2019年3月2日土曜日

02- <原発のない国へ 事故8年の福島>(2)介護認定増 担い手足りず

 東京新聞のシリーズ<原発のない国へ 事故8年の福島>の(2)です。
 事故後8年が経過する中で、政府の避難指示が解除された地域の居住者の高齢化率(65歳以上の人の割合)は、川俣町の山木屋地区は61・2%、飯舘村は58・5%、南相馬市の小高区と原町区の一部は50・1%と、すべて5割を超える状況になりました。
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<原発のない国へ 事故8年の福島>(2)介護認定増 担い手足りず
東京新聞 2019年3月1日
 JR常磐線の富岡駅(福島県富岡町)から歩いて十分ほどの所に、復興住宅が立ち並ぶ。午前十時、その一角の集会場に、お年寄りが集まってきた。二十人ほどが畳や椅子に座ると、スピーカーから軽快な音楽が流れた。
 「運動したり太陽光を浴びたりすると、ストレスや不眠を防げますよ」。女性講師の呼び掛けに、お年寄りたちがリズムに合わせて足踏みをし、腕を伸ばす。地元の社会福祉協議会が開いた催しの一場面だ。
 
 伊藤ヒデさん(83)は町の大部分で避難指示が解除された二〇一七年春、八十代の夫と避難先の郡山市から戻った。息子も近くに住んでいる。体調は良く、近所にスーパーもあり、生活に不便は感じない。
 近所の人と集まる時間は「楽しみの一つ」と笑う。いつも話題になるのは将来のこと。「体が弱ったら、どうすればいいのか。子どもや孫と一緒に暮らしていない人は、なおさら心配ですよ」。富岡町で特別養護老人ホーム(特養)は再開していない。
 
 避難指示が解除された自治体に戻った人には、高齢者が多い。医療や介護の施設が十分ではないこともあり、自分で動ける人が「帰還」を選択してきた。
 戻っていない人も含めると、要介護や要支援の認定を受けた高齢者が、原発事故前より増えた。避難で家族と別居したり、生活環境が変わって体力が衰えたりしたことが介護認定につながっていると、市町村の担当者は口をそろえる。
 例えば、葛尾村は村に住む人が住民登録者の三割に満たず、介護施設も再開していない。しかし、避難先での介護サービスの利用が増え、介護保険料の基準月額は九千八百円(一八年度)と全国で最も高い。担当者は「今は国の支援で減免されているが、自己負担になったら、住民は暮らしていけるだろうか」と不安を隠せない。
 
 介護施設が再開したとしても運営は苦しい。一六年四月に再開した楢葉町の特養「リリー園」では、定員が事故前の八十人から五十六人に減った。二十人弱が入所を待つも、職員が足りず対応できない。全国的になり手が足りない介護職の確保は、人が戻らない被災地ではなおさら難しい
 「被災地に立派な建物ができても、弱い立場の高齢者や障害者が戻って暮らせなければ、復興とは言えないですよ」。施設長の玉根幸恵さん(57)の言葉には、故郷で暮らし続けたいという人の思いに応えきれない悔しさがにじんだ。 (松尾博史)
 
◆高齢者5割超え自治体も
 政府の避難指示が解除された地域の居住者の高齢化率(65歳以上の人の割合)は1月1日時点で、どこも県平均の31%を上回っている。
 川俣町の山木屋地区は61.2%、飯舘村は58.5%、南相馬市の小高区と原町区の一部は50.1%。5割を超えており、2人に1人は65歳以上だ。
 介護や支援が必要と認められた人も増え、65歳以上の人が払う介護保険料は上昇傾向。2018~20年度の基準月額が高い全国の上位10自治体に、避難指示が出た6自治体が入り、いずれも全国平均5869円を大きく上回った。