2019年3月17日日曜日

山口地裁 伊方稼働容認 司法は福島の事故を忘れている(愛媛新聞)

 伊方原発3号機の運転差し止め仮処分の申し立てに対し、山口地裁岩国支部が申し立てを却下する決定を出したことに対する愛媛新聞の社説を紹介します

  社説は、決定はほとんど四電の主張を追認するもので、原発の安全性や重大事故が起きた場合の避難など、住民の不安に正面から向き合っているとは言い難いとしています。
 司法は、福島事故直後には、二度とこのような事故を起こしてはならないとその責任を自覚した筈ですがしばらくすると再び国の主張を追認する姿に戻りました。元の木阿弥というわけです
 
 今回の決定では、特に伊方原発から30キロ圏外で避難計画が策定されていない点について、国の緊急時対応が合理的との理由で問題視しなかったことは不可解とし、「自治体レベルでの対応が困難になった場合には、全国規模のあらゆる支援が実施される」と述べて避難計画がなくても、いざとなれば国が何とかしてくれるといった論理はあまりにも乱暴で楽観的すぎるとしています。 
 避難計画では実効性のあるものは立てようがないというのが実態なので、この問題についても司法が全く砦にならないのでは住民は救われません。
 
 最大の懸案である地震の問題に関して沖合の中央構造線断層帯とは別に周辺にも活断層が存在する可能性に対して、決定が、四電や大学などが詳細に調査しているとして「活断層が存在するとはいえない」と断言したのも疑問だとしています。
 
 大分合同新聞と共同通信の記事を併せて紹介します。
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社説 山口地裁伊方稼働容認 司法は福島の事故を忘れている
愛媛新聞 2019年3月16日
 東京電力福島第1原発事故を忘れたかのような司法判断の連続に、失望を禁じ得ない。四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求め、山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部は申し立てを却下する決定を出した。
 
 愛媛をはじめ、広島、山口、大分4県の住民らが同様の仮処分申請をしているが、2017年に広島高裁が火山の危険性を指摘し運転を差し止めた以外、全て運転を認める決定が下っている。ほとんどが四電の主張を追認する内容で、原発の安全性や重大事故が起きた場合の避難など、住民の不安に正面から向き合っているとは言い難い。司法は、二度と福島のような事故を起こさない責任を改めて自覚し、住民の命や権利を守る役割を果たすべきだ。
 
 山口地裁で争点の一つだった住民の避難計画に対する判断は特に信じがたい。伊方原発から30㌔圏外で避難計画が策定されていない点について、国の緊急時対応が合理的との理由で問題視しなかった。しかし、福島原発事故の被害が30㌔圏にとどまらなかったことは周知の事実。事故への備えを一律に距離で線引きすることはできず、現実から目を背けるような姿勢は看過できない。
 
 さらに、地震などとの複合災害が起きた場合には「速やかに避難、屋内退避を行うことは容易ではないようにも思われる」と認めながら、具体的な問題点には触れていない。そればかりか「自治体レベルでの対応が困難になった場合には、全国規模のあらゆる支援が実施される」と言及。避難計画がなくても、いざとなれば国が何とかしてくれるといった論理はあまりにも乱暴で楽観的すぎる
 
 伊方原発で最大の懸案である地震の影響に関しては、審尋の中で、地質学の専門家が活断層である沖合の中央構造線断層帯とは別に、地質の境界線の中央構造線の周辺にも活断層が存在する可能性を指摘した。決定では、四電や大学などが詳細に調査しているとして「活断層が存在するとはいえない」と断言したが、疑問だ。政府の地震調査研究推進本部も調査の必要性に言及しており、国や四電は速やかに検討すべきだ。
 
 広島高裁が運転差し止めの根拠とした巨大噴火の危険性は、「社会通念を基準として判断せざるを得ない」と、他の決定を踏襲した。だが、国民が気に留めないことと、実際の危険性は別の話だ。弁護団が「科学的な問題に社会通念を用いるのはおかしい」と指摘するように、噴火の規模の予測が困難な以上、自然災害には最大限謙虚に向き合わなければならない。
 
 社会通念を持ち出すべきは、原発の在り方そのものだろう。決定では「原発の必要性が失われている事情も認められない」としたが、太陽光などの再生可能エネルギーの普及が進む今、脱原発への潮流を司法が見誤ってはならない
 
 
伊方3号機の運転差し止め認めず 山口地裁支部 
大分合同新聞 2019/03/15
【大分合同・愛媛伊方特別支局】四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを対岸の山口県の住民3人が求めた仮処分申請で、山口地裁岩国支部(小野瀬昭裁判長)は15日、却下する決定をした。四国電は昨年10月に再稼働させた同機の運転を継続する。
 住民側は2017年3月に仮処分を申し立てた。昨年9月まで計8回に及んだ審尋では、原発沖の活断層リスクや火山対策をどう評価するかが最大の争点となった。
 住民側の証人となった地質学者の小松正幸・愛媛大元学長は「原発のごく近くに活断層が存在し、地震を引き起こす可能性がある」と証言。四国電が地震対策で重視する中央構造線断層帯は、それがずれ動いた際に付随的にできたものだと説明し、詳細な調査が必要だと訴えた
 四国電は「既に詳細な調査をし、安全対策を講じている」と反論。小松氏の説を否定していた。
 伊方3号機を巡っては、定期検査で停止中の17年12月、広島高裁が阿蘇山(熊本県)の巨大噴火リスクを理由に期限付きで運転を禁じる仮処分を決定。同高裁は昨年9月、四国電の異議を認めてこの決定を取り消したため、運転再開が可能になった。同様の仮処分の審理が続いていた大分地裁、高松高裁も運転容認の判断を示した。 
 
 
避難計画が未策定でも危険認めず 住民側は即時抗告の方針
共同通信 2019/3/15
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)を巡る仮処分で運転を容認した15日の山口地裁岩国支部決定は、避難計画が策定されていない原発の30キロ圏外でも全国規模で十分な支援を受けられるとし、「直ちに運転を止める危険性はない」と判断した。住民側は決定は不当とし、即時抗告する方向で検討している。
 
 政府は原子力災害対策指針で、原発から半径30キロの緊急防護措置区域の自治体に避難計画の策定を義務付けたが、申立人3人が住む山口県東部の島は伊方原発から30~40キロほど離れ、避難計画は作られていない。