河北新報が、トリチウム汚染水の海洋放出の方針を政府が固めたことに、東電が関与していたように見えないという問題を取り上げました。
処理水問題への「東電不在」は、原子力規制委の更田委員長も20年12月に、「あたかも政府の問題になったかのような態度は許されない」と指摘し、「社長の顔が見えない。しっかりリーダーシップを取ってほしい」と求めた経緯があります。
東電が政府方針決定後に処理水タンク増設を表明したという記事も併せて紹介します。
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処理水処分、議論の最終盤に東電「不在」
河北新報 2021年04月10日
東京電力福島第1原発の処理水処分問題を巡り、事故当事者の東電の存在感が薄い。柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策不備問題などで謝罪行脚に追われ、処理水への対応は「政府一任」の様相。放出実行に向けて主体的な動きは見えず、政府方針待ちの姿勢を貫いている。
政府と全国漁業協同組合連合会(全漁連)のトップ会談が首相官邸で実現した7日午後、東電の小早川智明社長は約1・5キロ先離れた本社ビルで柏崎刈羽原発に関する記者会見を開催した。
会談への受け止めを問われると「政府のプロセスについては承知しておらず、コメントは差し控える」。10年越しの難題が最終盤に入っても、東電社長は素っ気ない反応を見せた。
トップ会談の場に東電関係者の姿はなかった。全漁連の岸宏会長は菅義偉首相に「東電は安全性担保に極めて強い懸念がある。国が責任を持つことが大切だ」と要望した。
小早川社長は5、6の両日に福島入りし、柏崎刈羽の問題や福島第1の情報公開不備など、原発の安全に関わる相次ぐ不祥事を首長らに謝罪したばかり。トップ会談が翌7日に設定されたことは間の悪さだけでなく、処理水問題への「東電不在」を印象づけた。
原子力規制委員会の更田豊志委員長は2020年12月、処理水について「あたかも政府の問題になったかのような態度は許されない」と指摘。「社長の顔が見えない。しっかりリーダーシップを取ってほしい」と求めた経緯がある。
東電は同年3月、処理水を海洋放出する場合の検討素案をまとめた。再処理や希釈などの手順は盛り込んだが、放出時の濃度や処分期間、風評対策などは積み残したまま。「素案」以降は東電としての考えを更新していない。
「まずは政府方針を待ちたい」と繰り返す東電は、処理水放出の実施主体でもある。政府の陰に隠れ、信頼が地に落ちた状態で「放出決定」の日を迎える。
処理水タンク増設へ 東電、政府方針決定後に表明
河北新報 2021年04月10日
東京電力福島第1原発の処理水を巡り、東電が政府の処分方針決定後に保管タンクの増設を表明する見通しになったことが9日、分かった。政府は13日に関係閣僚等会議を開き、海洋放出方針を決める方向で調整している。政府が「先送りできない」と強調してきた前提となる満杯時期は曖昧なまま、10年越しの難題は重大な局面を迎えた。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は7日に菅義偉首相と会談し、タンク増設などによる処理水保管の継続を要望。菅首相は他の要望4項目と合わせ「しっかり受け止めて対応したい」と述べた。
増設規模は限定的とされるが、保管期間が延びる分、処理水中の放射性物質は自然減衰が進む。政府や東電は国内外に処理水の安全性を周知する考えで、より時間をかけて丁寧に取り組める利点もある。
東電はタンクの満杯時期を「2022年秋ごろ」と記者会見などで繰り返し強調し、政府はこの「期限」を前提に方針決定を急いできた。放出準備は工事や手続きに2年程度を要し、既に時間的猶予はない。
20年12月完成のタンクを最後に建設作業を終えたが、東電は「1基も増設できないわけではない」とする。増設には1年程度かかり、東電は増設の可否を内々に検討していた。増設した場合の「真の満杯時期」は不明だ。
東電福島第1廃炉推進カンパニーの小野明最高責任者は2月の取材に「政府方針が決まらないと計画が確定しない。方針決定後にわれわれの検討結果を示したい」と見解を語った。
敷地内には活用予定のない「空白地帯」が複数箇所ある。河北新報社の試算ではタンクを設置した場合、日々の汚染水発生量が現状よりやや多めに推移したとしても、満杯時期は1年以上先延ばしになる。