2021年6月2日水曜日

「風評発生は確実」と水産関係団体海洋放出に反対 政府作業部会

 福島原発の汚染水の海洋放出方針を巡り、政府の関係閣僚会議ワーキンググループ(作業部会)は31日、福島県福島市といわき市で県内の農林水産業者らから意見を聞く初めての会合を開きました。

 実害乃至風評被害の発生は確実とする声が大勢を占め、政府方針の一方的な決定への批判も相次ぎました。
 県漁連と県水産加工業連合会は海洋放出への反対姿勢を改めて強調しました。
 菅首相が現地の意向をあなどって強引に海洋放出を決めたことへの反感が、容易に収まることはありません。
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「風評発生は確実」 水産関係団体 海洋放出反対 政府の処理水作業部会
                            福島民報 2021/06/01
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針を巡り、政府の関係閣僚会議ワーキンググループ(作業部会)は三十一日、福島県福島市といわき市で県内の農林水産業者らから意見を聞く初めての会合を開いた。処理水に関する正しい理解が国民に浸透しないまま海洋放出されれば、風評被害の発生は確実とする声が大勢を占め、政府方針の一方的な決定への批判も相次いだ県漁連と県水産加工業連合会は海洋放出への反対姿勢を改めて強調した。
 県や農林業、漁業、観光業など計七団体の代表が出席した。座長の江島潔経済産業副大臣兼原子力災害現地対策本部長らを前に意見を述べた。

 出席者の国への意見や要望は【表(省略)】の通り。県漁連の野崎哲会長は「海洋放出に反対する立場から、国が透明性を持って(対策に)取り組むか注視していく」とした。県水産市場連合会の石本朗会長は「水産物については風評被害でなく、実質被害だ。国と東電はどう解決の道をつくるのか」と問題提起した。県水産加工業連合会の小野利仁代表は処理水の処分方針決定で「風評被害はすでに生じている」との認識を示し、被害者の相談体制の構築を求めた。
 JA福島中央会の菅野孝志会長は海洋放出方針は「十分に対話せずに一方的に決定された」ために国・東電と国民・県民の信頼関係は喪失していると指摘した。
 県商工会議所連合会の渡辺博美会長は「溶融核燃料(デブリ)に触れた処理水だから風評は避けられない」と強調した。風評被害を受ける事業者への支援策や賠償を具体的に示すよう主張した。
 県旅行業協会の鈴木常雄副会長は「中小事業者にとって風評被害の発生を証明するのは能力的にも費用的にも極めて困難。処理水処分と被害が関係ないと東電が証明できなければ、賠償される制度を考えるべき」と提案した。

 鈴木正晃副知事は処理水の問題は日本全体の問題だとし、「県民が積み重ねてきた努力を後退させることのないよう国が前面に立ち、万全な対策を講じるべき」と訴えた。東電の相次ぐ不祥事に懸念を示し、県民目線に立った東電への指導・監督を国に求めた。
 江島経産副大臣は今後、隣県の宮城県や茨城県でも、処理水の海洋放出方針に関する意見聴取を行う考えを示した。作業部会は意見や要望を処分までの準備期間や処分開始後の具体的な施策をまとめる行動計画に反映させる方針。夏ごろまでに意見を集約し、計画の中間まとめを行うとしている。

※政府の処理水処分に関する基本方針
 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水について政府は4月、国内で処分の実績があり、トリチウム濃度の検知が確実だと判断して海洋放出を正式決定した。トリチウム濃度を国の放出基準値の40分の1未満まで水で薄め、2年後をめどに福島第一原発敷地内から放出する。2041~51年ごろとする廃炉完了目標までに放出を終える方針。風評被害は東電に損害賠償させる。


【官製風評 処理水海洋放出】幅広い意見反映を 地元要望に回答示せ
                            福島民報 2021/06/01
 東京電力福島第一原発の処理水海洋放出方針の風評対策を巡り、政府が漁業や農業など関係団体の意見を聞くワーキンググループ(作業部会)の初会合が開かれた三十一日、福島県内の生産者らからは作業部会で出された各団体の要望に対し、政府側が十分な回答を示すよう求める声が上がった。政府は今後、宮城、茨城両県でも作業部会を開く方針を示したが、県内での追加開催は未定となっている。生産者らは、より幅広く、きめ細かに意見を吸い上げるよう訴える。
 政府は(関係団体が求めた)地元の要望をしっかりと受け止め、風評が起きないよう施策案に反映すべきだ」。喜多方市の熱塩温泉山形屋の瓜生泰弘社長(65)は声を上げる。新型コロナウイルス感染拡大で県内の観光や宿泊業界への影響は長期化。処理水に伴う風評が追い打ちにならないか不安は尽きない。

 三十一日の作業部会では、県旅行業協会の代表が処理水の海洋放出に伴う打撃は水産業や農林業にとどまらないと指摘。徹底した風評対策や観光誘客への支援策を、中間取りまとめ前に早期に示すよう求めた。背景には政府が地元との対話を深めないまま強行的に海洋放出方針を決定したことへの不信感がある。
 方針の説明そのものも県内の自治体や議会にとどまる。瓜生社長は「国民が不要な不安を抱かないよう正確な情報を適切に発信してほしい」と求めた。
 相馬市の松川浦漁港に三十一日、漁を終えた船が次々と入港し、新鮮な魚介類を水揚げした。漁業者たちは十年間風評と向き合い、試験操業から一歩脱却した移行操業に光を見いだしたばかりだ。相馬双葉漁協の立谷寛治組合長(69)は「今の漁業や風評の実態がどうなっているのか、しっかりと認識するためにも幅広く声を聞いてほしい」と訴える。

 海洋放出方針の正式決定から約二週間後の四月二十八日、相馬市で国の担当者を迎えた漁業者向けの説明会が開かれた。同漁協の所属する相双地区の漁業者は約八百人に上るが、出席できたのは新型コロナ感染対策などを踏まえ約二百人にとどまった。説明会の追加開催は決まっていない。
 漁師が取った魚を食べる消費者の考えにも広く耳を傾けるべきだと考える。「そうでなければ、実のある風評対策につなげられるとは思えない」と話した。
 桑折町伊達崎(だんざき)でモモを栽培する農家南友祐さん(74)もきめ細かな意見を吸い上げるよう求める。
 高品質で、皇室にもモモを献上してきた。四月の降霜では栽培するモモ全体の九割ほどが被害を受けた。原発事故による風評が残る中、二年後に海洋放出となれば、風評が上乗せされると危機感を抱く。南さんは農業の担い手の将来を憂う。「(海洋放出と風評について)これからの『フルーツ王国福島』を支える若手農家がどう感じ、何を望んでいるかを知ってほしい」