2021年4月14日水曜日

14- トリチウム汚染水の海洋放出 政府の決定に批判の嵐

 福島原発のトリチウム汚染水の処分に関し、政府は13日、海洋放出の方針を正式決定しました。2年後を目途に放出に着手します。放射性物質トリチウムは濃度が国の基準の40分の1未満になるよう薄めるということですが、それは薄めないよりはマシという程度のもので、莫大な絶対量が100年もそれ以上も流され続けるというのが大問題なのです。
 トリチウムの長期に渡る放出によって漁業関連者のこの10年間の努力は全て無駄になります。菅首相が「そろそろ政府の本心を表明するタイミングだ」という浅はかな考えから進めたあまりにも誠意のないこの対応が、漁業関連者たちを中心に総スカンを浴びたのは当然のことです。
 八つの記事を紹介します。
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処理水を2年後海洋放出 福島第1原発で政府決定
                         河北新報 2021年04月13日
 東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分に関し、政府は13日、2年後をめどに同原発で海洋放出を開始するとの基本方針を決定した。周辺環境のモニタリングや風評対策を強化する考え。海洋放出に反対する漁業関係者を中心に反発は必至だ。
 加藤勝信官房長官を議長とする関係閣僚会議で13日午前、方針をまとめた。海洋放出選択の理由として国内での放出実績などを挙げた。風評被害の影響を抑えるため、水産業や観光業などへの支援策を講じる。
 実施主体の東電は原子力規制委員会への申請や設備工事を経て、廃炉までの30〜40年をかけて海へ流す。トリチウムの濃度は、世界保健機関(WHO)が定めた飲料水基準の約7分の1に薄める。漁場や海水浴場などでトリチウムの濃度を放出前後で調べる。
 風評被害が生じた場合には、機動的に賠償に対応するよう東電に求める。
 菅義偉首相は席上、「安全性を確保し、政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的と判断した」と述べた。
 東電は保管タンクが満杯になる時期を「2022年秋ごろ」と説明。放出開始には間に合わない計算で、タンク増設を表明する見通し。
 処理水の処分方法を巡り、政府は13年12月、専門家会議で検討に入った。別の小委員会が昨年2月、海洋や大気への放出が現実的と提言。政府は同年10月下旬にも海洋放出を決定する構えだったが、先送りした。
 菅首相は7日、反対の意向を示す全国漁業協同組合連合会の岸宏会長らと面会し、海洋放出を採用する可能性に言及した。


「努力無駄に」憤る福島の漁業者 「決定は最悪のタイミング」
                             共同通信 2021/4/13
 政府が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を正式決定した13日、福島県の漁業関係者からは「原発事故の風評に悩まされた10年間の努力が無駄になる」などと憤りの声が上がった。福島県の沿岸漁業は海域や操業日を絞った試験操業を3月で終え、ようやく本格操業へ向けた移行期間に入ったばかり。漁師らは「決定は最悪のタイミングだ」と嘆いた。
 いわき市の勿来漁港で漁具の補修作業中に「海洋放出決定」の知らせを聞いた、漁師渡辺勝男さん(82)は「事故後に後継者不足が加速した。海洋放出すればさらに若者が未来を見いだせなくなり、福島の漁業は衰退してしまう」と危機感を募らせた。


海洋放出、原発避難者から批判 「福島だけの問題でない」
                             共同通信 2021/4/13
 東京電力福島第1原発の処理水を海に放出することが決まった13日、原発事故後、首都圏で避難生活を続ける人たちからは、政府の説明不足を批判する声が上がった。
 「福島で放出するしかないのか。漁業者が気の毒で、別な方法を見いだしてもらいたかった」。住んでいた場所が帰還困難区域となり、埼玉県で生活する70代女性は肩を落とした。
 事故前まで福島県沿岸部で暮らしていた男性(73)は「タンクが満杯になることは分かっていたはず。切羽詰まったように決定したのはひきょうだ」と憤る。「福島だけの問題ではないのに、日本全体の議論にならず、自分の周りでも話題にならない」と嘆いた。


反原発団体が官邸前で抗議 「漁業者の声を聞け」
                              共同通信 2021/4/13
 政府が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を決定したのを受け、原発に反対する市民団体が13日、東京都千代田区の首相官邸前で「海洋放出反対」「漁業者の声を聞け」と抗議の声を上げた
 主催した「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」によると、首都圏各地から約320人が参加。「汚染水を海に捨てるな」などと記された横断幕やカードを掲げた。
 平和団体代表の藤本泰成さん(65)は「事故を起こした原発から、さらに放射性物質を出すのは許されない」とし、処理水の大型タンク新設と陸上での保管継続を求めた。


