の規制委員会の定例会で中国電力の想定と対策は妥当だとし、審査に事実上合格したことを示す審査書案を取りまとめました。
これにより今後、一般から意見を募るパブリックコメントなどを経て、正式に審査に合格する見通しとなりました。
島根原発2号機は、事故を起こした福島第一原発と同じ沸騰水型と呼ばれるタイプの原発で、合格するとこのタイプの原発では5基目となりますが、まだ稼働したものはありません。
島根原発2号機の耐震などの工事は今年度に終わる計画ですが、再稼働には審査の合格以外にも地元自治体の了解なども必要で現時点では、具体的な時期のめどはたっていません。
一方、23日の定例会では、中国電力が、規制庁から提供されたテロ対策施設に関わる機密文書を誤って廃棄していたことが明らかにされました。
これについては、今後、詳しいいきさつなどを確認することになりました。
審査のポイントは
8年近くにわたった島根原子力発電所2号機の再稼働に向けた国の審査で大きな焦点となったのは、原発で想定される最大の地震の揺れ「基準地震動」でした。
中国電力は2号機の申請当初、原発から2キロほど南にある活断層、「宍道断層」の長さを22キロとし、基準地震動を最大600ガルと評価していました。
しかし、規制委員会からの指摘を受けて、中国電力は最終的に断層の長さを39キロと評価し直し、基準地震動も最大820ガルに引き上げることになりました。
中国電力は、初めて断層の存在を認めた1998年には「宍道断層」の長さを8キロと評価していたことから当初の5倍近くに見直した形です。
また、想定される最大の津波の高さも福島の事故の前の最大で高さ5.7メートルから11.6メートルと2倍近くに引き上げました。
中国電力はこれに伴い、海抜15メートルの防波壁を建設したほか、津波で押し流された漁船が防波壁に衝突することも想定し、強度を高める工事を進めています。
規制委員会は、こうした想定の見直しと対策について妥当と評価しました。
これまでに合格した原発は
これまでに原発事故のあと、原子力規制委員会による新しい規制基準の審査に合格した原発は9原発16基です。
島根原発2号機が、このあとパブリックコメントなどを経て、正式に合格すると17基目となります。
このうち、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれるタイプの原発で、審査に合格しているのは東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機、日本原子力発電の東海第二原発、東北電力の女川原発2号機で、島根原発2号機が合格すると5基目になります。
すでに再稼働した原発は
再稼働した原発は、審査に合格した16基のうち、鹿児島県にある川内原発1号機と2号機、佐賀県にある玄海原発3号機と4号機、福井県にある高浜原発3号機と4号機、大飯原発3号機と4号機、美浜原発3号機、愛媛県にある伊方原発3号機の合わせて6原発10基です。
すべて「加圧水型」と呼ばれるタイプの原発で、事故を起こした「沸騰水型」とは異なります。
「沸騰水型」の原発は、地元自治体の了解が得られていなかったり、安全対策工事が終わっていなかったりして、現時点で再稼働したものはありません。
規制委 更田委員長「まだまだ長い努力が必要」
島根原発2号機の審査書の案を取りまとめたことについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「原発に近い位置にある活断層の長さや耐震補強の対策については慎重に審査され、十分に時間をかけたと思っている。ただ、正式な合格を出したとしてもその先に必要な工事や審査はあり、まだまだ長い努力が必要でここで緩まないでもらいたい」と指摘しました。
また、同じ敷地内にあり審査の申請が出されている建設中の島根原発3号機については「火山灰や竜巻などの想定が2号機と3号機で異なることは考えにくく、自然災害についての審査は格段に短いものになる」と述べ、2号機よりも短い期間で審査書を取りまとめられる可能性があるとしました。
一方、2号機をめぐり、中国電力が機密文書を誤って廃棄したことが明らかになる中、審査書の案を取りまとめたことについては「まだ正式な合格の段階ではなく、この事案が審査書の中身に影響が及ぶものでもないので、取りまとめを行ったことは妥当だと考えている。中国電力の対処に問題がなかったかは今後、確認していく」と話していました。
島根県 丸山知事「総合的に判断していく」
島根原子力発電所2号機について原子力規制委員会が23日、事実上の合格を示す審査書案を取りまとめたことについて、島根県の丸山知事は「再稼働すべきか判断するスタートラインにまだ立っていない状況なので、中国電力や原子力規制委員会などにはきちんとした説明をしてもらわないといけないし、県はそれを求める立場だ」と述べました。
そのうえで、再稼働の判断に向けた今後の対応について「国から安全性や、住民の避難対策などについて十分な説明を受けたうえで、県議会をはじめ、住民も参加する安全対策協議会や、関係自治体などの意見をよく聞き、総合的に判断していく考えだ」と述べ、地元自治体の意見などをもとに検討していく考えを示しました。
また、原発から30キロ圏内にある出雲市と雲南市、安来市が中国電力に対して、立地自治体の松江市や島根県と同様に、再稼働に当たっては事前に了解を得るように求めていることについては「基本的に周辺の3市と中国電力で締結されている協定の話で、当然そこがベースになる。当事者間で決めるべき話であるし、県としては中立を保ちたい」と述べ、各自治体と中国電力との話し合いを見守っていく考えを示しました。
松江市長「進捗を注視したい」
島根原発の立地自治体である松江市の上定市長は「再生可能エネルギーが普及するまでは、原子力発電の担う一定の役割は着目せざるをえないという考えはかわっていません」と述べ、原発の再稼働について一定の理解を示しました。
そのうえで、再稼働の是非に関する判断について「今後、パブリックコメントなどの手続きがあり、そのあとの許可になるので、引き続き原子力規制委員会の検討の進捗(しんちょく)を注視したい」と述べ、現時点で明確な姿勢は示しませんでした。
また、原発から30キロ圏内にある出雲市と雲南市、安来市が中国電力に対して、立地自治体の松江市や島根県と同様に再稼働に当たっては事前に了解を得るように求めていることについては「電力事業者との関係における協定なので、他の自治体のことについて松江市がとやかく言う立場になく、3市と中国電力が協議をしていても、それを止めたり、調整したりする立場ではない。もしも各自治体の首長から話があれば、内容にはよるが検討していく」と述べるにとどめました。