2019年3月26日火曜日

<原発事故8年> 自主避難者に迫る退去期限 苦境に

 福島県は17年3月、自主避難者への住宅無償提供を終了し、緩和策として国家公務員宿舎の入居者には低額な家賃での2年間の入居継続を認めました。退去期限迫るなか6都府県12カ所の宿舎で暮らす149世帯のうち71世帯は転居先が決まっていません
 県4月以降も住み続ける場合、損害金として2倍の家賃を請求するとしています。転居先に公営住宅を希望しても競争率が高く入居が難しいのが現実です。また生活のために長時間勤務を強いられ、家賃の安い物件を探す余裕がない人もいます。
 
 国は12年に議員立法で「原発事故子ども・被災者支援法」を制定しましたが、「子どもに特に配慮し、居住、避難、帰還を被災者の意思で選択できるよう適切に支援する」理念は立派なものの、安倍政権は具体的な支援策を立ててはいません。
 
 被災者は「国も福島県も相手任せ、責任のなすりつけ合い。被災者の権利はあっても、予算も実施主体も分からない最悪のパターン」「原発事故は国の責任。被害者の切り捨てはおかしい」と語っています。
 また福島に対しては、自主避難者の実態調査をしようとせず帰還を前面に打ち出すのでは、「かえって県が貧困をつくり出しているのではないか」との声も上がっています
 
 河北新報が自主避難者の窮状を報じました。
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<原発事故8年> 国家公務員宿舎 迫る退去期限 転居先見えず
   河北新報   2019年03月25日
 福島県は3月末、原発事故の自主避難者への住宅支援を打ち切る。東京などの国家公務員宿舎で暮らす避難者は退去を迫られる。うち半数近くは転居先が未定。支援団体は「避難者を追い詰めず、支援を続けるべきだ」と求める。
 
 県は2017年3月、自主避難者への住宅無償提供を終了し、緩和策として国家公務員宿舎の入居者には低額な家賃での2年間の入居継続を認めた。退去期限は迫るが、6都府県12カ所の宿舎で暮らす149世帯のうち71世帯は転居先が決まっていない
 県生活拠点課によると、4月以降も住み続ける場合、損害金として2倍の家賃を請求する。転居先に公営住宅を希望する人が多いが、競争率が高く入居が難しいという。担当者は「物件探しのサポートを続けるが、連絡が取れない人もいる。損害金の件は契約書に明記している」と話す。
 
 支援団体「避難の協同センター」(東京)は生活困窮者の支援団体などと連携し、転居先探しに同行するほか、生活全般の相談に乗っている。
 瀬戸大作事務局長は「県に何度も退去を迫られ、転居費用を借りたり、精神的に追い込まれたりする人がいる」と指摘。「自ら命を絶つケースや多重債務に陥るなどの不安は拭えない。私たちの支援には限界がある。県や国は入居継続を決断するべきだ」と強調する。
 
 
<原発事故8年> 都内の自主避難者苦境 先細る行政支援に焦り
河北新報   2019年03月25日
 東京電力福島第1原発事故から8年がたち、避難指示区域外から自主避難する人たちへの行政支援は年々細る。「原発事故は国の責任。被害者の切り捨てはおかしい」。孤立や困窮、偏見に立ち向かい、東京都内で暮らす人々に率直な思いを聞いた。(東京支社・瀬川元章、片山佐和子)
 
 「一番上は小学5年生。もうこっちが地元」。福島市から避難し、武蔵野市の都営住宅で子ども4人を育てる岡田めぐみさん(36)は8年間を振り返る。
 避難者やボランティアらが集まり、月1回お茶飲み話をする「むさしのスマイル」を2012年に設立した。つながりが広がる中で、事故のことをまだ子どもにきちんと話せていない母親が多いと感じる。
 いじめが心配。でも、若い世代に伝えていかないと風化が進む-。月日がたっても、なかなか一歩が踏み出せない。
 岡田さんは「原発事故子ども・被災者支援法」のたなざらしを問題視する。与野党の全会一致で12年に議員立法で成立した。「子どもに特に配慮し、居住、避難、帰還を被災者の意思で選択できるよう適切に支援する」との理念を掲げるが、具体的な支援策は明記されていない
 「国も福島県も相手任せ、責任のなすりつけ合い。被災者の権利はあっても、予算も実施主体も分からない最悪のパターン」と岡田さん。「当事者でさえ知らない人が多い。声を上げて、この法律を生かすべきです。未来は一つ一つ変えられる」と訴える。
 
 田村市から葛飾区の都営住宅に避難した熊本美弥子さん(76)は「住宅は生活の基本」と、安息の地を得られず追い詰められる仲間に寄り添う。
 自主避難者への住宅の無償提供は17年3月に打ち切られた。今年3月末は国家公務員宿舎の退去期限に当たり、低所得の約2000世帯を対象にした家賃補助制度も終了する。
 熊本さんによると、退去届の提出を迫られて動揺し、仕事を辞め、心身に不調を来した人がいる。長時間勤務を強いられ、家賃の安い物件を探す余裕がなく「4月1日に強制的に荷物を出されるのでは」と焦りを募らせる人もいる。
 県は自主避難者の実態調査をしようとせず、帰還を前面に打ち出す。熊本さんは「かえって県が貧困をつくり出しているのではないか」と疑問を投げ掛ける。