市民団体、福島県庁前で抗議 「海に流すな」のボード掲げ
                              共同通信 2021/4/13
 政府が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を決定したことを受け、複数の市民団体が13日に福島県庁前で、内堀雅雄知事との面会のため県庁を訪れる梶山弘志経済産業相に、県民の反対の気持ちを示そうと抗議活動を行った。約70人が「海に流すな!」「国民の理解は得ていない」と書かれたボードを掲げた
 福島市のNPO法人職員水藤周三さん(37)は「県民を痛めつける決定だ。梶山経産相は、反対する県民がいると知ってほしい」と訴えた。
 抗議活動に先立ち、市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」のメンバーらが、海洋放出決定に反対するように内堀知事に求める要望書を提出した。


被爆二世団体が海洋放出に反対 原発処理水、政府に要請書
                              長崎新聞 2021/4/13
 全国被爆二世団体連絡協議会は12日までに、東京電力福島第1原発敷地内にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水について、海洋放出しないよう求める要請書を菅義偉首相と関係閣僚6人に送った
 政府は13日の関係閣僚会議で海洋放出を正式決定する見通し。要請書では「国策で進めた原発で重大事故を起こした上に、大量の汚染水を発生させた」と強調。「放射能汚染と被ばくを強いる『海洋放出』に反対」として、海や空気中へ放出せずに政府や東電が責任を持って管理するよう求めた。
 12日に長崎市役所で会見した同協議会の崎山昇会長(62)は「放射線は、どんなに低線量であっても線量に応じて健康への影響が出ると認識している。自分たちの目が届く所で陸上保管すべきだ」と訴えた。


処理水の海洋放出「村井知事は反対表明を」 宮城の市民団体要請
                         河北新報 2021年04月13日
 東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を海洋放出する方針を政府が固めたことに関し、反原発運動などを行う宮城県内22の市民団体は12日、村井嘉浩知事が海洋放出への反対を表明するよう県に要請した
 要請書は東日本大震災後、水産業が販路回復に苦しんでおり、海洋放出は復興の妨害だと指摘。新たな風評被害の補償の窓口が東電では、実効性を期待できないと懸念を示した。
 団体は生活協同組合あいコープみやぎ(仙台市)、「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」など。あいコープの高橋千佳理事長は「知事は県民や生産者を守ると表明してほしい」と訴えた。
 県庁で要請書を受け取った伊藤健治原子力安全対策課長は「知事に伝える。県としても、国民の理解を得て方針を決めてほしいと国に伝えてきた」と述べた。


漁業者「国も東電も信用できない」 6年前の約束はどこへ 福島第一原発の汚染処理水海洋放出
                          東京新聞 2021年4月13日
 東京電力福島第一原発で発生が続く汚染水を浄化処理した後の水を福島沖へ海洋放出処分するという政府方針の正式決定に対し、福島県の漁業者から憤りの声が上がった。(片山夏子)
 相馬市の松川浦漁港の男性漁師(69)は、東電が2015年に処理水の処分を巡り県漁連に「関係者へ丁寧に説明し、理解無しにはいかなる処分もしない」と約束したことに触れ、「(放出したら)約束違反だべ」と怒った。
 福島では3月に水揚げ量を制限する試験操業が終わり、本格的な操業に向けてようやく踏み出したばかり。別の男性漁師(52)は政府が海洋放出を決めるという報道後、魚の値段が2、3割下がったと嘆いて言った。「(影響があるのは)福島だけじゃない。茨城も宮城も一緒。何十年も流されたら、後継者がいるところは影響が大きい。説明も十分されていないし、流しても大丈夫だと言われても、国も東電も信用できない
 タコ漁をする男性(60)は、政府の決定があまりにも強引だと憤慨する。「こんなことないべ。国が決めたことだと押し切るのは、沖縄の基地問題と同じ。漁で食べられなくなったら、みんな自殺するしかない。ようやく事故から10年たったのに。流せば必ず(風評被害など)影響は出る。国は風評被害が出たら対策するって言うけど、できるならこの10年の間にやっている」。この地域は、若い後継者がたくさんいるという。「ここで何十年も流されたら…。やる気がなくなる。ここの漁は駄目になる。絶対に反対」と繰り返した。
 メバルを市場に持ってきた女性(46)は「流してほしくないと言ったって、関係者の意見を聞く前から、国は最初から決めていたことなんでしょ。国が決めたらどうしようもない。大丈夫かどうか、国も東電も信用してない。隠すからね」と不信感をあらわにした。同僚の女性も「実害か風評かわからない。東電と国だからね。海洋放出したら、子どもらに海に遊びに行くなっていう。触れさせたくない」と硬い表情で話した。

 刺し網漁の魚のケースを洗っていた女性(44)は「絶対に反対。結論は決まっていて形式的に関係者に聞いただけじゃないの国は魚をすべて買ってほしい。それに福島だけの問題にされても困る。流せば全国や輸出にも影響するでしょう。30年も流し続けるって、この先、またどうなるかわからなくなる。自分の子どもは継がせたくない」と語った