福島原発事故で全町避難する福島県双葉町のミニスーパーが避難先のいわき市に新店舗を構え、19日に営業を再開します。社長の松本正道さんは「お客さんに笑顔になってもらい、自分たちも元気になりたい」と意気込んでいます。
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<全町避難>福島・双葉のスーパー、新天地いわきで19日開店
河北新報 2019年4月4日
東京電力福島第1原発事故で全町避難する福島県双葉町のミニスーパーが避難先のいわき市錦町に新店舗を構え、19日に営業を再開する。新天地で一から顧客を開拓する挑戦だ。社長の松本正道さん(55)は「お客さんに笑顔になってもらい、自分たちも元気になりたい」と意気込む。
店舗名は「ブイチェーン マルマサ 錦支店」。閉店したミニスーパーを買い取り、改修した。売り場は双葉町の店より広い約150平方メートル。以前と同様、生鮮品や食品をそろえる。
当面は松本さんと従業員9人の態勢となる。いわき市で評判のだし巻き卵専門店の店主を迎え入れ、目玉商品にする。魚介や総菜の売り場は対面で要望に応え「店員の顔が見え、会話もできる地域密着店」を目指す。
双葉町新山の店は町中心部の商店街を代表するミニスーパーだった。前身は実家の雑貨店。松本さんが22歳の時に中心部に進出して店を任された。魚介販売に力を入れ、商品陳列も工夫した。売り上げは伸び、やりがいも増した。
原発事故は充実した日常と、築き上げたお客さんとのつながりを全て奪った。
避難後は落ち込んだ。心の安定を取り戻そうと1年後、いわき市南台の町民向け仮設住宅に仮設店舗を出店。赤字経営だったが、仮設入居者の減少などから5年半弱で閉めるまで町民らの暮らしを支えた。
新店を出す理由も「事故前の精神状態に少しでも近づきたいから」と言う。
周辺は地元スーパーなどの商圏。顧客開拓は容易ではないが「双葉でも自分で工夫し、店を成長させた」と自信は揺るがない。
同じ地区には双葉町の仮役場もある。避難した町民も多く、町のためにも働けると考えている。
町は、中心部などの帰還困難区域に設けられる特定復興再生拠点区域(復興拠点)全域で2022年春に避難指示を解除し、居住開始を目指す計画を進める。ただ、どれほどの町民が戻るのかは見通せない。
「まずは新しい店を軌道に乗せる。双葉町の店のことは後で考えたい」と松本さん。今回「錦支店」としたのは本店は双葉にあるとの思いからだ。
避難後に結婚し、長女が1歳になった。「父親が店で働く姿も見せたい。成功すれば被災事業者に一つの例を示すことができる」と決意を新たにする。