2014年3月21日金曜日

基準内被曝でも「がん」の原因と労基署が認定

 原発の工事などに約27年従事し、「血液のがん」である悪性リンパ腫を発症した神戸市の男性(62)について、神戸西労働基準監督署が労災と認めました。
 
 男性の累積被ばく線量は168.41ミリシーベルト平均年約6ミリシーベルト)で労災認定などの基準被ばく限度は5年で100ミリシーベルト、1年で50ミリシーベルト。これとは別に、悪性リンパ腫は年25ミリシーベルト以上を超えていませんでしたが、労基署は医師の所見などを評価し、原発作業との因果関係を認めました
 がんで労災認定された原発作業員はこれまで男性を含めて13人、悪性リンパ腫では男性が5人目です。
 
 男性は、1983年4月、関西電力の3次下請けのメンテナンス会社に入社し2010年6月までの約27年、関西電力の各原発などを中心に定期検査の作業をしてきました。
 主な作業内容は、冷却のために原子炉内を循環させ1次系配管=原子炉内の液が通り放射能レベルが最も高い=のバルブ交換などでした。
 
 代理人の弁護士は「基準を超えなくても原発作業が危険であることを示した画期的な判断だ」と述べています。
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原発作業で悪性リンパ腫 神戸の男性労災認定 厚労省
神戸新聞 2014年3月20日
 関西電力の下請けとして福井県の美浜原発などで27年間働き、悪性リンパ腫を発症した神戸市内の男性(62)の労災申請に対し、厚生労働省が昨年12月、労災認定していたことが19日、分かった。病気と放射線被ばくに因果関係を認めたとみられるが、悪性リンパ腫は国の労災認定基準に含まれておらず、今後、対象疾病の拡大につながる可能性がある。
 放射線影響協会(東京都)によると、原発関連施設で働く人に発給される「放射線管理手帳」の登録者は約48万人(死亡者を含む)。一方、労災認定された作業員は今回を含め過去37年間で13人にとどまる。
 代理人の藤原精吾弁護士(兵庫県弁護士会)によると、男性は1983~2011年まで関西電力の3次下請け会社に勤務。大飯、高浜など3原発を中心に配管バルブの点検作業に従事した。
 定年退職直前の11年7月、悪性リンパ腫を発症。同年8月に緊急手術を受け、化学療法を続けた。12年末、「病気になったのは原発での仕事が原因」として神戸西労働基準監督署に労災申請。厚生労働省が専門家による検討会で審査し、昨年12月、労災を認めた。
 
 悪性リンパ腫は白血病と並ぶ「血液のがん」で、放射線に起因するとみられているが、白血病とは異なり国の基準外。時間がかかる個別審査が必要で、これまで4人が労災認定されている。厚労省は今回の認定について「個別ケースには答えられない」としている。
 
 藤原弁護士は「福島原発事故で被ばく労働が注目されるようになったが、下請け作業員は以前から高線量の被ばくを余儀なくされてきた。放射線起因性の病気について、国は積極的に労災認定すべきだ」としている。(木村信行)
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 【原発作業員の労災認定】厚生労働省は1976年、白血病や甲状腺がんなど特定の病気について、被ばく線量など労災認定基準を定めた。基準がない病気の場合、個別審査を行って病気と被ばくの因果関係を調査し、認定するかどうか判断する。
 
 
原発作業員「泣き寝入りしないで」 救済の広がり期待
 神戸新聞 2014年3月20日 
 泣き寝入りの仲間はもっといる ― 。関西電力の原子力発電所で27年間働き、悪性リンパ腫になった神戸市内の男性(62)が労災認定された。最初に相談した兵庫労働局では「認定対象ではない」と告げられていた。下請け作業員の弱い立場を振り返り、「危険な作業の大半は下請けが担っている。今回の認定をきっかけに申請する人が増えれば」と救済の広がりに期待する。
 
 男性は1983年、関電の3次下請けに入社。定期検査のたびに福井県の美浜、大飯、高浜原発で配管の点検作業に従事した。
 入社から数年はマスクもせずに高線量の原子炉建屋で働いた。「当時はそれが当たり前だった」
 1日の被ばく限度は1ミリシーベルト。だが、作業開始から15分で線量オーバーを知らせるアラームが鳴り響くこともあった。27年間の積算線量は168ミリシーベルト。国際放射線防護委員会(ICRP)が「がんのリスクが増える」とした100ミリシーベルトを超えた。それでも、会社の線量管理は徹底してると感じ、「(放射線起因性の)病気になるはずがない」と思っていた。
 しかし、定年の1カ月前に悪性リンパ腫が判明。急きょ手術するなど治療中に退職したため、健康保険手帳が停止され、一時的に治療費を全額負担した。会社からは何の説明もなく、「見捨てるのか」と初めて不信感を抱いた。退職金の200万円はすべて治療費に消えた。
 2011年末、兵庫労働局に労災申請の相談に行くと、「因果関係の証明は難しい」。あきらめていたが、知人を通じて弁護士に相談し、昨年12月、ようやく認定された。
 福島第1原発事故では、復旧にあたった作業員5人が労災申請したが、2人は被ばく線量が低いなどとして却下されている。男性は「高線量の現場で働く福島の作業員が心配でならない」と話した。(木村信行)