2021年4月15日木曜日

福島汚染水 海洋放出方針を撤回すべきだ

 政府が福島原発のトリチウム汚染水を海洋放出する方針を決めたことに、多数の全国紙、地方紙が懸念を示す社説を掲げました。

 しんぶん赤旗と新潟日報の記事を紹介します。
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主張 福島汚染水 海洋放出方針を撤回すべきだ
                        しんぶん赤旗 2021年4月14日
 菅義偉首相は13日、関係閣僚会議を開き、東京電力福島第1原発でタンクにためている放射能汚染水について、海洋放出処分とすることを決定しました。7日に首相と会談した全国漁業協同組合連合会の岸宏会長、福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長らは「絶対反対」と表明していました。被災地の声を無視した暴挙です。

10年の努力が水泡に帰す
 2011年3月の原発事故による放射能汚染は、多くの住民の暮らしと生業(なりわい)に深刻な被害を及ぼしました。土地も海も汚染され、農林水産業は大きく制約されました。この10年、関係者は、土地、水、生産物の汚染状況を調べながら、事業の再建、復興のための努力を一歩一歩重ねてきました。
 福島の農林水産業の現状は、昨年2月の政府の報告書でも、福島県産の米や和牛肉の価格が震災前より「安い状況が続いている」「消費者の購買行動だけではなく流通構造の問題に発展し風評被害が固定した状態になっている」と指摘されています。
 政府は“薄めて流す”ことを強調します。しかし、トリチウムの総放出量は変わりません汚染水が海洋放出されるとなれば、農林水産業をはじめ地域への大打撃となることは明らかです。10年の努力が水泡に帰すことにもなりかねません。世論調査でも、71%が反対しています(「読売」3月9日付)。海洋放出に固執せず、タンク増設などの対策をとりつつ、問題解決に英知を結集すべきです
 福島第1原発では、溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすために、壊れた原子炉に水を注いでいます。デブリの放射性物質が溶け込んだ汚染水は、原子炉建屋地下に流れ込む地下水と混ざって増量するため、冷却用に再利用する分以外はタンクにためています。
 政府は、タンク増設に限界があるとして、海洋放出の決定を急いできました。昨年2月には、海洋放出が「現実的な選択肢」であり「確実に実施できる」とする報告を出しました。
 一方、政府が昨年4月から10月に実施したヒアリングでは、農協、漁協、森林組合が「反対」と明言し、商工団体や自治体も風評被害や復興の妨げとなることへの懸念を表明しました
 特に全漁連は、昨年6月の総会で「海洋放出に断固反対する」との特別決議を全会一致で採択しています。10月には、政府に対して、「海洋放出されることになれば、風評被害の発生は必至」であり、その影響は「我が国漁業の将来に壊滅的な影響を与えかねない」として、「我が国漁業者の総意として、絶対反対である」と訴えました。
 政府方針は、「風評影響を最大限抑制する」としていますが、賠償を含めた風評対策の実施は東京電力任せで、政府の責任は棚上げです。そもそも新たな被害を政府がつくりだすこと自体が、復興に逆行するものです

被災地の復興に責任持て
 汚染水が増え続けるのは、原発事故が収束していないためです。そのしわ寄せを、事故を引き起こした東京電力と政府が、事故被害者に押し付けるなど、許されるものではありません。
 菅首相は、被災地復興への責任を自覚し、復興の妨害となる海洋放出方針を撤回すべきです。


社説 処理水海洋放出 菅政権の独断専行を憂う
                             新潟日報 2021/04/14
 風評被害を懸念する声を置き去りにし、なぜ結論を急いだのか。「結論ありき」の拙速さだけが際立つ
 十分な説明や対話もなく強行突破を図る姿勢は、日本学術会議を巡る任命拒否問題などを想起させる。菅政権の独断専行ぶりを改めて憂慮する。
 政府は13日の関係閣僚会議で、東京電力福島第1原発の処理水について、残留する放射性物質の濃度を国基準より十分薄めた上で、海洋放出することを決定した。
 処理水は溶融核燃料(デブリ)への注水や、流入する地下水、雨水で発生する大量の汚染水を浄化したものだ。
 多核種除去設備(ALPS)でも取り除けないトリチウムなど一部の放射性物質が残る。
 処分方針を検討する政府の小委員会は昨年、放射性物質監視など技術面から海洋放出の利点を強調、提言した。
 一方、最大の利害関係者の全国漁業協同組合連合会(全漁連)は風評被害を懸念し「海洋放出に断固反対」を表明。梶山弘志経済産業相は「丁寧に事を運びたい」と決定を先送りした。
 ところが、今月7日、事態は突然動き始めた。菅義偉首相と岸宏全漁連会長が会談し、岸氏は改めて反対を表明したが、政府はその意向を押し切り、海洋放出の決定に至った
 「風評に悩まされた10年間の努力が無駄になる」。唐突な決定に、福島県の漁業者らは憤る。海域や操業日を絞った試験操業を3月で終え、本格操業に向けた移行期間に入ったばかりであり、当然だろう。
 首相にはこうした漁業者の切実な声に耳を傾け、きちんと答える責任がある。
 危うさを覚えるのは、またも姿を現した菅政権の独善的な政治手法だ。
 海洋放出については漁業者ばかりでなく、国内外に不安の声が根強い。だが納得してもらうための努力は見えず、なぜこのタイミングかの丁寧な説明もない。あまりに乱暴だ。
 首相は13日の会議で「政府が前面に立って安全性を確保し風評払拭(ふっしょく)に向けあらゆる対策を行う」と述べたが、そこをきちんと固めた上で海洋放出について議論するのが筋ではないか。
 政府が示した処理水の処分に関する基本方針も気にかかる。
 海洋放出の実施者は東電で2年後をめどに開始する。東電は計画や設備に関し原子力規制委員会の認可を得る必要があり、風評被害発生の際の機動的な賠償対応も求められた。
 福島第1原発では2月に地震計の故障放置など東電の不手際が発覚した。柏崎刈羽原発でもIDカード不正使用、核物質防護の不備など失態が相次ぐ。
 小早川智明社長は「(海洋放出は)方針に従い、主体性を持って適切に取り組む」と強調したが、地元や国民の信頼を得られるか。
 政府と東電は実効性ある風評対策を示し、国民の理解を得られる説明ができるのか。まずはそこを注視せねばならない。