避難指示が10日に解除された福島県大熊町大川原、中屋敷両地区の様子を河北新報がレポートしました。
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<震災8年1カ月>大熊町、建物や農地「イノシシ天下」 町、捕獲や柵設置し対策
河北新報 2019年04月11日
避難指示が10日に解除された福島県大熊町大川原、中屋敷両地区は、8年以上の住民不在の間に野生動物による被害が多発した。「イノシシ天下」(住民)となった場所もあり、荒らされた痕跡が残る。
山間部の中屋敷では集会所の通用口がイノシシに破られた。国道沿いの土手が掘り起こされ、でこぼこになった箇所があった。町によると道路が崩れたケースもあるという。
会津若松市に避難する中屋敷区長の佐藤順さん(70)の自宅ではジネンジョやユリの畑が荒らされた。佐藤さんは「野菜がいっぱいあったが全部駄目。イノシシは利口で捕獲わなもあまり効果がない」と話す。
イノシシ被害は原発事故後1年目あたりから始まった。ハクビシンやネズミの被害に遭った家もあり、多くが既に取り壊された。
町は前年度、2地区で約10件の農地被害を確認し、捕獲や電気柵の対策を講じた。「人の動きが増えれば生態も変わる」(産業建設課)とみて、今後も実情把握に努める考えだ。
<震災8年1カ月>大熊町、避難指示解除「花は人呼ぶ」にぎわいに期待
河北新報 2019年4月11日
東京電力福島第1原発事故で福島県大熊町全域に出ていた避難指示が10日、大川原、中屋敷両地区で解除され、住民らはようやく訪れた節目を歓迎した。準備宿泊を続けてきた佐藤右吉さん(79)は大川原の自宅で解除を迎え、「町に戻る住民が増え、またいろいろな話ができるといい」と喜んだ。
佐藤さんはいつも通り午前5時すぎに起床。犬の散歩を終えると庭や畑の手入れにいそしんだ。「風景は前日と変わらないが、気持ちは違う。これからは『いつでも遊びに来て』と言える」。表情が自然とほころぶ。
仮役場がある会津若松市の仮設住宅と大川原の自宅を行き来しながら、この日を心待ちにしてきた。
2012年12月、町の委託を受け両地区をパトロールする見守り隊が発足すると早速参加した。無人になった集落のために、きつい夜勤もこなしてきた。活動前後に除染が終わった自宅を訪れ、草が伸び放題だった庭を少しずつ整えた。
準備宿泊が始まった昨年4月以降は自宅で過ごす日が増えた。「1人で晩酌をしながら一軒一軒みんなの顔を思い浮かべている」
「人がどれだけ戻るのだろうか」と不安もある。パトロール中に次々と住宅が解体されるのを見た。避難先で住宅を確保する人が相次ぐ。子育て世代の帰還はなおさら難しいと感じる。
数年前から庭で、ざる菊栽培に励む。「少しでも戻る人が増えてほしい」との思いからだ。当初は20株ほどだったが、昨年秋には約500株が花を咲かせた。
「花は人を呼ぶ。住民を楽しませられるし、知らない人も来てくれて話ができる」。今年の秋に向けた苗作りが間もなく始まる。
地区内の災害公営住宅に50世帯が入居を始める6月が待ち遠しい。妻タミさん(76)が自宅で過ごす日も増える見込みで、佐藤さんは「大熊も少し先が見えてきた。避難指示解除をきっかけに少しでもにぎやかになってほしい」と望んだ。